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高校野球インフォグラフィックができるまで:「甲子園投手の過剰投球」制作メモ

東洋経済オンラインに、高校野球に関するインフォグラフィックを公開しました。

これは、甲子園(春の選抜、夏の選手権)で大会を通じて多く投げた選手の投球数を集計し、アメリカの投球ガイドライン「Pitch Smart」を適用したらどの程度が制限対象となるかを示したものです。詳しい解説は東洋経済オンラインの記事にて説明していますが、ここでは制作に至るまでの経緯と制作過程をメモとして残します。

企画の経緯:制作開始まで

今回の企画をぼんやりと思い浮かべたのは2018年の甲子園、いわゆる「金農旋風」のとき。県予選および本戦をほぼ1人で投げ抜いた吉田輝星投手の記事を読むうちに、過剰投球の問題に興味を持った。ただ、昨年夏の時点では球数制限や過剰投球の話はあまりされておらず、効果的な伝え方もすぐには浮かばなかったので、いったん2018年中の制作はあきらめた。

ところが今年に入って、高校生のトミー・ジョン手術についてNHKが取り上げたり、大船渡高校の佐々木朗希投手の件が報道されたり、それについて野球解説者やメジャーリーガーが意見したりと、過剰投球の話が例年になく盛り上がった。編集長に相談したところ前向きな反応があったので、甲子園期間中の公開を目指して本格的に調べることにした。これが8月の初めくらいの話。

伝え方

大きなメッセージは「高校野球の投手たちは短期間に投げすぎでは」ということ。ではどうやって伝えるか。単に「斎藤佑樹投手は甲子園で948球を投げた」といった数字を出すだけでは、数字の持つ意味が伝わりにくい。そこで、何かと比較することを考えた。

まず思い浮かべたのは、プロ野球選手との比較。投手の層が厚く、先発もローテーションで交代できる環境なら、無理のない投球をしているはず。それと甲子園を比較するのはどうか。しかし、プロ野球と甲子園では大会形式も違うし、投げる期間や選手の年齢も異なる。調査すればするほど、比較する際の「軸」を設定することが難しいと判断した。

そこで考えたのが他国との比較。ちょうどそのころ、アメリカにPitch Smartと呼ばれる青少年向けの投球制限ガイドラインがあると知った。特に注目されていたのが、1日あたりの投球制限(17-18歳なら1日最大105球)と、休養日の制限(17-18歳なら、81球以上投げたら中4日休む)。これを当てはめれば、「甲子園投手がどれだけ過剰な投球をしているか」を簡易的に試算できると考えた。

データの収集

上記2つの制限を適用するには、大会通算の投球数だけではなく試合ごとの投球数が必要。そこで全国紙やスポーツ紙など、甲子園の試合結果が載っている記事を片っ端からさらって1試合ずつデータを集めた。本当は松坂大輔、大野倫、桑田真澄などのデータもあるとよかったけど、2000年代前半まで遡るのが限界だった。作業としては、これがいちばん大変だった。

ちなみに、似た「投球数ランキング」がネットに出回っているが、数字が微妙に違っている(田中将大選手の投球数部分。よかったら比べてみてください)。当初このデータをチェック用に参照していたので、こちらの間違いかと思って肝が冷えた。

制作過程

インフォグラフィック画像の縦横比は、ユーザー端末で最もシェアの大きいiPhone 6/7/8の画面サイズと同じ375 × 667とした。ボールペンでの下書きは下のような感じ。自分用なので、すごくざっくりしている。

実際のグラフィック化には前回同様にP5.jsを使った。下記の初回テストでは、まず文字と球数だけを表示。このときは、球数を表すボールのグラフィックも少し違う。

続いて背景色を調整し、ボールの外見も変えた。球数の表現はボールっぽいグラフィックから、ちょっと電光掲示板をイメージした各色の丸にうっすらとボールのイラストが入った形にした。

さらにタイトルとサブタイトルを入れて、投手のインフォグラフィックであることがわかるようにシルエットを追加(この時点ではイメージ)。あわせて文字やボールのサイズを調整。ちなみに英数字部分のフォントにはRobotoを使っている。

これでだいぶ完成版に近くなってきた。ここからPitch Smartの抜粋を追加し、ボールの凡例を入れて、シルエットも素材サイトから入手したものを使って透明度など調整した。ちなみに、素材画像は左右反転したり入れ替えたりして、選手たちの右投げ/左投げとシルエットが合致するようにしている(誰も気づいてないみたいだけど…)。

ここからさらに微調整を重ねて、最終的なインフォグラフィックが出来上がった。

制作期間は、他の仕事もしながらおよそ3週間。調査とデータ収集に1週間、インフォグラフィック作成に1週間、記事執筆とインフォグラフィックの微調整に1週間、くらいのイメージ。

ふだん僕はインタラクティブなデータ可視化を中心に作っていますが、たまには画像で勝負?するインフォグラフィックを作るのもよいですね。

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