20181130_desingship_大塚航生

【Designship2018】トイレの美しさに向き合い続けて考えた事

12/1、2の二日間、日比谷ミッドタウンで開催されたデザインカンファレンス「Designship」に登壇しました。当日のスライドとスクリプトを、公開します。いろんなデザイナーの方に役立てれば幸いでございます!


こんにちわ
おおつかかずきと申します。
東京でデザインを学び、
今は、インハウスのプロダクトデザイナーとして働いています。     ひと昔前は、手榴弾が街中に落ちているとニュースが度々やっていたといわれる。北九州という辺境の地からやってきました。

今日皆さんへお伝えしたい事はプロダクトデザインに関わり考えたことです。

私は今までに、こんな商品のデザインに関わってきました。

さて、私は日々なんでこんなにトイレのことばかり考えているのだろう…もっと他に考えることがあるんじゃないかなと思うわけです。

でも少しトイレに興味を持って欲しいので話をします。これは、日本のごくありふれたトイレですよね?

ですが、海外に目を向けるとこんなトイレもあればこんなトイレもあります。海外のトイレがこんな多様なデザインが存在しているのは、バスルームの文化の違いがあります。ホテルや住宅含め多くの国では3in1のスタイルが主流で横に並ぶ水栓や浴槽、洗面器にマッチした便器が選ばれるのです。
少しデザイン的な興味が湧いたでしょうか。

これからお話しするトイレの他に、水栓金具や洗面器…それらは、住宅設備、水周りと呼ばれまています。
それら商品1つ1つに特徴的な機能があるわけではなく
純粋に水を流す事に特化したものが多くあり純粋に造形の美しさがより商品の価値に紐付いているのです。

これからお話しするトイレに関しても実は並々ならぬ造形へのこだわりがあり、デザインに関わる中で考えたことを皆さんと共有できたらと思います。
先ほど見ていただいたこちら
便器と便座ですね。この二つの商品はデザインをする上で全く違うデザインの視点が必要になります。

我々がデザインしている便器は、陶器製つまりは焼き物です。
自然素材で出来ている便器は、季節やその日の気温によっても出来栄えが変化し、様々な製造拠点に応じて、土の配合も違います。型に泥を流し込み、取り出したものを、乾燥させて、施釉そして焼成と全く他の焼き物と変わらない生産方法なのです。

型から出てきたものが焼成されてでき上がった時には13%も収縮し、製品の交差で±5mmも大きさが変化するものなのです。
大量生産されるプロダクトでありながら、ここまで工芸的な商品もなかなかありません。
工芸品に近い領域の商品ではないでしょうか。

実は、便器は複数パーツによって構成され人の手によって一つに組み立てられてゆきます。                           整形方法も独特です。石膏でできた型に泥漿と呼ばれる泥を流し込みます。
そして、時間をかけ型に泥を吸い付かせる事で、内側を袋状にを作ったりします。
拠点や生産方法によっても制約は様々存在するので、多くの職人のスキルやノウハウに支えられている、昔ながらの物作りが息づいています。
そんな世界なのでそのもの作りや、商品の機能を熟知していないと
「こいつわかっとらんな」と門前払いを食らいます。

そんな便器の新たな提案は、苦労の連続

商品を作る上で、まず関わるのは「開発部」
開発者からは、「この形は難しすぎるからコストが上がる。」
「なぜこの形じゃなければいけないの?」そんなことを言われてしまいます。
なかなか理解されません・・・

業務の進み方として、デザインから開発へデザインデータを渡すわけですが、
ここでも問題が起きます。

種モデル確認会というものがあります。
それは、デザインデータを元に機能と製造の配慮を織り込み
さらに焼成による変化も考慮したデータが便器の原型、それを種モデルと呼んでいます。

デザイン、開発者、新たに技術部の方が参加する会でした。
そこでは案の定、意図しない形状…に

そこで私は意を決して
「この形は意図と違いますよ、ここはもっとこうしたいんですなぜならば…」
そうすると、

技術部の方から
「なるほど、うーむ、そうするのはかなり難しいけどやってみようか!」
…ん!?どういう事だ?

今までと打って変わり、全然話が通るわけです。
何が起こったのでしょうか・・

有り体ですが・・・そこには、共感がありました。

この工芸的な物作りにおいて、
とても大切なのは共感であると思い知らされた瞬間でした。

職人と会話をするためにも、造りや素材に対する理解も欠かせませんが
意外にガッツや、飲み会が重要だったりします。

デザイナーの実現しい形に対して、
今まで自分では見えていなかった形の実現手段が見えてくるのです。
そうして、かたちは収まっていくのです。

次に、工芸的なものづくりと対照的な、WLをデザインするときの話。
ほぼ毎日人の体に触れそ、人の体重を受ける為高い耐久性がありながら、便座便ふたといった
可動する部品の多い家電製品は世の中になかなか無いのではと思います。

そんな、便座をデザインする上でどんなデザインを目指しているのか、
それは「普通」である事です。

デザインに関わる上でよく話題に上る「普通」や「シンプル」、このトイレやWL、住宅設備全般に言えることかもしれませんが、毎日使うものであり、モノというよりも建築に付随する装置に近いため、建築に溶け込み異物感、違和感を感じないように意匠がもとめられるのだと思います。

WLは、お尻を洗う水を貯め、お湯にするためのヒーターが入り、今では脱臭をするファンや、
自動で開くためのヒンジも内蔵されています。
それだけの機能を内蔵するわけですから、当然製品として大きく、分厚くなってゆきます、
そして、その機能部をそのまま覆う形状の提案では、製品を冷たい機械的に感じたり異物感が生まれてしまうのです。

そんな、WLを「普通な物」に仕上げていく為には、
設計的な視点とバランス感覚が必要になるのです。

私の考える設計的視点を得る為には、
まず、プロダクトそもそもの機能理解、どのようなスペックなのかお湯を溜めているのであれば何リットル必要なのか、そこからその機能が、内部機構としてどんな部品でどのようなレイアウトがされているのかを3dcadを使いながら理解を深めてゆきます。
又、可動部品については回転の軸の場所、何度開くか、動きのばらつきがどれだけあるのか。
また荷重がかかった際どの部品が影響を受けるのか
それらを知り、理解する事で初めて良い形状、美しい形状が提案できるのです。

過去には可動部品の重心計算しながらの提案を行ったこともありました。

そうする事で、内部機構0.1mmスレスレを狙った最小形状や滑らかな曲面の実現があり
可動部品の空いた時、閉じた時それぞれの収まりはもちろん、
動く軌跡をも考慮することによって初めて小さな隙間や均一な隙間が達成できるのです。

商品になるまでに数え切れないほどの設計変更が発生します。

機能が詰め込まれ、可動部のある製品の形状変更は生半可なものではありません。部品一点の形状変更や、ふたの軸位置が数ミリ変更になるだけで外観の意匠が大きく変化するのです。

一つの商品に対し、何十回・何百回の修正をする中で何を目指していたのか、多くの天秤にかける要素があると一体正解なのかがわからなくなってゆきます。

そこで大切になるのが「バランス感覚」

「最強の折衷案」この言葉は、開発者の方との会話をする中で出てきた言葉折衷案という言葉を聞いて詰めが甘いのではないか、と思う方もいらっしゃるかもしれません。デザイナーの理想はとてつもなく高いものです。
開発者に対しては、多くの課題を提示します。

我々の理想を100とした時、詰めの甘いできの悪い商品は諦めから結果50くらい。
デザイナーが頑なになり、末時間ぎれはもっと悪い結果になるのではないでしょうか。

最強の折衷案は、ここ
これは、我々デザイナーが開発者と同じ土俵に立てるくらい機構について
知る事でこんな構成やこんな形状にできるんではないかと提案につながるのです。

細部まで作りこんだ形状と妥協のない機能が合わさったデザインに為るためにはものの作られ方を知り、どのようにその商品が成り立っているかを深く知る事が重要なのではないでしょうか。

プロダクトデザイナーは、確かな品質の美しい・いいなと思う製品をお客様へお届けする事が社会に対する役割だと考えています。
では、お客様は一体いつ、どこで美しな・いいなと感じるのでしょうか。

これまでにお話しした便器とウォシュレット
対照的な物作りではありますが、どちらの経験でもデザイナーが描く理想は、はじめ安定感に欠けていたり、不安を感じるたたずまいだったりします。それが開発者との検討を通して徐々に現実に近づいてくる

そのときモノに何かジワッと感じる瞬間があるのです。
その何かを私は

存在としての「確からしさ」と呼んでいます。

人はその「確からしさ」に安心感を感じ、その先に美しさを感じるんではないかと考えています。
「確からしさ」は美しさの前にあるものなのです。

その確からしさを感じるモノへ仕上げる為には、
これまでお話しさせて頂いた、一緒に物作りをする人との共感を生み事や
開発者と同じ目線にたてるくらいの設計的な視点。が必要なのです。

今の世の中、デザイナーの役割は大きく広がりを見せていますよね。
私も学生の頃、デザインマネジメントを学び、イノベーションやブランディングをいかにデザインの力を使い加速させるかについて考えてこそは「形は当たり前」ぐらいで捉えていました。
これからの時代、どんどんその領域は大きくなっていくと想います。

でもやっぱり、人はモノを手にとり、確からしさを感じ美しいと感じたり嬉しくなるのはずっと変わらない。
これから私は、プロダクトデザインの経験を活かし、インハウスデザイナーでありながら
少しずつ裾野を広げていきたいと想っています。

皆さんの中に、何かモノを作ろうとしている人がいたら
美しいと感じる前にある、そのものに存在の確からしさがあるかと考える視点と
トイレのマニアックな知識を持って帰って頂ければと想います。

ありがとうございました。

もし感想ありましたらTwitterやnoteでコメントもらえると幸いです。   最後まで読んでいただいてありがとうございました。          また、Designshipの運営の皆さま、このような機会を頂き、誠にありがとうございました。


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