洞察力

ビジネスマン必須の「洞察力」とは何か?

洞察力という言葉がある。

「あなた」は明確に定義ができているだろうか?

定義が出来ていなければその磨き方もピントがずれてしまう。洞察力が高ければ、誤った判断をする事も少なくなり、成果に直結する手段を見出す事が出来る。その術について、どれくらいの方が長けているのは分からないが、持ち合わせて決して損はない能力、それが「洞察力」だ。



数年に渡り売上げが落ち、赤字が続いている。何とか力添えを頂きたい。

そう依頼を受けた事がある。地方で建設業を営む中小企業様からだ。その企業は都道府県をまたいで2店舗を運営しており、支店の業績が芳しくないとの理由から問い合わせを下さった。簡易版のPLを見せられ、いかに赤字が続いているかを説明され、経営支援の依頼を頂いた。


この時点で、「あなた」はどう考えるだろうか?


極めて洞察力が必要とされる場面だ。
正体は分からないが僕はどこか「違和感」を覚えた。

「本当に、売上だけが要因なのだろうか?」


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簡易版のPLを見ると、確かに売上が落ち、営業利益に影響を与えている。その額は年々増え続け、支援に入る前年の年間の赤字額は一千万弱だった。

その要因は何なんだろうか?
売上を上げることが命題だろう。
顧客がそう述べているから。

恐らく誰もがそう考えると思う。

だが、それだけではまだ解像度は低い。

クライアントは、「売上が落ち…」と要因を考えている。数字だけを見ればそれは事実として間違いない。だが、要因は本当に「売上が落ちた」事だけなのだろうか? 私はその点に強く疑問を持った。

後日、改めて詳細版のPLを見せて頂いた。

するとどうだろう、同じ事業を展開しているにも関わらず、本社と比較して支店の「固定費比率」が極めて高い事が分かった。固定費にも種類はあるが、額の大きな科目は人件費と地代家賃の2種類だ。

売上に対する人件費率を比較してみた。すると、人件費率は本社より低い水準。となると、売りを伸ばす事で、確かに人件費率を更に下げ、利益を上げる事は可能になる(※大枠の仮説のため、ここでは変動費については触れてない)。

よし、売りを伸ばすための施策だ!

そう考えるのは最もである。だが、私はまだ施策の方針に結論を出さなかった。同時に地代家賃の数字も比較をしてみた。すると、地代家賃が本社のそれと比較すると4倍以上額が大きい事が分かった。

考えてみて欲しい。同じ事業を展開するのであれば、規模は違えど、売上に対するそれぞれの勘定科目は基本的には同じ水準になるはずだ。にも関わらず、4倍もの差がある事に違和感を感じないだろうか?

その点について言及してみると、諸々の事情(詳細は割愛させて頂くが、オーナーの企業経営におけるもの)が明らかになった。支援の依頼を下さったオーナーもその点を隠そうとしていた訳ではない。だが、明らかに支社の人間からすると「不公平」と感じても仕方がない。「俺達はこんなに頑張っているのに!」そう思っても不思議ではないし、客観的に考えて努力だけでどうにかできる事柄でもない。

そこで、地代家賃の比率を本社と同じにして試算してみると、利益水準は本社と比較して若干低い程度になった。つまり、支社の方々の努力不足などではなく、オーナーの「固定費に対する認識」が要因だった事になる。売上や利益のみに意識がいってしまい、コスト面に対する認識が不足していた事が判明した。

そこで、私は以下のように提案した。

地代家賃を本社のそれと同水準で設定した上で、売上を伸ばす方針で支援をさせて下さい。期末においても、従来の決算とは別の試算で支店の評価をして下さい。その上で、彼等(支店の社員)の評価を決めて下さい。

クライアントはその内容に納得して下さった。だが、私はそれだけでは満足できなかった。より徹底的に支援するための案を水面下で進める事にした。

その内容は、「地代家賃のハンデも含めて、PL上の収支を黒字にしましょう」というものだった。オーナーとは別に、事業部長と支店メンバーにその様に提案した。それぞれで期待値をコントロールの上、「オーナーをビックリさせてやりましょう」と提案した。



結論、提案した施策は功を奏し、1年で見事に目標を達成した。

経営に従事する方なら分かると思うが、最も手っ取り早く改善する方法は「撤退する」ことでありそれがセオリーだ。まずは止血する事が何よりであり、だらだらと赤字を垂れ流す事ほど罪はない。だが、オーナーの意向もあり、撤退はしない、人件費も削らない、とのことだった。極めて難題と向き合わざるを得なかった。

その為に、あらゆるコスト(コピー用紙や電気代など細部に至るまで)を見直し、出来る事は全て実践した。時には無理難題を提案した事もあったが、事業部長と支店メンバーは熱心に食らいついてくれた。彼等を鼓舞するために、水面下でオーナーに依頼した事項もあった。目標を達成できたのは彼等全員の行動の賜物でしかない。達成し終えた彼等の表情は、当初とは比べ物にならないくらい輝いていた。

「GIANT KILLING(番狂わせ)」を見事に体現した彼等が喜ぶ姿に、こちらも感極まった。


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洞察力とは何か?

端的に表現するならば、

前提を疑い、本質を炙り出す能力

の事ではないだろうか。当初のオーナーの言葉を真に受け、売りを伸ばすだけの施策を展開していようものなら、支店メンバーからの信頼も得ることはできなかったはずだ。

「現状も知らないクセに…」

と思われ、施策も失敗していたに違いない。彼等との信頼関係を築けたのも、「この人は分かってくれている」と思って頂けたからだと振返ってみて思う。数字を詳細に追い、事実とその背景を確かめ、良い意味で関係者の期待値をコントロールし、その上で推進した施策だからこそ得られた結果だ。


当初の依頼事項(与件)に対して違和感を感じられるかどうか、その違和感を仮説を以って検証できるか、「当たり前」の事かもしれないが極めて重要な事柄だ。


ビジネスに限らず、洞察力は極めて効果性の高い能力だ。表層ではなく、物事の本質を炙り出す事で、適切な意思決定や、対人関係における関係性の構築ができる。

万人にとって必須のスキルと言っても過言ではない。


おわり

追伸:万一記事が反響の上、需要があれば「洞察力の磨き方」についても記事にしてみたいと考えています。

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