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マツダの兄貴。架空の人物

晩秋の街並みはハードボイルドな映画のように、どこか厳かで、陰鬱とした雰囲気が漂っている。日常が静まりかえっているこの時期に、マツダの兄貴の話題で溢れるのだ。あの男はすごい、と誰もが言う。噂話が好きな古い男たちは、彼の逸話を披露して自身の若かりし日々を語り始める。

だが、マツダの兄貴は存在しない。それは俺とタポツだけが知る事実だ。でも、誰もが信じるその存在は、俺たちにとっての理想像、あるいは軽口を叩く際の比喩となっている。マツダの兄貴はスーパーマンのような存在で、男の中の男、兄貴の中の兄貴、その実在を疑う者は誰一人いない。

俺はふと、あきちゃんの美しい顔を思い浮かべる。彼女はこの神話をどう受け止めているのだろうか? 彼女の目に映るマツダの兄貴はどんな男なのだろう。スレンダーな体型とその眼鏡越しに見る世界は、きっと俺やタポツが想像する以上に深く、色彩豊かなものであるに違いない。

ふと思えば、彼女の存在がマツダの兄貴のような気もしてくる。誰もが憧れ、でも手の届かない存在。その神秘的な魅力は誰もが認めるところだ。

俺とタポツにとって、マツダの兄貴はただの架空の人物でしかなかった。でも彼の名を口にするだけで誰もが心を奪われるのだ。彼は理想と現実の間に存在する、誰にも捉えられない幻影のような存在だ。

しかし、この神話は一体どこから来たのだろうか。それは誰かが彼の存在を想像して生まれたのか、それとも俺たちが言い伝えることで生まれたのか。その答えは永遠の謎だ。

そしてその謎は深まるばかりで、マツダの兄貴がいつか現れるのではないかという期待感が街に漂う。俺はただ静かにその神話を見守る。それが存在しないことを知りながらも、どこかで希望を持って待ち続ける。

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