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漫画は国語の教材になる?

ちょっと昔なら「漫画ばかり読んでないで、本でも読みなさい!」なんて言われたかもしれませんが、今や漫画は日本が世界に誇る文化として広く親しまれています。

漫画のジャンルや扱うテーマも多岐にわたっていて、「単なる娯楽」の枠にはもはやとどまりません。

大きな感動や学びを与えてくれる、素晴らしい作品が世の中にはたくさんありますよね。


わたし自身、本を読むこともありますが、漫画も大好きです。

読む冊数はそれほど多くありませんが、繰り返し愛読している漫画がいくつかあります(詳しく語り出すと止まらないので、具体的な漫画名については割愛します笑)。




さて、漫画に多くの魅力があることは、多くの人の同意を得られそうですが、今回はタイトルの通り「漫画は国語の教材になりうるのか?」という点について考えてみたいと思います。


個人的には「漫画は国語の教材になる!」というのが結論です。

ただし、無条件に何でもOKということではなく、いくつかの制限や条件があります。比較的新しい試みであると思うので、教える側にとっても手探りになる部分がありそうですね。


まず、「本当に漫画が学習材料になるの?」「いったいどうやって……?」と懐疑的な方にぜひオススメしたいのが、下記の一冊です。

著者の三森ゆりか先生は、日本における言語技術研究の第一人者とも言える方で、ご自身で教壇に立ち実践的な言語技術(Language Arts)の指導をなさっています。

三森先生の著書はたくさんありますが、こちらの書籍は「言語技術」の要点がギュッと一冊にまとめられているので、入門書としては最適です。まさに書名に「超入門」と書かれている通りですね。


実はこの書籍の第7章に漫画の分析に関する内容がまとめられています。

漫画では、一つ一つの表情や動作が静止状態にあるため、読み手は頭の中で登場人物達を動かしながら内容を理解しなければならないし、コマとコマとの間に時間的断絶があるので、描かれた絵と書かれた台詞からコマとコマの隙間を埋める必要がある。(中略)さらには登場人物達の感情が絵によって語られることが多いため、そこを分析的に読まない限り、人物達の細やかな感情を十分に酌み取れないことにもなる。このようにして改めて漫画がどのようなものかを考えてみると、本当の意味で読んで解釈するには、実は高度な分析力が必要なことは明らかである。

三森ゆりか「ビジネスパーソンのための『言語技術』超入門 プレゼン・レポート・交渉の必勝法」より

そしてこちらの書籍では、実際に漫画を用いたクリティカル・リーディングの授業の様子が紹介されています。実際の漫画ページ(有賀リエ「パーフェクトワールド」)を掲載しつつ解説しているので、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。




さて、こうした実践例を見てみると、「なるほど、漫画も国語の学習に活用できそうだな」と思えるのですが、先ほども述べた通り「無条件に何でもOK!」という訳にはいきません。


漫画を教材として扱う上での課題の一つは、題材の選び方です。

漫画を通して、分析力や批判的読解力を鍛えることが目的であるので、そもそもストーリーや表現に奥行きのある作品でなければなりません。どちらかと言えば、心理描写が巧みな作品が好ましいということになるかと思います。

また、漫画独自の設定があまりにも混みいっていると(例えば、特殊なファンタジー要素が含まれる)、その世界観や設定を把握することに時間を割かれてしまい、学習の趣旨から逸れてしまう可能性もありそうです。そのため、現実世界をベースにした作品や、できるだけ世界観がシンプルな作品の方が教材として適していると思います。

一概には言えませんが、異能系バトル漫画よりは日常系恋愛漫画(もしくは友情・青春をテーマにした漫画とか)の方が教材としては扱いやすそうですね。




次に、仮に教材として素晴らしい漫画を見つけることができたとしても、果たして教材として使えるのか?という点も大きな課題です。

学校ならば、著作権法第35条「学校その他の教育機関における複製等」で認められている範囲内で漫画の一部を利用することができそうですが、塾などの営利企業は含まれないんですよね。

漫画の歴史は文学に比べるとまだ浅いため、著作権切れの作品はかなり限定されたものになります。文学作品なら、「青空文庫」などで名作を探すことも可能ですが……。

ただ、個人で楽しむ範囲ならまったく問題ないので、家庭内などで漫画を使って分析の練習をしてみるのは良い試みかもしれませんね!読書はちょっと苦手……というお子さんは漫画から練習してみるのもおすすめです。




また、漫画を教材として扱う場合に課題となるのは、教える側の指導力です。新しい試みであるので、どうやって学習を進めるのかという指導法が確立されていません。

漫画に限らず、分析や読解の授業は、講師の「質問力」が問われます。いかにして生徒たちの理解を深めていくのか、というのが腕の見せ所です。講師側の問いかけが不十分・不適切だと、どんなに良い題材を用意していたとしても、「不完全燃焼」で終わってしまいます。

そう考えると、漫画を教材として扱う際には、かなり入念な教材研究と授業準備が必要そうですね。絵の分析とテクストの分析の合わせ技になるので、やらなけれなならないことが盛り沢山です。

生徒と同じ、もしくはそれ以上に教える側が分析力や読解力を高めなければいけませんね。




漫画というのは、多くの子どもにとって興味を引く素材なので、国語(日本語)が苦手な子にも幅広くアプローチできるという大きなメリットがあります。

そして、絵とテクストの組み合わせから様々な分析的な解釈が練習できる優れた素材です。文学とはまたちがった角度から分析力・読解力を鍛えることができます。


一方で、上記で述べた通り、現場で実際に導入するには、まだまだ制限や課題もあります。少しずつ世間で認知されるようになって、活用の幅が広がっていくと良いですね。

「漫画は文化だ!」はわりと世間に浸透しつつある考えですが、「漫画は国語の教材になる!」という考え方もじわじわと広がっていくといいなと思います。裾野が広がれば、新しいアイディアも生まれて、より充実した学びの形へと発展していくのではないでしょうか。


皆さんだったら、どんな漫画で国語の授業を受けてみたいですか?



みな

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