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交わらなかった世界とクリスチャン・ボルタンスキー

CHRISTIAN BOLTANSKI展


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誰かの思い出の写真や、返らない昔のおもちゃを作ってみる試み、自分の心臓の音の記録。
表面に出てこない記憶や、個人の過ぎ去った時を可視化する作品群。

祭壇のように並べられた顔写真を見ると、その人たちの生きた人生を想像させられる。顔を見るだけで、背後を考えてしまう。その人生がもう終わったかどうかもわからないのに。終わったのかもしれない、と思いながら現在の姿を想像してしまう。
人の人生は、死んだ時にしか振り返られないという暗黙の了解に焦点を当てる。

ヴェロニカの布を模して作られた作品を見ると、普通の人を普通に撮った写真でさえ、聖遺物に見えてくる。逆に言えば、聖遺物とされるものも、普通のものに見えてくる。
聖性に目が向くばかり、そこに映された人の生を見逃しているのではないか。

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電球に照らされる黄金の海や、人生を模して光る電球たちからは、それでも人間の生は、大海の白波のように、たまたまその時表出した、限りのあるものであると感じさせられる。

交わらなかった他人の思い出や、記憶されなかった出来事とも呼びにくい、自分の些細なことなど、時の流れは、もはや振り返られることはなく過ぎ去ってしまうのでよいのか。交わらなかった世界は存在しないのか。
神聖さや目立つものに阻まれ、人の生を見損ねてはいないか。

コミュニケーションできないと思われてる他の生物や、交わらなかった他の人の人生。そんなものに目を向けてみてもいいんじゃないか、と思わされる、意外と前向きな展示だった。

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