クロ現「フェイク広告の闇」とアフィリエイト業界と私

私はもう、アフィリエイターには戻れないかもしれない。

昨日、2019年1月22日22時から、NHK「クローズアップ現代+」で、「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」が放送された。私はそこへ、データ提供の形で協力した。

無事に放送に至り、報われた気持ちになった。このデータは、私が去年1年間をフルコミットして作ったプログラムで調べ上げたものだ。

私のプログラムで調べたのは、インターネット広告のうち「アドネットワーク」と呼ばれるものだ。下記のような感じのヤツだ。クロ現の放送では、「新聞社の記事下広告」と表現されていた。

こういう広告の中に、違法なものがたくさんある。番組中では「著名人の名前を勝手に使った広告」にフォーカスされていたが、問題はそれだけではない。薬機法という、健康に関する商品の広告表現についての規制を守っていない広告も大量に存在する。

こういったものの中に、アフィリエイトの仕組みを使って利益を得ているウェブサイトも存在している。

「アフィリエイト業界のイメージが悪くなった」

今回のクロ現の放送中、ツイッターを見ていると、不満げに「アフィリエイト業界のイメージが、また悪くなった」という趣旨の発言をしているアフィリエイターさんが少なからずいた。

こういう悪いことをしているのはあくまでも「一部のアフィリエイター」であって、大部分のアフィリエイターは真面目に遵法性を保ってウェブサイト制作をしている、という主張をしたいのだと思う。

それは、わかる。私も、あなたのモラルが高いことを知っている。あなたの文章が素晴らしいものであることも知っている。あなたの利益が守られるべきものだという認識もある。

でも、守られるべきものは、あなたの利益だけではない。真面目に商売をしているネットショップさんの利益も、同様に守られるべきものだ。

そして、一般消費者の利益こそが、他のなによりも、もっとも守られるべきものだ、と私は思う。

これは、モラルを持てとか、美しいことを言っているたぐいの話ではない。経済合理性の話だ。末端で商品を買う人が居なくなれば、結局のところ、業界全体が崩壊する。

ネットショップさんにとっても、アフィリエイトは広告の一手段に過ぎない。割に合わないと判断されれば、アフィリエイトは辞めて、他の広告手段に切り替えてしてしまうだろう。

あなたは、モラルを持った表現でアフィリエイトをしている。それは、私も知っている。しかし、一般消費者が接触するアフィリエイト広告には、違法性のある広告がたくさんある。

モラルを持っているアフィリエイターのウェブサイトが発生させているコンバージョンは、残念ながら、十分な量ではない。違法なことをしているアフィリエイターが、多くのコンバージョンを奪っている。

私の観測範囲で見えている数字や状況を考えると、アフィリエイト業界の業界規模の約30%程度が、違法性のある行為で占められているように見える。

矢野経済研究所のレポートによれば、アフィリエイト業界の市場規模は、年間2275億円だ。このうち約700億円程度は、違法性を伴う行為でできあがっている、と、私は考えている。根拠は、私が運営しているストリクスヤクパトのデータだ。

私は末端の人間だ。アフィリエイト業界の数字を全部見ることができているわけではない。でも、私が知っている情報を元に考えると、それくらいになるようにしか思えない。

「悪いことをしているのは一部のアフィリエイターだ」というのは、おそらく正しいと思う。しかし、アフィリエイターの人数だけではなく、発生させているPVや報酬額を考えてほしい。違法な表現をすれば、インプレッションもコンバージョンレートも跳ね上がる。一般消費者から見れば、そういった違法サイトの方が多いと感じるのは無理もないだろう。

今回のクローズアップ現代の放送は、真面目にやっているアフィリエイターにとっては、腹の立つものだったと思う。その気持ちは、よくわかる。

でも、実際に、アフィリエイト業界は、全体の30%ほどが腐ってしまっている。放置すれば、その割合はもっと上がるだろう。

番組の最後に、記者の田辺さんが「今(対策を)やらないといけない事態になっていると思います」と言っていた。私も同感だ。本当に瀬戸際なのだ。

だからこそ、私は去年の1年間の全てを使い、少なくない身銭も切り、会社員も辞めてこの問題を調査した。

この番組に加担した私を、良く思わない人も少なくないだろうと思う。

私も、もともとはアフィリエイターだった。アフィリエイター時代に、たくさんの先輩からお世話になった。たくさんの知識を、見返りなく教わった。その恩義を、強く感じている。

今の私は、恩を仇で返している。それらの素晴らしい先輩アフィリエイターさんたちにとって、短期的には不利益になることをしている。その罪悪感は強い。

でも、業界全体が腐り落ちて消滅するより、マシなはずだ。私は、この調査をやり続ける。それが私なりの、アフィリエイト業界への愛であり、恩返しだ。

「アフィリエイターが違法行為でボロ儲け」について

最後に、補足しておく。今回のクロ現の放送では、「アフィリエイターが違法行為でボロ儲けしている」というニュアンスの表現が何度か使われていた。

確かにアフィリエイトの仕組みを使って大規模な違法行為が行われているのは事実だ。しかし、

「アフィリエイターが違法行為をしている」

という表現は、事実ではあるが的確な表現ではない。

より実態を示す表現は、

「犯罪者集団が、犯罪の手段としてアフィリエイトを選んだ」

という感じになるだろう。真面目なアフィリエイターは、とばっちりを受けている。一般消費者の方には、どうかそれを理解してほしい。


私は図らずもインターネット広告業界の不正対策を仕事にしてしまった。いつか、不正が消えたら、アフィリエイターに戻りたい、と思っている。

しかし、戻れるだろうか。物理的には戻ることはできるけれど、以前のように、様々な人と交流しながら楽しくサイト作成する、ということはできないかもしれない。私は、アフィリエイターさんたちを殴ってしまったから。

「死んだらGPL」について

私のシステム、ストリクスヤクパトは、「死んだらGPL」と称して、何らかの形で開発がストップした際にはプログラムをGPLライセンス(ざっくり言うとフリーソフトみたいなもの)で公開するように準備してある。もしかしたら、私も途中で嫌になってしまうかもしれない。その時には、誰かが後を引き継いで欲しい。

ストリクスは「死んだらGPL」です

ヤクパトは「死んだらGPL」です

ともかく、もうここまで来てしまった。行けるところまでやるのみだ。

もしサポート頂けたなら、そのお金は、私が全力で生きるために使います。