パンクとインターネットの個人史

どうせ誰も覚えてないし、記録もしないし、忘れてしまうようなことだからこそ、誰かが記録しておくべきではないかと思うのだ。

走り書き程度に書いておく。何を書くかというと「パンクとインターネットの個人史」というテーマだ。僕がパンクロックに目覚めた頃は、既に携帯電話の普及で誰もがネットでマニアックな情報を検索できる時代が訪れつつあった。パンクロックの情報といえば、一昔前までは、それこそライブハウスなどに通って口コミで情報を得るか、DOLLなどの専門誌を読むか、レコード屋などで新作をマメにチェックするか、というくらいしか情報を得るつてはなかっただろう。その昔は、海外のファンたちとカセットテープを交換したり、レーベルに直接連絡して音源を手に入れていたとも聞く。そんなものだから、インターネットの登場は画期的だっただろう。

特に当時の自分は何の偏見か、「ライブハウス」や「レコードショップ」というものに不良の巣窟のようなネガティブなイメージを抱いており、そんな場所に芋くさい自分が行ったらスパイキーヘアのパンクスたちにタコ殴りで殺される......と無用な恐怖を抱いていたので(ディスクユニオンですら店の扉の前でビビっていた)、雑誌やネット、学校のごくわずかなパンク好きたちから得られる情報は非常に貴重だった。

高校一年生の時に親にねだってケータイを買ってもらった。丸っこくてやたら可愛いやつだったような気がする。パソコンで閲覧するウェブサイトにはアクセスできなかったが、ケータイサイトを閲覧することができた。「魔法のiらんど」なんて聞くと、一定世代は懐かしくて涙ちょちょぎれると思うが、当時はケータイで見れる掲示板サイトがごまんと存在した。誰でもアクセスはできるのだが、どことなくクローズで濃密な気配があるそれらの掲示板たち。名前は忘れてしまったが、当時パンク系の掲示板サイトがあり、それを熱心に閲覧していた。記憶はないが、自分も何か書き込んでいたかもしれない。覚えているのは「無名兵士」というハンドルネームのユーザー。頻繁に書き込みをしており、その掲示板でも一目置かれる存在であったと思う。どんな発言をしていたのか、どんなキャラクターだったのか、まったく覚えていないのだが、「無名兵士」という名前だけが妙に記憶に残っている。

パンク系のファンサイトで忘れられないのが「SNUFFLE」だ。Snuffというイギリスのポップパンクバンドの日本非公式ファンサイトで、こちらは2ch形式の「したらば掲示板」を主体としたサイトであったが、管理人によってコンスタントに投稿される妙に濃い情報が特徴だった。掲示板だけど、ほぼ管理人した投稿してなかった。そして、やたらアスキーアートが多かった気がする。そして、いま調べてみたらサイト見つからなかった.......。

ファンサイトといえば、個人的には「Operationivy.com」も外せない。あ、もしかしたらサイト名間違っているかもれない。Operation Ivyは現RANCIDのティムとマットが在籍していた前進バンドで、スカパンクの走りのような存在である。「Operationivy.com」は、これまたやたら情報の濃いサイトで、ブート盤を含めたディスコグラフィーをはじめ、OPIVのさらに前身となる「BASIC RADIO」や、解散後に短期間だけ活動してた「DOWNFALL」などの情報、なんならブート盤の音源をダウンロードできたような気がする。さらに姉妹サイト?で同じくイーストベイの伝説的ポップパンクバンド、Crimshrineのファンサイトもあったけ。トップページがペイントソフトで適当に描いたようなヘロヘロイラストで実に味わいがあった。これらのバンドもけっこう前になくなってしまったなー。

高校2〜3年生の頃、「MP3.com」というサイトがあった。今となってはどういう位置付けのサイトかわからないのだが、新人バンドの音源が無料でダウンロードできるというサイトで、おそらくバンドの許可を取って配信している合法的なサービスであったような気がするが、同級生で一番パンクの話ができたSという男が、やたらこのサイトを愛用していたような記憶がある。なんというか、「これからの時代はCDとかレコードとかパッケージされたものではなく、データで音楽を配信する時代だぜ!」みたいな新しさをとても感じたサービスだった。

昔、流行ったよね〜という感じでいうと、「MySpace」。あったよね。mixiとか日本でSNSなるものが流行る前に、かすかにその兆候を感じさせてくれたサービス、と記憶している。当時はいろいろなバンドがMySpaceにページを持っていて、最新音源やライブ情報などを発信していた。日本のバンドもトレンディーなバンドはMySpaceのアカウントを持っていて、今はどメジャーとなった「相対性理論」もMySpaceで音源を配信していたよね。ちなみに相対性理論の初期の公式サイトは未だに記憶に残っていて、真っ黒い背景に宇宙飛行士が旗を持って立ってる、みたいなアポロの月面着陸的なデザインだった気がする。当時は、メールフォームからチケットの取り置きとかしていたよ。

思いつくままに書いているけど、「ハイパーイナフラジオ」というサイトは、これはもう絶対に歴史に残るべきである。ハードコアパンクの情報を検索していると、なぜか必ず行き着くサイトで、サイト主の出口さんという方がネットラジオを配信したり、音源レビューなどをしていた。しかし、私が熟読していたのはサイト内のコンテンツ「ハイパーイナフ大学」である。本物の大学よろしく「パンク学科」「ハードコア学科」「ポストハードコア学科」など、ジャンルに別れてオススメ音源やそのカテゴリの基礎知識が掲載されているのだが、これが本当に勉強になった。パンク/ハードコアのことは、すべてここから学んだのだと言っても過言ではないくらい、充実した情報量であった。レコード屋で「そういえば、これハイパーイナフ大学で紹介されてたなー」と手に取る機会も多々あった。ちなみに「ハイパーイナフラジオ」の出口さんは、その後「ハイパーイナフレコード」というサイトを立ち上げて、パンク系の音源やグッズのネット通販を始めた。これまたイカした品揃えで、このサイトで買った「7seconds」や「DESCENDENTS」「HUSUKER DU」などの映像が収録されたズタボロ画質のビデオのことは一生忘れられない。何せ、YouTubeがまだ存在しないか、全然流行ってない時代だったので、海外パンク勢の動いている映像は当時めちゃくちゃ貴重だったのだ。「DESCENDENTS」のライブ映像で、まだ尖りまくってたMILOがハンバーガーをすごい勢いで喰って、「ワンツースリーフォー!」とカウントしながら吐き出すという、あの衝撃映像は未だに脳裏に焼き付いている。

インターネット×パンクというテーマで、僕にとってエバーグリーンなのは「STM online」だ。そう、今をときめくZOZO、会社名でいうと「スタートトゥデイ」の前澤さんが主催していたパンク/ハードコア系の通販サイトだ。当初は紙のカタログとしてスタートし、その後ウェブサイト化。海外のマニアくな音源や、最新のアーティストを扱っていただけでなく、ユーザーによるレビューや、ちょっとしたSNSのようなコミュニティ機能も有しており、顔も住む場所も知らないパンク好きたちが熱心に交流していた。あの当時のSTMの空気感、独特だったなあ。かくいう自分もここで公表するのも恥ずかしいユーザーネームでアカウントを作ってせっせとレビューを投稿していた。STMでは投稿数などのいくつかの指標で決まるランキングシステムがあって、それがユーザーたちの競争心を煽っていた。なかには意味不明のレビューを投稿する輩もいて、炎上していたなあ。ある時から、そのレビューがなくなってしまった。そして、時期は一緒だったか記憶にないが、パンク以外にもレゲエなどの音源も扱うようになり、かと思えばすぐにまたそれらの音源を取り下げ、あっという間にアパレルを扱う「ZOZO」と、従来通りにパンク系の通販サイト「STMonline」に分裂してしまった。そう、STMonline、まだ元気に運営されているようです。当時に比べると随分デザインがスッキリして、コンテンツも大幅に減ってしまったようだけどね。「特典付き」というのをウリにやられているようです。STMのことで一番記憶に残っているエピソードがあって。当時カタログのなかに「WALTER SINGS THE HITS」という謎音源があって、GORILLA BISCUITSという僕が大好きだった(今でも大好き)有名ハードコアバンドのレア音源集のようなのですね。でも、ずーっと売り切れ。で、この時、音源が入荷されたらメールで連絡してくれる機能というのがあって、ダメ元でこの音源をチェックしていたんですけど。ある時、予備校で講義を受けていたら、ケータイがぶるったんですよね。なんだ?と液晶を見てみたら、この珍音源が入荷されたというのだ! もう全身の血が沸騰するほどに興奮して、慌てて注文。案の定、すぐに売り切れてしまったわけですが、あのCDが手元に届いた時は本当に嬉しかったです。あの時の喜びは未だに覚えている。

とりとめもなく書いてみましたが、これらの記事が後世に生かされる日がやってくるのでしょうか。「あー、懐かしい!」と言ってくれる人がいたらちょっと嬉しいです。



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小野 和哉

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