出川哲朗に優しい世界は、銭湯のように居心地のいい世界だった〜『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京)

テレビ東京で放映中の『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京 土曜7時54分〜)が面白い。もともと特番として不定期に放送していたそうだが、好評を受けて昨年からレギュラー番組に昇格したそうだ。公式でも出川哲朗のゴールデン初の冠番組と謳っていて、かなり気合が入っている。その面白さの理由を、自分なりの解釈で考えてみた。

出川の番組だけど、ツッコミ不在

内容としては、タレントの出川哲朗が充電式の電動バイクに乗って、毎回定められた出発点から目的地まで数日かけて移動。バイクはフル充電でも20kmしか走らないため、途中途中で飲食店や施設に事前アポなしの交渉をしてコンセントを借りる+撮影許可も得る。さらに充電時間を利用して食事や観光、地元の人とのふれあいを楽しむことで、旅番組としてのテイをなしているという感じだ。

「タレントのバイク移動」「現地交渉」「プロデューサーのキャラ立ち」というと、伝説のロケ番組『水曜どうでしょう』の「原付全国制覇」企画を彷彿とさせるが、相違点はたくさんある。

・毎回行程が短いので、「●日までに●●までに到着しなければいけない」という緊迫感はそれほどない。競技性はなく、割と余裕をもって観光を楽しんでいる印象。
・そもそも出演者が全国区の知名度を誇っているので、毎回行き先でプチ騒動になる。番組自体の知名度も高く、「充電の番組?」と地元民や観光客に声をかけられる。
・上記に関連して、アポなしでも交渉がスムーズ(のように見える)。
・ドキュメンタリーチックではあるが、やっぱり食事シーンのインサートや、ドローンによる空撮など、テレビ的にしっかりと作り込まれている感じ。

そして、この番組を大きく特徴付けているのが、タレント出川哲朗の扱いだろう。「リアクション芸人」として名を馳せる出川哲朗であるが、本番組は当人は番組の「主役」。たまにゲストとして登場する芸人以外に、彼のことを「ツッコむ」人物が誰もいないのである。出川哲朗といえば、滑舌のわるさも本人のキャラクターとして知られているが、どんなに言葉がつんのめっても、噛みまくっても、日本語として崩壊しても、番組として完全にスルー。さらに、表示される番組テロップはほぼ編集なしで聞こえたままを書き起こしているので、言葉の間違いがより強調され、視聴者としては「ん〜、そこつっこまないの!?」と、初期は観ながら変な居心地のわるさがあった。

しかし、番組を観続けていると、だんだんとその違和感もなくなってくる。むしろ、「そんなこと、いちいち指摘するのは野暮じゃない?」となってくるから不思議だ。例えば番組では、道中の看板に書かれた地名や店名を出川さんが読み上げるというシーンが多々あるのだが、後続のプロデューサーが「いや、それは●●ですね」と(淡々と)訂正するだけで、特に笑いもなく次のシーンに映る。制作側にそういう意図があるかはわらかないが、だんだんと「別に少しくらい失敗するのは、笑えることではないですよ」と啓蒙されているかのようだ。別に笑いがない番組だと言いたいのではなくて、しっかり笑わしてもらっているし、面白いのだけれど。

「話はオチなくてもいい」という編集

そういえば、他にも気になることがある。出演者がしゃべっている途中に、バッサリとシーンをカットする編集が多々見受けられる。何か意図のある切り方というよりは、本当に「え、まだしゃべってるじゃん?」というタイミングで、豪快に一気にいくのだ。前後の話の文脈を「無視」しているので、「それってどういうこと?」という話題も時たまあるし、「で、その話の行方は?」と気になったまま番組が終わることもある。その雑な扱いが、出川に対する番組からのメタ的な「いじり」として面白みを生むという効果もあるのかもしれないが、「別に話にオチなんてなくてもいいじゃん」なんて隠れたメッセージを僕は勝手に捉えてしまった。

この番組の中で、個人的に特に印象に残っているシーンは、お笑いコンビずんの飯尾和樹がゲストだった回。どこぞやの浜辺で二人で写真を取り合ったり、一緒にジュースを飲んだりしている合間に、飯尾さんが「なんかおっさんが二人で気持ちわるいっすねえ」と何回か自虐的にコメントしているのであるが、出川さんは特に返事もせずニコニコしている(記憶なので曖昧ですが)。通常ならここで小さな笑いになってもいいはずなのだが、そうはならない......。自分も決して飯尾さんは嫌いではないのだが、「余計なこと言わなくていいよ」と少し不快な気分になったのは確かだ。

この番組を「ピースフルな番組」であると言い切るつもりはない。例えば、おかずクラブのオカリナが出演した回は、おそらく自分が長らくテレビ的なお笑いの文脈に遠ざかっていた、そもそもオカリナさんを知らないことも合間ってだとは思うが、セクハラ発言や行為の連発にいや〜な気分になった。いや、もう正直、この番組は(意図せずして)「いじられておいしい」という価値観を壊す方向に舵を切っているはずじゃないか。

出川哲朗、「いじられキャラ」や「汚れ」として光ってきた芸人さんであるが、この番組を見るとその面影は何処へやら?だ。行き先々で愛されている。収録したお店を出ると、毎回地元の人が出待ちをしていて、「写真撮ってください」「握手してください」「会いたかったです」の嵐だ。名前は出なくてもその顔を知らないという人はまったくいない。テレビのすごさをあらためて思い知るし、「出川哲朗って人気者だったんだなあ」と変な感じで実感するのである。出川さんもたまに失言のようなコメントはあるが、そもそものキャラのせいかあまり偉そうな雰囲気にはならず、「タレント様とテレビ様が来てやったぞ」的な嫌味もないのである。

「出川哲朗に優しい世界」という居心地の良さ

『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』は、かつては「嫌いな男ランキング上位者」で、いじられキャラの筆頭だった出川哲朗が、ほぼ一方的にとことん愛されている様を観察する番組だ、と言ってもいいかもしれない。この番組の何が面白いんだとうといろいろ考えていたのであるが、「嫌われものが、嫌われていない世界の癒し」とでも言うべきだろうか。そう、とにかく癒されるのである。いわゆる「噛んだ」的な間違いにいちいちツッコミが入らないのも自然体で、観ていてテレビ的な疲れがない。この番組がテロップをほぼ発言のままに文字化していることを先に伝えたが、何もこれは出川に限らず、ゲスト出演者の発言も、地元民の発言もそのまま文字に起こされるので、「なんだ、他の人だって言い間違えけっこうしてるんじゃん、噛んでるじゃん」という状況が可視化されている。ここまで言うと大げさかもしれないが、失敗が相対化されている。
俳優さんや大御所の旅番組のような、かしこまったお上品な雰囲気でもなく、笑いながら楽しむことができる。僕は銭湯が好きなので、例えるならば慣れ親しんだ近所の銭湯に使っている時のような、心地よさがある。

とあるホテルの寝起きシーンで、出川の部屋に訪問したゲスト出演者に「寝起きドッキリとかこの番組ではしたくないんだよ。他の番組と差別化したいんだよ」と言い放ったのは、まったくの冗談とも言い切れないような気がする。

出川哲朗に優しい世界は、とても居心地のいい世界だった。こういった居心地のいい番組はこれからも求められるだろうし、心地のいい場は必要になっていくのだろう。


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小野 和哉

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