銭湯は「1.5人」になれる場所である

昨日、銭湯について下のようなツイートをしたら、思いの外、大きな反響をいただいた。

「いいね」をしてくれたユーザーさんの中には、銭湯関係の方も少なくなく、さらにはマイフェイバリット銭湯で、近年には先進的な取り組みで全国的にも注目を集めている高円寺「小杉湯」さんからも嬉しいリアクションがあった。

なんで自分は銭湯が好きなんだろう、つい通ってしまうんだろうと漠然と考えていたことに共感してもらえたことは嬉しさだけでなく、「俺だけじゃなかった!」と、ちょっとホッとしたところもある。
これ以上言葉を重ねるのは蛇足かもしれないが、調子に乗って件のツイートについてもう少し説明してみたいと思う。

そもそも銭湯に行き始めたのは高円寺に住み始めた3年ほど前からで、それこそ、近場の「小杉湯」さんとか「杉並湯」さんとかに足を運ぶうちに「ああ、俺って銭湯好きかも」と感じるようになり、決して数多くはないが気が向いた時に都内の銭湯を開拓したり、旅先では宿より先にまずは銭湯やサウナを探すなど、徐々に「湯」の世界にハマっていった。

銭湯の魅力は多い。
・広々とした浴槽にゆったりと浸かるという、自宅では味わえない贅沢。
・水風呂もあれば交互浴でカラダの芯までポカポカになれる。
・風呂上がりのコーヒー牛乳最高。
・歴史ある銭湯の建物を鑑賞するのも楽しい。
・地域の人の触れ合いの現場にお邪魔させてもらう体験は何より心温まる。

最近では、サウナの魅力にも気づいて「サウナー未満」として蒸されて汗だくになる時間を楽しんでいる。

しかし、何よりも僕が銭湯に惹かれる理由は「場」としての魅力である。以前もnoteの記事で書いたが、子どもの頃からあまり公衆浴場に縁のなかった僕が驚いたのは、銭湯という空間で素っ裸で無防備の人々が悠々とそれぞれの時間を楽しんでいるということだった。

日本随一の喧騒を誇る渋谷のスクランブル交差点でも、のどかな農村の畑のど真ん中でも、そして銭湯の浴場でも、そこが「公」の場であることは変わらない。しかし、一度暖簾をくぐれば誰もが平等に裸である。昔、銭湯は地域のコミュニティであったと伝え聞くが、現代社会では浴槽で隣り合った人と話をするという機会はあまりない(都会のみかもしれないが)。それでも、会話がなくてもなんとなく、銭湯で隣り合っている人たちとは「繋がっている」という感じがするのはなんであろう。満員電車でおしくらまんじゅうするビジネスマン/ウーマンたちとは「お互い社畜として、大変どすなあ」というネガティブな共感はあっても、「繋がっている」感覚はない。しかし、互いに服を脱ぎ捨てて、銭湯の湯にとっぷりとつかって極楽を味わっている他人とは、不思議な連帯感が生まれるのである。

ここまで言っておいてなんであるが、僕は人見知りだし、昔からどちらかといえば集団行動よりは、一人で行動する方が気が楽だと思ってしまう性分である。「繋がり」や「絆」とか、そういう言葉に否定はしないが、特にこだわりを持つ人間ではないのだ。濃密なコミュニケーションの場からはむしろ逃げ出したくなってしまう自分なのであるが、それでもなんだかふとした瞬間に無性に寂しさが込み上げてくることだってある。30代独身男性だからかしら。

「1人になりたい」「1人は寂しい」。矛盾していると思われるかもしれないが、そんな相反する感情が交差する瞬間は、東京に住んでいれば誰だって経験、あるのではないだろうか。

最近、とみに銭湯やサウナが注目を集めているような気がする。特に若い世代の中から支持者が多く現れている現象は見過ごせないだろう。決して自分が「若い世代」とは言うまいが、なぜ銭湯カルチャーのネイティブではない我々が銭湯に惹かれるのだろうか。考えていたところ「1.5人になれるから」という言葉に行き着いた。

暖簾をくぐってから、出るまで、番台の人にロッカーの鍵を渡しながら言う「お願いします」くらいしか言葉を交わすことはないかもしれない。そうだとしても、銭湯では孤独を感じることはない。「裸」という人間としては致命的にスキだらけで油断しまくりの状態の人々が、言葉のない信頼関係、そして湯気を間に挟んだほどよい距離感で共存している。それぞれが自分なりの方法でおだやかな時間を過ごしている。この圧倒的に平和で、あたたかな空間において、なんともいえない多幸感があふれてくるのだ。1人でもない、2人でもない。いつも手にしているスマホもないから、SNSの無制限な1対nの嵐に巻き込まれることもない。ゆるやかに自分の輪郭を保ったまま「1.5人」になれるこの状況がとても居心地いい。

最近は銭湯ラブな感情がほとばしって、脱衣所で着替えている時に「あ、ここ俺の家だ」という錯覚まで起こしてしまった。嬉しいことに、この「家」は全国各地、様々な場所にある。それはもう、いつでもどこでも帰れる「家」なのだ。

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小野 和哉

サウナと銭湯の日々

銭湯やサウナについての記事です。
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