5年前に「Webだけやっていてもおもしろいものがつくれない」と思っていた僕がIoTプロダクト開発を選択したことは正しかったのかを振り返る

スクリーンショット 2019-09-21 1.11.17

会社辞めました(5年ぶり2回目)。

この文章はWebだけやっていたときに「あれ、もしかしてWebだけやってても、この先おもしろくない??」って思ってしまった僕が、IoT製品(スマートロック)を開発するために起業し、その後5年の月日を経て様々なことを経験し、そして現在退職してみて改めて客観的に振り返ったときに何を思ったかを綴ったものです。

念の為言っておくと、今だとWebだけって部分がどんどん進化していて、SPAフレームワークが成熟してきたし、クラウドベンダーもガンガンおもしろい基盤サービスつくっているし、コンテナネイティブ/サーバーレスなアーキテクチャが流行ったり、AI/MLの波が来たり、AR/VRにもはみ出し始めたりで、全然Web領域だけやっていてもおもしろいと思います。なのでWebやってる人を全然ディスるつもりはないですし、この記事の内容もWebをディスるものではないです。単にIoTがおもしろいという内容です。

ということで、長い前置きも書いたので、以下気兼ねなく長い独り言を始めたいと思います。

IoT…ってなに?から始めたけど良かった

起業前の自分はIoTって単語自体知らなかったので、実はIoTとか言い出したのは後付けでした。

その時の直属の上司?みたいな人に起業することを伝えたら「モノのインターネットだねぇ」って言われて直後に「ん、なにそれ??」って思って後で調べるくらいには、全然全くIoTというものを知らなかったし意識してませんでした(少なくとも自分は)。

起業する前の週末プロジェクト時代は、「家の鍵をスマホで解錠できるのって素敵やん」程度でやっていて、当時の自分の関わりとしても、サーバーサイドとスマホアプリの開発ができるからだったし、たまたまやっていた別のプロジェクトでBluetoothの制御もやっていたので、そこで貢献ができそうだなぁって思っていた、くらい。

プロジェクトが進むにつれて、単純なWebやスマホアプリの開発できるってのを超えて、ハードウェアの制御ができるのってめっちゃ楽しそうじゃん!全くやったことのない電子回路や3Dプリンターいじったり、組み込みプログラムも担当できるかも!みたいな感じで全く「IoTしたい!」ってのも考えてませんでした。どっちかというと「ハードウェア開発したい!」の方でした。

後に「実は我々の製品は必ずしも常時インターネットにつながるわけではなく、スマホを通して間接的にインターネットにつながっているだけなのでIoTと呼べないのでは?」と謎の心配をしたもしたけど、どうでも良かった。別にIoTであるかどうかなんてどうでもいいから(笑)

ということで、IoTって単語全く知らなかったけど結果的にIoT/スマートロックと呼ばれる製品をつくりはじめ、(ホリエモンさんにTwitterで反応してもらうなど)ネットでバズる等のきっかけがあり起業するのでした。

スマートロックはIoTの中でも一番おもしろい領域だったので良かった

結果的にIoTを始めることになっけど、振り返ってみるとIoTという領域を更にカテゴリ分けしたときに、その中でもおもしろいものを選んだと思う。

IoTって超ざっくりは以下の分類になる。

・とにかくセンサー情報などをクラウドに送信してビッグデータでAIする(単方向)
・遠隔で状態を確認したり変化の通知を受け取ったり遠隔操作もできる(双方向)

スマートロックは完全に後者で、双方向でインターネットを通してモノの状態を確認したり遠隔開閉できたりするわけです!モノのインターネットだ!

つまり単方向よりも双方向の方が考えないといけないことが単純に倍なので、まず倍は楽しいということです。

そして、制御するものが鍵/錠だったりするわけですが、鍵ってみなさん「回す」ことはご存知だと思うのですが、機械を使って「回す」のを考えることは、想定を超えてめっちゃ大変なんです。つまりめっちゃ楽しいってことです。

そしてそして、日本のスマートロックは海外と違って工事をしないで「貼る」んです。申し合わせたように2015年に初めて日本で発売されたスマートロックは、3つともすべて両面テープで貼るタイプの「後付け型スマートロック」と呼ばれるものだったんですね。日本の家事情を考えるとほぼ当然の選択だったりするのですが、皆さんすごいですね(ちなみに一番最初にコンセプト発表したのも、ユーザーに発送したのもうちでした^^)。工事をするタイプだと、”個性的なサムターン”という錠部品などをある程度外してから、軸の部分にぶっ刺す形になるので、パラメータが少ないんです。逆に言うと、”個性的なサムターン”の上から両面テープ貼るタイプの「後付け型スマートロック」は、複雑で個性的な"パラメーター"を相手にする必要があるんです。つまり死にます(あれ、楽しいって言わなかった)。

単にセンサーから値を取得してそれをインターネットでクラウドにアップロードするみたいなものだったら、どんなに簡単だったかと思っているのですが、スマートロックは「やること多すぎワロタwwww」です。もう完全に(当時エンジニアはハードウェア含めて4名しかいませんでしたし)。

そして様々な"山を乗り越える"たびに一緒に創業・初期メンバーと「スマートロックの開発ってめっちゃ良い題材だよね、楽しいね」と言い合っていました。

大学時代に学んだ物理や電気/電子回路、情報工学を活かせたのが良かった

自分は新潟の出身なのですが、大学は地元にある工学部しか存在しない謎の国立大の長岡技術科学大学ってところで6年(修了まで)過ごしました。

ハードウェアでものづくりな部分を曲がりなりにも講義や演習でやっていたのが本当に良い経験だと思いました。

スマートロックの機構は各社個性が出るのですが、錠のつまみをどれくらい回転させるか?みたいなやつを複数の磁気センサーと回転するつまみカバーにつけた磁石を用いて実現するアイディアとかも考えて実装しました。

これを考えているときは、仕事でほぼ初めてx軸y軸をホワイトボードに書いて、うんうん唸りながら磁気センサーの情報から回転情報を抽出する方法を考えたりしました(複数箇所に固定された磁気センサーの値の変化からつまみに付いてる磁石の位置情報を推定するみたいな感じです)。

人間ってのは不思議なもので、過去に一度でもやったことがあると変な自信がつくんですよね。それが例え経験値としては必要な量の1/100くらいだったとしても、「ゼロじゃない」ってのはデカいんだなとこのときに思いました。

また、僕は最後まで電子部品の選定や基板の設計・製造とかは担当しませんでしたが、「電子部品の仕様はデータシートを見れば読み解ける(という自信がある)」「回路のエンジニアが言っていることは最終的に全部理解できる(という自信がある)」「オシロスコープを使って回路のデバッグができる(という自信が)」って感じだったので、これも大変助かりました。

これも大学時代に電気/電子回路の講義を受講したことがあったり、学生実験で実際に回路を組んでオシロで測定した経験があったり、研究時代に英語の論文を読み漁ったり、ある程度高度なアルゴリズムを理解して実装したことがあったり、楽器と電子工作とビジュアライゼーションを組み合わせたメディアアートコンサートを主催したことがあったり、教授にボコボコにされながら論理ベースの議論を死ぬほど重ねた経験があったからなんですよね。

圧倒的感謝です。

そして学生時代の経験を「あ、俺、今、仕事で活かしてるんだぁぁぁぁ⤴⤴⤴」って感じで、”つながってる感”、”意味あったんだ感”があるのも嬉しいポイントでした。大学院まで在籍していたアドバンテージは発揮できたのかなと思いました。元は取れました。

起業という経験がそもそも良かった

これは別途どこかで書きたいと思います。起業した企業では途中に取締役に就任していた期間もあるので、エンジニアリング以外の経験も積むことができました。この辺は光も闇もありますが、当然起業も役員も経験して良かったと思っています。

つながるものづくり、が良かった

知らないことがたくさんありすぎて爆発しそうだったので、起業した最初はとにかくいろいろな人の下に話を聴きに行ったり手伝ってもらったりしました。

ざっくり言うと、

・当時日本の主要な学習リモコン(筐体あって回路基板もあってネットに繋がってスマホから家電を制御できるやつ)をつくっていた方々(のべ3社5名)
・日本全国のBluetooth/iBeaconの開発者を集めた岐阜での一泊二日のBLEブートキャンプイベント(このイベントでかなりの有識者の方に会えました)
・日本のiOS x Bluetoothの第一人者の堤修一さん(ここだけ突然実名なのは許してくださいw)
・NEC定年退職者のものすごい電気回路のシニアアドバイザーの方
・工場でのハードウェアの製造に詳しいアドバイザーの方
・災害救助ロボットをつくって研究していたスーパーエンジニアの方
・大阪で30年以上組み込み開発を経験しているフリーランスの方
・大手キャリアのセキュリティ研究部門の方
・セキュリティ攻撃を依頼したら嬉々としてクラッキングしに来てくれた方
・先進的なプロダクトデザインやUIデザインができることで界隈で有名だったデザイナーの方々
・UXで有名で本も書いているような方
・日本でAndroidといえば、で有名な会社の方々
・某社のCTOだった技術顧問の方
・AWSのソリューションアーキテクトの方々
・CTO Nightで知り合った同じIoTで苦しんでいる方々w

みたいな(全然ざっくりじゃなかった…そして漏れている人がいたらすいません…)。

とにかく、たくさんつながりをつくって、人を紹介してもらってアドバイスしてもらったり、実際に手を動かす仕事を手伝ってもらったりました。

本当にありがたかったです。そして楽しかったです。ありがとうございます。

(NECのOBの方は実は自分がつくったシニアマッチングサービスに登録してくれた方でした)

夢の大企業とバトったりコラボできたのが良かった

自分が就活中にあこがれていたような会社と競合になったり、一緒に提携案件を進めたりできたのが、本当に楽しかったです。

当時製品も出していない弱小ベンチャーだったので競合が出現したときに「ヤバぁ・・・」ってなってましたが、「この最強大手の競合に勝ったらすごくない??」って思って、人生で一番の全力を出しました。その後も自分が全力を出さないとだめなシチュエーションが何度もあったのは本当に最高の経験でした。

工場とか古き良きみたいな場所にWebの技術を持ち込んだのが良かった

IoT製品のクレデンシャル情報って当然デバイスごとにユニークで、工場で出荷するときどうしようってなったのですが、「え、普通に出荷ツールをネットに繋げてAPIとデータベースで管理すれば良くね?」と提案したので、僕的には特になんの違和感もなかったのですが、その工場にとっては初めてのクラウドIoT出荷ツールが稼働したのでした。出荷の度にSlackに通知されるようにもしていたので、生産状況の把握なども遠隔で行えました。BLE製品だったので、工員がiPod片手にBLE経由で製品の最終チェックをするみたいなこともやっていました。

たくさんカンファレンスで発表できたのが良かった

YAPCとかbuildersconとかで4, 5回くらい?登壇させてもらいました。一番最初はVimの発表だったと思いますが、その後はずっとIoT関連の発表をしていました。自分がメイン開発者ではなくなったあとのCTOのときの発表が多かったので、IoT開発のど真ん中というよりは、その周辺のことを発表させてもらったのですが、結構楽しんでもらえた感想もいただけて嬉しかったです。

登壇は今後もどんどんやっていきたいと思っています。

多種多様な仲間と知り合えたのが良かった

やっぱりこれが最高楽しいポイントですかね。ハードウェアも含むIoT開発の醍醐味というか、CAD触りまくる機構設計のエンジニアとか、オシロ使う回路のエンジニアとか、普通にWeb開発していると出会わないので。

そういう人たちと隣で働けたのは本当に貴重な経験でした。

奇跡、ファインプレーの連続を経験できて良かった

知らないことに挑戦したことで、全力を出すことになり、その先に絶対にできないと思っていたことを超えるタイミングがあって、それを体験できたのが良かったです。そして、それを一緒に起業したメンバー、初期のメンバーもどんどん起こしていて、それがなかったらやばかったって昔話で酒が飲めるくらい。

これはまた起業話の方でできればいいなぁと思います。

本を書けるくらいの知識と経験が手に入ったのが良かった

五年間もこの業界にいて「単なるWebエンジニアがIoTを〜」って感じで新業種に挑戦しているので、知見はめちゃくちゃ得た気がします。

ただもちろんネット上にはすごい人がわんさかいて、僕は常に中の中くらいな実力しかないのですが、上の上の人が必ずしも起業するわけではないので、それに救われてチャンスが僕のところまで転がり込んで来てくれた感じです。

実はその沢山の経験・知見を本にし始めていて、その第1段がようやく完成しました!明日(9/22)の技術書典7にて販売予定です!電子版だけで良ければBOOTHにて購入することができます。

内容としては、Raspberry PiとかBLEとかMQTTとかRxJSとかの入門書程度ではありますが、まだ10分の1くらいの内容しかアウトプットしていない認識なので、この本自体も定期的に更新しますし、違う切り口の本も徐々に出して行きたいと思っています。ということで、乞うご期待!

最後に

ガーと書いて行きましたが、とにかくIoT楽しかったという記事でした。
「おまえ良かったって内容しか書いてねーじゃねーか」
「全然Webと比較してねーじゃねーか」
って思われた方は期待した方はすいませんm(_ _)m

でも、楽しければそれで良いよね。

ということで、また次の場所でいい経験ができたら記事を書きたいと思います。

では。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?