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あ〜〜 | 2023.7.2

・深夜に洗濯をした。

・梅雨の真っ只中にあることをふわっと感じさせる、生乾き残留臭の発現を絶対に回避したいという動機があり、最寄りのコインランドリーへと乾燥機を求めて向かった。いつもは自宅の乾燥機を回したり浴室に干したりしているが、この日は一歩も外に出ていなかったので散歩もしたかった。

・普段コインランドリーを利用しないので、店先に到着して初めてその店舗が24時間営業ではないことを知る。水を吸った重たい洗濯物を抱えて踵を返した。慣れないことはしないほうが良いなと思う。なんか小雨も降ってたし。

・浴室を洗濯物が占領したため、風呂に入れなくなってしまった。数十分歩き続け、繁華街のビルに入っているサウナに向かうことにする。

・時刻は午前一時半を回っていたが、街に近づくにつれて段々と視界を圧迫する光の量が増えていき、生活の匂いが濃くなる。自宅の周りはあんなに暗く静かだったのに数キロメートルを隔てるだけで、ここまで空気が変わるのはなんだか面白いと思った。以前シンガポールで、"リトルインディア"なるインド人街と呼ばれる地区に立ち入ったときの感覚に似ている。自分は一切お酒を飲めないので、街全体にアルコールが回っている様子はいわば異文化圏に見えたのだった。

・歩道に座り込み楽しそうに談笑する若い男女とか、通りがけにどこかに誘ってくる中年の男女とかを横目にずんずん歩く。それらの営みの声は、新調したAirPodsのノイズキャンセリングが完全に阻んでくれていたものの、身体の内側に直接疲労が侵食してくる気がして、あ〜〜となる。

・どう考えても身体に良いわけがない交互浴をなんとなく遂行してすぐに帰って寝た。


・帰り道、意味のない行動の一環としてTwitterを開くと、Twitterが(正確に言うと自分のタイムラインが)死んでいた。
なにか色々な事情があったうえでの一時的制限ということだったが、何度更新しても数時間前で時が止まったさまを眺めてみるのは不思議だ。

・常日頃からインターネットを破壊したいと考えているので、いま自分は理想とする世界の一端に触れているのかもしれないと思うと、清々しささえ感じる。

・しかし違うのだ。能動的な情報交換が封じられただけでTwitterの向こう側には明確に人が存在していることが節々から実感できてしまう。自分の死は世界の死と同義ではないのかもしれないと思った。


・インターネットを利用しているときに浮かぶ感想の、おおよそ7割くらいは「なんだこいつ」でしかない。
相互理解の重要性だとか歩み寄りを怠っているだとか、そういうコミュニケーション論の領域ではなく、もっと前の段階で「なんだこいつ」にまず着地する。

・この「なんだこいつ」を払拭して、日常生活で人と対峙するときと同じようにしてみるとどうだろう。
例えば、先入観を排して相手に興味を持って近づいてみるといったような、そういうことをしはじめてしまうと、自分にとってのインターネットは更にもう一段階深い奈落へと落下するという確信があるので、やらないほうが良いなと思う。

・勘違いしてはならないのは、インターネットはあくまで現実世界の延長にあるものである。
だから、上述したような「日常生活で人と対峙するときと同じようにする」ことは非常に大事な基本用法の一つだ。現実でしちゃいけないことはインターネットでもしちゃいけないと教科書にも書いてある。

・ただ難しいことに、そもそも「人と対峙する」こと自体のスケールが、インターネットと現実世界ではまるで違うため、並列で考えることはできない。

・人との対峙は、社会的な必要性に駆られたときに初めて実現する。他者への関心は持たされるものではなく持つものだ。
しかしインターネットでは頼んでもいないのに、関心のない人が発する関心のない意見が視界に入るよう仕組みとして出来てしまっている。そういうふうにできている。

・極端な話、電車内で乗り合わせた全く知らん人が知らんことをでかい声でひとりで延々と喋っていたとしたら
なるほどこのお方はもしかすると"いっぱいいっぱい"になってしまっていて、多少イレギュラーなところにいるのかもしれぬなと瞬時に推し量り、その存在を何の気なしにシャットアウトするだろうと少なくとも自分は思う。

・いまのインターネットには現実世界よりもよっぽど、人間由来の生々しさが充満している。そこに取り合ったときに生まれるのは、際限のない余計な摩耗だけである。

・先程の言葉を借りるのであれば、人間はそういうふうにできていない。
仲良く平和であるためにこそ仲良くしない、という線引きが現実世界では道理として無意識に行われているはずなのだ。

・そう言って矢口は、ナミブ砂漠で水を飲む獣を眺めに、また電子の海へ帰っていったのである。
彼もまた、インターネットに取り込まれた不幸な人間なのかもしれない……。

  終
制作・著作
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https://youtu.be/ydYDqZQpim8


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