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これから注目されるであろう副業をきっかけとした「官民人財の還流」による地方創生の可能性。

今回気になった記事はこちら。

いずれも自治体が力を入れていきたい事業に、企業で働く外部人材に副業的にかかわってもらう取り組みです。

「大人の地域未来留学」はレンタル移籍という扱いであり、1年間の期限付き出向。

高校魅力化を図る自治体へと派遣し、高校教育を取り巻く地域課題の解決を包括的に取り組んでいくのがミッション。

これまで特定非営利活動法人クロスフィールズが企業で働く人材をNPO、NGOに留職という形で派遣していましたが、そちらに近い形でしょうか。

第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略でも自治体と高校教育との協働の重要性が指摘され、高校の統廃合が及ぼす自治体の将来的な人口と歳入への影響も明らかになっています。

18歳人口の流出率、20-30代のUIターンも地域では課題になっていますが、地方創生の観点から高校教育に関わっていくことは自治体経営において重点課題となり得るでしょう。

そういった意味で、高校教育を核とした地方創生を考える地域にとっては大きな一手になるのではないでしょうか。

長野県の取り組みは民間から副業・兼業人材を募集するという動きです。

副業解禁をしている自治体では、過去に生駒市がプロフェッショナル人材の募集をし大きな反響がありましたが、今回それに近い形です。

自治体の外部への仕事の出し方を見ると、情報発信や広報的な取り組みの多くはプロポーザルを行い、誰とやるかではなく実績や知名度のある企業に発注してたことが多いように思います。

今回の長野県の取り組みは、その点で言うと会社ではなく顔が見える個人と契約を結び委託するというのは一歩進んだ動きと言えそうです。

長野県然り、一部の県市町村では自治体職員の副業解禁を制度化として設けていますが、こうした自治体では注力事業のパートナーとして民間から副業・兼業人材を募集する動きも出はじめています。

これらの動きを俯瞰し、今後主流になっていくであろう副業による「官民人財の還流」とその可能性について考えていきます。


官民双方に副業・兼業・パラレルキャリアは加速する

コロナ禍で価値観や働き方の意識に変化が起こっているようです。

内閣府の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を見てみましょう。

定点観測的に調査を行われていますが、これまでの調査結果を俯瞰してみると、

・ワークライフバランスの意識がよりライフ寄りに変化している
・元々リモートワークをしていた人はよりライフ寄りの価値観に
・20-30代は副業や転職を検討し、実際に始めた人が増加
・首都圏在住の若者は地方への関心が高まり、「転職なき移住」「複数拠点」も視野に

などの傾向が見えてきました。もちろん、これらは個人差も考えられるので、あくまで大まかに捉えた傾向です。

副業自体はコロナ前からも様々なサービスが提供されており今に始まった話ではないですが、長引くコロナ禍の影響は収入を求めた副業けだけでなく、今後のキャリアを考えるための複業(パラレルキャリア)の動機にもなっているのではないでしょうか。

首都圏の方でいえばリモートワークができる環境であれば、機会があれば地域の案件に関わってみたいという方は一定数いそうです。
それが故郷や縁のある地域だったら、その意欲は高まるでしょう。

リクルートキャリアが公開した兼業・副業に関する動向調査(2020)によると、20-30代の副業意向高いだけでなく、回答者の76.6%が異なる地域での兼業・副業に興味があり、兼業・副業自体への興味に加えて地方創生や自分と関わりがある地域の貢献に一定の関心があることが明らかになっています。

また、データはありませんがこうした傾向は民間だけでなく、公務員として働く方のキャリア形成においても少なからず影響があったのではないかと予想します。

それは転職に至らずとも、自分の生き方についても真剣に考えてみたい。複業・兼業・パラレルキャリアに興味を持ちはじめた人の割合です。

2020年12月、山形県の自治体職員で構成される「公務員SHIFTプロジェクト」の皆さんにお呼びいただき、公務員のパラレルキャリアに関する勉強会の講師を務めました。

その際、実態を把握するべく県内自治体職員を対象に「山形県内における公務員のパラレルキャリア(兼業)への意識に関するアンケート調査」を実施。

156件の回答が集まり、58.3%が現在の業務以外に何らかの活動を行っていると回答。まだやっていない人も含め「公務以外にも第2、第3の活動がしたい」と回答した方は71.8%にものぼりました。

※調査結果のレポートは以下よりダウンロードできます
https://www.idea-ps.com/post/information-20210306

この結果が山形県のみでいえる特長と断言するのはさすがに無理があるように思います。多少の差はあれど他県でも近い傾向が出ると見る方が妥当です。

コロナ前との比較がないのであくまで予想の範疇を超えませんが、人生100年時代を迎え、公務員一本だけでキャリアを考えている人の方がもはや少数派なのかもしれません。

金銭報酬が伴う副業(サイドビジネス)は制度として認められていなくとも、自らの人生の選択肢を拡げ、自己実現を目的に業務外の活動をはじめる。
サードプレイス的にNPOや地域コミュニティに所属するというのは、実際に行動に移すかどうかは別として、選択肢として市民権を得てきているのではないでしょうか。

私の周りにも公務員でありながら型にはまらず活動している人が徐々に増えていますが、皆さんの周りはいかがでしょうか。

さて。ここで話を整理します。

副業解禁以降、民→民の副業は様々なマッチングサービスもあり盛んに行われるようになりました。その傾向は20-30代に顕著で、民間人材サービスの調査を見ても意向だけでなく年々実施している人が増えています。

近年はこのトレンドに加えて、収入以外の目的で行われる民→官の自治体のパブリックな副業・兼業官→民のパラレルキャリア的な複業・兼業のケースが増えており、コロナ禍がその動きを加速させたと見ています。

互いの境界を行き来する動き…これは本業では得難い経験を積む越境学習であり、受け入れ側にとっても外部人材との協働は大きな刺激となり、人財開発・組織開発の機会にもなります。

官民多様な人が副業をきっかけに境界を越え、地域を廻るように行き来をし組織や地域が活性化していく...これが「官民人財の還流」による地方創生のイメージです。

この流れはどのようにして生み出していくのでしょうか。いくつかの自治体やNPOと事業を行ってきた経験から少しポイントをまとめてみます。


ポイント①かかわり白となるプロジェクト

従来の副業であれば自分の提供できるスキルと求められるスキルが合致すること、その報酬額が判断基準になっていました。

初期からあるプラットフォームにランサーズやクラウドワークスがありますが、ここではワーカーへ依頼したいタスクと報酬を中心に仕事の受発注が行われてきました。

近年はLoinoSMOUTといった地方に特化したマッチングサービスが出てきており、単純なタスクの依頼ではなく、プロジェクト単位での募集も増えています。

例えば、
「新しくできる○○町の商業施設広報PRをお願いしたい」
「創業60年、自慢の○○をリブランディングし、全国に発信したい」
といったものです。

比較的長期間にわたり、地域の方と深く関わり企画段階から作り上げていく経験はなかなかできるものでありません。

ベンチャー企業ならまだしも、大手企業や自治体で働く若手社会人は上司から任された役割や係をこなすことが多く、自分でイチから企画を立て、関係者と調整をしその実行まで担うという経験はある程度キャリアを積まないとできないものです。

特に副業兼業意向の高い業種でもあるIT業界では、自分の仕事が誰を喜ばせているのか、誰の幸せに繋がっているのかはなかなか見えにくいものではないでしょうか。

そういった意味で自分たちのスキルを活かし、ダイナミックなプロジェクトに参画し直接クライアントワークができるというのは貴重な機会となるでしょう。

文化祭やイベントにも言えますが、完成した場に消費者としてただ参加するよりも、出来上がる過程(プロセス)に参加し、一緒に企み、作り上げていく共犯者的体験の方が人はより面白さを感じるものです。

誰にでもできそうなタスクではなく、特定の誰かに刺さるようなプロジェクトを生成すること。

そして完成前のプロセスから関わってもらえる「かかわり白」をつくれるかが一つめのポイントです。

ポイント②報酬よりもやりがい・社会的意義

やりたいと思えるプロジェクトに必要な要素も、人が何を求めているかを読み解くと見えてきます。

先日、首都圏と地域の副業案件をマッチングするサービスの運営者と打ち合わせした際にも「報酬額が割のいいECサイトの構築などの案件を出しても応募は少ないが、やりがいや社会的意義を感じさせるおもしろそうと思える案件だと報酬に関わらず多数の応募がある」と語っていました。

金銭報酬目当ての一度きりの関係を望んでいる人は金額の多少で反応しますが、継続的な関係を望んでいる人は金銭的価値には換算できないやりがいや意義を求めて選んでいると考えます。
これは金銭報酬が得難い公務員の皆さんならその傾向は特に強いと思います。

先ほどの調査結果でもあった、地域での副業・兼業に関心があり、地方創生や自分と関わりがある地域の貢献に一定の関心があるという層も、まさに継続的な関係を望んでいると言っても過言ではなさそうです。

肌感ですが、お金だけで選ぶ層よりもやりがいや意義で選ぶ層の方が仕事上で高いパフォーマンスを発揮しており、なおかつ忙しい人が多そうな感じがします。

やりがいや意義を伝える上で大事になってくるのは、外部から人材を求めるプロジェクトオーナーたちの思いの強さやビジョンの解像度、当事者意識です。

やりがいや意義で選ぶ忙しい方々が、自分の仕事を調整してでもかかわりたい、つい申し込んでしまったとなるようなプロジェクトになっているでしょうか。

「これは自分がやるべきプロジェクトだ」と思わせるような、目を引く文章や写真になっているでしょうか。

もちろん優秀な方を呼び込むためには報酬の額は高いことに越したことはありません。しかし報酬が安いからといって選ばれないわけでもありません。

そのプロジェクトは、外部の方の力を借りてでも成功させたい、実現させたい想いが乗っているものかをどうかを振り返ってみるといいですね。

ポイント③迎え入れるべき人物像

想いを打ち出したことでたくさんの応募があったとします。嬉しい悲鳴です。

この時どういう視点でかかわってくれる人を選べばいいか一定の基準がないと、職歴や資格などの経歴で選んでしまいそうですが、素晴らしい経歴を持っている人が自分たちのプロジェクトに適しているかどうかはまた別の問題です。

色んな視点がありますが、私は「人を巻き込める人」「ビジョンをともに描ける人」が入ると上手くいくのではないかと思っています。

「人を巻き込める人」
自分たちがやろうとしていることを発信し、多様な他者をプロジェクトに巻き込める人。依頼や調整のやり方がうまかったり、想いを表出し賛同や共感を集められる才覚。
内部においても活動中プロジェクトメンバーの思いが移ろっていくなかで、対話を欠かさずチームのなかでの求心力を発揮する。
「ビジョンをともに描ける人」
プロジェクトオーナーが描いているビジョンに共感するも鵜吞みにせず自分の色を発揮し、時にビジョンを更新できる人。自分事になって考えてビジョンを語ることができ、任されたことをやるだけではなく、進捗を見ながら本来の目的などに立ち返ったり、理想と現実を見ながら妥協点を模索したり目標の再設定ができる人。

間違っても「人を巻き込める」=SNSのフォロワーが多いインフルエンサー、「ビジョンをともに描ける人」=もっともらしい意見を言うだけのアドバイザーではありませんのでご注意ください。

端的に言えば、人とまっすぐ向き合う勇気や愛情を持ち合わせ、外部人材ながらも自分事で相手のことを相手以上に想える人間的魅力を持った人って感じでしょうか。なかなかいないレアキャラではありますが。

プロジェクトの内容や目的によってはスキルや経験が求められるケースもありますが、スキル不足は他の手段で補うことができても、人間性や人格は代えがたいもの。

長く続くプロジェクト、地道でも成果がでているプロジェクトには、そんな人が裏側にいるように思います。

ポイント④〇を中心に考える

ここまで読んでいただいた方はもう察しているとも思いますが、最後はやっぱり”人を中心に考える”です。

観光、移住政策、産業のPR、地域づくり、DX等々地域には民間・行政ともにたくさんの課題がありますが、これらを扱う際には大抵数字や実績など表面的で分かりやすく客観的なものさしで語られがちです。

エビデンスに基づく政策、EBPMの重要性なども昨今語られますが、その数字や根拠に迫るなかで裏にある一人ひとりの人間が持つ人生や物語を軽視していないかと危惧しています。

移住政策で年〇名を県に増やすといった数値目標。
学力テストで全国平均よりも高い〇点を目指す学力目標。
海外への出荷額を昨対比○%と増加させるという輸出目標。
県外海外からの観光客を年〇万人誘致する観光目標。
20代の若者の地元就職率を〇%改善する就業率目標

これらのような数値目標を持つということは大事です。まったく否定するつもりもありません。

ですが、その数字の対象となる人、一人ひとりは血の通った人間であり物語があります

数字は私たち人間が作り出した発明品ですが、その一番の特徴は誰が見ても同じであり、見る人の知識や主観に左右されずに判断することができるという普遍性です。

しかし、すべてを数値化しエビデンスを取ることが果たして可能なのでしょうか。
数字が独り歩きし、数字を達成するための帳尻合わせが起こり、数値目標は達成しているのにも関わらず誰も喜んでいない、幸せになっていないということはこれまでなかったでしょうか。

移住者、学生、職人、観光客、就活生にも一人ひとりドラマがあります。

そこに思いを馳せることなくことが進んでいくと、事業や政策は無味乾燥なものと成りかねません。これは民間・行政のどちらが主体であれ言えることです。

時折そうした当事者の声を聴くことを軽んじたり、サボっている案件を見かけますがとても残念に思います。

地域の手つかずの自然を金銭価値で換算なんてできません。

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かかわる人たちの思い、かかわってきてくれる人の思いも数値化したら、たちまち陳腐化するのは火を見るよりも明らか。

数字に人が踊らされるのではなく、人の想いのために、時には非効率、非合理的、経済合理性を度外視するということも判断として必要ではないでしょうか。

目標は数値で立てても、目的は見失わない。数値に目的を奪われない。

誰がどんな思いで立ち上げるのか。
外部の人にはどんな思いで関わってもらいたいのか。
そして誰の笑顔を実現するのか。


プロジェクトを生成するときは、人を中心において考える。

解決したい問題があったとしても、きっとそれは問題を取り除くことが目的ではないはず。

その先にいる人たちのことを忘れずにいたいものです。

とはいえ、想い先行のケースもあるあるなので、何事もバランスが大事ですが。

数多あるnoteのなか、お読みいただきありがとうございました。いただいたご支援を糧に、皆さんの生き方や働き方を見直すヒントになるような記事を書いていきたいと思います。