人間の多面性と燃え尽き

先日WHOによる疾患分類であるICD-10が更新され、新しいバージョンであるICD-11では燃え尽き症候群に関する記載がより多くなり、引き続き”病気”としては認定されないものの”職業に関連する現象”としてより詳しい記載になっている。

その中でも”Burn-out refers specifically to phenomena in the occupational context and should not be applied to describe experiences in other areas of life.”とあるように、仕事環境において特異的に症状が出るものの、仕事を離れた環境ではその症状は必ずしも現れず、生活の全面的な側面において困難を伴うようになるいわゆる内因性うつ病・大うつとは異なる状態だと考えられている。

鬱で休職中の何々さんが映画を見に行っていた・テニスしていた、仮病に違いない、と職場の人がヒソヒソ話しているのがどのように間違っているかというのはこの点における誤解である。

興味があるひとは当連載の燃え尽き症候群のシリーズを参照してほしいが、燃え尽き症候群が大きな社会的問題として日々取り上げられている欧米に比べると日本ではまだあまり周知されていないのが現状であろう。

話は変わるが、最近30代から50代くらいまでの人で、長年頑張って自分の専門分野で仕事をしてきたが徐々に精神を病むようになって退職ししばし休息の後に再び就職活動を行うものの以前の分野に戻ることに大変な精神的負担を感じる一方、だからと言って他に同じくらいできることもなく、いろんなことを試してみるもそれで生きていくのもなかなか難しいと悩ましい状況に陥っている人たちと何人にか話す機会があった。

身を粉にして働き燃え尽きてしまうまでに至った職場・分野にもう一度戻ることに大きな精神的負担を感じ感情の拒否反応を感じる一方、少しかじったりしていた興味のある分野を色々と勉強したりしてそれで新たな人生を探ろうと思っても中々受け入れてもらえるところもなく、結局自分には何ができるのか、と途方にくれている状態である人が多い。

このような精神的なスタックの状態(ドツボにハマる、という人もいる)はどのような状態なのであろう。少し精神的な側面から考察してみた。

ここから先は

2,261字
この記事のみ ¥ 300