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語学留学とバックパッカー/新規事業の2つのタイプ


ミッションに関する混乱

企業で新規事業をやっている方はこういう経験はありませんか?


・自社でやる意義(なぜ勝てるのか?その事業をやる意味はなにか?)を問われ3C分析とかやる。

・一方で、独立してもやっていけるくらいの事業じゃないとだめだ、既存のものに頼るな、と言われる。


自分の企画に自信があるうちは「こんな色々言われるなら自分で起業した方がましだわ!」と思うこともあるでしょうし、逆に「いや会社のためにやってんのに頼るなとか意味不明だし!」と思うこともあるでしょう。しかしこういうダブル・バインドな状況がなぜおこるのでしょうか?

私は新規事業には大きく分けると2つあると思っています。「アセット型」と「ノンアセット型」です。(正確には企業である以上ノンアセットということはありえないのですがわかりやすさのため単純化します)

【アセット型】
企業のアセットを使いまくってそれをレバーに大きな新規事業を立ち上げる

【ノンアセット型】
企業のアセットを使わずリーンメソッドで立ち上げる

どちらがいいというのではなく、メリデメあるのですが、どちらのタイプの新規事業をするのか、実はマネジメントレベルで腹を決めておかないと混乱が生じて成功確率が下がってしまう、というのが過去の経験で感じていることです。


同じ新規のチャレンジでも、アセット型は高所得家庭の語学留学のようなものです。計画的で、お金の心配はなく、安全だが監視や制約はある。

対するノンアセット型はバックパック旅行のようなものです。行き先も未定、保証はなく、危険もあるが自由な”自分探し”。

どちらがいいというのでもありません。「洗練されたグローバル」に触れることとリアルな自分探し、どちらが得るものが大きいかはケースバイケースです。

ただ、方向が違うので準備の仕方は全く違います。これを混同してはいけません。留学のためには親と相談して渡航費用を得、受験の準備と生活の計画をし、ステイ先を手配する必要があります。逆にバックパッカーは計画を立てず、荷物をどうやって”最低限”にするかを考えるでしょう。リュック一つで入学先も決まらずに留学はできませんし、スーツケースを5つかかえてバックパッカーは出来ません。


アセット型ミッションの罠:乗客のいない豪華客船

大企業における新規事業はアセット型が圧倒的に多いと思います。そしてその担当者は↓のような経験があるのではないでしょうか。

・ユーザー規模が”大きくなるように”ニーズ調査資料を作る
・自サービスに”優位性があるように”競合比較する
・他の自社サービスとの"シナジー"を書き連ねる

アセット型のメリットはもちろん、顧客ベース、ブランド、金、そういうものをふんだんに使えるところです。ひとことで言うと大きく始められる。しかし逆にアセットをつかうことでそこにロックされてしまうデメリットもあります。depend onするのでindependentではなくなるわけです。

大きな顧客ベースやブランドを使えることはメリットですが、一方でそれを毀損するリスクを避けなければなりません。リーガルリスクだけではなく、レピュテーションリスクがある、とか言われどんどん尖ったことがやれなくなっていく。

一番大きなデメリットは、重くなり遅くなることです。アセットを使うために関係者がどんどん増えていく。社内に理解を得るための内向きの稼働が増えていきます。先ほどの”新規事業あるある”はこのためにされます。社内を説得するため「やる意味」を作らければならない。そしてその度に頂く「ありがたいアドバイス」を聞きながら機能が増え、開発規模はかさみ、システムは大規模になる。

アセット型のありがちなパターンは、
・尖りのない、全方位的なサービスを大きな投資で作る
というものです。大きい投資をかけた割に、①ニーズ起点ではなく増えた機能により尖りがないのでニーズを捉えられない、②ロンチが遅く時期を逃す、③システムが大きいので容易にピボット出来ない、という非効率を抱えることになります。大企業新規あるあるです。

アセット型の事業が大規模になるのは重力によるものです。アセットに頼ることの宿命なのですが、既存事業と”規模”を比較され大きさを求められ、(社内のメインストリームである)既存事業側のアドバイスや論理を聞かざるをえないのです。重力は大きい星の方が強く、重力圏を抜けるのが難しくなります。

結果として多くの場合、大企業の新規事業は、豪華客船での船出を求められます。様々なエンタメ設備をもち、防災システムと救助ボートをいくつも詰んで、計画された渡航ルートで船出するのです。不幸にして、船は大きいが乗客ががら空きということが割と起こります。でももう船を小さくすることは出来ませんし、ルートを変えるのも容易ではありません。できることといえば少しでも宣伝して乗客を増やそうとすることくらいです。しかしそれにもまたお金がかかります。

誤解のないように言っておきますが、アセット型が悪いといっているのではありません。アセットがきちんと強みになり、大成功をおさめることは沢山あります。アセット型成功のポイントは私見では、トップ・マネジメントのコミットと参入しようとする産業の成熟フェーズ・参入タイミングだと思っています。また旧来型産業、重厚長大産業ほどアセット型は有利ですし、だからこそこれまでは3Cなどのフレームワーク分析に頼られてきたわけです。この辺のお話は第6回くらいにしたいと思っています。でも第3回くらいで終わったらごめんなさい。

長くなったので、ノンアセット型のお話は次回に。


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