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【ボイドラ・シチュボ】 編集で気にした方がいいこと


こんにちは。
け〜くんです。

先日、声優・ボイスコさん向けに書いた記事でたくさんの反応をいただけました。
読んでくださった方々、また、記事を購入してくださった方々、ありがとうございます。
たくさんありがたいお言葉もいただいたおかげで、今回の記事を書く原動力にもなりました。
本当にありがとうございます。


さて、今回は主に編集者さん向けの内容になっていきます。
私が普段どういうことを意識して音声編集をしているのか、作品を聴いた際に「もっとこうしていたらいいのに」と思うことを書いていきたいと思います。

2016年頃から音声編集に携わるようになったので、あまり歴としては長くありませんが、それまでMix等で培ってきた技術を織り交ぜながら、高品質なものに仕上げられていると思っていますので、これから音声編集をされる方や、今もバリバリ活躍されている方にも情報共有として、今回の記事が役に立てばいいなと思います。
ある程度ソフトのことや用語が分かる前提で書くので、分からない単語は適宜調べてもらえればと思います。

3部作にする予定でしたが、今回の記事でアンケートの上2つの内容をまとめた内容になります。


リファレンスを持とう

多分創作する上で1番大事かも。
Mixについて調べたりする人なら腐るほど見かけたワードだと思います。
皆さんは作品ができたと思ったら、最後にチェックとかすると思いますが、その時に何をもってしてOKとしていますか?
例えば、車のスピーカーで聴いていい感じだったらOK、ラジカセで聴いていい感じだったらOK、ウォークマンで聴いていい感じなら、とかとか。
色んな判断の仕方があると思いますが、その時にジャッジしてくれる「神様」を持つということです。
上記は、音源チェックに使う"再生機器"としてのリファレンスでした。
声のバランス・質感、BGMの大きさ、SEの大きさなど、どういう音の方向性で仕上げていくかの指標としては、何か"別の作品"をリファレンスとして使用し、今回はこちらの話の比重が大きく、取り入れてほしい内容になっています。
編集時なんて、ずっっっっっと音源と向き合っていて、何が正解なのか分からなくなるのが当然だと思います。
迷子にならないために、自分が目指す場所を見失わないようにするためのリファレンスです。
足音をどのぐらいの場所に置くのか、声はどのぐらいの位置なのか、SEの音量・位置はどれぐらいか、パンは最大どこまで振っていいのか、など、作品として違和感が出ないようにするためには、何かしら別の指標を持っていた方がいいです。
自分が聴いてきた中で、一番心地がよかった作品を指標とするといいでしょう。
アニメでもいいし、ボイスドラマでもいいし、シチュエーションボイスでも、あるいは映画でもいいでしょう。
理想的なのは、今作っているジャンルに似ていて、プロが作っている、一番見聴き慣れたものがいいです。
こういうことを言ってしまうと怒られるかもしれませんが、私は普段、ボイスドラマやシチュエーションボイスをほとんど聴きませんので、そういう作品に対してのストックが全然ありません。
そんな私の場合はアニメをリファレンスとしてよく使用します。
別の記事でも書いたのですが、呪術廻戦はめちゃくちゃ音よかったと感じました。
ある作品っぽい音にしたいなと思ったら、制作会社やMAスタジオの機材を調べて、それに近いプラグインとかで雰囲気を真似たりもできるので、そういう意味でもリファレンスは非常に役に立ちます。
作品をそれに近づけろと言っているのではなくて、あくまでバランス感覚を失わないために、耳をリセットしてくれるものだと思ってください。
自分の作品のオリジナリティが失われるんじゃないかと心配になっている人もいるかと思いますが、一ミリも心配しなくていいです。どうせ似ないので。
夜通し作業して、次の日聴いたら相当ひどかった、という経験は皆さんあるかと思いますので、そういうのを回避するためにも、自分の中の「神様」を何か設定してみてください。

いい音でモニターしよう

なんと言ってもこれでしょう。
ここで言う「いい音」は、心地のよい音とは少し違います。
色んな人に作品を聴いてもらうにあたって、バランスよく音を組み立てる必要があります。
そのためには、いわゆるモニター的な、ローからハイまでフラットで、比較的解像度の高い音を聴きながら作る必要があります。
現代では、リスナーの多くがiPhone + AirPodsで作品を聴いているようです。
だからと言って、その環境で作っていくのは少し違います。
ハイエンドな環境で聴く人も居れば、車で聴く人、スマホのスピーカー、テレビスピーカーなど、聴く人によって環境が異なります。
自分のリファレンス再生機器の音が脳の奥まで染み付いていて、他の機器で聴いた時に脳内補完が可能な人はどんな環境で作ってもいいと思います。例えばNS-10Mと900STを擬似召喚できる人とか。
人間の知覚はかなりいい加減です。
そのいい加減さを道具で補完していきましょう。
録音編では「部屋にお金をかけろ」と言いましたが、編集を行う人は「モニター環境にお金をかけろ」になります。
スピーカーで編集する人は、部屋+IF+スピーカーになるので、かなりお金がかかるかと思います。(多分300万は軽く超える)
対してヘッドホンは、部屋の影響をかなり無視できるので、万人に平等と言え、比較的安価なのでおすすめできます。
IFは一回買えば、よっぽどな使い方をしない限り10年以上は壊れないだろうし、ヘッドホンも大事に使えば5年は使えるはずです。
私はAKGのヘッドホンを10年前に買いましたが、未だにちゃんと鳴ります。
100人が聴いて100人が心地よい音を目指すのは到底難しいと思いますが、一人でも多くの人に「いい作品だった」と思ってもらえる大きな要素になってくるので、是非モニター環境を見つめ直してみてください。


ゲインを揃えよう

基本中の基本です。
登場人物が一人のボイスドラマやシチュエーションボイスならあんまり気にしなくていいです。
ここで言うゲインは、エフェクト等を通す前の段階のことを言います。
波形を見ながらピークだけあてにして揃えていっても、ローミッドがあまり録れていない素材だと他よりも小さく聴こえたり、逆にバランスよく録れているものは大きく聴こえたりしますよね。
その人の声量だったり、マイクとの距離でも音量感が変わってきます。
私は、まず一番最初に触るのが音量です。
RXのゲインモジュールで下げてもいいし、DAWのクリップゲインで下げてもいいでしょう。
下げると言っているのは、基本的に大きくしたいと思ったことがないからなのと、上げていくとオークションのように他も全部上げたくなってしまう現象に陥ってしまうはずなので、こういう書き方をしています。
そんなに大きな音量は必要ありません。

そしてDAWに並べたら、タイミングを調整しながらストーリーを組んでいくのですが、基準となる音量(人)を決めて、とにかく前後で音量差がおかしくないように調整していきます。
この時点では、事細かにオートメーションを書くわけではなく、そのフレーズごとの音量を聴きながら、適宜クリップゲインを使って調整しています。
あまりにもダイナミックな録り方をしていない限り、最初に決めた音量で概ね最後までいけると思います。
とにかく前後、前後で違和感がないようにしていけば、トータルで聞いた時にも違和感が少ないはずです。

これをしておかないと、あとからエフェクトを適用していくときに大変です。
というより、これをやって初めてエフェクトを掛けられると思った方がいいです。
Mixでもそうですが、基本はフェーダーとパンで完璧に調整した上で、いまいちなところをエフェクトで良くしていきます。
安易にコンプをしていくのではなく、まずはゲインの調整からスタートしてみてください。

ゲイン調整の基本として、複数人が喋ってSEやBGMが付いているパートでも、マスターのボリュームが赤を点かない(クリップしない)音量で揃えましょう。
もっと言うと、ピーク-12〜-8dbFSぐらいでちょうどいいと思います。
もし、この手法で、音が小さすぎると感じる方はモニターの音量を見直した方がいいです。


距離感を揃えよう

これも基本です。
一般的な設定のドラマやシチュボだと、同じ空間で人が喋っているシーンがメインだと思います。
リスナーは音だけを頼りに風景を想像します。
その時に、イメージを掴んでもらいやすくするためにも、距離感の演出は大事です。
ただ、ゲイン調整をしっかりやれば、ある程度までは揃います。
ここで初めてエフェクトを使って調整していきます。
声の質感調整と同時でやっているので、それも兼ねた方法にはなってしまいますが、EQで中低域を触ることが多いです。
ちょっと近いなと思う素材に対してはローをシェルフでカットしたり、遠いと感じればハイを落とすかローを足します。
あとは、部屋鳴りがすごければそれを除去します。
やってはいけないのが、とりあえずのローカット(ハイパス)です。
現代の制作において、ローカットの出番はほとんどないと思っていいです。
オートゲイン付きのEQじゃなければ、単純に音量が減るというのもありますが、エネルギーが足りなすぎてBGMやSEに負けて、音量をかなり大きくしたくなります。
そうすると、どんどんバランスが崩れていって泥沼化します。
地鳴りがしている素材の対処で使用するなら分かりますが、大体の場合でハイパスは封印してください。

あと、距離感調整でよくやるのが、トランジェントを操作します。
カ行やタ行が激しく録れている場合などは、そのフレーズだけ不自然に飛び出して、近くで鳴っているように聞こえます。
トランジェントを触れるプラグインを使って調整して、コンプで突っかからないようにすると、いい結果になることが多いです。

正直、ゲインや距離感の揃え方に関しては、音響工学の本を読んだ方が一番身につくと思います。
学術書にはなりますが、音とはなんぞやというところから基礎を学べて、なるほどぉ・・・ってなることが多いです。
私は1/3ぐらいしか理解できませんでしたけどネ(爆)

特にアフィとかではないので踏んでも大丈夫です。


質感を揃えよう

はっきり言って難しいし、完璧に揃えるのは困難です。
宅録素材という性質上、各々で使用している機材が違うし、マイキングも違います。
ツヤっとしてる人、パキっとしている人、ジャリっとしている人など、マイクやIF・プリアンプで左右される部分が9割です。
同一設定のアナログモデリングプラグインを全員分適用したからと言って、同じ質感にはなりません。
非常に難しいです。
これは本当に回数や研究を重ねて、リファレンスを聴き込んで、こういう素材に対しては、こういう処理をすればこういう音になるな、というのを身につけるしかないと思っています。
音声編集を初めたばかりの頃は、その時の素材で、中間ぐらいの音質の人に特性を合わせるようなやり方をしていました。
線が細めの素材に対して、太めの特性に合わせていくのは困難だと思うので、中間ぐらいの人に合わせていくところから始めるとやりやすいかと思います。
トライアンドエラーで、あなたなりの音の型を見つけてみてください。


空間を揃えよう

距離感調整と近いかもしれません。
上の手順を踏めば大体は同じ空間にいるように聞こえるはずですが、もうひと工夫で、更にリアルに仕上げられることができます。
私の場合、リバーブ使って調整します。
部屋に居る設定なら、Pre delay 2ms以下、Time 0.5sぐらいの短いリバーブでEarly reflectionを多めに設定したりすると割と部屋っぽくなります。
リバーブのプリセットで、Roomみたいなのがあれば、合いそうなものを使ってみてください。
センドで-40db以下ぐらい送って薄めにかけることが多いです。
かけすぎは変にしかならないので、音の確認の時だけ大きくしておいて、音が決まったらガッと減らして適用してみてください。
外の空間にいる場合は、Pre Delay 0ms、Time 3.0sとかの長めの設定で、Early reflectionをナシにできるならナシ、テイルをいじれるならテイルを大きく聞こえるような設定にすると割と外っぽいような気がします。数字は適当です。
Diffusionとかのプリセットがあれば、それをいじって使うのもいいかもしれません。

私が音声作品を聴いてよく思うのが、ゼロ距離で声が鳴りすぎだということです。
第三者目線で進行しているシーンのはずなのに、耳を殴りに来ている音声があると「そうはならんやろ」となってしまい、物語に集中できなくなってしまいます。
これはゲイン調整の項と複合で行うことで回避できるはずなので、ちょうどいい場所を見つけてみてください。
内容を理解してもらいながら、いい音で聴いてもらうためには、こういう細かい地味な調整が大事です。


実際のプラグインの使用例

ここまでは基本的な調整の内容でした。
ここから先は、実際に私がどういうプラグインを、どんな設定で使用しているかを交えて紹介していきます。
最初に言っておきますが、RXは殿堂入りなので除外です笑
それ以外の有用なプラグインを紹介するので、新しいツールと出会いたい人や、制作に躓いている人は見てみてください。
マイナーなものは使っていないので、ある程度ツールを集めている人には物足りないかもしれません。


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