【BIRTHDAY】すべての境目が曖昧に溶けていく、それって究極の原点回帰なの?

ふせったーに投稿した感想の移植です。

公演名:舞台『BIRTHDAY』
公演期間:20191127-1201
公演会場: こくみん共済 coop ホール(全労済ホール)/スペース・ゼロ

投稿日:20191205

舞台BIRTHDAYを見て思ったこと
演出家の頭の中はどうなってるんだよ

精子が数億から最後の一体に選別される過程に託して描かれた、「いのちのもと」あるいは「いのち未満」「人間以前」たちのお話。 
この一番表層的なお話を透かして、色んなテーマが見えてくる作品だった 
精子の話でもあり、役者が芸能界で生き残る話でもあり、人間がただ誰かから、何かから選ばれたくてもがく話でもあり… 
人間誰しもに当てはまる普遍的な話でありながら、一方でもしかしたら、平野良の私小説的な側面もあったかもしれず… 
具体的な方向にも抽象的な方向にも簡単にスライド可能なお話だった 

あまりにも簡単に滑らかにスライド可能だから、平野さんはそれぞれの話の間に区切れ目や段差を持ってないのでは?平野良の中に「メタ」の概念はあるのかな?って思った 
ある次元の話に突然別次元の概念がぶっ込まれるような、いわゆるメタな表現がたくさんあったと思う キャスティングからして役と役者のリンクを連想させてきてるし、観客へのわざとらしい説明台詞、役者がメインの役を抜け出して黒子になったり、役のいる世界を小さな瓶に見立てたり… 
繰り返される次元の垣根を無視した表現は「全部同時に見ていいんだよ」と観客に言っているように感じた もしかして平野さんは「メタ」を「メタ」として見ていない、飛び越えるべき次元の垣根が平野さんの中に存在してなくて、全部同じ地平で捉えてるのかなって 
同じ場所に全部の話が存在していて、その時どきで浮かび上がってくる話が違うだけ、みたいな(パラレルワールド…) 
(物事の見方に独特のところがある人だと思ってるからものすごい疑いを抱いてしまう) 

そんなだから、重層構造になっている作品だったけど、層が「重なってる」というより「溶け合ってる」と言いたいお話だった 

境目の溶け合い、と言えば、白と黒の入れ替わりにもそれを感じた 
だんだん脱落側、黒子側が増えていく構図好きだったな 
白と黒、光と陰、メジャーとマイナー、勝者と敗者、生と死、逃げる者と追う者、当事者と野次馬、演者と観客、主役とその他、キャストと裏方、 
全部地続きだし、きっかけさえあれば簡単に入れ替わるものなんだなって 

「すべてが曖昧になっていく」を1番感じたのは宮河くん谷さん鷲尾さんの3人で語らうシーン とても美しかった 作品通してここが1番好きだったかもしれない 

すべての境目が曖昧になる感覚 
どこでもない場所、どこでもないどこか 
青い照明にオレンジのライト 
焚き火を囲んでいるようにも、居酒屋の裸電球を囲んでいるようにも、夜明け前の色彩にも見えた 優しい照明だった 
夜と朝の溶け合いが始まるその少し前 

千秋楽でのここの宮河くんがとても切なくて 宮河くんは他の役者に比べてまだ棒読みだけど、「せめて棒読みでいないと爆発してしまう」みたいな感情のブレがあった 膝を小刻みにさする手と少し詰まった喉声、「わかんない わかんないよ」の切迫感、その彼に声をかける先輩2人の声の優しさ 加齢も悪くないなと思う瞬間でした わたしも若い人に優しくしよう… 

演出が最高だった 声が聞こえない、からの、音声さんが使う収録用マイク…(ガンマイクって言うんですね) 
声を張るのが当然である舞台において現実に小声で喋らせる(現実に小声で喋ってると観客に思わせる)効果 夜中のひそひそ話みたいな…人に聞かせるためじゃない、自分たちのためだけの会話みたいな…それを「特別に皆さんが聞こえるようにしますね」のポーズを取るための演出だったのかなと 
あと、表舞台に残ろうとあがく人たちに払われる敬意と、同時にその人たちを裏から支える人たちへの敬意の表現 
脱落してからの碕さんの成長を間接的に描いていたこともとても良かった 不覚にも泣けた 人は成長するんだよ 

録る側と録られる側、編集する側とされる側、裏方とキャスト、の対比が良かった 録る側が登場することで生き残り3人の存在がフィクションからノンフィクションにぐっと寄った 
碕さんのあの神聖なまでに厳しい表情見ましたか?厳しい仕事は美しい(明日から真面目に仕事しよ) 
作品全体を通して黒子側への愛を感じた それは誰かに選ばれたくて苦悩する人間や表舞台を捨てて何かに徹する人間、欠落のある人間、失陥のある人間、不完全なすべての人間への優しい眼差し 

3人が椅子に座りながら回転するのもとても良かった 人生のメリーゴーランド… 
あの動きに時間の循環を連想させられた 走馬灯のように瞬く、知らないどこかの誰かの人生… 
不思議と、宮河くん谷さん鷲尾さんの3人が、同じ人の違う時間軸の姿みたいにも見えてきた 



-以下、気になったところの書き散らし- 
谷さんの役めちゃ良かった 「つくってる」「かっこつけてる」役を谷さんに任せるんだなあ…こんな人前に立つ職業の永遠の命題みたいな業を背負わせるなんてさては谷さんのこと好きだな 自意識はあらゆる作品において永遠のテーマ 
山脇さんの なんで俺が落ちなきゃなんねーんだよ!!なんで俺を見てくんねーんだよ!! みたいなセリフも好きだった いちばん好きかもしれない 「選ばれたかった」「誰かのたった一人になりたかった」の叫びが、次のシーンのためにとてもキいてた 
あんなにも「選ばれたかった」感情が描かれてこそ、「何故自分が」の宮河くんの泣きたい気持ちが綺麗に浮かび上がったんだなって 

宮河くんの最後のモノローグ(僕には力も熱い想いもないし云々〜あなたも全部持ってる)、正直蛇足かなあ…ない方が好きかなあ…と思ってたけど千秋楽で印象が180度変わった 
あれのために宮河くんをキャスティングしたんだなと思った あんなものを見れると思わなかった 怖いくらいすごい 

オラキオさんの役はひらのさんにとってのある種の理想が託された役だったんだろうか?理想の大人の男、理想の父性 

真っ先に脱落したオラキオさんが最後の方では脱落者たちの長になり、2番目に脱落した碕さんが責任と自覚のある熟練の先輩に成長してたのが感慨深い 
人が数人集まるともう小さな社会が出来上がるんだね…人は集団の中でしか生きていけないんだな

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