見出し画像

23年マイルCSを振り返る~1人の意思が生んだ9回裏代打逆転サヨナラホームラン~

ヴィクトリアマイル、日本ダービー、天皇賞秋、マイルチャンピオンシップ…

この4Rの共通点をすぐに挙げられる人間は普段から馬場を意識して予想している可能性が高いだろうな。

これがクイズ・ミリオネアであれば、みのもんたがとにかく尺を引き伸ばしてCMに入り、CM明けで小切手が破られる展開だ。

ただそんなことをしていると執筆に6時間は使ってしまう。そこまで尺を引き伸ばしている暇もないから答えを書いてしまうと、この4つのGIはいずれも『コース変わり週のGI』だ。

有名なのはダービーだよな。Cコース変わり週に開催されるこのGIは、コース変わりの影響で内有利になって1枠の馬が好走しやすい

0.1秒を争うこの競技、当然馬場のいいところを走れるかどうかで着順が変わってくる。コース変わりというのは予想において大きなファクターを占めている

実際過去のマイルチャンピオンシップは内有利の年が多い。代表的なところだと18年だろうね。

18年マイルチャンピオンシップ
1着ステルヴィオ
2着ペルシアンナイト
3着アルアイン

先週のエリザベス女王杯で1番→2番→3番で決まり話題になったが、その前に内枠3番以内でワンツースリーだったGIがこれ。こういう露骨なことが起きるのも、この週からCコースに変わる影響があるからだ。

だいぶ昔の話になるが、2010年のエーシンフォワードなんかも懐かしいね。外枠から内に入れて、直線も内目から突き抜けた。Cコース変わり週のマイルチャンピオンシップはこれがある。

ここ3年はこの『マイルCSマジック』が使えなかった。なぜなら阪神開催だったから。京都改修の影響で、ここ3年は阪神で行われていたのだが、スケジュール上11月までAコース、12月はBコースという日程が組まれていた

それが今年から京都に戻って、再度Cコース変わり週がマイルチャンピオンシップ開催週と被ったんだよ。

ところが改修によって変わったことがある。予想にも書いたように、4コーナーの内ラチの角度が変わったのだ。京都の直線入口は内回りとの合流点になる分、どうしてもラチの角度が急だったんだよな。

おかげで外の馬が遠心力によって外に放り投げられる形だったんだ。これが危ないということで、4コーナーのラチの角度が緩やかになった。おかげで以前より外の馬が放り投げられないようになった。

18年マイラーズC 4コーナー
23年マイラーズC 4コーナー

上が改修前で、下が改修後。まだ馬場が荒れていないからみんなラチから離れていないが、改修前のほうが外の馬が外に飛ばされているのが分かるよな。

これで以前のような外の不利が軽減されてきたんだよね。これはマイルチャンピオンシップというレースを考える上で大きな要素になったと言える。

加えて今年はもう一つ考えないといけないところがあった。

11月18日 京都12R芝1600m 1勝クラス
桃 1着⑮テンノメッセージ
黄 2着⑨シルヴァーデューク
橙 3着⑫レオンバローズ

これは土曜の京都12R、マイルチャンピオンシップと同じ京都芝1600m外回りで行われた1勝クラスのパトロールだ。

向正面はまだ内目が走れる状態なんだが、4コーナーから直線にかけて内ラチ沿いがだいぶ使えない状態なのが分かる。今週からコース変わりで通常ならもっと内有利になるものだが、これまで雨の中で開催したりして、内がだいぶ掘れてしまっていた。

実際上位3頭の進路取りを見ると、みんな真ん中から外に行っている。新馬は内が使えたが、かなりのスローだったからね。根本的には外目のほうがいい状態だった。

今年のポイント
1.コース改修で以前より外が膨れない
2.コース変わり週なのに外有利

この状況下で内枠がどうやって競馬するのか、そして外に入った人気馬がどのようなポジションを取りに行くのか、それが今年、戦前のマスクの注目点だった。

マイルチャンピオンシップ 出走馬
白 ①ソウルラッシュ モレイラ
赤 ⑤ジャスティンカフェ 坂井
青 ⑦エルトンバローズ 西村淳
水 ⑧ソーヴァリアント 池添
黄 ⑨シュネルマイスター ルメール
緑 ⑪セリフォス 川田
紺 ⑫レッドモンレーヴ 横山和
紫 ⑬セルバーグ 松山
橙 ⑭バスラットレオン 鮫島駿
桃 ⑯ナミュール 藤岡康

レースを分けるポイントがいきなりやってきた。俺はモニターでこのレースを見ていたんだが、やけに『ガシャン!ガシャン!』と大きな音が入っていたんだよ。

よく見るとシュネルマイスターがゲートの中で暴れていたんだ。元々ゲートの中で立ち上がる悪癖がある馬だが、こんなに暴れるシュネルマイスターはちょっと記憶にない。

※ゲートの中のシュネルマイスターのイメージ

パドックではいつもにようにおとなしかったんだけどね。それこそビーアストニッシド、セルバーグなんていうお馴染みの面々が大暴れしている中、ゆったりと回っていた。

元々気持ちのスイッチの入れ方が難しい馬なのだ。特に今回は栗東滞在、輸送距離がかなり短い。先週陣営が「2度目の栗東滞在で妙に落ち着いている」と言っていたが、その分レースに向けて気持ちを作るのがいつもより難しかったと推察される。

少し話は逸れるが、『気持ちの作り方』というのは難しい。いくら体調が良かろうが、馬に走る気がなければレースにならない。つまりある程度馬を走る気にさせないといけない場合がある。

しかし気持ちを入れすぎると今度は掛かる。自分から走る気がある馬ならいいが、走る気がない馬や、過剰に気持ちが入る馬はスタッフさんやジョッキーの腕次第になるのだ。ここが難しいところ。脚力だけではどうにもならない。

話をシュネルマイスターに戻そう。何度も立ち上がり、前扉にぶつかって大きな音を立てていたシュネルマイスターは出遅れる可能性がかなり高くなってしまっていた。

いわゆる枠内駐立不良。これは出走停止になる案件で、実際12月10日まで出走停止になっている。

それでもスタートを出してくるルメールは凄い。これだけ暴れている馬をタイミング良く出せるのは、積み重ねてきた技術以外の何物でもない

スタートは出たんだがね…。その後もまた受難だった。水ソーヴァリアントが外に飛んできてしまったのだ。

ルメールは「スタートとしてはタイミングが合いました。ところがゲートから出たところで、すぐにソーヴァリアントと接触して、後ろの位置取りとなり、進む気をなくしました」と話しているが、こればかりはもう回避のしようがない。

ぶつかったソーヴァリアントが悪いっちゃ悪いんだが、ゲートが開いた直後の動きは基本裁決には掛からない。馬を制御できない部分だからね。仕方ないとしか言いようがない。ジョッキーカメラで見てもなかなかなものだ。これじゃ進めない。

同じような感じで紺レッドモンレーヴもサイドアタック食らって挟まれているんだが、不利の度合いで言えば黄シュネルマイスターのほうが大きい。

サイドから見るとこんな感じ。紺レッドモンレーヴに対して、黄シュネルマイスターがだいぶ後ろであることが分かる。

後述するが、道中桃ナミュールと黄シュネルマイスターはほぼ同じポジションを追走することになる。しかしゲートを出た直後はこれだけ差があるんだ。

自力で出て、自分で後方のポジションで脚を溜めるのと、不利を受けて後方のポジションで脚を溜めるのとでは状況が違い過ぎるわけで、この時点でシュネルマイスターはだいぶ苦しかった。

そろそろ前の話をしないと回顧終わらないなこれ。どうする家康が始まってしまう。もうそろそろ終わるのが残念でならない、結構好きな大河だった。

最初ハナを切ったのは紫セルバーグだった。そのまま隊列が固まるかと思いきや、橙バスラットレオンの克駿が、画像を見て分かるように押してハナを奪いに行ったんだ。

正面から見るとこんな感じ。橙バスラットレオンの克駿が左ムチを叩いて上がろうとしているのが分かる。

23年マイルチャンピオンシップ
12.5-10.5-11.3-12.2-11.7-11.6-11.5-11.2
34.3-34.3 1:32.5

今年の前半3F34.3というのは、ここ10年、阪神開催も含めたマイルチャンピオンシップとしては2番目に速いペースだ

ただ戦前、そこまではハイペースになるかというとそこまで言えないところだった。近走逃げていたのはセルバーグとバスラットレオンくらい。

セルバーグは別に絶対にハナに立たないといけないというわけではない。ただ今回はセルバーグのスタートが良くて、バスラットの前に出てしまったんだよな。

15着バスラットレオン 鮫島駿騎手「少々のハイペースでもこの馬の好走パターンの競馬を貫こうと思っていた

16着セルバーグ 松山騎手「スタートもよく自分の競馬はできたけど、同型が多くて厳しい競馬になってしまった

結果的に前の2頭は最下位とブービーだったのだが、こればかりは競馬だからね。複数の人馬の思考が絡み合う。克駿がバスラットレオンの競馬に徹しに行ったことで、マイルCSらしからぬ急流になってしまった

京都外回り芝

34.3というのは例えば東京・安田記念なら標準レベルの前半3Fだ。しかし京都芝外回りの場合、残り1200mから上り坂が始まるんだよね。前半3Fのうちの1Fが上り坂だから、34.3でも十分なハイペースになってしまう。

紫セルバーグは前述したように何がなんでも行かないといけない馬ではないから、橙バスラットレオンを行かせて2番手に控えた。

その後ろには緑セリフォス川田がくっついてきて、水ソーヴァリアント池添も先行している。

ネットの広い海には『川田は前に行き過ぎ』『差しに回していればセリフォスは好走していた』というご意見という名の流氷も多数浮かんでいたが、それは結果論でしかない。

直近逃げていた馬が2頭だけ。前半に上り坂が控えていてペースが緩みやすい京都外回り。これで最初からハイペースと読んで後ろに控え差してきたなら凄い話だが、ハイペースと読んで後ろに控えたとして、結果スローで前が残る展開になったらどうなっただろう

たぶんそうしたら『なんで前に行かなかったんだ』と叩かれる。結果論でしかないから、この先行策についてとやかく言うのは無意味だ。

バスラットレオンの動きにより思った以上にハイペースになったことで、セリフォス、ソーヴァリアントの2頭はだいぶ苦しくなってしまった。

逆に有利条件となったのは緑セリフォスの後ろだ。もう今更書かなくてもいい気がするが、初見の人間もいるかもしれないからね。

何度も書いているように、強い馬の後ろ、上手い人の後ろは有利になりやすい。フラフラしないし、勝手に進路を作ってくれる。陸上競技だってそういうところがあると思う。

今回に関していえばセリフォスなんかはいいターゲットになるよね。能力の高さは折り紙つき、乗っているのも川田。武さんが不在で、シュネルマイスターが最後方にいることを踏まえると、この中では最もターゲットにしやすい存在だ。

青エルトンバローズ西村淳也は最初からプランの中にセリフォスの後ろというプランがあったんだろうな。ソーヴァリアントをあえて行かせているあたり。

レース後「道中いい形で運べた」と話しているが、マスクもそう思う。セリフォスの後ろというのは現実的に考えて最高に近いポジションだ。まー、ペースがちょっと早過ぎたのは災難だったね

ちょっと早過ぎて向いたのは、青エルトンバローズの真後ろにいた赤ジャスティンカフェ。『セリフォス川田の後ろを取れたエルトンバローズの後ろ』だから、ライン的にはいい。

通常であれば進路の優先権もセリフォス、エルトンにあるから、この2頭よりはポジション面では劣る。しかしペースが速い分、前2頭の利が薄まっているんだよな。ジャスティンはこれが良かった。

もったいなかったのはやはり黄シュネルマイスター。赤ジャスティンカフェあたりのポジションにいたかったよなあ。まー、仕方ない。

京都外回り芝

23年マイルチャンピオンシップ
11.2-11.5-11.6-11.7-12.2-11.3-10.5-12.5
(←ゴール)

分かりやすくできるよう、ラップをコース傾斜図に合わせて右から表記してみた。上り坂区間である残り1200m→残り800mは11.3-12.2で、計23.5。これ自体は標準なんだがね。その前の10.5も含めると速い

これ映像で見たほうがよく分かるんだけど、緑セリフォスの口元を見てほしい。口が割れているのがお分かりだろうか。かなり掛かっているのだ。

8着セリフォス 川田騎手「久々で力みの強い競馬でした。これで次は良くなってくると思います

そうだろうねという感想しかない。勝負どころまでずっと掛かっていた。これはもう休み明けの分。いわゆる『ガス抜きできていない状態』だ。

昔に比べて休み明けの馬が仕上がって出てくるようになったが、久々の馬が掛かりやすい面がなくなったわけではない。

これだけバカみたいに掛かられると、前に壁を作りたい。ところが今回の川田はこの作業も難しかった。

というのも、前にいるのは紫セルバーグだ。ハイペースになっている以上、たぶん下がってくることが考えられる。速いペースで残れるレベルの馬であれば関屋記念であっさり負けていない

加えて、黒丸で囲んだ部分をバスラットレオンやセルバーグが外しているように、今週の京都は内目の状態が良くなかった

内を使えていたレースは大体新馬か、スローペースのレース。9Rの秋明菊賞は2歳戦ながらペースが流れ外だったように、今の京都で流れてしまうと、内にいるメリットがほぼない。

セルバーグの後ろにいれると、更に内の、馬場の悪いところに押し込められる可能性が出てくる。セリフォスの今回の難点は、『自分より強い馬が自分より前にいなかった』ことにある。

まー、そもそも京都の34.3で掛かっていてはそれ以前の問題なんだがね。これを使ってガスは抜けるはず。香港マイルに向けてはいい叩きになったとも言える。後述。

あまりに白ソウルラッシュに触れないのもどうかと思うから、一応触れておこう。白色のペンって使用機会なさ過ぎて、いつまで立ってもインクの残量あるよな。

改めて矢印を打つのは面ど…、作業時間の都合で矢印は打たないが、白ソウルラッシュの前にいるのはエエヤンだ。右前がビーアストニッシドで、左前がダノンスコーピオン。

もちろんGIだから弱い馬なんて出ていないのだが、このメンバーで相対的に劣る馬に囲まれている。しかも通っているところは馬場が悪い内目。ポジションの良し悪しで言えばだいぶ悪い

もちろん最内枠だからロスなく運べるというメリットはあるが、今の内の悪い馬場でそのメリットはそんなに生きない。

まー、こればかりは最内枠である以上仕方ない。最初からもう少し外なら状況は変わったろう。結果論でもなんでもなく、この馬場で最内はデメリットのほうが多い

ただ唯一?白ソウルラッシュにとって幸運だったかもしれないのは、外目のマークが薄かったことだ。

外にいたのは赤ジャスティンカフェの瑠星。瑠星は馬場も読むしよく考えて乗るから、当然内目が悪いことも分かっている。引いたのは内枠5番。ここから狙うは内ではなく外だ

そのため意識が外に向いているんだ。白ソウルラッシュと赤ジャスティンカフェの間が1頭分空いているだろう。瑠星が内に寄せておらず、モレイラが動くスペースがある。

更に後ろを見ると桃ナミュールが黄シュネルマイスターのルメールにガッツリ締められている。一つ上のソウルラッシュとジャスティンカフェの関係性と比べてみてくれ。しっかり目にフタをされているのが分かる。

ルメールからすると、ただでさえロスを減らしたい局面。内からナミュールに出られて更に外を回される可能性がある。だからしっかり締める。

締められている側のナミュール藤岡康太の立場からすると、逆に進路を探していかないといけないわけで、後手に回っているんだよな。調教師も「打ち合せより後ろのポジションになってしまった」と言っているように、正直道中100点だったかというとそれはないと見た。

23年マイルチャンピオンシップ
桃 1着ナミュール
白 2着ソウルラッシュ
赤 3着ジャスティンカフェ
青 4着エルトンバローズ

黄 7着シュネルマイスター
緑 8着セリフォス
紺 9着レッドモンレーヴ
水 12着ソーヴァリアント

勝負どころ、4コーナーでの位置取りはこんな感じ。外目を回った馬が掲示板外に沈み、その1列内で溜めている馬たちが上位にきた

アウトアウトが微妙なレースが続いていたが、加えてハイペースでより外追走に負荷が掛かったと考えられる。

桃 1着ナミュール
白 2着ソウルラッシュ
赤 3着ジャスティンカフェ
青 4着エルトンバローズ

そしてハイペースだった分、外を回さなかった組の中でより後ろにいた桃ナミュールが再先着し、4頭の中で一番前だった青エルトンバローズが4着になったという基本原理だ。ある意味分かりやすい。

シュネルマイスターという馬はマイルも少し忙しくなっているように、追ってすぐに反応できるタイプではない。助走区間が必要になってくるタイプだ。

すると前が下がってきて詰まるリスクがある内より、詰まらない外を回す手しかない。黄ルメールは最初からもう外しか見ていない。

対して桃ナミュールは締められていた結果、行くところが馬群の間しかない。これはもう締められた側だから当然っちゃ当然。

ここが少し分かりにくいんだが、橙バスラットレオンが下がっていく。そして緑セリフォスとの間に1頭半分のスペースが空いているのだが、1頭半しかないし、ここには赤ジャスティンカフェが入っていく。

桃ナミュールはジャスティンより後ろにいるから、進路の選択権がない。真ん前にいる緑セリフォスはハイペースを掛かり気味に追走して余裕がないから伸びないし、そうなるとより外の桃のライン沿い、青エルトンバローズと紺レッドモンレーヴのほうに行くしかない。

見れば分かると思うが、スペースが存在しないのだ。

空いてなくはないんだが、青エルトンバローズの西村淳也が右ムチを叩いている。つまり馬はより外目に行くから、紺レッドモンレーヴとの間にある桃丸はあってないようなもの。

桃ナミュールはこの『あってないようなスペース』に入るしかない。

するとどうするかって、紫レッドモンレーヴを弾き飛ばすしかないんだ。正直際どい進路取りで、これは少しミスをしただけで斜行に近い状態になり、もっと重たい制裁になってくる。

藤岡康太くんもレース後のインタビューで「他馬に迷惑をかけてしまった」と言っていたが、それがここ。まー、なら勝てるだけの手ごたえがあるのに詰まったまま終わってファンは納得するのかという話もある。

もちろん安全第一が競馬の前提、根底にある。だからこそ無理な弾きを肯定することはないが、弾けるという感覚が藤岡康太くんの中にあったんだろうな。実際割と綺麗に弾けたわけで。

確かにハイペースで前が止まり、外を回った馬が甘くなる展開ではあった。ただあの小さなナミュールが、牡馬を跳ね飛ばしたシーンには大きな成長を感じたのもまた事実だ。

これ、弾けず詰まってたらたぶん相当叩かれていたシーンだし、絶対「ムーアなら」って言われていたと思う。勝負を分けたポイントの一つと言っていい。

一応内の動きも見ておこう。さっきから白ソウルラッシュの動きは一応ばかりだな。

たぶん本来もっと時間を割いて細かく振り返っていかないといけない部分なんだろうが、前がエエヤンの馬について長々書いていると、本当に関ジャムが始まってしまう。

直線入口では白丸の部分の進路がなくはなかった。これを進路と言っていいかは難しいな。1頭分のスペースもない。一応1頭分のスペースは突いてはいけないルールだから、ここは行けない。モレイラは外に行くしかない。

外に動き始めた白ソウルラッシュの前にいたのは水ソーヴァリアントだった。ここでよく見るとソーヴァリアント池添は右ムチを叩いていることが分かる。

つまり馬が寄るとしたら内より外のほう、赤ジャスティンカフェとかのほうだろう。これはソウルラッシュにとってはラッキー。矢印を打った部分の進路が簡単になくならないからね。

開いてからは速かったね。水ソーヴァリアントの内からよく伸びた。ラインはギリギリいいところ。

モレイラもレース後「直線でスペースができてから素晴らしい瞬発力を見せてくれた」と話している。道中内で脚が十分溜まったことにより、直線の伸びは本当に良かったと思う。

ただ、それでもナミュールに食われてしまったのだ。元々ソウルラッシュという馬はトップスピードの持続時間が短い。もう少し持続時間が長かったらナミュールを封じられたかもしれないが…。

まー、こればかりはそういう馬なんだから仕方ない。GIを勝つには最大の障壁になってくる部分だと思う。内を上手く立ち回れるように器用なんだけどね。

使える脚が短い分、直線の短いコースの内枠はやはり狙い目。少し長い気がするが、中山記念の内枠に入ったらまた考える。中山マイルの重賞がハンデばかりで、たぶんもう60kgになるから難しいところ。


3着ジャスティンカフェは道中のポジション、ペース、全部完璧。シュネルマイスターやセリフォスが自爆する展開も向いた。

もちろんジャスティンカフェ自体本当に力のある馬だが、他力本願な面はどうしても抜けない。ダービー卿の内容を見ても序盤から押したり、ポジションを取る形は向かなさそう。

すると結局テンから出たなりで我慢することになる。なかなかGIをこの形で勝つのは難しい。幸いエプソムを勝っても収得賞金から来年の東京新聞杯は57kgで出られる。イン戦にならなければあり。マイラーズCは開幕週なのがどうか。

4着エルトンバローズは今回に関しては何も言うことなし。デキも文句なし。セリフォスの真後ろで溜めて、理想的な競馬だった。得意の右回りでこの結果、完全に力負け。

西村も「まだ3歳だし、これから成長していってくれれば」と言っているように、まだこれからの馬。現状これだけやれるなら来年のマイルCSが楽しみ。

あまり意識されることはないが、JRAは月、距離によって古馬と3歳馬の斤量の差が変わる。1600mは10月まで古馬と2kg差だが、11月からは1kg差になる。2400mのジャパンCは2kg差あるんだけどな。

ほんの1kgの差ではあるが、3歳馬にとってやや不利な条件設定になっているレース。その状況下でここまでやれれば十分。まー、昨年3歳馬が勝ったんだが。

5着ダノンザキッドは展開面が向いたのはある。関西圏の2000m以下だと最低限の結果を出してくるのは凄い。

問題は安田隆行厩舎が来年2月で解散してしまうこと。中山でのポカが多い馬を解散直前の中山記念に使ってくるかどうか…。たぶん引退週で相当仕上げてくるだろうが、これまでのポカを考えると中山で重視するのは怖い。

最近だいぶ調教で扱いにくいようだし、来年2月以降、転厩して仕上げきれるかも考えどころ。たぶん翔伍厩舎だと思うが。

左回りのほうがよりいいイルーシヴパンサーにとっては、6着という結果はまあまあではないかな。ペース面を考えるとやや物足りないが、左回りのほうがいいだけにね。

今年は京都金杯が中京ではなく京都。たぶん右回りでわざわざ使わないだろう。東京新聞杯はまだ57で出られるから、チャンスがあるならこっち。極端な内馬場じゃなければ。

7着シュネルマイスターは元をたどるとやはりゲートだろう。ただ前述したように気持ちを作りにくいだけに仕方ない面は残る。

一部では太目残りだったと言われているが、マスクは決してそうは思わない。パドックの映像を改めて見ても、504kgだった今回より、500kgだった毎日王冠のほうがよほど太い

叩いて体重が増えてるのに絞れているというのはたまにある。筋肉は脂肪より重いというあれ。滞在はマイラーズCで嵌まっただけに陣営も当然打つ手だったと思うし、過程自体は妥当なものではないかな。

まー、最後まで仕上げが難しかった。慢性的に良くないトモがもったいない。万全ならいくつもGIを勝てた馬だと思う。それも含めて競馬だから仕方ないんだけどね。

本当にいい馬で能力の高い馬だった。種牡馬として相当楽しめそうな馬。頑張ってほしいね。そういうこともあって、次走どこで狙うかという話はなし。よく頑張りました。

8着セリフォスの敗因に関しては文中散々書いたから、今更書くこともない。今回に関しては次に香港マイルが控えている段階で休み明け。MAXまで上げられないし、テンション面に難しいところがあるのは今に始まったことではないだけに、こういう時もある、という認識だ。

マイルCSの難点は、中2週ですぐに香港開催がある点だ。間隔が短いから、ここに全力投球しにくい。富士Sを使えていればそこでガスが抜けて今回もっと折り合えたのだろうが、あの夏場の暑さでは参るのも仕方ない。酷暑の影響がこんなところにも出てしまったな

全然評価は落ちていない。まともなデキなら違う馬。ドバイは距離っぽい止まり方で5着だったが、マイルなら海外勢相手でも楽しみだね。右回りも悪くないが、左回りならもっと楽しめるんだが…。

海外のビッグレースのマイルは右回りが多いんだよなあ。左回りの大きなところとなるとブリーダーズカップマイルなんていうレースがあるが、来年はデルマー。マイルコースは一周競馬になる。ワンターンの左回りマイルが欲しい。

9着レッドモンレーヴもシュネルマイスター同様気持ちの作り方が難しい。調教で飽きをこさせないようにコースを変えたり、色々工夫しているのを見ると大変だなといつも思う。

休み明けはポカがあるから間隔を空けそうな次走は何とも言えん。叩いたその次で買いたいが、どこまで休むか次第。

12着ソーヴァリアントは着順は悪いものの、特に悲観はしていない。今日に関してはハイペースの前受けが直接的な敗因。逆に言えばハイペースのマイルも前受けできるように、完全にマイラーにシフトしてきた感じがあるね。

まー、当分使わんだろうが、今日の内容であれば1400なんかでも見たいと思ったね。この賞金なら東京新聞杯は使えるからまずはそこかと思うが、大阪杯路線にするよりマイル路線のほうが買いやすい気がする。


さて、最後に勝ち馬ナミュールの話をしよう。まずは代打藤岡康太くんの話だ。ここまで一切代打について触れてこなかったな、そう言えば。

藤岡康太くんの騎乗に対して不満を述べることが多いマスクだが(笑)、当日の乗り変わりでGIの人気馬を渡されるプレッシャーは計り知れないし、結果が出て良かったと思う。

正直大外枠の時点でたぶんいつも同様アウトアウトで7着くらいのイメージだった。そもそもマスクはある程度緩いペースを想定していたからね。

間違いなくハイペースは向いたし、ルメールに外から締められたことで進路の選択肢から外が消えたのは大きかったと思う。

野球に例えれば、思ったような展開にはならず道中リードされていたが、9回の裏からランナーを溜めて、最後に出てきた代打が満塁ホームランを打ったような騎乗、という感じ。

ただペースが向いただけで勝てるほど古馬の牡馬混合GIは甘くない。明らかに詰まりそうな隊列の中で、レッドモンレーヴを外に弾き飛ばした騎乗に、勝ちに行く執念を感じた

もちろん裁決案件だし、裁決案件を手放しで褒めることは絶対しないことにしているが。とりあえず直線の攻めが実って良かった。

テン乗りにはメリットとデメリットがある。継続騎乗のほうがその馬を知っている利点もあると同時に、先入観が生まれるデメリットがある。逆にテン乗りだと先入観はないが、その馬がどれだけ長く脚を使えるのかよく分からないというデメリットがある

そんなテン乗りが当日決まる難しい状況で結果を出すのがいかに難しいかは、マスクもこの仕事が長い分ある程度分かっているつもりだ。道中のポジションを含め、噛み合う時は噛み合うんだな。正直これに尽きる。

ムーアだったら勝っていたかは分からん。もっと楽勝していたかもしれないし、出していって最後止まっていたかもしれない。そればかりはやってみないと分からないから言及しない。

少なくとも『ムーア以外でも勝てる馬質、仕上げ』っていう考え方は明確に間違っていると断言したいな。少なくとも去年のジャパンCや、今年のBCターフを見せられてまだそんなことを言っている人間がいることに驚く。


それ以上にマスクはナミュールを褒めたい。何がって、あのレッドモンレーヴを弾き飛ばしたところだ。裁決案件だから褒められないとは書いたが、3歳春は430kgを割るような小さな馬だったのに、それが古馬になって500kgの牡馬を弾き飛ばしてるんだよ。成長したよ、本当に。

もちろんレッドモンレーヴがこのハイペースを外を回して、脚がそこまで残っていなかったから弾き飛ばせた面はある。こういうのは脚残ってるほうが弾けるからね。それにしても相手は自分より50kg重たい牡馬。凄いね。

ナミュールの休み明けと叩き2戦目
1着 チューリップ賞 430kg
10着 桜花賞 426kg

2着 秋華賞 446kg
5着 エリザベス女王杯 448kg

7着 ヴィクトリアマイル 452kg
16着 安田記念 448kg

1着 富士S 454kg
1着 マイルCS 454kg

昨年春の状況を考えると本当に成長したよな。いくら近場の京都とはいえ、中3週で454kgをキープしてくるんだから。

思い返せばキョウエイマーチも3歳春まで470kg台で線の細さがありながら、古馬になると毎回500kg前後で出てきて6歳(当時は7歳)まで走っていた馬だった。

春は不利、出遅れなどがあってもったいないシーズンになったが、来年もう一段階良くなるかもしれないね。ヴィクトリアマイルはこの形だと勝てないから、スタートがより安定してくれることを願うばかりだ。

なんやかんやで調教師も良かったよね。一時期体調を崩したりするシーズンがあっただけに、喜びもひとしおだろう。

余談だが、ナミュールは母系を遡ると8代前の母にクインナルビーという牝馬の名前が出てくる。もう70年ほど前の馬だ。

実はこのクインナルビーの子孫がマイルチャンピオンシップを勝ったのは初めてではない。曾祖母キョウエイマーチが2着だった97年の更に8年前、1989年のこのレースを勝っているんだ。

89年と聞いてピンとくる人間は相当な競馬好きだな。オグリキャップが直線、強烈な末脚で伸びてバンブーメモリーを競り落としたのがこの年のマイルチャンピオンシップ。

オグリキャップの5代前の母もクインナルビーなんだよ。ナミュールにはあの伝説のアイドルと同じ血が流れている

オグリキャップがその後見せてくれた伝説的レースについては今更改めて書く必要はないだろう。今後、ナミュールがどういうキャリアを積んでいくのか、その観点からも楽しみだったりするんだ。

え?今日関ジャムないの?本当?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?