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23年秋華賞を振り返る~緻密な逆算と枠順が生んだ差~

乗るほうも緊張するだろうけど、一緒に乗る俺たちも緊張するもんだよ

だいぶ昔の話だが、菊花賞の直前、某ベテランジョッキーと話していた時にそんなことを言われたのを覚えている。

もちろん一番緊張するのは三冠が懸かった馬に乗るジョッキーだ。これは間違いない。そもそも二冠を獲っている時点で間違いなく強いのだが、いくら能力があっても人気馬を勝たせるというのは難しい

これが普通のレースならみんな1番人気になるであろう馬をマークしたがるものだが、三冠が懸かっている馬だと話が変わってくるのだという。

俺がもし斜行したりして、三冠リーチ掛かってる馬の邪魔でもしたらと思うと、どうしてもガッツリとフタしに行けないんだよ。勝負の世界でそんな甘いことは言ってられないんだけどな」というのだ。

なるほどなと思ったね。仮にそのリーチが掛かった馬を倒せるだけの能力があるならまだしも、明らかに能力が抜けた馬相手にフタしに行くというのは勇気がいることだ。

今回の秋華賞、マスクの中で見どころは史上7頭目の三冠牝馬を目指すリバティアイランドを、誰が、どこまで締めに行くか。そしてどう考えても恵まれるであろうリバティアイランドの真後ろを誰が取るか。この2点だった。

何度も書いているから今更改めて書く必要はない気がするが、競馬において、強い馬の後ろのポジションは有利になりやすい

例えばこれは今年のオークス。赤リバティアイランドの真後ろにいるのは2着だった緑ハーパーだ。桜花賞はリバティ自体が進んでいかなかったことでその後ろが有利にならなかったが、リバティがある程度出ればその後ろは有利になりやすい。

だって勝手にリバティが進路を作ってくれるんだから。ついていけば自分の進路も開ける。まー、強い馬の後ろを取るというのは定石みたいなものだ。

問題はその『進路を作る係』であるリバティが、上手く捌けるのかどうかだった。二冠牝馬が引いたのは6番。

過去秋華賞を勝って三冠を達成した牝馬は5頭いるが、全て二桁馬番だったのだ。このレースは京都内回りで器用さも求められて、加えて前傾になる分前の馬も垂れてきて内が詰まりやすい。

それだけに外目の枠を引いたほうが詰まる可能性がより下がる。やや外有利になりやすい秋華賞で6番を引いた川田が、どういう思考で馬群を捌くかも興味深かったんだよ。


まずはペースの話からしたほうが良さそうだな。今年の秋華賞は非常に珍しい年だったと言っていい。

23年秋華賞 リバティアイランド
12.2-11.1-13.1-13.0-12.5-12.9-12.3-11.6-11.0-11.4
前半3F36.4
前半5F61.9

前半3F、前半5F共に過去10年の京都開催で最も遅い。秋華賞の予想、そして上にも書いたが、このレースは基本流れる。序盤からポジション争いが激しくなってペースも上がり、差し競馬になりやすい。それが秋華賞だ。

今年のペースはまるで未勝利。京都開催だと16年ヴィブロスの年や18年アーモンドアイの年も遅かったが、どちらも前半3F35秒台で、前半5Fは59秒台。そこから2秒も遅かった。これはもう異例と言っていい。

似たようなペースだったのは12年の秋華賞、ジェンティルドンナが三冠を達成した年だ。

12年秋華賞 36.5-35.2 ジェンティルドンナ
12.3-11.0-13.2-13.4-12.3-11.6-11.4-11.3-11.5-12.4
前半5F 62.2
後半5F 58.2

23年秋華賞 36.4-34.0 リバティアイランド
12.2-11.1-13.1-13.0-12.5-12.9-12.3-11.6-11.0-11.4
前半5F 61.9
後半5F 59.2

1000m通過は12年が62.2で、今年が61.9。3Fベースでもそう大して変わらず、馬場は12年のほうが少し速いにしてもペース的には近いレースだった。

問題はその後。後半1000mを見ると12年のほうが1秒も速いのだ。まー、見れば分かると思うが、残り1000mから11秒台が続いた12年に対して、今年は12.9-12.3とペースが全然上がらなかった。

分かりやすく言えば『残り600mからのヨーイドンの競走』だったんだよな。まー、実際にはもう少し手前からスパートが始まっているが、ペースも遅く、スパートが始まるのも遅く、異例の秋華賞だった。

こちらを頭に入れた上で、今度はパトロールを見ていきたい。

秋華賞 出走馬
白 ②ハーパー ルメール
黒 ③マラキナイア 池添
黒 ④コナコースト 鮫島駿
紫 ⑤ドゥーラ 斎藤
赤 ⑥リバティアイランド 川田
青 ⑦マスクトディーヴァ 岩田望
水 ⑧モリアーナ 横山典
黄 ⑨ミシシッピテソーロ 石川
緑 ⑫ドゥアイズ 西村淳
橙 ⑬ラヴェル 坂井
灰 ⑮ヒップホップソウル 横山武
桃 ⑰ソレイユヴィータ 武豊

スタート後の見どころは何と言っても川田の動きだろう。川田のジョッキーカメラを見ると、レース後スタッフさんたちとの会話で「ゲート出て、ポジション取って、早めに外に出せる形にしておいて」と言っている。

川田のリバティアイランドに対する信頼は絶大なものがある。力を出し切れば勝てると川田だけでなくみんな思っているわけで、負けるとしたら内で包まれる形。

だから赤リバティアイランド川田は内目の進路ではなく、スタート後に外目に出しに行くプランを選択している。

川田はレース後に「ゲートを出てから作戦を考えた」と言っているが、実際そうだったんだろうね。ただしどんなスタートだろうが最初からなるべく早く、外に出しやすいポジションを狙うというのは共通事項だったと思う。

先行馬が少ないメンバーでもあったし、ゲートをまともに出たことで川田はポジションを取りに行ったんだ。

赤リバティアイランドは、周りに囲まれないようにするために、先行策を取ろうとしている橙ラヴェルの後ろになる赤丸の部分が欲しい。

そのポジションを狙っていたのはリバティアイランドだけではなかった。緑ドゥアイズも狙っていたんだ。この赤丸のポジションをね。

川田の凄いところはその勝負勘だ。仮に緑ドゥアイズに前に入られてしまうと、もし仮にドゥアイズにトラブルが発生したり、他の馬の動きに巻き込まれると後ろのリバティも影響を受けてしまう。

それを嫌がった赤リバティアイランド川田は、緑ドゥアイズをブロックして橙ラヴェルの後ろに入りに行っている。

そして完全に橙ラヴェルの後ろを取り切ってしまったのだ。ここで緑ドゥアイズが一瞬体勢を崩してしまって、灰ヒップホップソウルあたりが少し外に飛ばされている。しかし見えないなこの灰の矢印。仕様が新しくなって色が少なくなったのは改悪だな。

まー、それはいいや。当然この程度のことは裁決には引っかからない。ただヒップホップソウルは影響を受けた時点で外枠はマイナスだったとも言える。

逆に恵まれたのは紫ドゥーラ。隣の枠が赤リバティアイランドだったことから、それについていくだけ。ポジション取り合戦に負けたドゥアイズや、弾かれたヒップホップなどを見ると恵まれているんだよ。『強い馬の後ろ』の恩恵をもうすでに受けている。

ここで赤リバティアイランド川田がラッキーだったのは、外前にいるのが桃ソレイユヴィータだったこと。ジョッキーは武さん。

こちらも何度も書ているが、武さんの後ろ、近くは有利ポジションになりやすい。武さんは余計なことをしないし、下がる時もまっすぐ後ろに下がっていくから後ろもレースの組み立てがしやすいんだよな。

これがもしソレイユヴィータが内枠を引いていればこんなところにはいない。そういう意味ではリバティアイランドは全体の枠順にも恵まれたと言えるし、そんなリバティの隣を引いたドゥーラもラッキーだったと言える。

話を少しだけ戻す。今回の秋華賞はメンバーを見渡しても誰が逃げるのか謎なくらい、先行馬が少なかった。このレースは前傾戦になりやすいんだが、それでもゆったりした流れになる可能性が排除できなかったくらいにね。

ここ3走以内に逃げたのはフェステスバント、コンクシェルくらい。フェステスはそこまで速くなく、コンクシェルは距離不安がある中外枠を引いてしまった。

それこそスローを見越して、レース前からこれまで逃げたこともないコナコースト陣営がハナを切るかもしれない、なんて言うくらいさ。で、黒コナコーストが本当にハナに行った。

たぶんスローになると思ったのはコナコースト陣営だけではなかった。ゲートをいい感じに出た黄ミシシッピテソーロの裕紀人もそうだし、橙ラヴェルの瑠星も先行策をとってポジションを取りに行ったんだよ。

まー、どちらも別に逃げなくても競馬できるわけで、そんなに逃げ馬をつつく必要がない。だってつついてペース早まったら自分の首が締まるんだもん。攻めていかないよね。

黒ハーパーのルメールも、ペースをスローと読んだんだろうね。スタートをしっかり決めて、それなりに出していった。

前述したが、オークスではハーパーはリバティアイランドの真後ろをついていった。そして6馬身差つけられて完敗している。つまりリバティの後ろを取ってついていっては勝てない。倒すならリバティより前に行くしかないから、この作戦は正しかったと思う。

オークスの1、2着である赤リバティアイランド、白ハーパーがある程度前に行ったことで、恵まれるのは紫ドゥーラ。先ほどリバティの後ろでいいところが取れたと書いたが、向正面なんてリバティとハーパーの後ろにいるもんね。ポジションが良過ぎる。

緑ドゥアイズはその1頭分外。これがドゥーラのポジションならまた話は違ったのだろうが、そうするにはもっと内枠を引いておかないといけなかったし、運も悪かった。強い馬に近い枠を引く重要性を感じる場面だよね。

一応更に内も見ておこうか。黒マラキナイアが白ハーパーの右後ろにいて、その後ろに水モリアーナがいる形だ。

おいコナコーストも黒だったろと思われるかもしれないが、謎のアップデートにより色が少なくなってしまったのだ。ここだけマラキナイアにも黒を使わせてほしい。

マラキナイアの鞍上は池添。強い馬の後ろに入る勝負勘などは現役トップクラスで、本来であればハーパーの真後ろ、それか少し外に出してリバティの後ろに入っていく局面。

それでもずっと内にいたのは単純に距離に対する不安があるからだろう。レース後池添が「今のところ1800mの方が力を発揮できると思います」と話しているように、最初からある程度距離に対する不安があったんだろうな。だからラチ沿いで溜めるしかなかった。

この馬は3走前の阪神マイルの数字が優秀。ローズSで3着止まりだったことで、まだ2勝クラスに出走できるのは魅力的過ぎる。その分人気するだろうが、ワンターン短縮で狙いたい。

その後ろにいたモリアーナは一種の決め打ちだったんじゃないかな。そもそも前半そこまで行けない馬だからペースに左右される。紫苑Sはペースも流れて届いたが、ペースが緩めば届かない。

こればかりはモリアーナの都合通りにはならないからね。後ろから行く馬の宿命だった

向正面で重要な動きがあった。赤リバティアイランドが桃ソレイユヴィータの真後ろに入ったのだ。それまでは右後ろだったのにね。いわゆる『武さんの後ろ』という最高のポジションに入っていったのだ。

☆23年秋華賞 36.4-34.0 リバティアイランド
12.2-11.1-13.1-13.0-12.5-12.9-12.3-11.6-11.0-11.4

京都の芝2000m、向正面に入ったあたりというとこの太字にした部分だ。今年は13.0というタイムが刻まれている。

秋華賞の600m→800m
18年 12.1
19年 11.8
20年 12.2
21年 阪神
22年 阪神

23年 13.0

過去の京都開催と比較してもダントツに遅いのがお分かりいただけるだろう。遅すぎる。ペース判断の早い武さんだけあって、さすがに遅いと見て少しだけ上げていったんだよな。その分、武さんの真後ろが空いて、リバティ川田がいつでも外に出せる状況が生まれた

本来これだけ緩ければ白ハーパーももう少し動いていきたいところだが、橙ラヴェルの瑠星が内をしっかり締めて回っているもんだから、上がろうにも上がれない

まー、逃げているコナコーストはそもそも今回逃げるのが初めてという馬。初めて逃げる馬は物見などもしてペースが上がらないケースは多々あるし、後ろに怪物がいる以上、ギリギリまで脚を溜める=ペースを落とすのは分かる。

外の2番手が強力な先行馬ならまた話は変わってくるのだろうが、ミシシッピテソーロだからね。2000mは気持ち長い、明らかに力も足りない以上、早めに動くわけにもいかない。

この2頭が前で並んじゃっている影響で、13.1-13.0-12.5-12.9なんていうスローペースが生まれてしまったんだ。

これだけ遅ければ普通誰かがまくってくるものだ。外に赤矢印を引いたが、まくりやすいのはこのあたりの外に並んでいる3頭だろう。

並んだ3頭はピピオラ、コンクシェル、エミュー。それぞれ12番人気、13番人気、15番人気。人気が能力を表しているわけではないが、ピピオラとコンクシェルはGIの2000mだと長い。

どちらもマイルでいい数字で勝った経験があるように、どちらかといえばマイルのほうがいい。体力面を考えたら早めに動くことは考えづらい

エミューは客観的に見て力が落ちるだけに、なかなかまくりにもいけない。外にまくらなさそうな馬が並んでしまったことで、道中ペースチェンジすることがなくなってしまったんだ

有力どころが外にいればまた話は変わったかもしれないが、ハーパー、コナコースト、ドゥーラ、リバティ、マスクトディーヴァ、モリアーナとみんな真ん中より内枠。

向正面を改めて見ても白ハーパー、水モリアーナ、青マスクと馬群の中にいるもんだからマクれない

こうなると赤リバティアイランドにフタをする馬がおらず、『一番強い馬が自由に走っている』状況が生まれてしまう。まー、枠順の妙だよなあ。

3コーナー。マスクは冒頭「やや外有利になりやすい秋華賞で6番を引いた川田が、どういう思考で馬群を捌くかも興味深かった」と書いたが、6番引いた赤リバティアイランドが一番外にいるんだもん。しかも前は桃ソレイユヴィータの武さん。もう負けようがない

対して他の有力馬である紫ドゥーラは、赤リバティアイランドに外からガッチリフタをされている。白ハーパーはというと黄ミシシッピテソーロが邪魔で追い出しを待たされている状況だ。

セオリーとしてはミシシッピと橙ラヴェルの間に入りたいところだが、またラヴェルの瑠星がいい締めしてるんだよ。画像でも分かるな。ギリギリまで締めていて、内から出ようとする馬をシャットアウトしている。

レースを観ていてこれは厳しい締めだなあと思っていたのだが、ハーパー・ルメールのジョッキーカメラで改めて見たら思った以上に3コーナー、4コーナーで締められてしまっている。

瑠星上手いね。これはいくらルメールでも開けられない。ラヴェル自体はそんなんでもない着順だが、瑠星の技術が更に上がっていることが分かるシーンだと言える。

正面から見るとこんな感じ。過去10年の京都開催秋華賞で一番遅いペースだったものだから、前の馬も中途半端に脚が残っているんだよな。

その分黄ミシシッピテソーロ、橙ラヴェルのどちらかが下がるなんていうことがなく、白ハーパー、紫ドゥーラは追い出しを待たされる。対して赤リバティアイランドは遮るものが何もない。

☆23年秋華賞 36.4-34.0 
12.2-11.1-13.1-13.0-12.5-12.9-12.3-11.6-11.0-11.4

レース後、川田は「ペースも緩かったですし、彼女も行く気になりましたので、ならばこのまま強気に押し切ってしまおうと選択しました」と話している。

ちょうど太字にした部分、12.3の区間だが、まー、中盤ペースが上がらないのにまだ12秒台だもんな。お嬢さんはもう我慢の限界だった

川田の言葉通りペースは緩く、リバティを遮るものはない。残り600m付近から一気に動いていったのだ。

川田がレース後に戻ってきたところで「勝つ競馬をした」と話しているが、まー、これが女王の競馬だよ。誰よりも早く動いて勝負を決めに行ってるんだから。この『誰よりも早く』というのはポイント。後述。

これは先ほどの4コーナーの画像だ。赤丸で囲んだ部分を見てほしい。しかしひどい丸の形だ。絶不調で打率1割台の時の丸って感じ。

赤丸で囲んだのは残り600mの標識さ。

☆23年秋華賞 36.4-34.0 
12.2-11.1-13.1-13.0-12.5-12.9-12.3→残り600m→11.6-11.0-11.4

標識があるのはこの太字の部分だ。つまりここが、それまでの1F12秒以上の区間と、それからの1F11秒区間の分水嶺だったんだよね。

馬群を見てくれ。スローペースだけあって一団だ。ほぼ一団から、残り600mのヨーイドン勝負だったんだよ、今回は。

一気のギアチェンジが求められる600m走になってしまうと、スタミナよりもスピードが求められてしまう。

こうなると桜花賞から2400mのオークスに延長して着順を上げてきたハーパー(4着→2着)とドゥーラ(14着→3着)にとっては厳しい。

前半部分に書いたように、同じペースでも残り1000mから11秒台連発だった12年ジェンティルドンナの年みたいなペースだったら、もう少しスタミナが生きたんだろうけどね。まー、こればかりはもう仕方ない。前の並びがよろしくなかった。

ラヴェルが締めきったことで、その外から早めに動いた赤リバティアイランドと待たされた白ハーパーの前後の位置関係が、残り400m付近では完全に逆になっちゃったんだよね。

前述したようにハーパーは怪物を倒すなら、その前で競馬して立ち回りたかった。ところが他馬の影響もあって位置関係が逆に。これじゃもう差せない。リバティが外ラチ沿いにでも飛んでいってラチをジャンプでもしない限り勝てない。

紫ドゥーラもそう。残り600からのヨーイドンになってしまえばどうやってもリバティアイランドに置いていかれる。ここで置いていかれなかったら桜花賞で14着なんて着順には終わっていない。

ここで上手かったのは青マスクトディーヴァの岩田望来だった。また色が被ってしまうが、色が足りないから許してくれ、桃ピピオラとの位置関係を見てほしい。

普通だったら4コーナー、青マスクトディーヴァは桃ピピオラの内、青丸で囲んだ部分が空いているからここに入ることになる。

ところがこの画像だと分からんが、ピピオラは少し内に寄っていたんだよね。いずれこの青丸の部分は消滅し、実はピピオラの外、桃丸で書いた部分が正解になる。

それをしっかり見ていた青マスクトディーヴァの望来は、桃ピピオラの外を選択し、ロスがほとんどない。

よく見るとピピオラの藤岡康太くんは右ムチを叩いているもんね。内に寄っている分の修正だ。ここ、小さいポイントなんだけど、ピピオラに詰まっていたら大幅なロスが生まれてマスクトディーヴァは届いていなかった可能性がある

するとマスクは3単が当たっていたのだが、これはもう望来が上手かったとして処理した。ドゥーラとマスクトディーヴァがほぼ同じところからヨーイドンで競走したら、どうやってもマスクが勝つ。ドゥーラが阪神1800外回りでレコード勝ちする姿が想像できないだろう。

ローズSでも上がり3F33.2を使っているように、ラストの決め手でマスクはハーパーやドゥーラを上回っている。スローなのにハーパーやドゥーラが後ろから差されてしまったのはこれ。

秋華賞の2~4着 4コーナーの位置
2着青マスクトディーヴァ 12番手 33.5
3着白ハーパー 5番手 34.3
4着紫ドゥーラ 7番手 34.1

ポジションだけ見るとマスクトディーヴァがスローでよく届きましたねというレースなんだが、スタート地点を見るとそんなにポジションは変わらないんだよね。2~4着は適性差もそのまま出てしまった感じが強い

もちろんマスクトディーヴァが恵まれたから来た、ラッキーで来た、とは言わない。まー、最後まで脚を溜められた恩恵を大きく受けてはいたけどね。

距離は異なるが、おばあちゃんのビハインドザマスクを思い出すね。走るたびに決め手が磨かれてきた感じ。さすがこの血統、成長力もあるね。

コーナーで外に張るだけに一周変わりは半信半疑だったが、それでもこの内容。収穫は多かった。望来は「スタートが今一つでポジションが予想より後ろになった」と言っていたが、仮にもう1列前でスムーズに流れに乗って脚を使えたかはちょっと分からない。

ラスト3F勝負など決め手が生かせる流れに強いことはこれで分かった。イメージとしては、中距離で少しテンに出られるデニムアンドルビーに近い。スローの上がり勝負になった時のジャパンCとか、そういう条件で狙いたい。

まー、エリザベス女王杯なんだろうなあ。コース改修前のエリザベスは内が使えちゃう年が多かった。馬場次第かな。

話を秋華賞に戻す。もったいなかったのはモリアーナだ

水モリアーナが直線狙ったのは黒コナコーストと白フェステスバントの間、水色丸の部分。というかここしか狙うところがない。

白はハーパーだろと思われるかもしれないが、もう何度も理由を書いてきた。許してほしい。

でもここで黒コナコーストの鮫島克駿が左ムチを叩いて内に寄っていってしまったんだ。

こうなると更に内にいる白フェステスバントと水モリアーナの進路が狭くなってしまう。

するとこうなる。一番内にいた白フェステスバントが不利を受けてしまって下がる形になった。

水モリアーナの進路も狭くなっただけじゃなく、ノリさんがフェステスバントの酒井学を心配して、2枚目の画像で分かるように振り向いているんだよ。

秋華賞3~5着
3着ハーパー
4着ドゥーラ ハナ
5着モリアーナ クビ

着差がこれだからねえ…。振り向いて心配しているロス、進路が狭くなるロスを考えると、ここがスムーズならもしかすると3着がモリアーナだった可能性はある。まー、この局面で後ろを心配するノリさんはさすが。

当然これ、黒コナコースト鮫島克駿の左ムチによる不利だから克駿に制裁が出ている…と思われるかもしれない。

秋華賞 直線インの制裁
・コナコーストの騎手鮫島克駿は、最後の直線コースで内側に斜行したことについて過怠金10,000円(被害馬 ①フェステスバント)

・モリアーナの騎手横山典弘は、最後の直線コースで内側に斜行したことについて過怠金30,000円(被害馬 ①フェステスバント)

実はより過怠金が高額なのはノリさんのほうなのだ。裁決はコナ克駿の左ムチ斜行より、ノリさんが1頭分以下の狭いところに突っ込んだのが悪いという判断で克駿<ノリさんという過怠金にしたんだろう。

でもこれ、だったらノリさんはどこを突けば良かったの?という話でもある。安全策を取ってノリさんが追わないままだったら詰まって、モリアーナは12着とかだっただろう。

もちろん微妙なスペースだ。突いたほうが悪いと言われても納得できるレベルではある。ノリさんもたぶん微妙なラインだと感じて突っ込んでるんだろうけどね。

☆秋華賞 5着モリアーナ
横山典弘騎手「頑張ったんじゃないですか

こんなコメントが出ていたが、そうだねとしか言いようがない。最後この狭いスペースを抜け出してきたように事実頑張っているし、ペースがとにかく遅いからね。その中でよく差している。頑張っているとしか言えない

スロー見越して前に行けばというご意見もあるかもしれないが、もう差す形になっているモリアーナがいきなりテンから出ていかないし、パドックからうるさかったように序盤出すのはリスキー。このポジションは妥当。

現状序盤に行けない分展開待ちになるし、今ここで買いたいというレースは正直ない(流れるアメリカJCC?)が、輸送で減るかと思ったら増えてきたように、成長を感じるところもある。もう少し長い目で見ておきたい。現状マイラーではないね、少なくとも


2着マスクトディーヴァはもう触れた。3着ハーパーはルメールが(少し)勝ちに行っていたし、待たされたとはいえポジション取りに行った影響か最後の伸びも甘いし、まー、可もなく不可もなくという内容。

結果論内よりもう少し外、せめてリバティアイランドより外のほうが良かったのかもしれんが、そうするとたぶんリバティに上手く使われる立場になっていたと思う。現状この世代でGIを勝つにはリバティがいない必要があるし、突き抜けた何かがないだけに古馬相手でも微妙に負けそう。

立ち回りが上手いのは大きな武器なんだけどね。兄姉たちよりコースを選ばない、これはプラス要素。こういう馬は買いやすい。今日のパドックは良かった。プラス14kgはほぼ成長分。もう少し成長しそう。

4着ドゥーラも馬がだいぶ良くなっていた。+20kgの478kgと大幅に増えていたが、そもそも2走前のオークスが472kg。そこから6kg増えただけで、クイーンSの458kgが減り過ぎていただけ。お腹が巻き上がっていたもんね。

それで古馬に勝っちゃうくらいだから、能力はさすがのものがある。これでもまだ骨格に対して筋肉が足りない感じ。幅が出てくれば490くらいまで行く馬だと思う。

レース後斎藤新くんが「内枠でしたし最後勝ちに行く競馬をしました。いつもと違うリズムで勝ちにいった分甘くなりました。この経験は次に生きてくると思います」と話しているように、いつもとは違って序盤から出して、この馬にしては攻めの競馬を行っていた。

現状それで最後甘くなってしまったように経験値も足りない。GIを勝つとなるとかなり展開、馬場が向かないと現状難しそうだが、牝馬G3は上がりの掛かる一周条件が多いからね。また持ち場に戻れば斤量次第でチャンスはあるだろう。

8着コナコーストは陣営の言う通り逃げの手に出て下がってしまった。なら控えて勝てたかというと、結局切れ負けしていたと思う。体つきは良かったが、この馬にしてはパドックからどうも気合不足。

1週前、当週とだいぶびっしりやっているが、反動があった可能性も結構あるんじゃないかな。母コナブリュワーズは短距離馬だったし、祖母アンブロワーズはマイラーで、2歳時に函館2歳Sを勝っている馬。

今までは能力だけでごまかしてきたが、ひと夏超えて本来の適性が出てきたかもね。3歳馬あるある。もうマイル以下の馬になっている可能性がある。調教もやけに動くし、この手のタイプはひと夏超えると距離適性が短くなっている場合が多い。

それだけに来年の阪神牝馬Sで内枠引かないかと今から楽しみにしている。それこそ京都牝馬Sでも…。まー、その前にターコイズにでも出てくるかな。エリザベス女王杯はやめてほしい。

9着ヒップホップソウルは武史の「スローペースになり、力を出し切れませんでした」というコメントが叩かれてるみたいだね。スローだったらもっと前に行けよって。

外枠から強引に行って残るような馬だったらそもそも紫苑Sであの形から負けていないし、序盤から出していって実はハイペースだったらどうせ叩かれる。これはもう結果論。まだGIの外枠で足りる馬じゃないってことだと思う。

今後は中山や福島、札幌の芝1800mの重賞で、それなりに内枠の時や道悪の時に買っていく馬じゃないかな。この一族は母ダンスファンタジア、祖母ダンスインザムードと『スランプ期』があった。いずれトンネルに入ると見ている。そのタイミングを見守っていきたい。

10着ドゥアイズはポジション取りに敗れてしまい、1コーナー前までに後手に回ってしまった。オークスはスタートの失敗、桜花賞は忙しかったことを考えれば、仕方ないレースは多い気がいるんだよな。

ただし、そういう仕方ない要因を毎回作ってくる馬。現状ドゥアイズから買うのは怖いね。上がりの掛かる1800で見直したい

11着ラヴェルはもっと走れる馬なんだけどな。1800のハイペースで手綱を抱えきれなかった前走ローズSはノーカン。今日は2000mで手綱を抱えられていたし、距離は2000以上向きだと思う。

ただ極端に揉まれ弱くて内目で溜めて運べないという弱点を抱えている。今日は外から先行できたが、毎回こうはいかないだろう。

唯一リバティアイランドに勝った馬であるように持っているポテンシャルは高いが、現状それ以上に課題が多過ぎる。2000以上の少頭数の外枠ならありだと思うが、そんな都合のいい条件はホイホイ揃わん。

14着ピピオラは2、3走前の数字がいい。2000mでGIは敷居が高いが、マイルの3勝クラスならまだ違う。ここ2年、3月の中京でマイルの牝馬限定3勝クラスの豊橋Sが組まれている。ここに短縮したところで狙いたい。

例年2月の半ばに初音Sという牝馬限定3勝クラスが東京で組まれるが、初音は1800なんだよなあ。マイルのほうがより期待感はある。

18着コンクシェルも狙いどころは一緒。3走前の中京1600m鞍ヶ池特別が超優秀。中京マイルでハイレベルの数字を出せる馬が京都内回り2000mで合うわけがない。短縮すれば変わると思うが、使い詰めだった影響か今日は硬かった。リフレッシュして立て直しが必要かも。


さて、今日最後はリバティアイランド。ここまで1万2000字。今日もいっぱい書いてしまったな。ちょうどラグビー、フランスVS南アフリカが始まろうとしている。

あまり3歳の女の子に言いたくはないが、ラガーマンみたいな体つきになってきたな。中間50kg増えたという報道もあったが、放牧に出すと増える馬だからまー、それはいいとして、そこから絞り込んで更にパンプアップしていた。ケツの大きさがヴァルアサエリ愛だよ。

その分ちょっと本質が出てきて将来は1600~2000くらいで落ち着くのかなという気配はあるが、今年に関しては2400mもまだ問題ないと思う。オークスであんな勝ち方をした馬に2400も問題ないなんて言うのは変な話だけどね。

裏話でも8割ちょっとって話だったが、実際パドックも80~85という感じ全然MAXじゃない。これも裏話に書いたようにジャパンCに進むことが内定していた馬。明らかに視線はそっちを向いている。

80ちょっとでこの勝ち方だ。100に近づけてくるであろうジャパンCでどんな馬体で出てくるのかが今から楽しみだよ。ラガーマンか、レスラーか、ボディビルダーか…

最後2着のマスクトディーヴァに1馬身差まで迫られているが、そもそも仕掛けるタイミングはリバティアイランドのほうが圧倒的に早いわけで、実際には4、5馬身差くらい能力差があるように感じる。

決して言い過ぎではないんだよな。だってこれで8割ちょっとなんだもの。8割ちょっとで、明らかに早めに踏んで動いて勝ってしまうのだから、ちょっと次元が違う。着差以上に強いってこういうことを言うんだよな。

中には1馬身差に迫られたことで大したことないみたいな論調もあるようだが、これは上記から明確に否定させてもらう。

川田も最後まで持つと信じて動いているもんな。そして早めに動けるように道中で態勢を作っている。年々道中の逆算の精度が高まってきたように感じる。

どのポジションを取れば後から楽になるかを考えて乗っている分、結局楽に抜け出しているように見えるんだよね。見るべきは4コーナーからでなく、スタートからの組み立て

割と数年前までとりあえず出して前目で粘らせるというレースも結構あったんだが、今は思考が伝わってくるレースばかり。デビュー20年目、川田の完成形が見えてきた

桜花賞が外回りのマイルになってから、三冠牝馬がよく誕生するようになった。もちろん牝馬を仕上げる技術が上がったのも影響しているが、魔の桜花賞ペースなんて呼ばれていた内回り阪神マイルと2400のオークス、内回り2000の秋華賞を全部勝つなんて至難の業。

その桜花賞が外回りマイルになり、地力を問われるようになって三冠牝馬が増えた。ただこれまでの三冠牝馬の中で、一番機動力を使って秋華賞を突破した馬だと思う

機動力があって、溜めても爆発力があって、こんな馬が次、ジャパンCで54kgを背負うのは許されるのだろうか。古馬牡馬たちからクレームが来るんじゃないか。それくらい強い。


ただオークスがちょっと強過ぎたかな。冒頭のベテランの話を思い出してほしい。

俺がもし斜行したりして、三冠リーチ掛かってる馬の邪魔でもしたらと思うと、どうしてもガッツリとフタしに行けないんだよ

ここまでの回顧を読んで、リバティアイランドのマークはどうだっただろう。確かに1コーナー前までのドゥアイズとのやり取りは激しかった。見どころは多かった。しかしその後、リバティが揉まれるところがあっただろうか。

川田が逆算して揉まれにくいポジションを取った影響はある。有力馬たちが内枠に入ったことで、リバティにフタをしに行けない状況ができてしまったこともある。それにしてもだ。

大本命の女王が、いいポジションから一番早く動くレースで良かったのかという思いはある。それだけ川田が上手く乗っているから、決してマイナス面ばかりではないが、2着以下が何もできず、何もせず負けてしまっている面も否めない。あえて厳しく見ればね。

ラヴェルの瑠星あたりは厳しい乗り方をしているし、みんなが遠慮していたとは言わん。ただ内心、ガッツリ締めたり、早めにレースが動いてリバティが困る展開も見たかった


なんて、だからと言ってリバティアイランドの三冠の価値が下がるわけではない。ここまでの数字、内容から三冠牝馬になって当然の馬。

これだけの馬を扱うスタッフさんたちは相当気を遣っているだろうし、このチームはかつてディープインパクトやダノンファンタジー、ミッキーチャームといった面々に携わった人間で構成されている分、積み上げた経験が間違いなくいい方向に出ていると思う。

チームが仕上げて、最後にバトンを受け取った川田がレース展開を逆算して結果を出していく。素晴らしいチームだと思う。もちろんその中心は圧倒的な能力を秘めた女王。

このチームが今後、リバティアイランドという名牝をどう成長させ、仕上げ、結果を出していくか楽しみしかない。

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