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23年菊花賞を振り返る~名手の歴史的好騎乗に芦毛の菊花賞馬の幻影を見た~

18年ぶり、なんだそうだ。

いや、マスクが総裁に褒められたのが、ではない。さすがに3年くらい前に1度褒められた記憶がある。

何が18年ぶりかって、菊花賞がフルゲートを割ったのがさ。今年は17頭立て。菊花賞のフルゲートは18頭。17頭以下なのは05年のディープインパクトが勝った年以来18年ぶりとなる。ああ、そういえばフルゲート割ってたなあの年。

同じく今年の菊花賞で○年ぶりというワードで話題になったのは『ダービー馬VS皐月賞馬』。こちらは23年ぶりなのだという。00年、エアシャカールとアグネスフライトの年以来だね。

結構使い分けがどうのこうの言われていたが、どちらかが故障することも多かったしなあ。それこそ3歳馬が天皇賞秋に回るのが珍しくなくなってきたし、別に適性ある舞台使えばいいじゃんと思っている派だから、皐月賞やダービーを勝ったら必ず菊花賞に行けなんていう考えはマスクの中には微塵もない。

そもそもダービー馬がここ10年、菊花賞に参戦したこと自体2回しかない。14年ダービー馬のワンアンドオンリー(9着)、20年コントレイル(1着)だけ。

関東所属のダービー馬が菊花賞に参戦するのは89年ウィナーズサークル以来だって言うんだからびっくりしちゃうよね。そもそも関西馬のほうが強い現代において、どうしても仕方ない話なのかもしれないが。

今年のポイントの一つに、この色々な○年ぶりをかき集めたようなダービー馬タスティエーラが3000m持つのかという項目があったのは間違いないと思う。

今回枠が出て最初に目についたのが、極端に分かれた枠順だった。タスティエーラ以外の人気馬が外に固まったんだよ。サトノグランツ、ハーツコンチェルト、ソールオリエンス、ファントムシーフ、ドゥレッツァ…

上位6番人気以内で一桁馬番に入ったのはタスティエーラだけ。何度も書いているから今更詳細は省くが、強い馬の後ろがベストポジションになりやすいのが競馬だ

人気馬が外に固まった以上、タスティエーラの後ろは人気薄の伏兵になる可能性が高い。誰がモレイラの後ろを取るのか、そして外の人気馬たちがどういう隊列を組むのか、これもマスクの興味のあるところだった。

菊花賞 出走馬
白 ①トップナイフ 横山典
水 ⑤パクスオトマニカ 田辺
赤 ⑥リビアングラス 坂井
青 ⑦タスティエーラ モレイラ
黄 ⑧サヴォーナ 池添
緑 ⑪サトノグランツ 川田
紫 ⑫ハーツコンチェルト 松山
橙 ⑭ソールオリエンス 横山武
黒 ⑮ファントムシーフ 武豊
桃 ⑰ドゥレッツァ ルメール

スタート。まずルメールのコメントに照らし合わせながらレースを見ていこうと思う。

1周目は静かな騎乗をしたかったけど、馬はすごく元気でフライングスタートしました。前の方になったので逃げの方がいいと思った

ルメールは「フライングスタート」と言っているが、これはスタートの出がフライングだったわけではない。実際スタートシーンを見るとスタートは大して速くないのが分かる。このスタートなら普通に控えると思っていた。

ルメールが「フライングスタート」と言っているのはその後だ。これを画像で説明するのは難しいから映像を見てほしいんだけど、他のジョッキーと比べ、桃ドゥレッツァのルメールの肘が下がっていることがお分かりだろうか。

ルメールは露骨に手綱を引いて折り合わせたりはしないから分かりにくいのだが、肘を下げている=手綱を引いているわけで、ドゥレッツァが掛かっているんだ。800mの距離延長なんだから掛かるのも当然っちゃ当然。

ここでルメールには2つの選択肢が与えられる。

1.そのまま好位集団で何とか折り合わせる
2.手綱を緩めて馬のやりたいようにさせる

ルメールは「前の方になったので逃げの方がいいと思った」と言うように、無理して抑えずハナに行く選択肢、つまり2を選んだんだよ。

馬はハナに行くとむしろハミが抜けて折り合うことがある。好位で何とか折り合おうとしても、元々8枠17番であることから外を回されてしまう。それを嫌ったのもあるんだろうね。

水パクスオトマニカと赤リビアングラスはびっくりしただろうなあ。たぶんお互いがハナ候補だと思ったろうし、パクスオトマニカの田辺は赤リビアングラス瑠星を制してハナに行った時点でもうハナを取り切ったと思ったはず。

赤リビアングラスも水パクスオトマニカに行かれた時点で2番手だと確信を持ったろうが、そしたら桃ドゥレッツァが外から上がってきた。たぶん田辺も瑠星も色々展開は想定したろうが、大外のドゥレッツァとルメールがハナを奪いに来る想定はなかったと思う

すでにハナを切った馬をドゥレッツァが交わしにかかったことで、今年の菊花賞は前半からやけに速いレースになってしまったんだ。

☆23年菊花賞
12.7-11.7-11.1-12.3-12.6-12.9-13.1-13.0-12.8-12.3-12.1-11.6-11.7-11.4-11.8 35.5-34.9 

今年の菊花賞のペースを見てみよう。この太字にした11.1の部分が、1つ上の写真。1周目3、4コーナーにあたる。速いな、11.1は。前半3Fで見ても35.5は過去20年の京都開催菊花賞で4番目に速い

前半3F35.5以内の菊花賞(過去10年、京都)

・15年 35.4
1着キタサンブラック 5-5-10-8
2着リアルスティール 7-8-7-7
3着リアファル 2-2-4-3

・16年 35.3
1着サトノダイヤモンド 8-8-9-5
2着レインボーライン 14-14-16-12
3着エアスピネル 3-3-5-5

さすがに前半から35秒前半になると基本は差し有利だ。ここ10年以内で35.5以内だった京都菊花賞は2度。どちらも差し有利。

15年 12.7-11.1-11.6-12.3-12.5 60.2
逃げ馬 15番人気15着 スピリッツミノル

16年 13.0-11.3-11.0-12.4-12.2 59.9
逃げ馬 13番人気13着 ミライヘノツバサ

23年 12.7-11.7-11.1-12.3-12.6 60.4
逃げ馬 4番人気1着 ドゥレッツァ

前半1000mの比較だとこんな感じ。大して差がないと言える。確かに力の足りない馬が刻んだ側面は否めないが、普通であればドゥレッツァも垂れておかしくない流れだったんだ。

中盤の話をする前に、序盤の各馬の隊列構成も見ておこう。

さすが上位騎手の皆さんだよ。これは1周目4コーナー前なんだけど、黒ファントムシーフの武さんの真後ろに青タスティエーラのモレイラさんがいる。

こちらも何度も書いているから今更詳細を書くことはないが、ベストポジションは強い馬の後ろだけではない。武豊の真後ろというポジションもベストポジションになりうる

過去に短期免許で来日した外国人騎手が口を揃えるもんね、「豊さんの後ろについていれば安心だ」って。フラフラしない、進路を綺麗に開けてくれる、ペースを間違わない。俺も後ろにつけたい。混んでる駅とかでこういう人の後ろにつけたい。

でもそもそもこの黒ファントムシーフの真後ろには緑サトノグランツが入る予定だったんだよな。

これは1周目3コーナー、外回りとの分岐点だが、この時点では青タスティエーラと緑サトノグランツがほぼ同じ列にいる。この時点で黒ファントムシーフの真後ろはサトノグランツが入る可能性が高い

ところが青タスティエーラのモレイラが少し掛かり気味だったこともあるにしろ、やや強引に黒ファントムシーフの真後ろに入りに行ったんだ。これで緑サトノグランツが1列後ろに下がってしまう。

モレイラが前に入ったところ、動画25秒くらいで川田が声を出しているのが分かる。裁決には引っかからない軽微な動きだが、ああいう外への入り方はちょっと危ないし、声が出るのも分かる。

自然と川田は青タスティエーラの後ろ、マスクが冒頭ポイントだと述べていたポジションに入ってラインができたんだけど、川田としてはもう1列前、ファントムシーフの真後ろに入ってタスティエーラを締めたかったところだろう

まだ1周目の4コーナー。残り2400m近くあるが、上手い人たちはもうポジションを取りに行く。長距離でも序盤が重要なのを分かっているんだよな

ペースは速かったし、ここまでは武さんの後ろを取れたタスティエーラ有利のレースだった。川田のポジションも悪くはないが、後々この前に入られたのが響いてくる。後述。

そういう観点で考えると橙ソールオリエンスは枠がよろしくなかった。

先程ファントムシーフ→タスティエーラ→サトノグランツでラインができたと書いたが、橙ソールオリエンスだけ1、2頭分列から外れているのが分かる。

冒頭で枠順のポイントを載せたが、これは当初から懸念していた。有力馬が外枠に集まっていたが、ソールオリエンスは14番。

タスティエーラが引いたのが7番だから、間に6頭も馬がいる。その6頭がみんな追い込み馬ならまだしも、さすがにそんなことはなくて、サトノグランツ川田という意識の高い騎手がいることもあってほぼほぼポジションを取られてしまうんだよな。

武史が悪いというより、これはもうどうしようもない。それこそサトノグランツが出遅れない限りタスティエーラの後ろは取れなかったと思う

本来であれば更に3つ外のドゥレッツァもこうなるリスクはあったんだけど、まさかハナに行くとはなあ…。たぶんドゥレッツァから買った人の中で、ハナに行くと見て本命にした人、全国的に見て2、3人いるかどうかだと思う。それだけ当てるだけで1万円くらいもらっていい。


さて、中盤の位置関係を頭に入れた後にもう一度ペースの話に移ろう。ここから先は自分がルメールになった気分で考えてみてくれ。

☆23年菊花賞
12.7-11.7-11.1-12.3-12.6-12.9-13.1-13.0-12.8-12.3-12.1-11.6-11.7-11.4-11.8 35.5-34.9 

前半3F35.5とそれなりに速いペースで入ってしまった。当然速いペースで飛ばしたままでは最後垂れてしまう。どうする、家康。どうする、ルメール。どうする家康、最終回が少しずつ近づいてきたな。

なんてことはない、ペースを落とすよね。これは当然だ。太字の部分、これは地点で書くと4コーナー入口→(12.3)→直線入口→(12.6)→直線半ば→(12.9)→直線出口→(13.1)→1コーナー出口にあたる。

ルメールは1周目の直線半ばからもう1F13.0を刻んでペースを落としていたんだよね。0.3秒ずつ

日々生きている上で0.3秒程度の違いなんてまるで意識することはないが、ほんの少しずつ、後ろが気づくかどうか分からんくらい次第にペースを遅くしていった。

この0.3秒ずつ、少しずつ遅くなっていったラップを察知して、早めに動いたジョッキーがいた。白トップナイフに騎乗していた横山典弘さんだ。

今回は最内枠を引いて穴人気していたが、スタートで遅れてしまい、そこで膝蓋が外れてしまったのは運が悪かったなあ。こればかりはもうどうしようもない。その分後ろからになってしまったが、一人直線半ばから動いているんだよ。

2周目2コーナーにはもう真ん中くらいまで上がってきているもんね。橙ソールオリエンスに乗っていた三男はどう思ったのか聞いてみたいものだね。「え、親父早くね?」と思ったか、「さすが親父」と思ったか。

端から見たら明らかに早い仕掛けだが、ラップを見ると少しずつラップが遅くなっているところでの動き。トップナイフという馬はワンペースだから、ここで動く判断自体は面白いものだったと思う。

いやいや、なら落ちたところで武史も動けよと思う人間もいるかもしれないが、これはもうトップナイフとの立場が違う。片や皐月賞馬で人気を背負う存在。片や札幌記念2着があるとはいえ人気はそこまでなく、マークも甘い。

まー、ノリさんならソールオリエンスに乗っても動いていきそうだけどな(笑)

加えて動いていけなかった理由がもう一つ。

☆23年菊花賞
12.7-11.7-11.1-12.3-12.6-12.9-13.1-13.0-12.8-12.3-12.1-11.6-11.7-11.4-11.8 35.5-34.9 

この13.1-13.0と並んだところが1、2コーナーだ。先程同じように前半3Fが流れていた15年、16年の話をしたが、同年の1、2コーナーのラップを上げる。

15年 13.7-13.7
16年 13.6-13.2
23年 13.1-13.0

速いんだよ、今年は。序盤流れたら前は一気に緩めて脚を溜めに掛かるものだが、逃げているルメールはペースを少しずつ落として脚を溜めている。極端な山がない。

ノリさんこそ上がっていったが、一気にまくり上げる形になっていない。もう少しガッツリ緩めば後ろも一気に上がれるところだが、ルメールが慎重にペースを落としているからそうはなっていないのだ。

これではソールオリエンスやタスティエーラが早めに前を捕まえにいけない。上がっていくなら1F12.5以内を連発しないといけないし、まだ残り1200m以上あるのにそれは難しい

向正面。ここで面白かったのは水パクスオトマニカが外に持ち出したことだった。2コーナーと向正面入口を比べるとパクスがどれだけ外に持ち出しているかが分かる。

おかげで赤リビアングラスがパクスの内に入って、桃ドゥレッツァを捕まえに行く形になっているんだ。田辺も随分開けるなあ。

開けたのは馬場を意識したものだと思う。よく見ると黒ファントムシーフの武さんが、黒丸の部分を1頭分だけ開けて回っているんだ。

何もなければこの部分は開けなくていい。それをわざと開けているということは、絶対何か理由があると言える。

その後ろにいる青タスティエーラのモレイラ、緑サトノグランツの川田もこの黒丸のラインを外しているあたり、この黒丸の部分より外の芝の状態のほうがいいんだろうな。するとパクスオトマニカが極端に内を開けているのも説明がつく。

そうなると困るのは橙ソールオリエンスだ。ただでさえファントムシーフ→タスティエーラ→サトノグランツのラインに入れていないのに、その1列外を回され、ロスのある形になってしまっているのだ。

何度もタラレバを書いて申し訳ないが、これがもし、サトノグランツより内の枠を引いていたら、たぶんサトノのところにソールがいた。枠順が生み出した妙だよなあ。

ならタスティエーラの後ろを取れた緑サトノグランツのほうが有利だったかというと、これがそうでもなくて、橙ソールオリエンスの武史に外から締められてしまっているんだよね。

ここがサトノグランツの弱点だ。予想にも書いたと思うのだが、この馬は反応が鈍い。前走もひたすら追って、最後他の馬が止まったところを差してきた。

反応がスムーズであればここでソールに締められる前に内から張れるのだろうが、反応が鈍くて加速がつかない分締められる側になってしまう。まー、今に始まったことじゃない。仕方ない。

前のほうでも締められている馬がいた。紫ハーツコンチェルトだ。外から動いてきた黄サヴォーナが、コーナーで内を締めながら回ったことにより、白トップナイフが締められ、その隣にいた紫ハーツコンチェルトが更に内に押し込められる形になっている。

ハーツコンチェルトは不器用なこともあって前走も外目を回っていたが、今回こう押し込められる形だと不器用な馬には苦しい

下り坂を降りるあたり。ここで青タスティエーラのモレイラの判断力が光る

セオリー通りであれば、青タスティエーラは前を走る黒ファントムシーフの外側から上がっていく局面だ。仮にタスティエーラが外から上がろうとすると、橙ソールオリエンスが更に外を回されることになるから、だいぶしんどい。

ここで安易に外を選ばなかったのはモレイラのファインプレーだ。

モレイラは自分の前にいた黒ファントムシーフだけではなく、更にもう1頭前にいた黄サヴォーナの動きまで見ていたんだろうな。

仮に黒ファントムシーフが動くとしたら、サヴォーナの外側からだろう。ここでファントムが外目に動くと、その分青丸の部分が空く。

それを先読みして、あえて追い出しを待っていた動きに見えるね、これは。まー、1頭半分のスペースしかないが、モレイラレベルのジョッキーならこの程度のスペースがあれば十分だ。たぶん内山信二くらいの幅があればモレイラは入れる

青タスティエーラはまだいいとして、問題はその後ろにいた緑サトノグランツだ。

前述したようにサトノグランツは反応が鈍い。一度詰まったら終わりみたいなところがある。この局面は2択で、ソールオリエンスより外を回っていくか、青タスティエーラの後ろをついていくかの選択肢がある。

タスティエーラの後ろはギャンブル過ぎる。だってモレイラが捌けなかったらその後ろにいる自分も詰むんだもの。エンジンを吹かし続けないといけないから、川田に与えられた選択肢は外しかない。

これが前半部分に書いた『サトノグランツ川田がタスティエーラモレイラにやや強引に前に入られた』部分に繋がってくる。

ファントムシーフの真後ろだったらここで進路が一択にはなっていないのだから。まー、これも競馬だから仕方ないんだけど、1つポジション取られるだけで自分の選択肢がなくなっていく競馬は怖いものだ。

内はだいぶ渋滞していたなあ。締められた紫ハーツコンチェルトが行き場をなくしてしまっていて、その後ろ、紫のノッキングポイントがぶつかって不利。ハーツもノッキングもどちらもバランスを崩している

しかしどっちも紫はないよな。色がなさ過ぎるんだよ。別に虹色出せとかそんなワガママは言わないから、せめてもう1、2色欲しいところだよ。アカウントの名前に色が入っているのに色不足で説明できないんだから悲しい話だ。

そもそもなんでこんな内で渋滞が起きてるかって、結局ペースの問題なんだよな。

☆23年菊花賞
12.7-11.7-11.1-12.3-12.6-12.9-13.1-13.0-12.8-12.3-12.1-11.6-11.7-11.4-11.8

今年の菊花賞は極端に緩んではいないものの、中盤少し緩んで、ここで馬群がある程度詰まってしまっている。もう少しスペースがあれば話は変わってくるのだろうが、不器用な馬がいたら捌けないレベル。

何より上手いのはルメールだ。確かに中盤それなりに緩めているが、16年のように1F13.6が入るとか、そういう極端なスローに持ち込んでいない。

向正面で他馬に行かせているが、これも極端なスローではないから、他の馬たちに脚を使わせている。

加えて今年は『レースが動くのが早かった』んだよ。

☆23年菊花賞
12.7-11.7-11.1-12.3-12.6-12.9-13.1-13.0-12.8-12.3-12.1-11.6-11.7-11.4-11.8

この太字の部分、残り1200mから残り800mが24.4だったんだ。

京都外回りにおいて、残り1200mから800mというのはこの赤矢印の部分。上り坂だ。24.4は過去10年の京都開催菊花賞で2番目に速いタイムだったんだ。

ルメールが的確にラップを刻んで道中極端に遅いラップがなく、なおかつ代わってハナに立ったリビアングラスが上り坂でもペースを速め、後ろの馬の脚が完全に溜まらない状態になってしまった

菊花賞 上がり3F上位
34.6 1着ドゥレッツァ 1-1-3-2 道中内
34.8 2着タスティエーラ 9-11-9-8 道中外
35.1 3着ソールオリエンス 11-12-12-8 道中外
35.1 7着マイネルラウレア 15-15-12-12 道中内
35.1 8着ナイトインロンドン 11-12-12-15 道中内
35.1 10着サトノグランツ 11-12-16-12 道中外

これは上がり3Fタイムベスト3を並べてみたものだ。35.1で4頭並んでるから6頭もいるけど。

外枠から外目を回った人気馬の上がりが、インを立ち回ったマイネルラウレアやナイトインロンドンと同じで、なおかつイン前で立ち回っていたドゥレッツァより上がりが遅いという状況が生まれてしまったのだ。

ちなみに残り1200m→残り800m区間がここ10年一番早かったのが15年菊花賞。勝ったキタサンブラック、2着リアルスティールは共に内目を追走していた。上り坂から速いと外差し組が不利になるという仕組みだな。

しかも外組が不運だったのは黄サヴォーナが曲がりきれなかったことだろうな。

いるんだよ、たまに。京都の外回りは3コーナーを頂点に上り坂があって、そこから下り坂に入る。そこで勢いがついてしまって、4コーナーで曲がれない馬がいる

コーナーの角度が今年改修されたものの、こういう馬はどうしても出てしまうんだよ。黒ファントムシーフがそのアオリを食らっている。

これ先程、青タスティエーラが黒ファントムシーフの外を回さずインで我慢したと書いたが、もしファントムの外を回っていたら、4コーナーでサヴォーナの外飛びに巻き込まれていた可能性がある

そういう意味でもモレイラが外を回さず我慢したのは大正解だったと言っていい。

サヴォーナの影響で黒ファントムシーフ、橙ソールオリエンスは更に飛ばされ、緑サトノグランツも当然その外に行くしかない。

ロスがなかった桃ドゥレッツァ、青タスティエーラとは対照的だ。これが着順を分けたポイントの一つだろう。


これ負けた馬、誰から書いていこうかね。とりあえず3着ソールオリエンスから触れていくか。

序盤から書いているように、致命的だったのは14番枠。最後までラインに入れず、後手に回りまくっての3着。見方を考えれば強い内容だったとも言える。

ただ溜めも利いていなかったとはいえ、ラストは地力だけできたような3着。陣営がレース前から言っていたように、本質は2000~2400、もしくは1800向きということなんだろう

そもそも兄貴のヴァンドギャルドがマイラーで、姉のアルベルティーヌやセリノーフォスは短距離馬。気難しいスキアの子だけに、3000より2000前後のほうが断然乗りやすそう。

右回りでコーナーで外に張る癖は次第に抜けてきたものの、見ている感じは左回り向き。するとジャパンCということになる。今年ジャパンCを使うとセントライトから中1カ月で3連戦とお釣りがなさそう。来年かな。それ以前にドバイでもいいが。

週中ツイッターに書いたように、馬体からも3000は長い。それでもここまで走れている能力を評価したい馬。まだ良くなる余地がありそう

4着リビアングラスは外の馬たちに負荷が掛かった分、4着に粘り込めたところはある。ただこの馬、阿賀野川特別の数字がまあまあいい。力をつけているのも間違いないところ。

楽に行かせてもらった場合の万葉Sってところかな、狙いどころは。そもそもまだ3勝クラスに出てこれるんだよなあ。現状重賞を勝つまでは行かなさそうだが、オープンには上がりそう。


5着サヴォーナは前走の神戸新聞杯が+12kgで、今日が+8kg。絞れていないのではなく、成長している。前走は見た目に太かったが、今日はそんなふうに見えなかった。中身がだいぶ詰まってのプラス体重だったと見たい。相当馬が良くなっている

池添がレース後「1歩目が遅いから、菊花賞はすぐにコーナーが来てしまうのであの位置になりました」と話しているように、今回は弱点がはっきりしたのが収穫。コーナーまで遠いコースの2400m以上ならいいとなると、日経新春杯なんかはいいんじゃないかな。

京都外回り2200は1コーナーまでが遠いが、2200以下だとスピード面からやや不安がある。中山2200のAJCCも同様。阪神3000の阪神大賞典はコーナーが近いから不安。中山2500も同様。来年が楽しみな馬

6着ハーツコンチェルトはなかなか難しいね。乗り難しい。今回のような窮屈な形だと持ち味が生きないし、神戸新聞のように外を回ると内に残られる。まー、だからまだ賞金不足で困ってるわけなんだが。

まだ緩いし、これからの馬だと思う。3勝クラスは突破するとして、ダイヤモンドSみたいな広いコースの体力勝負かな、現状合いそうなのは。3400となると少し長い気もしないでもないが。

7着マイネルラウレア、8着ナイトインロンドンは現状このくらいだと思う。ラウレアは今後難しくなりそう。今の3000以上の上級条件はスピードがいるレースが多いしね。

もちろんこれからの成長次第ではあるが、どちらも札幌2600に出てきたら考えたい。どちらもまだこれからの馬。あとナイトインロンドンはもう少し落ち着け。テンションが高過ぎる。


9着ファントムシーフは武さんの言うように、距離っぽい止まり方。馬体も3000はちょっと長い。2000前後でまた。

まー、ダービーで切れ負けしているように、今後も詰めきれないシーンが多々ありそうだけどね。上がりの掛かる条件を狙っていきたい。函館記念とか、函館記念とか。

10着サトノグランツは前述したように反応が鈍いのがマイナスポイント。逆に言えば前が止まったところを差せるというのは長所なんだけど。ダイヤモンドSかな。阪神大賞典だと内回りの3000になるし。もう少し反応が早くなれば色々選択肢が増えるんだけどな。

15着ノッキングポイントは4コーナーで前のハーツコンチェルトにカマ掘って終わり。そもそも今日はテンションも少し高め。まー、2000でしょう。これでAJCC使ってきたらやや怪しいが。現状急かす条件だと良くないから、小回り2000はメンバー次第。


2着タスティエーラはよく頑張ったほうだと思う。確かにモレイラの判断が良くてロスは最小限で済んだが、削られた分の影響はある。

母も祖母も短距離馬だけに本質は2200m前後なのかなという感じはあって、長くて2500までという雰囲気はある。AJCC…にダービー馬を出してこないか。有馬記念は押さえたい。

春は使い込んでだいぶ背中が硬かったのに、今日のパドックはだいぶ背中が柔らかかった。相変わらずカイ食いが細くて調整は難しそうだが、逆に言えばそこに伸びしろがある馬。どこまで成長するかが楽しみだね。ドバイはその成長度合いで。まだ単までは厳しいと思う。


今日もようやく回顧を書き終わりそうだ。週末撮り溜めた番組を見ながら書いているわけだが、新婚さんいらっしゃいを録り逃したのが残念でならない。

ドゥレッツァのハナは驚いたなあ。レースから12時間近く経った今でもまだ驚いている。一番厚い目が当たったんだけど、そもそもこんなハナなんて想定をしていないから何も嬉しくない。ここまで当たって嬉しくないレースも珍しい

予想に書いているように、今年の菊花賞の出走メンバーで、2000m以上の距離でレース上がり1000m58秒切りをしているレースを経験した馬は、神戸新聞杯組以外ではこのドゥレッツァだけだった

前走2200mの3勝クラス日本海Sで後半1000m全部11秒台のレースを差し切って、いかにも菊花賞向きの数字を出している、とも書いたのだが、それだけに大外は最後までネックだったんだよね。

買う側の俺たちがそう思うんだから、ジョッキーはもっと頭を悩ませたはず。ルメールはレース前に色々考えただろうし、掛かることも頭に入れていたはず。

で、実際に掛かって持っていかれたところで、すぐにハナという選択肢に切り換えられるのが凄い。しかもハナに立ってからハミを抜いてくるんだもん。

前目で折り合わせるというのはルメールの真骨頂ではあるが、判断力の早さ、そして思考をレースに落とし込む技術、どれをとっても超一流。歴史に残る好騎乗だった

長距離はジョッキーの腕が出るとよく言う。まさにその通りだよね。一度ハナに立ってもそこで他馬を行かせて脚を溜めるって簡単な話じゃないのになあ。簡単にやっているように見せるからそれもまた凄い。語彙がなさ過ぎて、凄い以外に形容する言葉が思い浮かばない

もちろんそのルメールの思考についてきた馬も偉い。春は脚が弱くて十分攻められなかったが、そこで無理しなかったことが今に繋がっている。

今日の折り合いなんかを考えると2000前後のほうが乗りやすいだろうし、ホンコンJCTの内容からも来年の天皇賞秋が今から楽しみ。3200で買うとなるとちょっと勇気がいるなあ。


そういえば冒頭にダービー馬と皐月賞馬が菊花賞で激突するのは23年ぶり、ダービー馬がダービー終了後にリタイアすることも多々あったのが要因の一つと書いた。

仕上げの技術が確実に上がったことで、以前はすぐに故障していたような馬が大きな故障をしなくなってきた。ドゥレッツァもそれこそ10年、20年前だったら菊花賞にたどり着いていないかもしれない

23年か。時間としては長いが、日本競馬にとっては密な時間だったと思う。競走馬をレースに使う限り故障確率が0%になることはありえないが、下げること自体は可能。

あと23年後、それこそダービーから菊花賞直行とか、6月の2勝クラスを勝って菊花賞直行が主流になっているのかな、なんて考えてしまったね。

そういえば、ダービー馬と皐月賞馬が菊花賞でワンツーするのは、98年菊花賞以来25年ぶりらしい

98年菊花賞 セイウンスカイ 3:03.2
13.3-11.5-11.7-11.7-11.4-12.1-13.1-13.5-12.7-12.9-12.3-11.9-11.6-11.5-12.0 

23年菊花賞 ドゥレッツァ 3:03.1
12.7-11.7-11.1-12.3-12.6-12.9-13.1-13.0-12.8-12.3-12.1-11.6-11.7-11.4-11.8

前半1000m-中盤1000m-後半1000m
59.6-64.3-59.3 98年菊花賞 セイウンスカイ
60.4-64.1-58.6 23年菊花賞 ドゥレッツァ

厳密にはドゥレッツァは逃げ切りではないし、当時とは馬場も違うから一概に比較できるものではないが、今年の菊花賞に序盤飛ばし、中盤絶妙に緩め、後半再度ペースアップしてスペシャルウィークを撃破した芦毛の幻影を見た

なんて、勝ち時計もぴったり一緒なら話はより締まるんだがね。0.1秒だけ違うのもまた一興、そう思うことにした。

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