見出し画像

23年チャンピオンズCを振り返る~完成された隊列で差し馬はどう生きるか~

ウイングアロー、トランセンド、ゴールドドリーム…

いずれも歴史に名前を残すダートの強豪だが、この3頭の共通点は『同一年にフェブラリーSとジャパンカップダートorチャンピオンズカップをどっちも勝った馬』。

両方制覇している馬ならカネヒキリなど他にもいるのだが、同一年に限ればこの3頭しかいない。いかに両方勝つ難易度が高いかが分かる

この難易度は昔より高くなっているんじゃないかとマスクは思うよ。もちろん昔も東京1600と東京2100と、まるで違うコースだったからどちらも勝つのは大変だ。

ただ近年、フェブラリーSのタイムがめちゃくちゃ速くなっている。ウイングアローの2000年の勝ち時計が1:35.6。今年のフェブラリーこそ1:35.7と時計が掛かっていたが、昨年1:33.8なんかが出たように、ちょっと軽くなると34秒台は当たり前だ。

競走馬のレベルもここ20年でだいぶ上がった。以前よりスペシャリストが台頭しやすくなったことで、ジェネラリストが生まれなくなっている。ワンターンマイルのフェブラリーSと、一周1800mのチャンピオンズCは、200m以上に適性が違うと言っていい。

今年、レモンポップが4頭目のJRAダートGI同一年ダブル制覇を果たした。ゴールドドリーム以来6年ぶりの快挙だが、ゴールドドリーム、いや、そもそもそれ以前のトランセンド、そしてウイングアローとレモンでは状況が異なる。

過去3頭と違って、レモンポップは元々1400m以下を主戦場としている馬だ。少しずつ距離を延ばしていかなければいけないわけで、手探り度合いは過去3頭に比べて圧倒的に大きい。

戦前多くの人間が、レモンポップは距離が持つのかどうか頭を悩ませたと思う。マスクもその1人だ。まずはここからチャンピオンズCを見ていこう。


距離が怪しかったレモンポップが距離をこなした件

ライトノベルみたいなタイトルになってしまった。幼馴染の檸檬ちゃんの話を少しだけ想像したが、30秒ほどしてその想像は時間の無駄であることに気付く。

23年チャンピオンズC ラップ
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6
600m通過 36.4
1000m通過 60.9

過去5年 チャンピオンズCの通過タイム
18年
600m通過 37.1
1000m通過 61.9
19年
600m通過 36.6
1000m通過 60.8
20年
600m通過 36.5
1000m通過 60.4
21年
600m通過 36.5
1000m通過 61.4
22年
600m通過 37.0
1000m通過 62.4

今年の前半600m通過タイム36.4は、チャンピオンズCが中京で開催されるようになった14年から数えて10回中、4番目に速かった。19年~21年の600mが太字にしたように、36.5~36.6。0.1秒差なんて誤差の範囲みたいなもので、ほぼ同じタイムと考えていい。

つまり平均的なのだ。レース直後Twitterにマスクが「ひどく遅いわけでもない、速いわけでもない」と書いたのはこれを念頭に置いている。

今年の600m通過36.4、1000m通過60.9というのは、19年チャンピオンズCクリソベリル戦の600m36.6、1000m60.8とほぼ一緒。まずこの2Rを見比べたい。

19年チャンピオンズC 1:48.5
12.8-11.3-12.5-12.1-12.1-12.0-12.0-11.6-12.1
1着⑤クリソベリル 3-3-4-4
2着⑪ゴールドドリーム 4-5-4-4
3着④インティ 1-1-1-1

23年チャンピオンズC 1:50.6
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6
1着⑮レモンポップ 1-1-1-1
2着⑦ウィルソンテソーロ 13-13-13-13
3着⑤ドゥラエレーデ 2-2-2-2

この2Rを比較して、お気づきになっただろうか。

19年→1:48.5(1000m通過 60.8)
23年→1:50.6(1000m通過 60.9)

なんと勝ち時計は19年のほうが2.1秒速い。思い出してみてくれ、1000m通過タイムは0.1秒しか違わない。後半だけで2秒も変わってしまった

まだしっかり計算していないが、19年のチャンピオンズCデーより0.5~0.7秒ほど時計の掛かる馬場じゃないかな。それを差し引いても19年より1.5秒ほど遅い

この19年チャンピオンズは過去9年でダントツの数字だから単純にタイム比較すると分が悪いのだが、今年の時計は速くない。

19年チャンピオンズC 1:48.5
12.8-11.3-12.5-12.1-12.1-12.0-12.0-11.6-12.1

23年チャンピオンズC 1:50.6
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6

なんでこんなに時計が変わったかって、1000m通過後の400mが遅いのだ。19年は12.0-12.0で24.0に対し、23年は12.4-12.6で25.0。1秒も遅い。

14年のこのレース創設後、1000m→1400mのタイムで一番遅いのは昨年の25.3。今年はそれに次いで2番目に遅いのだ。

1000m→1400mというのはつまり残り800m→残り400mの区間にあたるが、高低差で見ると赤矢印区間にあたる。そう、3、4コーナーの下り坂の区間なのだ

当たり前の話だが、下り坂のほうがスピードが出る。自分で上り坂と下り坂を走れば分かるだろう。なおマスクはもう下り坂を走ると膝が壊れるから引退である。下り坂がほぼない札幌競馬場しか走れない。

23年チャンピオンズC 1:50.6
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6

つまりだ。今回のレモンポップのラップは、言い換えると『標準的な流れで、ペースが速くなる下り坂の部分でもペースが上がらず、坂をゆっくり下り余力を残したまま直線を向いた』ということになる。

こうして言葉にすると、1800が長い可能性がある馬が距離をこなした理由がなんとなく見えてくるよな。

同時に、なんだか一気に微妙なラップに見えてこないか。実際そうなのだ。前半一度12.9が入り息を入れ、後半上がるはずのところで息を入れている。だいぶ前に楽なラップと言っていい。

こういうことを書くと『なんで勝ち馬や好走馬を讃えないんだ、貶めるんだ』という意見が来る(実話。昨日もきた)。

それとこれとは別の話。マスクの回顧を読んでくれている面々は俺が回顧で各馬にリスペクトを込めていることは重々分かってくれているだろうし、数字面が低ければ当然その部分を指摘しなければいけない。

なぜレモンポップがこんな楽な逃げを打てたのか

今回のチャンピオンズCの予想に、パンサラッサとプロミストウォリアが登録からいなくなって、緩めの流れになるかもしれない、極端な後方差しが届かない可能性が高まった、とそんなことを書いた。

いいこと書くなマスク。馬券はテーオーケインズに置きに行ったことを反省しろよ。

そう、今回のチャンピオンズはパンサラッサがジャパンCに、プロミストウォリアが回避したことで先行馬が少なくなってしまった。まずこれが1つ目。

2つ目に、レモンポップのテンのダッシュの速さが挙げられる。スタートからの400mは12.5-11.0で23.5。過去5年で最速、チャンピオンズ過去9年と比較すると3番目に速い。

映像で見るとより分かるが、橙ケイアイシェルビー藤懸がだいぶ押したりステッキ叩いたりしているのに対し、桃レモンポップ瑠星は少し促しただけでハナに立ってしまった。初速が違い過ぎた

ケイアイシェルビーだって2走前に不良馬場のマイル・グリーンチャンネルCで逃げたように、テンは遅くない。そんなシェルビーを問題にしないくらい速い。

なおプロミストウォリアが逃げ切った今年の東海Sの前半400mは24.8。もちろん条件設定も馬場も違うから一概に比較できないが、レモンポップの今回の23.5より1.3秒も遅い

仮に今回プロミストウォリアがいたとしても、初速に関してはレモンポップのほうが速かったんじゃないかな。1400上がりのスピードをまざまざと見せたシーンで、一気に主導権を握ってしまった

3コーナー

これは前述、緩んだ下り坂の3コーナーだ。ここで桃レモンポップが緩めたということは、外からのプレッシャーがなかったということになる

仮に強力な先行馬がいたとしよう。これまで前半息を入れて楽に逃げているレモンポップにプレッシャーを掛けにいくだろうし、3コーナーで緩むなんていうことはほぼない。

しかし現実、ペースは緩んでいる。つまり赤ドゥラエレーデが攻めに行っていない。外の2番手がプレッシャーをかけないのであれば外の3番手が動いてプレッシャーを掛ける場面だが、外の3番手は橙ケイアイシェルビー。

自分が藤懸になった気持ちで考えてくれ。単勝15番人気の先行馬。人気通り実力は他馬に比べて劣る。一つでも上の着順を目指す上で、外の3番手から、

A.早めに動いてレモンポップを潰しにいく
B.その場で動かずギリギリまで脚を溜める

これでAを選ぶ人間はたぶん脳みそのリミッターが外れている。趣味は断崖絶壁からのバンジージャンプだと思う。

普通Bなのだ。当然藤懸もBを選んだ。俺だってケイアイシェルビーに乗って、もしこの形で3番手にいたら動かない。というか動けない。黄テーオーケインズはそもそもインだから動きにくい。

つまりレモンポップにとっては外の2番手も3番手も動かない理想的な展開になる。3、4コーナーでギリギリまで脚を溜める状況が生まれる。

ドゥラエレーデのムルザバエフが2番手で動かなかったことで先行勢全員楽になり、後ろにいた馬は一気に負荷の掛かるレースになってしまった。

まー、ムルザバエフは自分が残れればいいわけだから、何か悪いことをしているわけではない。単純にレモン以外に強い先行馬がいないのが要因なのだ。

そもそもなぜドゥラエレーデが2番手にいたのか

話は1コーナーに遡る。

過去3走 4角先頭があった馬
①メイクアリープ
⑤ドゥラエレーデ
⑨クラウンプライド
⑩ノットゥルノ
⑬ケイアイシェルビー
⑭アイコンテーラー
⑮レモンポップ

ドゥラエレーデとしては、やはり揉まれたくはない。セントライト記念はハナ、好走したホープフルSもUAEダービーも2番手以内。まー、誰が見ても分かる話だが2番手以内を取りたい。なのに内枠5番を引いてしまった。

クラウンプライドやノットゥルノは前走4コーナー先頭経験馬とはいえ対して速くない。1800の中央GIでハナに行くことはほぼない。ドゥラエレーデが2番手を取り切れるかどうかは、7枠と8枠のケイアイシェルビー、アイコンテーラー、レモンポップの出方による。

赤ドゥラエレーデのムルザバエフからすると、仮に逃げた場合、外の2番手に桃レモンポップがついてきて厳しいペースになる可能性がある。

しかもレモンポップのダッシュが前述通り速かった。それを見てすぐに外に向かって馬を誘導している。つまり、レモンを行かせてその外の2番手に切り返そうとしている。

もう少し後ろを確認してほしいな。確かに橙ケイアイシェルビーの藤懸が右からムチを入れて先行しようとしている。シェルビーが外の2番手を取る前に桃レモンポップの外の2番手を取りたい気持ちは分かる。

ただ気持ちが強過ぎたか、ムルザバエフは後方確認を怠って、右後ろにいた青グロリアムンディのルメールがバランスを崩している

裁決にも掛かっていないし決定的な場面でもない。競馬である以上ままある光景だが、後方の確認は自動車運転教習所の第一段階で教わることであって、俺はムルザバエフが乗る車に乗りたくはない。

第一段階を突破できなさそうなムルザバエフだが、橙ケイアイシェルビーが外の2番手に入る前にポジションを取り切ってしまったんだ。

もう少しケイアイが速くてもいいところだがね、こればかりはゲームじゃあるまいし、毎回速いとは限らない。

赤ドゥラエレーデが外の2番手を取り切ったことで、黄クラウンプライドの川田はポジションが1列下がってしまった。

11着クラウンプライド 川田騎手「パドックを出てから、気持ちが後ろ向きになる瞬間が何度かありました。いつもと全く違う形の競馬で気持ちが入らないままレースが終わってしまいました」

川田はレース後気持ちの面を敗因に挙げている。夏負けして間隔が中途半端に空いた分、少し攻めにくいスケジュールではあった。

馬体重512kgは前走比+15kg。見た目も少し大きい状況。昨年のこのレースは2番手だったとはいえ、テンの行き脚がそこまで速いタイプでもない。ドゥラエレーデに前に行かれたことに関しては別に大きな驚きはない。

道中外を回すだけになってしまったことで、『ペースが遅いのになんでもっと前に行かないんだ』という声も結構見られた。そりゃ結果論だよ。

序盤200mだけでそのレースのペースが速いかどうか当てられたらみんな苦労しない。むしろあなたはレースの最初の200m見て、そのレースの1000m通過が速いか遅いか当てられますか?という話になる。しかも馬に乗りながら。現実難しい。

川田の思考としては、相手は自分より後ろと見ていたのもあるんじゃないかな。結果的にペースはどうあれレモンポップが距離を克服して逃げ切った。

ただ戦前はレモンポップの距離不安、大外枠が疑われている状況。対して他の有力馬はメイショウハリオだのセラフィックコールだの、後ろも多い。

仮にペースが流れたとして、前前に行き過ぎれば当然後ろから差されるシナリオはありうる。それまでの中京ダートはよく差しも入っていて、前残りだけの馬場でもなかった。川田は馬場をよく見るから、その程度は確認済だろう。

後ろも警戒しないといけない以上、スタート後に出していってドゥラエレーデをブロックし、2番手まで付けるのはリスキー。ここで前に入られたことに関して理解できるし、コメント通りレースに対して後ろ向きだったのであればそもそもテンの行き脚も弱い

そうしてできたのがこの隊列だ。一番嬉しいのは桃レモンポップ。2番手、3番手が共に人気薄で力が少し足りていない状況。

よく攻めてくる川田の黄クラウンプライドはその1列後ろで、青グロリアムンディがいる分、内に入れない。有力馬は更に後ろ。この時点でレモンポップの形ができて、赤ドゥラエレーデも優位条件に立っている。

差し馬はどう生きるか

あの君たちはどう生きるかって映画あっただろ。賛否ある映画だと聞いているが、マスクはなんとなく危険な気配を感じて観に行っていない。

総裁はちょっと興味あると言っていたが、総裁の『ちょっと』はミリ単位程度の話で、実際ほとんど興味ないに等しい。映画館に行って見たい映画が変わるパターンだ。家庭でどう生きるか必死のマスクに、君たちはどう生きるかを観ている余裕はない。

レモンポップが主導権を握り、先行勢が隊列を固めてしまった以上、差し馬に選択肢はほぼない。唯一あるとしたら、『誰かがまくって隊列を壊す』ことだ。

これは向正面。まくるとするとここだが、橙ケイアイシェルビーの後ろ、外で動けるところにいるのが、前半から進みが悪く+15kgの黄クラウンプライドと、先行型なのに先行できず中団に置かれている紫アイコンテーラーだ。

アイコンはダートに変わってこれで4戦目だったかが、ダート初戦のBSN賞が8枠12番からの先行で、前走も2番手追走からの早め先頭。負荷のあるレースを経験していない

レース後モレイラが「ダートのレースで砂をかぶるのは今日が初めてで、非常に抵抗が見られた。リズムが悪くなり力を出し切ることができなかった」と話しているのだが、これまでやったことのない形になって明らかに苦しんでいる。

そんな馬に一気にまくれよと言うのも難しい話で、レースを壊すような馬がいないのだ

緑セラフィックコールはこの時点で最後方。前走もそうだが、エンジンが掛かるまでひたすら時間を要する馬で、下級条件ならまだしも、状況の1800で道中動ける馬ではない。これまでのレースを見ての通りだ。最後方でそれどころではない。

23年チャンピオンズC 1:50.6
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6

まー、そもそもまくれる流れだったかというと疑わしいな。中盤残り1000mから1F12.1という、1つだけ速いラップが入っているのが分かる。

残り1000m→残り800m地点というのは向正面、ちょうど下り坂がスタートする部分だ。当然ながら残り1200m→残り1000mより速いタイムが刻まれやすい

仮にここでまくるとすると、1F12.1より速いタイムでなければいけない。11.5前後か。いや、それでも足りないな。1F11秒前半は必要になる。

割と重たい今の中京ダートの一周コースにおいて、向正面で1F11秒前半で走れる馬がいたらぜひご紹介願いたいね。なかなか今そういうタイプはいない。ああ、ミックファイアは中京1800の中盤でたぶんその数字は出せないと思っているから候補から外してくれ。

前は隊列を固めた。中盤まくりも入らない。勝負どころの残り800を過ぎているのに前がまったく動かない。これでは後ろはどうにもならないのだ。差し馬は生きていけないのである。

まー、競馬は逃げ馬が一番有利だとよく言う。自分でペースを作れるからね。もちろん他馬の目標になるというデメリットはあるが、後ろの馬は結局ペースに左右されてしまう

もちろんイクイノックスとかディープインパクトとか、ああいう別の世界の生き物であるUMAは除く。あれらは俺の娘が持っている動物図鑑に載っていない。

結局後ろの馬は他馬任せになってしまうから、その分の不利はあるし、今回に関していえば前が固まった時点で事実上の終戦だった、と見ていいのではないかな。

23年チャンピオンズC 1:50.6
12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6

前述したと思うが、今年は残り800m→400mが、過去のチャンピオンズCと比べて2番目に遅かった。一番遅かったのは昨年。

22年チャンピオンズC 1:51.9
12.7-11.2-13.1-12.8-12.6-12.6-12.7-11.9-12.3

これは昨年のチャンピオンズのラップ。スタートから残り400mまで、全ての区間で今年より遅い。速いのはラスト400mだけで、それでも0.5秒しか違わない。

改めて書かなくても分かると思うが、非常に低調だ。勝ち馬ジュンライトボルトのその先の戦績、3着ハピの戦績を見てもらえれば察してもらえると思う。たぶんこの9年で一番低調なのが昨年。

2022年チャンピオンズC

22年チャンピオンズC
1着赤ジュンライトボルト
2着黄クラウンプライド
3着黒ハピ
4着緑テーオーケインズ

この3、4コーナーで緩むと外のロスが大きくなるんだよな、中京ダートは。内2頭分を走っている馬がワンツースリーで、1番人気の緑テーオーケインズは4頭目を回って4着だった。

残り800m→400mが24.8と掛かった15年は④サンビスタ→①ノンコノユメ→②サウンドトゥルーと内枠がワンツースリー。24.6と掛かった18年は②ルヴァンスレーヴが勝って、直線内を突いたウェスタ―ルンドが2着。

23年チャンピオンズC
1着桃レモンポップ
2着青ウィルソンテソーロ
3着赤ドゥラエレーデ
4着黄テーオーケインズ
5着黒メイショウハリオ

で、今年はというと、同じように内の2頭目を通った馬が上位を占めている。掲示板みんなそう。

23年チャンピオンズC
6着赤ハギノアレグリアス(5番人気)
10着緑セラフィックコール(2番人気)
11着黄クラウンプライド(3番人気)

一方外を回った人気馬はみんな掲示板外。まー、これは分かりやすいね。セラフィックコールにインを突けなんて、とてもではないがそれは無理。

エンジンの掛かりが遅い以上、どこかでブレーキかけたらその時点で終わり。こういう馬はゴチャつくインではなく外を回るもの。今日はもう前が固まった時点でノーチャンス。

序盤が流れず3、4コーナーが速くないと、その分馬群も固まる。すると中京ダート1800はコースの形状の問題もあって、黄線で引いた外の馬たちが、より外に放り投げられる形になる

対して桃レモンポップ付近のラインは投げ出されない。このロスの問題もあって、物理上内目有利になってしまう。内と外では走る距離自体違う。

そうすると掲示板を占めた上がり3F上位たちは、みんな4コーナーまでに内2頭分を走っていた馬たちが占めてしまう。外の馬たちよりロスがないんだから。

レモンポップ以外の実績馬が走らなすぎ」というご意見をいただいた。着順だけ見るとそうなんだが、走らなすぎというより、それなりに頑張って走っても、物理、構造上どうにもならないのである。欠陥コースだと以前も(以下略)。

ウィルソンテソーロは好騎乗だったのか

ウィルソンと聞くとマスクは元日本ハムと近鉄のナイジェル・ウィルソンを思い出す。思い出すだけで、特にこの話は広がらない。

ここで問題になってくるのは、隊列が固まって前残りの流れだったのに最後飛んできたウィルソンテソーロだ。これまで実績のない原が差してきたことで、称賛する声が多い。

まず前提としてマスクは原を応援している。付き合いもあるし。いいヤツだし。結婚もしたし、勝てたら更に良かっただろうなと思う。

ただそれとこれとは話は別で、本当に好騎乗だったのかは少し思うところもある。もちろん2着まで来たのは立派なことさ。こういう前提を書いておかないとうるさいからね、この時代。

そもそもまず出遅れている。ウィルソンテソーロ自体は結構出る馬だけにもったいない。

中京のダート1800はコースの構造上出遅れやすいコースの一つではあるが、もったいない。

ペースなどの問題から4コーナーまで内目にいたのは結果的に大正解なのだが、これ、よく見ると4コーナー前で黄アーテルアストレアの武史に外からブロックされているのだ

武史は前にいる緑ノットゥルノをうまく壁にして、青ウィルソンテソーロを外から締め進路を消している。むしろ原が武史にやられてしまっている。

で、武史に締められた結果、青ウィルソンテソーロは緑ノットゥルノの内から行くしかなくなった。

そうしたらここで勢いがつき過ぎたか、外のノットゥルノのほうに突っ込み過ぎちゃうんだよね。

おかげで緑ノットゥルノの松若がバランスを崩している。正面から見てもバランスを崩しているのが分かるが、斜め前から見るとよりはっきり分かる。

これで青ウィルソンテソーロの原に過怠金1万の処分が下った。極めて妥当な裁決だし、この程度の事象は競馬である限りよくある。仮にこの不利がなかろうがノットゥルノは脚色やコース取りから好走していない。

ただし裁決案件になっている騎乗をマスクは基本的に過度に称賛することはない(他の回顧でもそう。原に限らず)。もちろんそう動かないと仕方ない案件や、技術がある攻めならまた話は違うが。

出遅れて、勝負どころで締められ、直線で斜行している状況の騎乗に好騎乗と言うのは抵抗がある。ただレース後「追い出してから捌くのに手間取り技術不足です」と言っているように、原は今回の2着で慢心するような人間じゃない。それはよく知ってる。絶対いい経験になったのは間違いないし、今後に生きてくると思う。

余談だが、斜行の度合いで言えばここで不利を受けた松若の12R、タガノフリューゲルのほうが危ない。なんでフロムナウオンのほうを一回見てから強引に進路を取りに行くのか理解に苦しむ。過怠金10万の案件ではないが、5万もやや納得しがたい。

話を戻すと、コース取りは結果的にいいところに入ったが、それでもこのペースで伸びてきていることに一定の評価は必要だと思う。

JBCの予想でも書いたと思うが、ウィルソンテソーロに2000は長いと思っていて、白山大賞典の1着は小回りの分と相手のレベルの影響の勝ち切り、マーキュリーの1着は超高速馬場の分もあったと見ている馬。

砂が増えた大井の馬場より中央の馬場のほうが合っているのは間違いないだろうが、それ以上に短縮も嵌まったのでは。

ただフェブラリーは速いと1分33秒台の決着もある。そんなスピード勝負に対応できるかは何とも言い難い。案外かしわ記念のほうが向いている気がする。足りるかはメンバーによる。

しかしさすがなのはスタッフさんの手腕だ。以前骨折したこともあって調整が簡単な馬ではないが、シンボリルドルフやシリウスシンボリに携わった大ベテランがやってるだけある、本番にしっかり合わせてくる。長年培った技術を見たね。GIはスタッフさんたちの技量も楽しめる。

上位馬たちの次以降の狙い

そもそものレースレベルが微妙であることはラップの面から書いた。上位はポジション、通ったコースのアシストも大きい。そうなると3着の赤ドゥラエレーデは疑わしくなってくる。

Twitterにも書いたが、マスクは今までのドゥラエレーデの数字を評価したことがない。いや、評価したことがないというのは少々語弊があるな。未勝利勝ちの数字はいいのだが、それはあくまで未勝利の話。

いやホープフルS勝ってるやんと言われるだろうが、1000m61.5通過、勝ち時計2:01.5のホープフルに数字的優秀性を見出すのはなかなか難しい

正直ホープフルより差し競馬の宝塚、セントライトで先行しているほうが評価したいほど。

ホープフルを勝った際に乗っていたのがムルザバエフということで『ムルザバエフしか押せないスイッチがあるのではないか』と話題になっているが、これはタイミングの問題もある。

ドゥラエレーデ これまでの2000以下 小回り
2着 札幌芝1800m 未勝利
1着 札幌ダート1700m 未勝利
1着 中山芝2000m ホープフルS

2200以上が微妙に長い馬。そして見ての通りヨーイドンではなかなか難しい馬。すると2000m以下の内回りor小回りの芝か、ダートで、という話になる。

もちろん気性面から見るに簡単な馬ではないし、そういう意味で外国人ジョッキーと合うと思うが、使っているところの問題もある分決してムルザバエフ専用機とは思わない

今回に関しては3、4コーナーで緩んで息が入っているのがだいぶ大きい。するとこの先負荷の掛かるレースは最後止まると考えられる。

かしわ記念はメンバー次第でありだと思うが、フェブラリーSとなると今回ほど楽なペースにはならないだろうから疑わしい。川崎記念は2100でも前が楽になるだろうが、今年からドバイと日程が被る。たぶんドバイに行くだろう。

国内では買いどころが難しいタイプだと思うよ。そういう意味でもマスクはTwitterに今後の付き合い方がより難しくなったと書いた。これまでの実績ほど信頼感はないと見ている。

4着テーオーケインズはもう年内限りだし、レース後の反動が大きいから大賞典まで無理させるか疑問。出てきても疑いたい。

前に楽なペースになったとは書いてきたが、黄テーオーケインズのポジションを考えると正直ここから4着は物足りなさ過ぎる

これはもちろん、ケインズの2年前のチャンピオンズ1着の数字が頭にある分だ。2年前の数字は歴代のチャンピオンズでもトップ3に入ってくる優秀なもの。それだけの数字を出せる馬が、このポジションから4着。年内の引退は正しいと思う。よく頑張った。

明け21歳の父シニスターミニスターはもう種牡馬引退が近くなってくる年齢。後継は目立ったところだとインカンテーションしかいない現状、それなりに人気になるのではないかな。

キングカメハメハ産駒の牝馬と相性のいい血統構成だと思っている。ジェイドロバリーが生きてくれば、勝ち馬もそれなりに出てくるのではないかな。

5着メイショウハリオは調教もズブくなりつつある馬で、実戦でもそう。以前より追わせる馬になっている。加齢したダート馬なんて大体そんなものだから別に驚くことではない。

最近左回りもこなすが、右回りでよりいい。ただ前走の大井でダートが合わないとなると、これは困ったな。右回りのビッグレースは大井以外だと日本にはない(来年JBCが佐賀)。

阪神1800mアンタレスSなんかはいいが、前述したようにズブくなりつつある。あとは5月京都の平安Sか。これも悪くないと思う。晩年のオメガパフュームみたいなリズムになりつつある。

負けたことがあるというのが、いつか大きな財産になる

また山王学園の堂本監督かよと思われそうだが、スラムダンクファンのマスクを許してくれ。

湘北に負けた後、堂本監督はセリフを発しているのに山王の選手たちのセリフがないのがいいよな。井上雄彦は真の天才だと思う。

どうにもならなかったのが10着の緑セラフィックコールだ。どうして来なかったかはもうここまで十分書いたから省くとして、そもそもペース、コースが合わない可能性が高いと見ていたし、特に驚きはない

負けたからとはいえ別に評価は下がらない。3走前の八王子特別で高速ダートとはいえ2:07.9が出せる馬が左回りが苦手なんていうこともなく、単純にペースの問題。

エンジンが掛かった後は無限に伸びていくんじゃないかと思うほどの破壊力が魅力で、逆にエンジンが掛かるまでに時間が掛かるのが弱点。たぶん最上級条件なら2000は必要。すると東京大賞典。こちらに出てほしかった。

今回しっかり負けたことで、今後余計な条件を使われることもなくなった、と考えられる。器用さがよりなく、破壊力がより増したオメガパフュームという認識で接していく馬だろう。過去の数字、内容から本当に走る馬。こんなものではない

6着の赤ハギノアレグリアスも通ったコースを考えればよく頑張っている。ただ今日だいぶ仕上げていたから、東京大賞典はいかに状態をキープできるかによるかな。

帝王賞の外から動いた内容も悪くなく、相手一つでGIでもやれる馬。セラフィックコールよりもコースを選ばない点はいい。

8着ノットゥルノは分かりやすい馬で、右回りの時計の掛かる長めの距離で狙うだけ。9着平安Sもこの条件に該当していたが、明らかに太かった。休むと太る。ある程度使っている状況がベスト。左回りだと基本ないから、東京大賞典は馬場次第で見直しもあり。

9着アーテルアストレアもペース、展開からだいぶ厳しい。着順ほど悪い内容ではなかった。右回りもできるようになったとはいえ、左回りのほうがやはり接しやすい。東海S…はペース次第か。エンプレスは5月移設で使えるか分からないこと、一周半がどうかというところ。

11着クラウンプライドは今回はノーカン。前述したように調整過程も難しかった。もう少し絞れて見直していきたい。今回の精神面が一過性であってくれれば。GIを勝つとなると相手やコース、枠の並びによる。

14着アイコンテーラーも今回はノーカン。いい勉強になったはず。そして砂を被るとここまで脆いことも分かった。こちらも収穫がある。

もう5歳、明け6歳だからどこまで現役をやるか分からないが、厩舎の解散も近いだけにもう一花咲かせたい。エンプレス杯なんかは他の馬も遅くなるからいいと思うな。テリオスベル次第だが。

あとは15着ジオグリフか。なかなか使い方が難しい馬だが、淀みなく流れる芝1800がベストだとずっと思っている。すると中山記念が合う。開幕週だから馬場と枠次第ではあるが。

大敗はしているものの、今回は絞り込んで、ここ最近とは馬体から違った。ノドの状態がもう少し落ち着いて、使いどころさえ合えばこんな馬ではない。

いい馬なんだよ、本当に。完成前とはいえイクイノックスを倒せる馬なんてそういるもんじゃない。この世に2頭しかいないイクイノックスを倒した馬として頑張ってほしい。

レモンポップの今後を考える

何度か書いているように、正直なところ数字としてはそこまでではない、というのが結論だ。落とせるところで落とした分、余力を持って直線に向けたのは大きい。

ただし同じく先行策から粘り込んだドゥラエレーデとは状況が違い過ぎる。何せこれまで1800すら使っていない馬。体型も正直1400ベストと思えるほど。詰まり気味で、筋肉量もマイル以下のそれ

そんな馬がマイペースで行けたからといって一周、まるで条件の違うチャンピオンズCもこなしてしまうのだから能力が一枚、いや、五枚くらい違う。マイル以下ならこんな着差で収まっていない。

正直フェブラリーは調整失敗したり、内枠からスタートで出遅れない限り勝つ。この馬体で1800でも勝たれてしまったらもうマイルで下げる要素がない。仮にサウジカップに行った場合はペース次第。米国勢が少なければよりいいね。

問題はその後。フェブラリーを使うにしろサウジを使うにしろ直行だろうが、その後ドバイを使うかどうか。仮に使うとすると三択。1200のゴールデンシャヒーン、1600のゴドルフィンマイル、2000のワールドカップ。

条件的にゴドルフィンならぶっちぎるだろうが、GIIであること、昨年も最初から選択肢に上がっていなかったように、たぶん今年もない。するとゴールデンシャヒーンかワールドカップになる。

昨年シャヒーンにまるで対応できていなかったように、1200で米国勢を相手にするのはだいぶ難しそう。かといって2000mは今回のラップだと怪しい。実際瑠星も「最後はこの馬にしては止まっている」と言っている。ゴドルフィンマイルをGIにしよう。なんて、今からじゃ間に合わないな。

楽しみなのは秋だ。たぶん来年はブリーダーズカップ・ダートマイルを使ってくる。今年まで同じゴドルフィンが所有するコディーズウィッシュがいたこともあって使いにくいレースだったろうが、コディーズウィッシュは今年で引退。来年この路線によほどのゴドルフィンが出現しない限り出てきそう。

来年のブリーダーズカップはデルマー開催。デルマーのマイルは一周競馬。今回初めての一周競馬をこなしたのは収穫しかない

そしてデルマーのマイルは1コーナーが近く、ポジションを取るにはかなりの先行力が求められてくるのだが、今回の出脚はアメリカ勢に混じっても楽しめるもの。今回の数字は微妙でも、来年を見据える上でかなり収穫のあるレースだった。


瑠星も好騎乗。テンの脚がある馬だったとはいえ、スタート後の出の良さから切り換えてハナまで行き、落とすところで正確にペースを落とし切ったから逃げ切ったようなもの。

大外を引いた時点で、瑠星の最優先事項は『極力外を回らないこと』だったろう。テン乗りでもなく、これまでの感触から1800は間違いなく不安材料。ハナというプランは頭にあったろうし、ハナを切れなかった場合も入念に事前研究していたろう。様々なプランニングをすることで臨機応変な競馬が可能になる

瑠星は視点が競馬ファンみたいなところがあって、ロジカルに競馬を考えてくる。もちろんフィーリングで乗るほうがいい場合もあるが、枠や隊列を研究しているのが分かる騎乗が多い。より前に行きたがる福永、という現状だ。

これで中団からより立ち回る引き出しが増えてくれば、その時はもうリーディングなんだろうね。あと数年は掛かりそうだが、今から楽しみにしている。


レモンポップという馬は元々約1000万円で落札された。夢があるよな。もちろん1000万帯の馬なんて数えきれないほどいて、走らない馬が圧倒的に多い。100万ドルを超えるような馬たちがゴロゴロいる中で期待度自体はそこまで高くなかったろう。

やはりこの馬のターニングポイントは2歳冬から3歳冬まで1年休ませたことにある。ここで無理させなかったことで今の大成がある。これはもう待った側、ケアした側の勝利。

昔のイメージのまま、なんでもっと数を使わないんだという人間は本当に多い。オペラオーはあんなに使っていたのに…ってね。当時とはレースの消耗度もまるで違うにも関わらずだ。

調教技術や獣医学の進歩で、数を使わず大成させられるノウハウができたこの時代だからこそ作り上げられた名馬だと思う。

昨年の今頃は1400ベストの馬だと思っていたんだがね。自分から可能性を開拓していくのだから凄い馬。考えを固まらせてはいけない、柔軟に考えることの重要性を我々に教えてくれる馬じゃないかな。

前述したように、マスクはレモンポップにとってドバイワールドカップは長いと思っている。今回のラップにしても、体型にしても、現状2000でパフォーマンスを上げる感じがない

それでも来年、平気な顔で2000mをこなしているかもしれない。可能性の塊みたいな馬の来年が今から楽しみだね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?