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皐月賞を振り返る~上位人気馬2頭と愛馬への信頼が生んだ『Vロード』~

悩ましい皐月賞だったよ

週末をピンポイントに狙ったかのように雨が降る今年の春。天気予報を見るたびに雨が降る時間が変わっていた。

土曜の朝から雨が降るという予報に変わったかと思えば、夕方から降り出す予報に変わった。日曜も天気の急変に注意という予報すら流れたほどだった。

今年の皐月賞、戦前、大方の見方は混戦。今年の皐月賞トライアルは全体的に低調な数字のレースが多かったから、ちょっと展開が変わるだけで結果も変わるというのがマスクの見方だった。

この混戦で、マスクが今回ポイントと見ていたのはやはり馬場

2ヶ月間開催してきて、中山の芝はだいぶ荒れていた。昨夜遅くに大雨が降り、たっぷりと水分を含んだ芝の伸びどころが、日曜の競馬でどう変わっていくか。ずっと注視していたんだ。

ただ注視しようにも、皐月賞まで、中山芝のレースは数が少ない。

●日曜中山芝
4R 未勝利 2200m 17頭
8R 隅田川特別 1600m 7頭
9R 鹿野山特別 2000m 11頭
11R 皐月賞 2000m 16頭
12R サンシャインS 2500m 11頭

気になったのは隅田川特別の頭数の少なさだ。2勝クラスのマイルだからそれなりに頭数が揃いやすい条件のはずなのだが、東京待機組などがいることで、同レース史上過去最少頭数で行われることになってしまったんだ。

川田、武史、ルメールといった皐月賞上位人気に騎乗するジョッキーも隅田川特別に乗り馬がおらず、実質、中山4R未勝利、中山9R鹿野山特別だけで馬場を読まないといけなくなったわけ。

●中山4Rと9Rの騎乗馬
・4R 未勝利
横山武 ブレークアップ
ルメール 騎乗馬なし
川田 カーディナル

・9R 鹿野山特別
横山武 騎乗馬なし
ルメール シャドウセッション
川田 ヴィクターバローズ

3人とも8Rの隅田川特別に騎乗していない。つまり武史は4Rに乗った後、芝を走らずに皐月賞本番を迎えた。他の2人には鹿野山特別で騎乗機会があった。馬場は時間が経つにつれて乾く。武史は皐月賞でどう乗ってくるのか、頭を悩ませるところだった。

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これは日曜最初の芝のレース、中山4Rだ。白ブレークアップ武史が逃げ切り、2着は黄カーディナルだった。

経験上雨上がりの中山道悪は序盤だけ内が使えることが多い。それにしても最終週の重馬場で、いきなり逃げ切りを見せられるとはね。

勝ち時計は2:15.2。2週前の良馬場芝2200m未勝利、ジルブラスのタイムが2:15.0。このタイムは結構優秀なものだから、まさか重馬場で2:15.2が出るとは思わなかった

たぶんそれはジョッキーたちも思ったはずだよ。特に武史は『ラチ沿いを通って好時計が出せた』というイメージが頭に残る。皐月賞で騎乗したエフフォーリアは跳びが大きい。

本来跳びの大きい馬は、小回りの中山なら外を回したほうが安全で、内だと窮屈になる可能性を残す。それでも内がこれだけいいのならば、外を回すと取りこぼす可能性が高まる。つまり内を捌く競馬をするという考えを強めたのではないかな。

俺が見ていたのはカーディナル川田の動きだ。川田は的確に馬場を読んでくるから、馬場の伸びどころを騎乗で教えてくれる。

スタートから見ると、川田が選んだのは内ラチ沿いに1、2頭分挟んだポジション。昨日の山藤賞を見ていても内ラチ沿いは微妙だっただけに、川田がここまで内に寄せて乗ったのは、マスクにとってちょっと意外だったのだ。

よく見るとラチ沿いのギャラクサイトはノメっている。4R終了時点で川田の動きから導き出される結論は、ラチ沿いがイマイチ、でも内目は使える馬場

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川田は中山9R鹿野山特別でも同じことをしていた。赤ヴィクターバローズに騎乗し、内に1、2頭分のスペースを開けて回っている。

そしてこのレース、よく見ると黄シャドウセッションが1枚目、向正面では内から4、5頭分外を回っているのに、2枚目の4コーナーでは内目に誘導され、3枚目の直線ではラチ沿いに行っているのが分かる。

シャドウセッションに騎乗したのはルメール。本番の皐月賞で1枠1番を引いたアドマイヤハダルに乗るジョッキーだ。わざわざ外ではなくインを選択したあたり、馬場を自分自身で確認しにいった可能性が高い

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しかしこの鹿野山特別、勝ったのは緑マイネルミュトスの大知だった。大外から伸びて前をまとめて差し切った。2着は桃セントオブゴールド福永。この2頭は4コーナーで外目を回っている。

●9R鹿野山特別
12.1-11.7-12.5-11.9-12.1-11.4-11.9-12.1-12.3-12.6 2:02.3
前半1000m 60.3

2勝クラスにしては、今日の馬場を考えるとそれなりにペースが流れたほうだと思う。それにしてもこれだけしっかりと外から差されると、内を突いたシャドウセッションのルメールは『ラチ沿いは危ない』と思ったろうし、内目を立ち回ったヴィクターバローズの川田は『本当にいいのはもっと外目』と思ったはず。2人とも『4コーナーから直線は外目』という思いを強くしたはずだ。

●皐月賞出走馬
白 アドマイヤハダル
黒 ステラヴェローチェ
赤 ヴィクティファルス
青 エフフォーリア
紫 ダノンザキッド
黄 ラーゴム
橙 タイトルホルダー
水 アサマノイタズラ
茶 グラティアス
桃 レッドベルオーブ

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まずはゲート。痛恨だったのは水アサマノイタズラ嶋田純次だろう。スタートを出た直後に、外のグラティアスのほうに飛んでいくようなゲートを切ってしまった

長く脚を使うアサマノイタズラだ。デキも良かったし、純次としてはスプリングSのように早めに前に取りつく形の競馬がしたかったはず。ハイペースになりそうなメンバーではなかったしね。

しかしこのゲートの外飛びで目算が狂った。この外飛びを馬側の問題か、人側が修正できなかったからかは読めないが、このゲートが最後まで影響してしまったから、純次としては悔いが残るだろう。

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スタート後、どの馬も少し内から離れて回ったのは、もう一周走ることを考え、前半体力的ロスを少なくするためだろう。

特に紫ダノンザキッドの川田が外をブロックして直進したことで、その外を走っている馬たちが簡単に内を走れない状況が生まれた

川田は前述したように、9Rの鹿野山特別で内目を通り、外の馬に差されている。より外目を通りたかっただろうし、通るには外から締められたくない。やや外目の位置をキープしたかったはずだ

こうなると、その内の青エフフォーリア武史は楽だ。武史が怖かったのはダノンザキッドに閉じ込められることだったはず。

武史は4Rの結果から内目の好位で立ち回りたかったはず。内は使えると思っているからね。そのためにはダノンザキッドに過剰なプレッシャーを掛けられて好位を取れない形が怖かったはず。この形だと楽にポジションが取れる。

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このように、青エフフォーリア武史は両サイドに遊びがあるから、1コーナーに楽に進入できるわけだ。4Rを逃げ切って9Rに乗っていない武史には、内目は通れるといういいイメージが残っている

対して外は辛い。紫ダノンザキッドがガッチリポジションをキープしているから、それが邪魔になって水アサマノイタズラが内に行けない。

その前を走っている橙タイトルホルダーは好スタートを決めたことで、ダノンザキッドより前に位置できていた。ダノンをパスして内目に迎える。ここでアサマノイタズラはスタート失敗が響いてくる。

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この形のまま1コーナーに入ると、こんな感じになる。お分かりだろうか、ダノンザキッドが壁になって、水アサマノイタズラが更に外を回されている。すでに苦しい形だ。スタートの失敗が完全に尾を引いているのだ。

対して好スタートを決めたタイトルホルダーは楽に外の2番手につけられているし、内の青エフフォーリアの両サイドにはスペースがあるからプレッシャーは緩い

白アドマイヤハダルのルメールは、エフフォーリアの後ろといういいポジションを楽に取ることができた。この時点でダノンザキッドより内はリズム良く運べている。

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青エフフォーリアの武史は無策で内に入ったわけではなかった。1コーナーから2コーナーに入るところの画像だが、ラチ沿い、1頭分だけ開けているのが分かる。

前述したようにエフフォーリアは跳びがそれなりに大きい。内で揉まれたくはないし、外がダノンザキッド。勝負所で締められると行き場がなくなるから、あえて内に1頭分スペースを作って回っている

白アドマイヤハダルがその後ろにピタリとついている。これは先週の桜花賞、ソダシの後ろにくっついていたファインルージュを思い出すよね。

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逆に難しいレースになったのは外の馬。紫ダノンザキッドがポジションをキープして、外の3頭目で回っていることから、水アサマノイタズラは更に外を回されているし、桃レッドベルオーブに至っては更に外を回されている。これは辛い。

●皐月賞レースラップ
12.1-11.7-12.5-11.9-12.1-11.4-11.9-12.1-12.3-12.6
前半1000m 60.3

●皐月賞過去5年 前半1000m
16年 58.4
17年 59.0
18年 59.2
19年 59.1
20年 59.8

21年 60.3

毎年1000m通過59秒台がお約束の皐月賞において、60.3は遅い。しかもスタートから1コーナーにかけて追い風であるにも関わらずだ。

武史が「思ったよりペースが流れなかったので、いいポジションを取れた」と言っているのはこれだ。デムーロは「流れが少し速かった」と言っていたが、鹿野山特別じゃないんだから。

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桃レッドベルオーブの福永はレース後に「コンディションが良く期待していたがスローで外枠だったので動いていく形をとった」と話しているように、2コーナーでこれはまずいと踏んで早めに動かしている。

ペースが緩い中、少しでも着順を上げるためにロスのない競馬をしようとするのはごく自然なこと。2コーナー前から動かしていった福永の動きは正しかったと思う。

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ただこの早まくりの影響で、水アサマノイタズラがひるむというか、若干挟まれる形になっているんだ。紫ダノンザキッドは自分のポジションをキープし続けたいから、外に張る。

2枚目の画像を見ると分かるよね。アサマノイタズラ純次が挟まれている。ただでさえスローで外を回されているのに、向正面で挟まれてしまってはもう終了。この時点で純次の皐月賞は完全に終わった。

結局はスタートの失敗が尾を引いているのだ。好スタートを切ったタイトルホルダーは『ダノンザキッドの壁』を乗り越えているわけだからね。

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向正面。青エフフォーリアの後ろに白アドマイヤハダル、その後ろに黒ステラヴェローチェがいる。

アドマイヤハダルは完全にエフフォーリアをマークしていて、エフフォーリアについていく作戦だ。前述した、先週の桜花賞のソダシとファインルージュの関係と一緒。

その後ろの黒ステラヴェローチェはエフフォーリアが動いて、その後ろののアドマイヤハダルが動かないとポジションが開かない。完全に『エフフォーリア頼み』なのだ。エフフォーリアが詰まったら、アドマイヤハダルとステラヴェローチェは一緒に詰まる。一蓮托生のエフフォーリア組と言える。

2021-04-18 (18) - コピー_LI

同じく向正面。紫ダノンザキッドの後ろに、黄ラーゴムと茶グラティアス、その後ろに赤ヴィクティファルス。

こちらはダノンザキッド組。ダノンザキッドが動いていかなければ進路が取れない。ラーゴムはまだエフフォーリアの後ろに入れるかもしれないが、グラティアスは完全にダノンザキッド頼みだ。ヴィクティファルスはこれらが動かない限り、更に外を回すしかない。

結果的に上位を占めたのはエフフォーリア組だった。これはダノンザキッドが動けなかったことで、ダノンザキッド組にあたる外枠が全部飛んでしまったためだが、内目の馬が上位を占めたのは組長エフフォーリアの後ろにいたからという要因が強い

ではダノンザキッドの後ろにつけるのは作戦失敗だったかというと、そうでもない。これは結果論だ。ダノンザキッドが仮に自力で動けていたら、もっと内を締めていただろうし、そうなるとエフフォーリア組はみんな組長エフフォーリアに詰まる

だからこそラーゴムの北村友一、グラティアスのデムーロのポジショニングが悪いとは言えないんだよ。実際それまでのレースで外差しが入っていて、最終のサンシャインSでも外差しが決まっていたように、馬場は外のほうが伸びていたからね。

ダノンザキッドの外を回されたアサマノイタズラとレッドベルオーブは厳しいとして、向正面の段階でラーゴムとグラティアスの位置が悪かったとは思えない。この時点でダノンザキッドが垂れて大敗するなんてまだ分からないだろう。

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3コーナー。何度もスクショ試して粘ったんだが、これは画像では伝わりにくい。パトロールビデオを見てほしい。

紫ダノンザキッドの手前が変わっていないのだ。ダノンの手前の話は以前から言われていたことで、これまで右回りで手前が変わらない面は見られたし、予想においても考慮はしていた。それにしても治らない。

陣営も承知している面で調教から矯正しているんだがね。調教では以前よりスムーズになりながら、実戦はこれ。根が深い。おかげで川田が3コーナーで強制的に手前を変えようとしている

人間は2足歩行だから手前という概念がそうない。しかし馬は4足歩行。手前が変わらないままコーナーに入ると力が外に逃げてしまうから、その分体力をロスする。

パドックの映像を見ながら租界などでも言及しているのだが、今日のダノンザキッドは身体自体は良かった。しかしテンションが少し高く、そこが懸念材料でもあったんだ。

返し馬に入ると腹周りの発汗が目立つようになり、ゲート裏ではファンファーレの音に反応したのかかなりテンションが高くなってしまっていた。これは中継にも映っている。

スタート前から消耗していて、ややスローを外目追走。道中逆手前、コーナーでも手前が逆で外に力が逃げている状況で勝ち切ったら、それこそスーパーホース。どんどん手応えが悪くなるのはもう仕方ない。

川田はレース後「返し馬の雰囲気が抜群で自信を持って臨みましたが、能力を出せずに終わってしまいました」と語っている。逆手前は以前からの話。それでも勝ってきた馬だから、本人はこれが直接的な敗因と考えてはいないのだろう。

ただ今日は明らかにレース前テンションが高ぶっていた。そこに逆手前が加わり、4コーナー手前で手応えがなくなったと推測している。

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勝負どころの4コーナーに入る付近。紫ダノンザキッドの手応えが上記理由から悪く、全然動いてくれない。

その外の水アサマノイタズラは更に外を回され続け、その後ろのグラティアスらが動けず、赤ヴィクティファルスはややスローペースなのに、自分から動いて大外を回さざるを得なくなっている。外を回った差し馬はこの時点で終わりかけている

対してダノンザキッドの内を見ると、桃レッドベルオーブがそれまで苦しい競馬になったことで動けず、橙タイトルホルダーを締めにいけていない。

ダノンザキッドとレッドベルオーブが内を締めきれなかったことで、タイトルホルダーは楽になった。ここで外からもっと厳しく上がってこられたら、いくらややスローとはいえ、タイトルホルダーは苦しかった。

それが締められなかったことで、タイトルホルダー騎乗した田辺が内を2頭分ほど開けながら、馬場のマシなところを選んで回ってくることができたわけ。

田辺が馬場を選んで回れたことで、その内に、黒丸で囲んだ1頭分のスペースが生まれる。黒丸の後ろに控えているのが、そう、青エフフォーリアだ。

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タラ、レバになってしまうのだが、紫ダノンザキッドあたりが締めていける展開になれば、橙タイトルホルダーが内を開けられなかったし、青エフフォーリアが馬体をねじ込むスペースはできなかった

ただ俺はエフフォーリアが『運が良かった』と言うつもりは毛頭ない。実際に開いたスペースは約1頭とちょっと分。小回りで、コーナーで1頭少し分のスペースに一瞬で入って突き抜けていくには、脚力がないと無理な話

そもそも騎乗した武史が、4Rで内が走れることを確認して愚直に内目にこだわったからこそ、この開いたスペースの後ろにいるわけだからね。

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これは去年の百日草特別、エフフォーリアの2戦目。スローの上がり勝負になったこのレースで、緑エフフォーリアは進路がなかったんだよな。

このレースを改めて振り返っていたら時間が足りないから省略するが、橙ヴィルヘルム、黄レインフロムヘヴンの細かい動きによって開いた1頭分のスペースに、一気に加速して入っていって突き抜けてしまった。

このレースを見てエフフォーリアという馬は一瞬のギアチェンジが凄く速い馬だと思ってはいたんだが、22歳のジョッキーが、皐月賞の人気馬を内からこじ開けてくるとは思わなかったよ。エフフォーリアがかつて狭いスペースをこじ開けている履歴があるのに、俺は武史をどこか低く見積もっていたのかもしれない。

むしろ早めに動かして外からダノンザキッドについていってまくり上げる競馬をすると思っていたから、内目で溜めて小さなスペースを突く競馬は想定外だった。一瞬でも開けばスペースを突き抜けられるという、武史のエフフォーリアに対する信頼感を感じたシーンだった。

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実はこの青エフフォーリアが、スペースを突いたシーンが勝負の分かれ目。

エフフォーリアが開いたスペースを突き抜けようとしている中、その後ろにいた白アドマイヤハダルのルメールが、エフフォーリアの後ろという絶好ポジションを手放そうとしているんだ。

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これはルメールが紫ダノンザキッドの手応えの悪さを見たからに他ならない。

ルメールは序盤に書いたように、9Rの鹿野山特別でシャドウセッションに騎乗し、内を突いて敗れている。アドマイヤハダルは裏情報に書いたように、スタッフさんも「走り方が道悪に向いていない」と言うほど、荒れた馬場を好まない。少しでも馬場のいいところを走らせたい。

鹿野山特別で内を突き、外の差し馬2頭にやられているルメールは、より外の方が走りやすいと感じていたはず。しかし皐月賞の騎乗馬で引いた枠は最内。ある程度までエフフォーリアの後ろにくっついていって、進路が取れ次第外に出すというのはルメールのプラン通りだったと思う。

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たぶん彼にとっては想定外だったはずだ。有力馬の一角である紫ダノンザキッドの手応えが悪く、全然進んでいかないというのは。

ルメールはこのチャンスを見逃さない。すぐにダノンザキッドの前を通過し、白アドマイヤハダルを綺麗に外に出すことに成功している。実に上手い。流れるような動きで、これが嵌まったら賞賛間違いなしという進路取りだったと思う

しかし、中山芝は4Rで逃げが決まっているのだ。内目は見た目より走れる。ルメールは9Rの決着を体感したこと、そしてアドマイヤハダルが荒れた馬場を走れないこと、跳びが大きいことなどを考慮して外に出したのだろうが、結果的に、この動きのおかげで黒ステラヴェローチェに進路を譲ってしまった

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上の画像、中山4Rは、1着白ブレークアップ、2着黄カーディナル、3着黒マイネルヒッツェ。上位3頭が全て内目を通っていた。

下の画像、皐月賞は1着青エフフォーリア、2着橙タイトルホルダー、3着黒ステラヴェローチェ。こちらの上位3頭も全て内目だ。

4Rの白ブレークアップ、皐月賞の青エフフォーリアと、武史は通った進路がほぼ一緒。9Rで騎乗していなかったことで、外に差されるという経験をしなかったことが、この進路取りを可能にした要因の一つなのは間違いないと思う。


白アドマイヤハダルは上記理由から、内を外したことが決して間違いではなく、正しい作戦だと思う。結果的に開いたポジションをステラヴェローチェに通られて4着になったのは仕方ない案件だと思うね。つまり小回りの中山だとこのようなことが起きる馬なのだと思う。

だからこそ、アドマイヤハダルは広い東京で見直したい。跳びの大きさを考えると東京向き。東京なら広い分、わざわざ外に持ち出して内のスペースを開けなくていい。ダービーはCコース開幕週。Bコースの最終週である皐月賞より馬場もいいだろうから、良馬場のダービーが楽しみになる内容だった。

ハダルが開けてくれたスペースを突いて3着だったステラヴェローチェは、2戦目の道悪サウジアラビアRCで突き抜けたように、荒れた馬場を一切お構いなしに伸びてくるのが長所だ。

逆に短所は、レースを選んでしまうところ。

●ステラヴェローチェの戦績
新馬 レース上がり3F35.71
サウジアラビアRC レース上がり3F37.71
朝日杯FS レース上がり3F35.42
共同通信杯 レース上がり3F33.8→5着

皐月賞 レース上がり3F37.03

まー、分かりやすい。上がりが33秒台になるとパフォーマンスが落ちる。上がりが掛かるほどパフォーマンスが上がる。バゴだね。3歳春までは距離もこなせるだろうが、いずれは1800m以下で上がりが掛かるレースを得意にしてきそうだ。

隼人の好判断も見逃せない。エフフォーリアがスムーズに抜けてくれたこと、アドマイヤハダルが外に行ってくれたことで恵まれたところはあるが、ハダルが外に行こうとしているのを察知して、4コーナーから内を狙う体勢に切り換えている。さすが、小回りローカルで最上位の実績を残している隼人だ、小回りのコーナーでの切り換えが早い

2着タイトルホルダーは恵まれたという言い方はしたくないが、外枠の中でも楽な競馬だったとは言える。好スタートを切ったことでダノンザキッドの前に入り、ややスローを外の2番手で追走できた。

ダノンなどにも締められず、馬場のいいところを自ら選べたのが好走要因。現状エフフォーリアとの差は着差以上に大きいと言わざるを得ない

ただ、タイトルホルダー自体完成度はまだまだ。緩いし、ようやく調教で動けるようになったくらいだから伸びしろはまだまだある。完成は古馬になってからだろう

体型だけ見ると中距離も、スタミナは豊富。今後距離を延ばしていってもある程度やるはず。上がり勝負になるほど苦しくなるが、その逆、道悪のパワー勝負になるほどパフォーマンスは上がる。


5着ヨーホーレイクは4コーナーで、アサマノイタズラを内からパスしにいってそのまま弾き飛ばしてしまい、アサマの外にいたグラティアス、ディープモンスター、シュヴァリエローズらを外に吹き飛ばしてしまった。褒められたコーナーワークではない。

逆にいえば、小回りだとこのようなコーナーワークになってしまう不器用な馬が、小回りのややスローで5着まで上がれた事実は評価したい。武さんが「いい馬」と盛んに褒めていた理由が、今日ちょっと分かった気がする。東京変わりはプラス。

弾き飛ばされたグラティアスは、ダノンザキッドがあてにならなかったこと、ややスローを外を回って過去のインを突いたレースとはまるで違う形になりながらも6着まで差してきたことを考えると、悪いレースではない。明らかに姉レシステンシアとは違うタイプだ。

今日だいぶいい仕上がりだっただけに、ここから更なる上積みがどこまであるかだが、ダービーで内枠を引ければワンチャンあっていい。この鞍上が継続にならなければ…

7着ディープモンスターは初めて生で見たが、実際見ると体型、気性はまだ子供。東京に変わるのはプラスだが、ダービーを勝ち負けするとなると、心身共にもう一段階の成長は欲しい

8着レッドベルオーブは書いてきた通り展開が厳しかった。ややスローで、ダノンザキッドの壁を超えるのに脚を使い、その影響で向正面で引っかかっていた。休み明けの分もあっただろう。

藤原厩舎は大目標に向けて、一度叩いて馬を作ってくる場合が多い。ローテを考えると明らかにダービーを目的としている気配があり、ダービーで内枠を引いて脚を溜めることができれば、巻き返しはあるかもしれない。藤原厩舎の本気仕上げは見た目で分かる。ダービーのパドックを楽しみにしたい

9着ヴィクティファルスは展開面が厳しかったと言っていいだろう。ダノンザキッドが動かない(動けない)ことで、その後ろのグラティアスが壁になり、更に外を回さざるを得なかった。かなり苦しいレースで、ややスローを考えると届かないポジションだった。不完全燃焼だね。

本質的には上がりの掛かる小回りが良さそうだから、こちらはダービーに向けて再度上げづらい。今後は小回り重賞で出番がありそうだね。

13着ラーゴムは本質的に右回りより左回りのほうがいい馬だが、それ以上に気性面の成長が必要だと思う。現状ダービーに出てきてもヒモまで。緩急のつくレースより、ずっと流れているレースのほうが合いそう

15着ダノンザキッドに関してはもうテンションの高さ、手前に尽きる。前述したように敗因はジョッキーが言うより明確とはいえ、一朝一夕で直らない部分だから、果たしてこれでダービーに間に合うのか疑問。せめてパドックでもう少し落ち着いてほしい。

弥生賞で折り合いに専念するような乗り方をしたのに、今回の皐月賞ではこの内容だから、レースを使うごとに難しい面が覗きかけている。左回りなら手前変えはまだスムーズも、現状それ以前の問題。ダービーまであと1ヶ月あまり。落ち着いてレースに臨めるようになってほしいね。

16着アサマノイタズラはもう書きつくした。これではどうやっても来ない。ゲートの失敗が最後まで尾を引いたし、ジョッキーの焦りを感じる内容。純次の大レースの経験不足を感じる内容でもあった。

ただ経験不足は経験によって改善されていくものだ。今後このコンビのままビッグレースに臨めるかは分からないが、このレースを糧に、ビッグレースに平常心で臨めるよう頑張ってほしいね。純次が調教頑張っている姿を見てきた分、余計にそう思うよ。

さて、エフフォーリア。今日はパドックも悪くはなかったが、話に聞いていたように、もう1、2段階上があるデキだった。しかも東京向きのパドック。この状態で中山の皐月賞を完勝してしまうのだから強い

東京のダービーに変わるのは当然プラス。今回しっかり攻めこまなかった分、上積みが見込める。脚に弱いところがあること、テンションが高いところがあることから、そのあたりのケアは必須になるがね。他の人気馬以上に東京延長がプラスに働きそうなのはいい。

落とし穴があるとすれば、『ダービー』という点だろう。ホースマンの誰もがダービーのタイトルはほしい。俺も長らく検量室前で取材してきているが、ダービーの検量室の雰囲気は異様。あのピリピリした、緊張感漂う雰囲気で、22歳が1番人気を背負う、想像以上のプレッシャーだと思う

そこでふと、思い出すんだ。昨日登録抹消、引退が発表されたリオンリオンのことを。

2年前のダービーで、ノリさんが騎乗停止になって、急遽青葉賞を勝ったばかりのリオンリオンに騎乗することになった武史。ダービー当日の朝、さすがに緊張しているんじゃないかと声を掛けたら、「いやー、よく寝れました(笑)」と笑っていた20歳を見て、さすが横山家、タダモノではない、そう思ったのが懐かしい。

ダービーウィークはリオンリオンを遥かに超えるプレッシャーが襲ってくるだろう。逆に言えば、22歳でダービーの1番人気を経験できるなんてそうそうないこと。間違いなく今後、騎手・横山武史を強くしていく経験だろうし、皐月賞を勝って、自力でそのチャンスを掴んだ武史が今後関東を背負っていくだろうね。

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