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23年オークスを振り返る~怪物牝馬が叩き出した衝撃の加速ラップ~

0.0.2.170.1.3.16

これはフリーダイヤルの始まりなんかではない。オークスの3枠と4枠の過去10年の成績だ

3枠は3着が2度あるだけ。最後に勝ったのは00年のシルクプリマドンナ。4枠は近年好調でハギノピリナが3着になるなど穴も開けているが、最後に勝ったのは09年のブエナビスタ。

まー、こういう枠順のデータは、中には偶発的なものもある。明らかに足りない馬が10年ずっと同じ枠に入り続けているなんて場合もあるからね。

ただし、オークスに関しては3枠と4枠がイマイチになってしまう理由も確かに存在するんだ

そもそも東京の2400mは1コーナーまでのポジション争奪戦が激しくなりやすい。外枠の馬たちは内に入れたいから、内を絞るように進路を取ってくるんだよな。

内枠の馬たちも抵抗する。そうしているうちに、挟まれてしまう形になる3、4枠の馬がポジションを取り切れないことが増えて、どうしても不利になりやすい。

よく6、7番あたりを引いた陣営が「内も外も見て運べるいい枠を引いた」なんて言ってることがあるんだけど、『内と外から挟まれる悪い枠』になる可能性が高いんだよな、このあたり。

これが来週のダービーなら、Cコース変わりで内枠の馬達が内を離れずに回ってくることが多い。しかしBコース最終週のオークスだと内の状態も微妙で、内の馬が外に出そうとしてくる

外の馬はロスを少なくしようと内を絞ってくる。真ん中の馬たちはより大変になるっていう寸法さ。

さて、今年3、4枠を引いた計4頭の中にいたのが、断然人気のリバティアイランドだった。

川田が共同会見で発走直前の大歓声について自重することを提案したことでも話題になったが、スタート、そしてその後の進みに課題のあるリバティアイランドが、両サイドに挟まれやすく、なおかつ先入れの奇数枠を引いたことで、オークスは1コーナーまでの運び方が大きなポイントとなるレースに変貌した

誰が見ても分かるほど、リバティアイランドが桜花賞組の中で力が一枚も、二枚も抜けていた。当然周りはリバティアイランドをどう倒すかを考えて乗ろうとする。

桜花賞馬が内枠奇数からどう運ぶか、そして周りはどう勝ちに行くか、マスクのオークスのポイントはこの2点にあった。

オークス 出走馬
白 ①ラヴェル 坂井
黒 ②ライトクオンタム 田辺
赤 ⑤リバティアイランド 川田
水 ⑥ゴールデンハインド 菅原明
青 ⑦ヒップホップソウル 津村
黄 ⑨コナコースト レーン
紫 ⑩ソーダズリング 武豊
緑 ⑫ハーパー ルメール
橙 ⑬ドゥーラ 斎藤
茶 ⑯ドゥアイズ 吉田隼
灰 ⑰シンリョクカ 吉田豊
桃 ⑱イングランドアイズ 横山和

スタート。紫ソーダズリングが少しだけ左に飛びあがるようなスタートになってしまった

まー、まだ緩めの馬だしね。この程度の横跳びは別に珍しい話ではない。

運が悪かったのは黄コナコースト。自分の側に飛んできた紫ソーダズリングとぶつかってしまって、体勢を崩してしまった。

弾き飛ばされる形になってしまったことで、内隣のレミージュにもぶつかってしまい、レーンが落馬寸前になっている

レース後にレーンが「スタート直後にぶつかり後ろからに。レースに参加できなかった」と話しているように、致命的な不利。これでコナコーストのオークスが終わってしまった。

形としてはソーダズリングが悪いのだが、制裁が誰にも掛かっていないように、スタート後の馬の飛びによる不利は基本的に制裁にカウントされない。まっすぐ出るというのは本当に難しい

気を付けていてもこういうことが起きる。運がなかったという感想しかない。

茶ドゥアイズも出遅れてしまったのだが、黄コナコーストはドゥアイズと違って真ん中の枠だったことから、まだ内ラチが近かった。レーンが切り換えて、すぐに内に寄せようとしている。

一方、スタート後のポジショニングを心配された赤リバティアイランドの川田は五分のスタートを切っていた

前走はスタートを切った後にリバティアイランド自身がなかなか進まずポジションを悪くしていたが、今回は直前の攻めで終い時計を出して気持ちを入れていた分か、桜花賞とは段違いのテン。

ゲート、そしてその後のテンを出なければ』リバティアイランドは苦しくなると見ていたが、五分のゲート、そしてまともなテンの行き脚を見せた時点で上記のリスクが消える。

この時点で川田は8割方勝っていたと言っていい

赤リバティアイランドにとってラッキーだったのは、水ゴールデンハインドが控えたこと、そして青ヒップホップソウルの前に入れたことだったと思う。

ゴールデンハインドはお世辞にも末脚がビュンと切れるタイプではない。長く脚を使うタイプだから、早めに動いていく。

もし仮に前者であれば直線まで我慢することで、後ろのリバティが動けない、なんてシーンがあったかもしれないが、早めに動くゴールデンハインドの後ろならその心配がない。

まー、川田も「あれ、ゴールデンハインドは今日控えるんだ」と思ったかもしれないがね。

ヒップホップソウルはベゴニア賞で先行していたように、今回もしかすると前に行く可能性があった。この馬は追い切りから掛かり気味になることがある馬で、口向きも怪しい。

そんなコントロールが怪しい馬の後ろに川田は入りたくない。ゲートを決めたからこそ、こういう馬より前のポジションが取れる。ゲートの重要性を感じさせられるシーンさ。

大方の見方は水ゴールデンハインドがハナというパターンだったと思う。俺も実際、ハナはゴールデンではないかと思っていた。

今回控えた競馬を実行していたことに非難の声もあるだろう。ただフローラ以前もずっと逃げていたならまだしも、別に毎回逃げているわけでもない

レース後明良が「ハナにはこだわっていなかったです」と話していたが、まさにその通り、序盤から何が何でも行くという気配もなかった。

俺は一つの作戦としてありだったと思う。明良は「前に馬がいるとハミが抜けて少しフワフワしていた。無理にでもハナを切って、つつかれる形の方がいいのかも」とも話しているが、それは結果論だからね。

ただ、明良がゴールデンハインドに1度しか乗っていなかったことが敗因だった面は否めない

ゴールデンハインドはこれまでキャリア7戦。明良がこの馬と初めてコンビを組んだのはフローラSで、見事逃げ切っている。逆に言えば『控えた時のゴールデンハインドに明良は乗っていない』。

もちろん前任者にどんな馬かは聞いていたろうが、1から100まで全部聞くわけでもないし、実際乗らないと分からないこともあるからね。

もし明良がフローラ以前にも乗って、控えて競馬する形を体感していれば、展開は変わったかもしれないな。たぶん強引にでもハナに行っていたと思う。

しかも1コーナー前で、外から先行してきた桃イングランドアイズが勢い余って、水ゴールデンハインドと接触してしまった。

まー、影響は軽微で済んだんだけど、ゴールデンハインドはフローラSと違ってテンからリズムを崩してしまっている。

もしこの接触の影響が大きかったとして、ゴールデンハインドの不利の度合いがもっと大きく体勢を崩したりしていれば、真後ろにいた赤リバティアイランドが巻き込まれていた可能性はあった。少しだけヒヤっとしたシーンさ。

前述したゴールデンハインドの接触のように、競馬は1頭でやるものではない分、どうしても他馬の動きなどの影響を受けてしまうものだ。

赤リバティアイランドの川田はリスク回避も徹底していた。スタートした後も一切内に入れることなく、内ラチから3頭分のスペースを完全に空けている

仮に内ラチ沿いに入ってしまうと、外の緑ハーパーあたりに締められてしまう。しかし最初から内を開ければ進路の選択肢も増えるし、外のハーパーなどの有力馬が更に外を回されることになる。

リバティアイランドが内を開けたことで、真ん中の枠を引いた紫ソーダズリングの武さんが川田の真後ろに入った。

ハーパーとしてはソーダズリングと逆の枠が良かったかもしれないね。仮に逆だったとしてもリバティを逆転することはなかったろうが。

1、2コーナーでも赤リバティアイランドの川田は内1.5頭分を開けて回っている。

あくまで可能性の話だが、白ラヴェルあたりがトラブルを起こして下がってきても、このポジションなら回避できる

1コーナーまでの進路取りを見ても分かるように、川田は最初からラチ沿いに入る気がない。多少コースロスがあってもいいから外目に出すことしか考えていない。

つまり逆に言うと『不利さえなければいい』と思って乗っているのだ。リバティアイランドに対する信頼を感じる乗り方と言っていいだろう。

動画で見るとよく分かるが、赤リバティアイランドは向正面で掛かっていた。

☆23年オークス 2:23.1
12.3-10.5-12.3-12.6-12.3-12.0-12.0-12.0-12.0-12.0-11.6-11.5 
前半1000m 60.0

過去10年のオークス 前半1000m
13年 59.6 2:25.2 良
14年 60.7 2:25.8 良
15年 61.3 2:25.0 良
16年 59.8 2:25.0 良
17年 61.7 2:24.1 良
18年 59.6 2:23.8 良
19年 59.1 2:22.8 良
20年 59.8 2:24.4 良
21年 59.9 2:24.5 良
22年 60.6 2:23.9 良

23年 60.0 2:23.1 良

オークスはダービーより前半1000mが速くなりやすい。そう考えると60.0というタイムはそんなに速くない

桜花賞を使ったことで中間からテンションが高めだったリバティアイランドにとっては、少し遅すぎるラップと言っていいだろう。頭を上げて掛かる素振りを見せていたんだ。

ところがレース後、川田のジョッキーカメラを見ると、最後のスタッフさんとのやり取りで「ずっと力んでたけど、(あれくらいなら)十分」と話している。抑えられる範囲内であり、力を出せるレベルの掛かり方だと考えられる。

☆23年オークス 2:23.1
12.3-10.5-12.3-12.6-12.3-12.0-12.0-12.0-12.0-12.0-11.6-11.5 
前半1000m 60.0

改めて今年のオークスのラップを見てみよう。確かに前半1000m60.0はそんなに速くないのだが、今年の注目点は1000mを通過した後だ。

なんと5F連続、1000mにわたって、1F12.0が刻まれたんだよ

☆22年オークス
12.4-11.0-11.9-12.6-12.7-12.5-12.3-12.1-11.6-11.3-11.7-11.8

これは昨年のオークスのラップ。

太字にした部分の残り1600m→1000mは、2コーナー中間から3コーナー入り口付近にあたる。つまり、向正面だ。昨年はこの区間が37.5。今年は36.3

1600m→1000mの36.3は過去10年のオークスと比較すると最速。『ここ10年で最も向正面の速いオークス』だったんだよね、今年は。

☆19年オークス ラヴズオンリーユー 2:22.8
12.5-10.9-11.7-11.9-12.1-12.2-12.3-12.2-11.7-11.4-11.6-12.3
前半1000m 59.1
1600m→1000m 36.7

ここ10年で、1600m→1000mが最も速かったのは19年。それでも36.7掛かっていた。まー、この年は前半1000mも速かったんだけどね。

つまり、今年は中盤しっかり緩んでいない。先行馬がしっかり息を入れられていないのだ

23年オークス 上位馬
1着リバティアイランド 6-6-6-6
2着ハーパー 8-8-8-8
3着ドゥーラ 14-13-14-14
4着ラヴェル 3-3-3-3
5着シンリョクカ 8-8-8-8

本来後ろ有利だったペースを考えると、ドゥーラはペースの利があった。このペースで6番手から上がり3F34.0を使って6馬身差の圧勝を演じた馬がいるらしいが、これに関しては後述する。

道中これだけ波のないラップになっただけに、灰シンリョクカはもう1、2頭内のポジションが欲しかったな。緑ハーパーのポジションが理想的だったと思う。

まー、こればかりは仕方ない。与えられたのは17番枠。決まってから交換することもできないし、これもまた競馬。

向正面で息が入らず先行不利の展開の中、3番手から粘り込んで4着だったのが白ラヴェルだった。

これは向正面だが、淡々と逃げる黒ライトクオンタム田辺の真後ろで、ラヴェル瑠星は脚を溜めている。自転車競技で前に引っ張ってもらっている形だ。車間を開けずぴったり張り付き、インの3番手でじっくり脚を溜めていた。

ラヴェルが4着まで粘り込んだのは間違いなく瑠星がこの溜め方をしたからと言っていいだろう。やれることは全部やっての4着だったと言っていい。

阪神JF18番、桜花賞17番とつくづく枠に恵まれなかったが、最内を引いた今回、ゲートが悪い馬をしっかり出して前受けさせた瑠星のファインプレー

瑠星がレース後「勝ちに行った分の4着です」と言っていたが、まさにその通り。勝負に行っての4着だった。

仮に控えていれば、ペース的にもう1つ上の着順があったかもしれない。しかし中団に控えたとしても、スローに巻き込まれたり包まれたりする可能性がある。悔いを残さない先行策だった。

ハミを変えた効果はかなり出ていたね。ようやく馬と陣営の呼吸が合ってきた感じ。リバティアイランドに不利があったとはいえ、唯一倒した実力はしっかり出し切ったと言えるんじゃないかな。1600m、1800mで見直したい。

3コーナー。この時点でリバティアイランドはほぼほぼ勝っていた

赤リバティアイランドのポジションを見てほしい。前には誰もいない。水ゴールデンハインドと前の距離が少し空いていて、なおかつゴールデンが外目を追走している。

隣はレミージュ。客観的に見て勝負になるラインには足りていない馬。前を走る馬が急に落馬しない限り、リバティアイランドを遮るものがないのだ

ペースの影響や桜花賞を使った影響もあって道中掛かっていたリバティだったが、それ以外の川田の誘導は完璧と言っていい。

当然ながらレース後「馬が強かったから」なんていうご意見が散見されたが、とんでもない。

単勝1倍台前半の馬で、ゲートを完璧に決めて、道中不利を受けないポジションに誘導することがいかに難しいかを考えてほしいよね

だってこれだけ人気になればみんなマークしてくるわけだから。外からガッツリ締めてくる馬もいる。しかもフルゲートだから17頭も。かいくぐってポジションを取って勝たせる難易度の高さは計り知れないものがある。

そしてもう1人、上手いのがルメールだ。

向正面では赤リバティアイランドの右斜め後ろにいた緑ハーパーが、3コーナーで流れるように赤リバティアイランドの真後ろに入ったんだよ。

いわゆる強い馬の後ろベストポジションだよね。勝負所でこういう恵まれるポジションに自然といるのがさすが。

4コーナーを正面から見るとこんな感じ。赤リバティアイランドは前に水ゴールデンハインドしかいないから、もうどうやっても詰まらない。自分から詰まりに行くのなら話は別だが。

この時点でリバティアイランドは進路が選び放題だ。内から交わすもよし、外から交わすもよし。手応えも抜群。

そんな抜群な馬の真後ろに緑ハーパーのルメール。この時点でリバティの1着と、ハーパーの3着内はほぼほぼ固まったとも言っていい。

前述したが、向正面で灰シンリョクカが緑ハーパーのポジションにいたとすると、ここでリバティアイランドの後ろにいたのはシンリョクカだったかもしれない。

タラレバになる分なんとも言えないところはあるが、シンリョクカが3着だった可能性はある。つくづく17番が痛かった。

4コーナーを正面から見るとこんな感じになる。赤リバティアイランドの真後ろからついてきた緑ハーパーに対して、灰シンリョクカはリバティとの間にレミージュを挟んで、更に外を回ることになる。

結果3着のドゥーラと5着のシンリョクカの差は0.3秒。それなりに大きな差ではあるが、シンリョクカの並びがもう1列内ならここが逆転していた可能性は否定できない

なんだか3着ドゥーラに触れずに終わるのも申し訳ないから、4コーナーの出口の動きについて触れておきたい。

橙ドゥーラは結構外を回っていたんだが、外を回る馬が割と多かったこともあって、外は結構密集していた

そこでポイントになったのは紫ソーダズリング武さんのムチだ。よく見ると武さんが右ムチを持っている。するとソーダズリングは反対側、内目に寄っていく。

実際そうなった。紫ソーダズリングが内にスライドしていく。その影響で橙ドゥーラの前が完全に空いて、進路を確保することができた。

ドゥーラという馬は一瞬の切れ味に欠ける。代わりに長く脚を使える馬だ。そのため4コーナーから直線にかけてスムーズに回れるかどうかがポイントになってくる

新もよく前を見ていたと思うな。確かにソーダズリングの動きは起点にはなっていたが、ちゃんと前を見ているからこそできたスムーズな進路取りとも言えるんじゃないかな。

レース後新が「馬がその気になってくればやれると信じていたし、今日はこの馬らしい脚を使ってくれた」と言うように、気持ちの面がちょっと怪しい。

どうしても一瞬の脚に欠ける分展開、馬場も問うだろう。オークス3着だから次もいいというタイプではないと思う。ハイペースの秋華賞、上がりがかなり掛かるエリザベス女王杯でワンチャン、というところかな。ライラックに近いタイプと見ている。

最後にこの上位3頭の3複を変えたマスクはよく反省するべきだろう。


ドゥーラに先着したハーパーはルメールの好騎乗が光った。途中からリバティアイランドの後ろをとって、やることをやっての2着。

今日パドックを見ていても、後ろ脚が少し後ろに流れるようなところがあって、まだまだ緩さを感じさせるところがある。しっかりしてくるのは夏を越えてからだろうね

内回り2000の新馬で外に膨れるような面があった点が気になるが、順調に成長すれば秋華賞でも楽しめそうな馬だ。内を捌けるから2200mのエリザベス女王杯でも相手に拾いたい。牡馬相手の2000だと少々ハードルは高そうで、もう少し成長が欲しい。この先まだ伸びる馬。

5着シンリョクカはもうだいぶ触れたから簡単に。やはりもう1列、2列内が欲しかったね。それでいて5着に踏ん張ったように能力が高い。何度も書いているようにこの馬は天才型

カイ食いの細さや体質の弱さで上手く使い込めていない現状。改善するまでまだ時間が掛かりそうだが、体質がまともになって攻めた調教ができるようになったら重賞を2つくらいは勝てると思う。来年の府中牝馬Sあたりで買いたくなってきた。

7着コナコーストはゲートを出た直後に尽きるね。道中競馬に参加できていなかった。タラレバだが、コナコーストとソーダズリングが接触せず、どちらもリバティアイランドより前で競馬していたら、もっと見ごたえのあるレースになっていたかもしれないね

桜花賞で力の差をハッキリ示されてしまっただけに、リバティが100出したら、こちらは140は出さないといけなかった状況。後手に回った時点で逆転はない。

本来立ち回りが上手いだけに、ローズS、秋華賞で見直したい。新馬から20kg近く減っているだけに、まずは夏休みで体重を戻して成長を促したいかな。逆転は厳しいだろうが、巻き返せる馬だ。

8着ソーダズリングもスタートの接触が痛かったね。1コーナーまでに掛かっていた。つまり距離も長いという裏返しなんだろうけど。

この馬は2走前の阪神未勝利の数字がいい。兄ソーヴァリアント、姉マジックキャッスルが夏を越えて一気に良くなったように、この血統は休ませて良くなる。秋が楽しみだね。ローズSからマークしたい。

まだまだ体も緩いし、見栄えという意味で一息。これから成長する余地しかない。完成度の全体を100とすると、まだ60くらいなんじゃないかな

12着ペリファーニアはパドックからテンションが高かった。追い切りの時から掛かり気味になっていることで今日は消したが、気性も、体型もマイラー

ノドの状況を踏まえてもマイルで見直し。秋以降は条件次第になるが、ターコイズSあたりで見直そうかと思っている。GI馬になるには足りないが、重賞は勝てる馬

大負けした馬の中から見直したいのは16着イングランドアイズ。この馬はもっと良くなる余地がある。今日はなぜか先行して、道中緩まないラップに耐えられず下がっていったが、元々新馬でハーパーを倒した馬。

2戦目のクイーンCで、初めてのマイル、初めてのワンターン、初めての重賞を克服して4着まで差してきた馬。今後ゲートが安定すればオープンに辿り着ける馬だろう。この馬が次以降、1勝クラスに出てくることを忘れずにいたい


さて、最後にリバティアイランドの話をしよう。

まずレース前、共同会見の話から。川田がファンファーレ後からスタートするまで静かにしてほしいと要請した件だ。

これは俺からするとよく言ってくれたという思いさ。川田はリバティアイランドで負けたくないからそんなことを言っているというご意見も結構見られたんだけど、リバティに限らず、スタンド前発走の際に大声を耳にしてテンションが高くなり出遅れる馬はいる

自分の買った馬が出遅れて困るのは自分だろう。ファン側にメリットは何もないのだから、これは全員自重すべきものだと思う。

陸上の短距離や水泳のスタートの直前に大騒ぎしてる人間なんてそういないだろう。一緒だ。まして、音に敏感な生き物が相手だ

生意気に…なんて川田を叩く意見もあったが、騒ぐと川田の馬が出遅れるのではない。全体のリスクが増すのだ。それを意識したい話だよ。

まー、1ジョッキーがわざわざ会見で要請しないといけない状況になっていることが悲しくもある。JRAも本来告知を徹底すべきところだし、告知し防がないといけないはずのJRAが、ファンファーレ直前に観客を煽るVTRを流している状況がおかしい。

騒ぐ人間をゼロにするのは正直難しいが、1人でも少なくすることはできるし、少なくすることに意味がある。

一つのいい契機になるのではないかな。そういう意味ではいい問題提起になったと思うし、我々マスコミが周知しなければいけない問題だとも思ったね。これまで具体的行動に移してこなかった自らを恥じる。


次にもう一度ラップの話をしよう。

☆23年オークス 2:23.1
12.3-10.5-12.3-12.6-12.3-12.0-12.0-12.0-12.0-12.0-11.6-11.5

衝撃的なのは、残り1400mから1F12.0が5連発のラップだったのに、ラスト600mが加速ラップになっていることだ。意味が分からない。

普通向正面しっかり緩まない流れだったら、いくらずっと同じペースだからって最後脚が上がるのだ。なのにリバティアイランドは加速している。しかも単独走で。

オークスのラスト2Fを単独走で11秒台半ばの加速ラップで走る馬がいるんだな

加速ラップになったのは、赤リバティアイランドの川田が先頭に立っても最後まである程度追っていたから、という理由もある。ガチ追いというほどでもないが、最後まで追っている。

今年のオークスは、同じく川田が騎乗して圧勝した12年ジェンティルドンナと比較される。あの時は2着に5馬身。今回は2着に6馬身

どちらも大楽勝と言っていい部類なのだが、レースの直線を見比べてほしい。最後手綱を緩めた12年に対して、今年は最後まである程度追っているんだよ

もちろん馬なりのまま楽にゴールしたほうが反動はないのだが、それでもあえて川田が追ったのはリバティアイランドが気を抜かないようにするため

前走の桜花賞で自分から進んでいかなかったように、どうも気持ちがレースに向いていないと思われるところがある。たぶん馬なりでも楽勝だったろうが、緩めてしまうと賢い馬は『最後手を抜くこと』を覚える。今後も手を抜かせないための策だろう。

裏を返せばリバティアイランドという馬は相当賢いのだろう。この加速ラップから読み取れることは多い。

☆12年オークス ジェンティルドンナ 2:23.6
12.6-10.9-11.6-12.0-12.0-11.9-12.4-12.3-12.2-12.1-11.8-11.8

☆23年オークス リバティアイランド 2:23.1
12.3-10.5-12.3-12.6-12.3-12.0-12.0-12.0-12.0-12.0-11.6-11.5

前述したように、12年オークスと比較したくなるレースなんだけど、前半1000mは今年のほうが0.9秒遅い。対してラスト1000mは今年のほうが1.1秒速かった

ただジェンティルの年は残り1200mから12.4-12.3-12.2に対して、今年は残り1200mから12.0-12.0-12.0。まるで緩まない状況でラスト11.6-11.5のラップの価値は相当高い。

まー、馬場差はたぶん今年のほうが0.5秒ほど速いから、ジェンティルのラップも凄いんだけどね。そもそも比較対象が三冠牝馬で、3歳にしてジャパンCを勝つ馬である時点で、リバティアイランドの能力の高さが分かってもらえると思う。

18年オークス アーモンドアイ 2:23.8
12.6-11.1-12.0-11.9-12.0-12.2-12.4-12.3-12.4-12.2-11.1-11.6
前半1000m 59.6
1600m→1000m 36.6

23年オークス リバティアイランド 2:23.1
12.3-10.5-12.3-12.6-12.3-12.0-12.0-12.0-12.0-12.0-11.6-11.5
前半1000m60.0
1600m→1000m 36.3

ついでだからアーモンドアイの年とも比較してみよう。馬場は今年のほうが少し遅い。

前半の通過タイムはそう変わらなかったが、アーモンドアイの年は残り1400mから12.2-12.5-12.3-12.4。今年は全部12.0。その中でラスト11.6-11.5のリバティアイランドを考えると、数字は今年のほうが上

その後のアーモンドアイの活躍は、今更回顧に書くまでもないだろう。リバティアイランドは歴史的な名牝たちがこれまでオークスで出した数字を、若干ではあるが上回っているんだよね

いくら最後まで追ったからとはいえ、これは強い。馬場無視して前をまとめて差した桜花賞でも相当強い強いと褒めたが、今回も次元が違う数字だ。


正直、今日のパドックはまだMAXではなかった

皮膚感は今回のほうが良かったが、桜花賞のダイナミックな歩様は鳴りを潜めていて、テンションも少し高め。ちょっと心配になるほど。実際レース後ジョッキーカメラでスタッフさんとテンションの話になっている

馬体にしてもそう。筋肉質で、とても2400になってよりいいというタイプの体ではない。安田記念を走っても面白いのでは?と思う体だ。

その状態で、少し掛かりながら、直線楽に突き抜けて単独走で加速ラップ。ちょっと……意味が分からないね……

競馬をそれなりに長く見てきた身だ。何頭も強い馬を見てきた。マスクが見てきた馬の中でも歴代トップクラス、もしかすると過去最高かもしれない。そんな可能性を想像するくらい、ここまでの数字、内容が濃い。

それでいて、まだ上積みがありそうなんだよね。成長の余地が残っているし、MAXまで仕上げられていない。完全体のリバティアイランドがどんなレースを見せてくれるのか、想像もできないし楽しみしかない

あくまで数字だけなら秋華賞も勝つ。その先に控えるジャパンCもたぶん勝てる。来年のドバイも勝てると思う。そのくらい破格の数字を叩き出しているんだ。

つくづくドゥラメンテの早逝が惜しいよ。このレベルの馬を出せる種牡馬を早くに失ったのは日本競馬史上に残る損失と言っていいのではないかな。こればかりは言っても仕方ないのだが。たぶん今後も何度も早逝を惜しむことになるのだろう。

リバティアイランドが走るたびに、自分の中の常識が塗りかえられていく。こんな馬、そうそうお目に掛かれるものではない。

我々は奇跡的な存在を見せてもらっているんだよ。

今後も仕上げた陣営、そして仕上げに耐えた馬に感謝しながら、リバティアイランドという日本競馬の至宝を見守っていきたいね。


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