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恵文社一乗寺店 4月の本の話 2024

こんにちは。書籍フロアの韓です。
新芽がそよそよと風にゆられて心地良い季節ですね。

4月の書籍売上ランキングと、おまけの本の話。
今月もよろしければどうぞお付き合いください。


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1位 くどうれいん『コーヒーにミルクを入れるような愛』(講談社)

黙る代わりに、書く。
かたちに残すってことがいったいどういうことなのか、
考えていたらほうれん草を茹ですぎた。

(「あとがき」より)

短歌、エッセイ、小説、童話などさまざまな分野で活躍の場を広げる作家・くどうれいんさんによる新エッセイ集が1位にランクイン。

ふたり暮らし。マンションの最上階から見る夜景。コーヒー牛乳と結婚。氷嚢を頭に載せた盛れ写真を見せてくれる友人。へそを出してきた友人。好きになれない自分の手。「くどうれいん」として書き続けてきた15年間。ささやかな日常に笑い、喜び、ときに沈みながらも愛でていく。たよりない一日の傍にある親身なきらめき。気持ちいい風が吹く日、台所で思わずしてしまう小躍りのようなエピソードの数々をおさめます。


同時期に発売となったエッセイ集『虎のたましい人魚の涙』(文庫本)も、大変よく手にとっていただきました。西淑さんによる装画も素敵です。


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2位 柳本史 小版画集『UTOUTO』(未明編集室)

版画家・柳本史さんの描く世界を集めた待望の作品集が今月の2位に。
少女と、動物たちと、色と、それらを包む深くて豊かな層。題名の通りどの表情もまどろむような、あるいはその夢のなかで強い意志を保っているかのような、不思議な眼差しをこちらに向けてきます。ひとつひとつは小さな作品ながら、そのつらなりのたしかさと美しさ、語りかけてくるもの。

巻末には付録として、柳本さん自身の短文および写真家清水はるみさんによるアトリエ撮影なども掲載。小ぶりな判型と赤を基調とした色合いの落ち着いた雰囲気を持った、実に優美な一冊。


刊行にあわせ開催されていた記念フェアも、春の陽射しがよく似合う展示に。作品集はもちろんのこと、前作『雨犬』や、新作のポストカードやA4サイズのポスターもたくさん手にとっていただきました。


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3位 益田ミリ『今日の人生 3 いつもの場所で』(ミシマ社)

「すーちゃん」シリーズをはじめ、ささやかでありながらかけがえのない日々を描く漫画家・益田ミリさん。ミシマ社のウェブマガジンで人気を誇る連載をまとめたシリーズ最新刊。

前作「世界がどんなに変わっても」で紡がれていたコロナ禍を経て徐々に着実に戻りゆく日常と、副題にもある「いつもの場所」。ふと目にした何気ない日々の愛おしさ、喜び、落ち込み、ときには楽観も悲観もなく淡々と生きていく断片の数々は、私たちが暮らす日々とも重なります。書き下ろし小説「念のため」も収録した、胸躍る仕掛け盛り沢山な一冊に。


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4位 松岡宏大『ひとりみんぱく』(国書刊行会)

「みんぱく」こと「国立民族学博物館」。
著者・松岡宏大氏がそこに初めて訪れた際に、「うちにもあるな……」という感想を抱いたことから付けられた本書のタイトル。収録されているのは、土器、漆器、仮面、仏像、絨毯…著者が個人的に蒐集した世界各地の物もの。そしてそれに付随する旅の記憶と人とのつながり。写真家・編集者・ライターとして世界中を旅してきた著者が目にした旅の景色が浮かび上がる一冊。

4月半ば、当店アテリで開催された松岡宏大『ひとりみんぱく』刊行記念展も盛況のち幕をおろしました。展示に並ぶまだまだ一部だったそうで、第二弾第三弾も楽しみにしたいところです…。


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5位 島田潤一郎『長い読書』(みすず書房)

"ひとり出版社"の代表格として知られる夏葉社。社主であり編集者であり、営業さんである島田潤一郎さんによる散文集が5位にランクイン。

ひとり出版社とイコールで語られることがあたりまえとなった著者が、”読書”とは自身にとって何ものであったかを今一度じっくりと考察し、語るように綴った本書。本の読み始めの数ページは、右手親指と人差し指に収まるときのたよりない心地で、他にやるべきことがあるのではないかと頭をもたげるという、その誰しも思い起こすことができる感覚を共有しつつも、毎日数ページでもと読書を続ける意義をについて、その実感や味わい、文体におけるビートが彼の人生ににおける出来事、生活の様々で重なり、そんなかつて出会ってきた本と共に本を通し生きていくことについて真摯に綴った一冊。


つい先日の26日、島田さんが一日店員としてお店に立ってくださいました。
我々も共にレジに立ちながら何気ない雑談を交わしたり、ちょっとした人生相談を聞いてもらったり…島田さんに会うため運んでくださったお客様方のうれしそうな声も聞いていて楽しく、未だに良い余韻がつづいています。
「夏葉社」名入りの作業着、最高ですよね。
島田さん、ありがとうございました!

頼れるお兄ちゃん!な笑顔の島田さん。
またいつでもいらしてください。


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一昨日、岡崎公園にて開催されていた毎年恒例のお祭り「左京ワンダーランド」。書店フロアの凸凹コンビ、原口と韓でわいわいと出店しておりました。お立ち寄りいただいたみなさま、気にかけてくださったみなさまありがとうございました。
完全にノリでつくった(…笑)餃子くじもとても好評でうれしかったです。またつくりたい。本を選ぶお客様方との思いがけない会話は、いつどんなときもうれしいものです。岡田あーみんや些細な自炊話などで盛り上がったり…(岡田あーみんファンを「あー民」と呼ぶことをはじめて知るなど…)

それぞれがつくったレシピメモ帳や読書ノートもたくさん手にとっていただきありがとうございました。引き続き店頭でも販売予定ですので、買いそびれた!という方はぜひ。


さて、(前置きが長くなりましたが…)今回のおまけの本の話。交代交代でゆるく休憩をとって、公園内を歩いていてふと目に留まった一冊。

ふだん、「こういう本が読みたい!」や「この本を買うぞ!」と決心して棚を眺めることが少なく、その日その日で目があった本を手に取ることが多いのですが(そういう瞬間ってありますよね。引き止められるような、呼ばれたかのような…)今回もまさにそうでした。日高敏隆さんの『春の数えかた』。ああ、まさに、というタイトルに導かれたように思わず購入。

マフラーが要らなくなった、木々や花々の蕾が膨らんできた、陽射しがやわらかくなった、というところでわたしたちは「春がきたなあ」と感じたりしますが、生き物たちはどうやって春を知り、それぞれの方法で季節を計るのでしょう。
どうして蛹は春に羽化するのか、どうして花は高さをそろえて咲くのか、蝉の鳴き声は打楽器似ている…などなど。共生というよりは競争し合いながら共存していく。虫や植物たちの営み、すぐ傍にあるのに遠ざかってしまっている自然を改めて知り直す、ふしぎと驚きに満ちたエッセイ集です。人間と生物が共に暮らすうえで向き合わなければならない、ちくりとする問題提起もあったり。良い意味で学者らしくない日高敏隆さんの文がすっとからだに染み込みます。

「人里とエコトーン」より

こちらは当店とも縁の深い、鞍馬口通りにて古本と少しの新刊を扱われている「霜月文庫」さんのブースで出会いました。店舗の方もタイミングをあわせて伺うことがあるのですが、いつ訪れても時間が流れることを忘れてじっくりと棚を眺めていたくなるすばらしい空間です。5坪ほどしかなくて…と店主の方はよく仰るのですが、わたしはその広さが心地よく感じます。午後になると窓から入る光も心地よく、選びぬかれ、カバーをかけられしゃんと並ぶ古本たちはどこか誇らしそうにも見えます。

(不定期営業ではあるのですが)ぜひ営業日をチェックし、足を運んでみてください。加茂川や下鴨神社も近く、すいすいどこまでも歩きたくなる立地も良いです。

おまけ、他にも昔の「名物バター飴缶」を衝動買い…
お手紙とか入れようかなあと悩み中です。



それでは、また来月お会いいたしましょう。


(担当:韓)


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