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歌舞伎の楽しみ 〜花道に関連して〜

花道に関連して「芸裏」ということをお話ししましょう。
歌舞伎の劇場では、客席から向かって左側に花道があります。その花道の外側の席を「芸裏(げいうら)」といっています。また別の名を「ドブ席」とも言います。
ここでは西の桟敷の前に、花道との間に普通の客席もあります。
江戸時代は無論ここは土間で桟敷と土間のほか、平土間より一段高い「高土間」もありました。ですから、花道の左側には平土間、高土間、桟敷という順序で並んでいて、ここを総称して「芸裏」といってます。
東に仮花道が設置される時も同様、平土間、高土間桟敷がありますが、あくまで仮花道は「仮」なので、「芸裏」とは言わないらしいです。

花道の左側が「芸裏」

近松半二の名作「妹背山婦女庭訓・吉野川」の場で見てみましょう


この時、本花道の裏からは定高の背中しか見えない。「芸裏」とは役者の背中、つまり後ろからしか観察できない座席のことで、仮花道も同じで両方よく見えるのは平土間からだけです。
この例から分かるように、花道を出てきた役者は、七三で一度止まると、大抵本舞台を向くか、東の桟敷の方を向きます。
同じように「京鹿子娘道成寺」の花道の道行でもこれがわかります。

ここで取り上げようとすることは、単に座席のことでなく、「芸の裏表」ということです。

なぜ役者は花道の七三で東を向くのか?
 ①  できるだけ多くの観客に顔かたちを見せようとするから
   ②  どちらを向くか?
実は、舞台を支配しているのは、観客には見えない一本の線があるのです。
その線は、劇場の屋根にある「櫓」から発して、二階席の正面を通って本舞台の中央に走っているのです。
劇場の「櫓」というのは、江戸時代、幕府公認の劇場を示すことと同時に、神の降臨する場所でもあるのです。降臨した神の眼差しは、櫓から発して、二階席中央を真っ直ぐ通って舞台中央に降りてきます。
二階席中央はいわば「貴賓席」であるわけです。
花道の七三にでた役者は、この線に向かうようにして東向きになります。
この線に対しているのは花道の役者だけではありません。
本舞台で演技している役者もこの線に対しているのです。


この場では正面二重舞台には皇位を僭称している蘇我入鹿が座り、
平舞台の上手に定高、下手には大判事がいる。
この時入鹿を扇の要にすれば、定高と大判事は末広がりに「八の字」の形に客席に向いて座る。

この場に限らず、芝居は大抵こういう座り方をしています。
リアルに考えればこれはおかしいです。入鹿は仮にも天皇、大判事も定高は臣下だから、客席に背を向けることはあっても、入鹿には正対しなければいけないはずです。
でもそれだと観客に背中を向けることになってしまう、、。
というのは、これは実は、表向きの理由で、大判事も定高も直接入鹿に対しているのではなく、、あの「見えない線」に対しているのです。

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