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「AOで慶大合格した鈴木福くんは優秀」説を検証してみた

今月、大学ジャーナリストの石渡さんが熱の入った記事をだしました。

 慶大に総合選抜(旧AO)で合格した鈴木福くんを全力擁護する内容です。

これ、大学側と関係ふかい石渡さんの仕事の都合かもしれないですが。

(大学側の正当性をアピールでき、今後の取材などにつながるから)

一生懸命すぎてむしろ逆効果じゃないかと心配にもなります。


私は、鈴木福くん言動を拝見するかぎりしっかりしてると思いますよ。

ただ、総合選抜(旧AO)に合格したから優秀とは考えません

総合選抜への合格と、優秀であるということはイコールでないからです。

合格というのは、受験者の中で高く評価されただけの話なわけで。

(受験指導側は優秀か否かでなく大学の評価基準と対策を重視します)


慶大に総合選抜で合格した生徒たちをじっさいに知ってますが。

私は石渡さんとちがって個々の合格者の違いをよく知ってるので。

総合選抜に合格したから優秀という単純な結論にはなりません。

むしろ同じ合格者でも差が大きく大学の意図を分析しないといけないほど。

大学側が合否の事後検証を部分的にしか行っていないのではと疑ってます。

(総合選抜はものすごく手間かかり、一般入試より事後検証は難しいはず)


そもそもネットでの「AOだから簡単」という意見がマチガイなら、

「難関AO合格したから優秀」という意見も似たようなもので不正確では?

私には正直、どちらも単純化しすぎた固定観念に見えますけど・・・

(じつは慶大文は、能力の評価は難しいとする文を出題したことあり)


それでは石渡さんの記事、主旨はともかく役立つ内容あるのでどうぞ。

    ↓

 芸能人がAOや推薦入試で名門大学に合格するケースが相次いでいる。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは「ネット上では『AO・推薦だから簡単』という批判が目立ったが、それは20年以上前の認識による誤ったものだ。過去の経験やイメージで判断しないほうがいい」という――。
■鈴木福は慶応、本田望結は早稲田に合格
 芸能人の大学進学は今も昔も話題となります。良くも悪くも。今年、2023年入学だと、俳優の芦田愛菜さん、鈴木福さん、本田望結さんの3人の進学先が話題となりました。芦田さんは慶応義塾女子高校から内部進学で慶応義塾大学法学部に進学。鈴木さんは慶応義塾大学環境情報学部(SFC)にAO入試で合格。本田さんは早稲田大学社会科学部に自己推薦入試で合格しました。
 芦田さんは慶応義塾大学医学部への進学も噂されたほどでした。しかも、慶応義塾女子高校は進級も成績が厳しく見られます。内部進学はなおさらであり、それだけ勉強をしてきた、との評価がもっぱらです。一方、鈴木さんはAO入試、本田さんは自己推薦入試での合格です。 しかも、鈴木さんの出身校である堀越高校、本田さんの出身校・青森山田高校は、芦田さんの出身校である慶応義塾女子高校のような難関高校ではありません。進学校とは言えない高校から早慶という私大トップにAO・推薦入試での合格。これがネットでは「不公平」「芸能人枠で入った」「AO・推薦だから簡単だった」などの批判が4月に入ってからも続いています。
・・・(中略)・・・
 結論から申し上げますと、2020年代現在の「AO・推薦」(正確には総合型選抜・学校推薦型選抜)は、芸能人であろうとなかろうと、高い学力としっかりした事前対策が求められる、一筋縄ではいかない入試となっています。
・・・(中略)・・・
■広末涼子の早稲田進学・中退で批判が強まる
 芸能人の大学進学が批判的に見られるようになったのが、1998年、人気アイドルだった広末涼子さんの早稲田大学教育学部の自己推薦入試受験です。
・・・(中略)・・・
 合否判定が曖昧であり、広告塔として簡単に入学させたのではないか、との批判も強くありました。付言しますと、出願資格として、評定平均値が4.0以上でしたので、決してザル入試だったわけではありません。広末さんは合格、1999年に入学しますが、入学式は欠席。初登校は出演ドラマの撮影などが落ち着いた6月でした。 その後も、授業の出席はほとんどできず、2003年に自主退学します。大きく注目された分、その反動から、強く批判されることになりました。この広末さんの早稲田大学進学・中退は芸能人の大学進学批判の源流となりました。
■「ザル入試」と化したAO・推薦が2010年代に激変
 2000年代は、大学全入が進んでいき、相当数の大学でAO・推薦入試が簡単に学生を確保できる、ザル入試と化します。一方では、募集停止となる大学が注目されます。特に、2009年には5校が募集停止となりました。
・・・(中略)・・・
 AO・推薦入試のバカ批判・ザル入試批判を受けてか、2011年、文部科学省は「要項」に「高等学校段階で育成される学力の重要な要素に留意」と記載します。さらに、2014年、中教審答申はAO・推薦入試について、「AO入試、推薦入試の多くが本来の趣旨・目的に沿ったものとなっておらず、単なる入学者数確保の手段となってしまっている」と批判。区分見直しを提言します。 この提言から、2021年以降、AO入試は総合型選抜、推薦入試は学校推薦型選抜と名称を変更。2023年現在、早稲田大学社会科学部・自己推薦入試や慶応義塾大学AO入試は大学の呼称であり、区分上は総合型選抜となります。2010年代はAO・推薦入試の内容や名称が変わっただけ、ではありません。2010年代半ばから首都圏の私立大では入試が激戦となりました。
■推薦入試による入学者は1.5万人、AOは2.9万人増加している
 理由は、23区内の大学新設規制(2019年)、定員管理の厳格化(2016年)です。特に後者は、2016年以降、従来の1.3倍から1.1倍が上限となりました。超過した場合は私学助成金のカットという罰則付きです。 私立大では入学辞退者を見越して合格者を多めに出す手法が使えなくなりました。そうなると、私大は合格者を絞り込まざるを得ません。その結果、一般入試は激戦となり、現役志向の強い高校生は一般入試ではなく、AO・推薦入試を志望するようになります。
 文部科学省が出している「入学者選抜実施状況」の各年度版について、私立大学を集計したものがこの図表1です。 2013年と2022年で比較すると、一般入試(2021年から正確には一般選抜)による入学者は2万8000人、減少しています。 これに対して、推薦入試(学校推薦型選抜)による入学者は1万5000人、AO入試(総合型選抜)による入学者は2万9000人、それぞれ増加しています。文部科学省「入学者選抜実施状況」からは、一般入試からAO・推薦(総合型・学校推薦型)入試にシフトしていることが明らかです。
■早稲田・社会科学の小論文は、入りやすいテーマの良問
 では、入試の内容はどうでしょうか。本田望結さんが合格した早稲田大学社会科学部から見ていきます。早稲田大学サイトによると、全国自己推薦入試の出願要件はこちら。
評定平均4.0以上
・欠席日数が45日以内
・次のいずれかに該当
 学芸系またはスポーツ系クラブなどに所属し、都道府県以上の大会・コンクール・展覧会などにおいて優秀な成績を収めた者/生徒会活動において、めざましい活躍をした者/資格(語学検定や財務・会計資格など)を有する者/その他、学校外での諸活動(クラブ活動、ボランティア活動など)において、めざましい活躍をした者
 入試は一次試験が書類審査、二次試験が面接と小論文です。
・・・(中略)・・・
■慶応SFCは専願が条件で、「入学後の構想」が求められる
 慶応義塾大学環境情報学部のAO入試は、評定平均は特に指定されていません。ただし、出願資格では次の2点が指定されています。
・総合政策学部・環境情報学部への志望理由や入学後の構想が明確であり、第1志望としていずれかの学部での勉学を希望する者
・総合政策学部・環境情報学部の学習・研究環境を積極的に活用し、入学後の目標や構想をより高いレベルで実現するに十分な意欲と能力を有する者
 専願(第1志望)を条件とする大学は他にもありますが、「志望理由や入学後の構想が明確であり」と、わざわざ指定する大学はそうそうありません。しかも、「入学後の目標や構想をより高いレベルで実現」する学生が欲しい、とも明記しています。 1次試験は書類審査。ただし、この書類審査も提出書類が他大学以上に多くあります。
・・・(中略)・・・
■AO入試の難化傾向は、親世代の想定よりもさらに進んでる
 ここまで書類を準備したうえで、2次試験は面接。こちらも簡単ではありません。このプレジデントオンラインの2019年6月19日記事「慶應SFCが30分間の面接で必ず聞く質問 知力も人間力もわかるガチンコ面接」には、環境情報学部の村井純教授が、面接では3人の教員が30分間、志望理由などを掘り下げるとして、次のように答えています。 「時には学問的な論争になる真剣勝負の場です。学力テストなどしなくても、30分間、第一線で活躍している学者が、3人がかりで1人の受験生を見るわけですから、ごまかしようがないんです。しかも、それを30年続けてきた経験の蓄積があります」 早慶ともこの入試を簡単、とする人もいるでしょう。私は大学取材21年の経験からも、簡単とは到底、思えません。
・・・(中略)・・・
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石渡 嶺司(いしわたり・れいじ) 大学ジャーナリスト 1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。主な著書に『改訂版 大学の学科図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)など累計31冊。近著に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)がある。
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プレジデントオンライン

石渡さんとおなじくらい長く大学受験指導してる私からすると。

学校推薦とAO(現総合選抜)は完全に別分野です。

同じAOでも早大と慶大は別物、慶大でもSFCと法FITは違うのですが・・

学業なら平均値は{ 慶法内進 > 早大社推 > 慶大SFC総合選抜 }のはず。

これらは成績要件や出身校の生徒層からでも判断できることなので。


受験指導側は、大学・学部ごとに違う評価基準を日々研究し、探ってます。

優秀であろうがなかろうが、合格させるため一生懸命なんです。

得点で評価する一般入試はともかく、総合選抜は合否の要因分析が難しい。

(総合選抜入試は本質的に〝情報の非対称性〟が非常に大きいため)

SFCの総合選抜は芸能活動で大人達と日常接すると有利かもしれないけど。


あと石渡さん、取材されてるのはわかりますが・・・

受験生のウラ事情たいして調べてないですよね。

AO対策って大金はらって大人が受験生に知恵つけてるんですよ。

それを「AO合格したから優秀」ってなってしまうと、ねえ。

   ↓ 塾予備校のAO対策は相場が一般より高額になる


あるAO専門塾のトップは、起業数年で「オレはもう年収1000万いった」

「でもこれでとどまるつもりはない」って豪語してたらしいんですが。

(こういうホンネうっかり発言、ぜひ文春に報道してほしいな!)

そういうキャンプフォロワーズ(※)みたいな産業ってどうなんでしょう。

 ※ 軍隊の後をついていって利益を受ける集団のこと。 ↓


あとですね、石渡さんがかばってる慶大SFCですが。

慶大他学部と一般入試ダブル合格したらSFCは入学率低いですよね。

私は評価している学部なのですが、現実は現実。

SFCの総合選抜入試は、三田が第一志望で合格できる受験者は受けません。

だからSFCの総合選抜合格者の第一志望率は高く、意気盛んなはずですが。

それは客観的に優秀かどうかとは別の話ですよね。

私は単に、学部の入試戦略において総合選抜が必須なのだと判断してます。

つまり総合選抜がなければ受験生がよそに流れるからせざるを得ない

  ↓ ダブル合格でどの学部が選ばれるか、週刊誌などが公表している


あと石渡さんが口をつぐんでいることとして、

総合選抜(AO)が大学にとって都合よい道具になってる現実があります。

あの大学通信の安田さんがはっきり証言されてますね。

   ↓

 安田さんは次のように説明する。「法学部人気の裏には、マジックがあります。法学部は経済学部と違って、AO入試での募集枠を拡大したりしたため、一般入試枠が狭き門になり、その影響で偏差値が上昇しました。それで、“私大文系の最難関”という一種のブランドになったのです。また、法学部はセンター試験利用入試を実施していたことも人気になった理由でしょう」

プレジデントオンライン


私は生徒に、大学側と受験生の利害はトレードオフだって言ってます。

つまり大学側に有利なら受験生には不利になる、ということで。

慶大のような歴史ある名門校の総合選抜(AO)はその典型的な例です。

確実な入学者を早期確保でき、一般入試の偏差値を高めに誘導できる。

合格者が優秀かどうかより、そのしくみの理解のほうが重要です。

そして受験生にさまざまな負担も大きいことを理解してほしい。

限られた時間のなかでAO対策に時間かけすぎると失うもの大きい。

だから入試特性や倍率をよくみて判断してほしい。


あと大学側は、黙っていても総合選抜での失敗例も多々あるはず

きちんと事後検証して、正直にディスクローズしてほしい。

こざかしいAO専門業者の作為と偽装を見破る選抜をしてほしい。

仮に不合格でもきちんと成長でき、次につながる選抜にしてほしい。


さいきんリスク回避型の総合選抜受験者が増えるいっぽうなので・・

日本の大学の行く末が心配なんですよ、ホント。


【結論】

・総合選抜(AO)入試の合格者は優秀かもしれないが、断言できない。

・総合選抜(AO)は大学によって異なり、合格者の差は大きい。

・総合選抜(AO)志望者はふえており、労力もおカネもかかる。


  総合選抜(AO)の内情についてご意見ご情報ありましたらコチラまで

https://twitter.com/keidaishouron



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