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コーチのためのサッカー選手の持久系トレーニングの考え方

サッカーが、90分間闘わければならない競技である以上、持久系トレーニングを行うことは避けられないです。

しかし現場では、何をどうやって行うか(What, How)が、なぜそれを行うか(Why)を置き去りにして考えられていたり、これまでもこうやってきたからという理由でアップデートされずに行われていたりも多いと思います。

僕は、サッカー選手が持久系トレーニングを行う上で大切なのは、
①目的とする体力要素に過負荷をかけられているか
②時間的・身体的な制限の中でbetterな選択なのか

だと考えています。

①を分析・検討・実施することは必須として、②も考慮しなければなりません。
1000m走るだけの身体的なキャパシティは、その他のトレーニングに回すこともできるはずです。
その中で本当に1000m走ることが必要かどうか、適切かどうかの検討が必要になってきます。
適切だと判断すれば、否定的に捉えられることの多い「素走り」も必要なトレーニングになってくると思います。

そういった中で、どうやってサッカー選手が持久系トレーニングを行うかをまとめていきたいと思います。

そしてこれを読んで欲しいのは、トレーナーやフィジカルコーチなどの専門分野の人たちというよりも、コーチングスタッフや実際にプレーする選手たちです。
コーチングスタッフや選手がこういった内容を知ることができる場は多いとは言えません。
しかし、サッカー選手にとってメインとなる持久系トレーニングは、フィジカルコーチやトレーナーが主導となることの多い「フィジカルトレーニング」ではなく、「毎日行なっているサッカーのトレーニング」であるはずです。

だとすれば、大枠だけでも知識を持つことで、より効果的なトレーニングにつながるのではないでしょうか。

少しでもコーチの方々の助けになればと思って書きます。

この記事は3章構成になっており、
1章 サッカー選手に求められる持久系の体力要素
2章 持久系トレーニングを考えるために必要な簡単な生理学的知識
3章 持久系トレーニングの設定の指標
となっています。


1章 サッカーで求められる持久系の体力要素

まず、サッカーに必要な体力要素についてです。
「持久力」や「体力」という言葉だけでは、サッカーでどのような能力が求められるのか考えて行くことは難しいです。

「体力をつけよう!」「ゲーム体力が必要だ!」では、10km走を行い、11vs11のトレーニングを行なっていればいいことにもなってしまします。

持久力に関して、生理学的な知識が必要であることは間違いないですが、コーチがサッカーのトレーニングの中で活用する場合は、単に生理学的知識があるだけでなく、サッカーに適した形で知っておくことが必要です。

今回は、
Raymond Verheijen(レイモンド・フェルハイエン)
Jens Bangsbo(ヤン・バングスボ)

の2名の定義から考えてみます。
2名とも現在の日本サッカーのフィジカル・フィットネストレーニングに大きな影響を与えている人物です。


1.  Football fitness(サッカーフィットネス):フェルハイエン

まずRaymond Verheijen(レイモンド・フェルハイエン:以下フェルハイエン)の定義です。

参考 レイモンド・フェルハイエン(2016)「サッカーのピリオダイゼーション パート1」相良浩平訳,WorldFootballAcademyBV. 

①フェルハイエンのサッカーのパフォーマンス構造

フェルハイエンは、著書「サッカーのピリオダイゼーション」の中で
・サッカーのパフォーマンスを構成するアクション・・・ 図 赤色
・その性質・・・図 オレンジ色
・それを行うために必要な体力要素(サッカーフィットネス)・・・図 黄色
を生理学的な背景を踏まえつつも、ピッチで起こる現象を言語化して以下のように定義しています。

ここでのサッカーのアクションとは、パス、ドリブル、シュート、プレス etc... といったピッチの中で行われるアクションです。

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図中の"X"は、アクションの質の高さを表しており、"X"が大きいほど質が高いことを表現しています。
 "- - -"はアクション間の休息時間を表しており、 "- - -"が少ないほど休息時間が短いことを表現しています。

サッカーアクションの性質(オレンジ色)は、下が上よりもよりレベルの高いサッカーで求められる特徴となっています。

この図のサッカーアクションの性質から、サッカーのアクションには
・高い「質」
・高い「頻度」
・「質」と「頻度」の「維持」(90分間)
が要求されることがわかります。

そしてサッカーのアクションの「質」と「頻度」の高さとその「維持」を実行するのに必要な「サッカーフィットネス」として
・「最大限爆発的」なアクション
・アクション間での「より早い回復」
・「最大限爆発的」なアクションとアクション間での「より早い回復」の「維持」(90分間)
が求められます。

(アクションの「質」とはなんだ?という点に関して、フェルハイエンは著書で、①ポジション(位置) ②タイミング ③方向 ④スピード ⑤判断と実行 をサッカーのアクションの質の特性としています。)

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ちなみにサッカーのピリオダイゼーションに関してはこちらの僕個人のブログ記事でもまとめているので、合わせてみていただけるとよりわかりやすいかと思います。10000字以上です。頑張りました(3年前の僕が 笑)。


②爆発的なアクションを高頻度に行い90分維持する

サッカーのアクションの性質とそれを支えるサッカーフィットネスをここまで紹介しました。

ここまでを言葉にすると、よりレベルの高いサッカーで求められるのは
「質の高いアクションを高頻度に繰り返し、それを90分間維持(継続)すること」
それを行うために必要なサッカーフィットネスは
「最大限爆発的なアクションと素早い回復を90分維持できる」
と考えることができます。

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こういったように表現できれば、「体力がない」「走れない」という表現よりも実際の現象がイメージしやすくなります。

ここで、上の図をもとにサッカーアクション、サッカーフィトネス向上を模式図的に表現してみます。左の図から右の図へ変化したと考えてください。

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縦軸をアクションの質や強度(爆発的)、横軸を時間としたときに、左に比べて右は、より爆発的に、かつ高頻度にアクションを実行できていることがわかると思います(黄色)。

しかし、時間経過とともに、アクションの質や強度(爆発的)は低下し、アクションの頻度も減少している(回復時間が長くなっている)ことも見て取れます(赤色)。
これでは、「90分間の維持」が達成できません。

そこで下図のように、時間が経過しても質と頻度の高いアクションを維持し続けられるサッカーフィットネスが必要となるわけです。

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実際に、ピッチ上で「持久力不足」を感じる現象は多くの場合
①試合終盤(例えば75分以降)で「足が止まる」
②連続したプレーができない、あるいは前半の初めにしかできない
ではないかと思います。

ここまでを踏まえると
①試合終盤で「足が止まる」
試合終盤で「アクションの質の低下とアクションの頻度の低下(90分維持できない)」
②連続したプレーができない、あるいは前半の初めにしかできない
高頻度のアクションができない(素早い回復ができない)
といった表現になるでしょう。

サッカーフィットネスを考えると持久系トレーニングを考えていく上でも、
「より爆発的なアクションを、高頻度に行い(素早く回復し)、それらを90分維持すること」
を一つの基準とすることができると言えそうです。

2. Physical(身体的要素):バングスボ

次にJens Bangsbo(ヤン・バングスボ:以下バングスボ)の定義を見てみます。
バングスボは、より生理学的な視点からサッカーのパフォーマンスと体力要素(Physical)を以下のように示しています。

参考
・Bangsbo J (2015). Performance in sports – With specific emphasis on the effect of intensified training. Scand J Med Sci Sports 25, 88–99.

①バングスボのサッカーのパフォーマンス構造

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