見出し画像

有名人の保釈金を考察する

芸能人、スポーツ選手、経営者などの著名人・有名人が保釈されるとき、保釈金(保釈保証金)の金額によく注目が集まります。
この記事では約15年間(2008~2023年)の事例をピックアップしました。


前提知識~保釈と保釈金

日本の保釈制度

犯罪を実行したとして検察官に起訴された人を、被告人と言います。
保釈は、勾留されている被告人が請求できます(刑事訴訟法88条)。
国によっては、まだ起訴されていない人(被疑者)も保釈請求できますが、日本ではそうなっていません。

保釈請求がなされると、裁判所・裁判官は、検察官の意見を聴き、被告人の保釈を許可するかどうか判断します。
裁判所が保釈を許可するとき、保釈金(保証金)の額を必ず定めます。この金額は「犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。」とされています(刑事訴訟法93条2項)
裁判所が定めた保釈金を納付すると、被告人は保釈されます。

保釈金額の相場は?

保釈金の具体的金額は、事案の内容と被告人の資力等によって異なります。
ただし、複数の書籍において、150万円が相場上の最低額とされています。
また、平成10年の司法統計では、100万円~300万円の範囲で保証金設定されたケースが80%以上です。
そのため、通常の事案(第1審・内容が重大で無い・被告人が特段資産家ではない。)では150万円~300万円が相場と言って誤りではないでしょう。
とはいえ、最近の統計が無い点は気になります。

保釈率は?

保釈率とは、勾留された被告人の中で、保釈された被告人の割合です。
有名人の刑事事件(第1審)は、ほぼ全て地方裁判所です。
そこで地方裁判所の統計をみると、2008年(平成20年)の保釈率は15%程度でしたが、その後上昇を続け、2021年(令和3年)では31.4%でした。
勾留中の被告人には保釈請求しない人も多いため、保釈を実際に請求して許可してもらえる確率は、上記の保釈率より大幅に高いです。

有名人の保釈金(2008年~2023年7月)

はじめに

それでは保釈許可事例と保釈金額を紹介します。網羅的に収集はしていないので、漏れはあります。特に古い年代は漏れが多いです。
経営者は「有名」かどうかの境が難しいため、大きく報道された案件以外はピックアップしていません。
また、政治家、公務員、暴力団関係者は対象外としております。

以下では被告人の属性、罪名、保釈金額を掲載しています。
「俳優」「音楽関係」といった属性は、最終的に筆者の主観の判断です。
氏名、性別、年齢、事案詳細は記載していません。
同一人物の上訴審、別事件も原則として別番号で掲載しました。

2008年~

①俳優 詐欺など 2000万円
②音楽関係 詐欺 3000万円
③音楽関係 覚醒剤取締法違反 500万円
④スポーツ関係 覚醒剤取締法違反 500万円

2010年~

⑤音楽関係 覚醒剤取締法違反 500万円
⑥音楽関係 保護責任者遺棄など 1000万円 ※
⑦会社経営 会社法違反 3億円
⑧音楽関係 覚醒剤取締法違反など 700万円

2015年~

⑨俳優 覚醒剤取締法違反 200万円
⑩スポーツ関係 覚醒剤取締法違反 500万円
⑪タレント 窃盗など 200万円
⑫俳優 覚醒剤取締法違反 500万円
⑬タレント 公職選挙法違反 150万円
⑭俳優 覚醒剤取締法違反 300万円
⑮タレント 覚醒剤取締法違反 150万円
⑯音楽関係 大麻取締法違反 250万円
⑰学校経営 詐欺など 800万円
⑱学校経営 詐欺など 700万円
⑲音楽関係 過失運転致傷など 300万円
⑳会社経営 覚醒剤取締法違反 300万円
㉑会社経営 金融商品取引法違反 7000万円 ※2
㉒俳優 強制執行妨害 400万円
㉓俳優 強制性交等 500万円 ※2
㉔俳優 麻薬向精神薬取締法違反 400万円
㉕会社経営 金融商品取引法違反など 15億円 ※2、※3
㉖音楽関係 大麻取締法違反 300万円
㉗俳優 大麻取締法違反 300万円
㉘音楽関係 大麻取締法違反 250万円
㉙音楽関係 大麻取締法違反 250万円
㉚スポーツ関係 大麻取締法違反 300万円
㉛俳優 麻薬向精神薬取締法違反 500万円
㉜俳優 強制性交等 750万円 ※

2020年~2023年7月

㉝学校経営 詐欺など 1200万円 ※
㉞音楽関係 覚醒剤取締法違反など 500万円
㉟俳優 大麻取締法違反 500万円
㊱学校経営 所得税法違反 6000万円
㊲音楽関係 覚醒剤取締法違反など 300万円
㊳学校経営 詐欺など 1500万円 ※
㊴音楽関係 覚醒剤取締法違反 600万円
㊵会社経営 贈賄 3億円
㊶会社経営 贈賄 3000万円 ※2
㊷会社経営 贈賄 2億円 ※2
㊸俳優 大麻取締法違反 300万円
㊹俳優 自殺幇助 500万円  ※2

※  控訴または上告後の保釈
※2 保釈許可に対する検察官の準抗告を棄却
※3 複数の保釈決定の合計額

考察

薬物事件はやや高額傾向も、極端な高額事例はなし

掲載していない事情も踏まえながら、若干考察します。
まず、薬物事件(大麻、覚醒剤など)であって、被告人に前科もないようなケースでは、相場の範囲に留まる事例が相当にありました。つまり150~300万円の保釈金の範囲に留まることも多かったのです。
ただし、300万円は相場の上限であることから、300万円での許可事例がたくさんあった点は、「一般人よりもやや高額傾向」と言えるでしょう。
また、保釈金500~700万円の事例も散見されました。常習性があるように思われる事案であること、当該有名人の資力が相当大きかったことが金額の理由と考えられます。
そうはいっても、薬物事件では、1000万円や2000万円といった極端な高額にはなっていません。同種事件における保証金額の相場と大きく乖離させないための配慮がなされたと考えられます。

経済事件では相場を超える超高額の保釈金も

一方、詐欺、金融商品取引法違反、贈賄といった経済事件では、相場を大きく超えた高額の保釈金が設定されるケースが目立ちました。
当該事案では、もともと大きな金額が犯罪の対象であるため、保証金額も見合った高額となるのでしょう(相場は度外視せざるを得ない。)。
また、当該事案の被告人である有名人(多くの事案は経営者)の資力も非常に大きいことが多いことが、高額化の理由として考えられます。

今回の記事では対象外ですが、政治家や反社会勢力が被告人となった大型経済事件でも、超高額の保釈金事例が相当数存在します。

生命、身体犯について

強制性交等(現「不同意性交等」)や自殺幇助は、量刑が単純な薬物事案より重く、300万円を超える保釈金額となりました。
過失運転致傷は、故意の犯罪ではなく、それ単独では勾留になりにくい罪名です。飲酒運転やひき逃げが伴って勾留されるパターンが多いです。被害者の怪我が重くなければ、相場の範囲の保釈金でもおかしくないでしょう。

まとめ

有名な芸能人あるいは有名な経営者であるからといって特別に保釈金が高く設定されるとは言えないと思います。
ただし、薬物事件では、一般の相場よりやや高額傾向といえます。同種事件を起こす一般人よりも有名人の方が大きな資力を有することが多いため、「逃亡阻止」という保釈金の性質上、やや高額の保証金額になっていると考えられます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?