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尾身茂氏を臨時首相職務代行に

 デルタ株が猛威を振るうなか、昨日確認された全国の新型コロナウイルス感染者数は14207人にのぼり、とりわけ東京を中心にした首都圏1都3県では医療崩壊の危機に瀕している。政府は6都府県に緊急事態宣言、5道県にまん延防止等重点措置を出したが、感染爆発と医療逼迫を考慮すれば、直ちに緊急事態宣言を全国に適用すべき状況にある。

「中等症以下は自宅療養」は首相辞任に値する

 こうした緊迫した状況のなか、政府は3日、「中等症以下は自宅療養」の方針を打ち出し、波紋を広げている。野党各党はもとより、与党の自公両党さえ政府に方針撤回を求める異例の事態となっているが、現在まで菅首相はそれを拒否している。

 デルタ株が従来株の2倍以上の感染力を持ち、各国で猛威を振るい、ワクチン接種がある程度進んだ欧米諸国でも感染増加に転じるなか、この間、政府はなんら有効な対策を打ち出せず、あまつさえ国民の大半が反対していた東京五輪の開催を強行し、国民の防疫意識に水を差し、自粛頼りのコロナ対策は完全に破綻した状態だ。このままでは、昨年、アメリカやイギリス、イタリア、スペインはじめ欧米諸国が体験したような感染爆発によるドラスティックな医療崩壊が避けられない状況にある。

 そんななかで出された「中等症以下は自宅療養」の政府方針は、国民の生命を守るという政府の責任放棄にほかならない。もし、菅首相が中等症以下でも容易に症状が急変することを知らないのだとしたらあまりに無知・無責任極まりないし、そのことを知っていてあえて打ち出した方針なら首相としての責任放棄であり、いずれにしろ辞任に値する。

「首相交代」でも期待できない

 この秋には衆議院の解散・総選挙が行われ、政権交代が期待されるところだが、新型コロナウイルスデルタ株の感染爆発は、それまで待ってくれない。急激に増え続ける感染者や医療崩壊・逼迫の現状を見れば、今直ちに菅首相に引責辞任してもらい、コロナ対策ひとつだけでも、まともな政策を遂行できる首相・政府にとって代わってほしいところだが、政治日程上、それは難しい状況にある。

 もし仮に、菅首相が辞任して首相が交代するとしても、政治的には9月の自民党総裁選や総選挙までのワンポイントリリーフ的な役割としかとらえられず、与党の現状を見ても、状況を変えられるような指導力を発揮できる人物が後継者に収まることはとても期待できない。

与野党と多くの国民が納得しうる唯一の解決策

 では、私たちは菅首相に総選挙まで国民の命を委ね、デルタ株の感染爆発のなか、医療崩壊により多くの救える命が失われていくのをただ拱手傍観している以外に方法がないのだろうか?

 ただひとつだけ、奇策ではあるが、与野党と多くの国民が納得しうる解決策がある。それは、菅首相に辞任表明してもらい、ただし衆議院議員の任期いっぱいまでは形式上その職にとどまる一方(自民党総裁任期はそれまで延長すればいい)、尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策分科会長を「臨時首相職務代行」に就任させ、期間限定で感染爆発の沈静化にあたってもらうのだ。

 もちろん、憲法67条の規定により、内閣総理大臣は国会議員でなければなることができない。だからこそ、菅首相には形式的にその職にとどまりつつ、その権限を「臨時首相職務代行」に委任するのだ。あくまで新型コロナウイルスの感染爆発という緊急事態下における極めて希な特例措置として、臨時国会を開いて与野党の合意を得る必要がある。

 この案には、当事者である菅首相とその取り巻き以外、強く反対する勢力はないのではないだろうか? 与党にとってはこのまま菅首相が失点を重ねて総選挙へ突入することは避けたいだろうし、野党も菅首相の実質的な辞任を勝ち取れば、総選挙へ向けて決してマイナスにはならない。「臨時首相職務代行」自体は、あくまで超党派で決定することなので、与野党どちらに有利になるという性質のものでもないだろう。

尾身茂氏への評価

 ここで私が尾身茂氏を「臨時首相職務代行」に推すのは、尾身氏に全幅の信頼を寄せているからでも、個人的に好感を持っているからでもない。尾身氏は昨春のコロナ禍以来、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長として、一貫して政府のコロナ対策をリードしてきた。そして、その対策たるや、コロナ相談・受診の目安を「37.5度以上の熱が4日以上続く」場合としたり、PCR検査を徹底抑制する等、東アジア・オセアニア諸国が感染を抑え込むなかで、日本だけが突出して感染者・死亡者数とも多い状況をつくりだしたわけであり、その点で個人的には不信感しか抱いていない。

 しかし一方、昨年夏以来、菅政権になって、政府が感染の終息しないなかでGoToキャンペーンを行う等、感染抑制より目先の経済的利益を優先する姿勢を鮮明化するなかで、尾身氏は感染症専門家の立場から菅氏と異なる見解を度々述べるに至る。

 とりわけ、世界的に変異株ウイルスが猛威を振るうなか、政府が東京五輪の強行開催を決定することに危機感を持ち、遅きに失したとはいえ、6月18日には分科会有志による提言を発表したり、それに先立ち「今の状況で五輪開催は普通はない」と述べるなど、政府に批判的な立場を鮮明にしてきた。

感染爆発・医療崩壊の危機的状況沈静化に期待

 尾身氏なら、この1年半の経験から、反省点も踏まえ、今政府が何をやるべきかを、専門家の立場から最も熟知しているはずだ。また、菅氏の言うことに耳を傾けなくなった多くの国民も、尾身氏が「臨時首相職務代行」として発する言葉には耳を傾け、納得して従うだろう。根本的な経済対策は総選挙後の新政権が担うべき役割として、当面は既存の予算をやりくりすることで、コロナ対策に伴う経済対策・支援策もある程度可能だろう。

 個々の対策・政策がどうなるかはともかく、総体として今後2ヵ月ほどの間に、日本のコロナ対策を劇的に変化させ、感染爆発と医療崩壊の危機的状況を沈静化させてくれるものと、私は信じる。少なくとも、マイナスの効果しかもたらさない菅氏があと2ヵ月首相を続ける悪夢を考えれば、取り返しのつかない事態に陥るのを回避して、少しでも国民の命を守る政策が遂行されるだろうことは間違いない。

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