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「やりたくないことはやらない年齢」

出版社で編集をしていたころ(10年以上前)の業務の一つに、海外からの翻訳出版依頼をさばく作業があった。
翻訳の依頼元は、韓国、中国、台湾などのエージェントがほとんどだったと思う。
新刊が出た後は、割とすぐ、しかもたくさんの依頼が来た。
エージェント、日本の版元、現地の版元、翻訳者など、仲介・版権・制作にかかわる人が多いので、ロイヤリティ(印税・原稿料)はあまり大きな額ではないけれど、著書が海外の書店にも置かれるということで、断る著者(イラストを利用する場合はイラストレーターも)はほとんどいなかった。
出来上がると、見本(2冊だったような)が送られてくるので、1冊は会社で保存し、残りは著者やイラストレーターへ送る。
日々の取材やゲラとの格闘で忙しい編集部内では、翻訳出版の手配は、そこはかとなく「雑用」感が漂う作業だった気がする。

「冬のソナタ」以前のことで韓流ブームもなかったし、もちろんBTSもいない。アジアの翻訳本はもちろんあっただろうが、書店の新刊台ではほぼ見かけなかった。
逆に、日本のアイドルがアジアで人気だった時代。
私がいたのはノンフィクション系の出版社で、たまにタレントのエッセイなども出していたけれど、多くは企画ものの実用書。
「日本の家事の裏ワザ本やダイエット本も売れるんだねぇ、、、」
と感心しつつも、なんとなくそんなもんなんだなと納得していた。

あれから、20年近く経ち、いま日本では(もしかしたら世界でも?)、韓国の小説、エッセイがちょっとしたブームだ。

爆発的に売れたこちらの本も一つの契機になっていることは確か。
映画化もされ、賛否あって話題になりましたね。


と、、、前口上が長くなったけど、
今回の記事のタイトルは、こちらの本の見出しからとったもの。⇩

韓国の翻訳出版&シングルマザー事情を垣間見る度 ★★★★★
買った場所:SPBS(渋谷パブリッシング&ブックストア)本店

韓国で日本の本の翻訳家として活躍するクォン・ナミさんのエッセイ。
彼女が手掛けた日本の翻訳書の数は300冊以上。
「なかでも、村上春樹さんのエッセイと、小川糸さん、益田ミリさんの作品は、韓国で私がもっとも多く訳した」と。

どんなふうに日本と日本語に出会い、翻訳家になったか(これがなかなかに情熱的で熱い!)、どんな風に仕事をしてきたか、しているかが、一人娘のジョンハさんとの母一人子一人の暮らしのやりとりなど、日常のちょっとした風景を絡めながら描かれている。

私がいた版元は、実用書が多かったけれど、エッセイなんかもけっこう出していたから、もしかしたら、クォン・ナミさんの目にも触れたかも、、、
なんて考えながら読んだり。

「印税か? 買い切りか?」の項では、韓国翻訳出版の業界事情にもふれられていて、どこの国でもフリーランスの悩みの同じであることよ、、、
と渋い顔になって頷いたり。

そして、タイトルの言葉。

「人間は社会的な動物だ」とか「ともに生きる世の中」という言葉から解放されたら、地球の重さがずいぶん軽くなった。(略)
もちろん孤独だ。孤独だが、気楽だ。気楽だが、後ろめたい。

『ひとりだから楽しい仕事』クォン・ナミ著


共感の笑いを漏らしつつ読んだ。

「後ろめたい」なんて書いているけれど、
さほど思っていないんじゃないかしらん。。。




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