ゾンビないと前日譚

5/11~15
SHEROES旗揚げ公演『ゾンビないと』
こちらの前の出来事を、リーディングライブにて書き下ろしておりました。
もし良ければご購入くださいませ。



ソノカ…私の妹は高校時代の最後の方に登校拒否になった時期があった。

元々はよく笑う子だったのに、ある日を堺に笑顔が消えた。

私が仕事から帰ってくるといつもは出迎えてくれる妹の姿はなく、部屋に声をかけに行くと中から押し殺した泣き声が聞こえてきた。


あの子は何をするにも人より不器用で時間がかかって、優先順位を間違えては怒られる。

友達のノリについていけず、空気が読めない痛い人間だと悪口を言われていた。


話を聞いてあげなきゃいけなかったと思う。

でも私も就職したばかりで自分のことでいっぱいいっぱいだった。

妹のSOSを受け止め支える余裕がなかった。

生きづらそうにしてるのにずっと気付いてたけど、一人でなんとか出来るようにならなきゃあの子の為にならないだろうと思ったのもある。

父は厳しい人だったから妹の登校拒否を許さなかったし、母も世間体を気にする人だったからあの子のそれは1週間ほどで強制終了させられて妹は浮かない顔で高校に通い続け、何とか卒業した。

専門学校で調理師免許を取り、就職した先のちいさな店でもあの子は人間関係でうまくいかなくなり悩んでいた。

何で妹は私ができる事ができないんだろう、同じ親から生まれた姉妹なのに。

私がしっかりしてあの子を守ってやらないと。


ここ最近、ひとり暮らしを始めていた私の小さな部屋に妹を迎え入れた。

あのままソノカが実家にいると両親のプレッシャーで気が休まらないのはわかっていたから。

わりとそつなくこなしてきた私にだって、やれ恋人はいないのかだの、やれ結婚や出産は早いほうが良いだの、あんたの歳なんかは昔はクリスマスケーキに例えられて売れ残りなんて言われてたんだから…だのあの人達は言うようになっていた。

一体いつの時代の話だよ…とその度にうんざりしてたけど反論したってガチガチの昭和脳の両親の思考をアップデートできるわけないのは明らかだったから、実家にはどんどん寄り付かなくなっていた。

電話にも理由をつけてほとんど出なかった。

私に言ってた事を面と向かって言えなくなった両親の小言は妹に集中し、あの子はどこにも居場所がなくて苦しんでいた。

久しぶりに会った時の妹の骨ばった肩と暗い顔にハッとした。

だから二人で暮らすことにした。


「このまま世界が滅んじゃえば良いのに」

未知のウィルスが外国で猛威をふるっている事を告げるニュースを見ながら妹はぽつりと呟いた。

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