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理由をおしえて ~ダイナミックプライシング推進への大いなる違和感~

夕食の買い出しは毎日のルーティンだ。仕事を終えてスーパーマーケットで夕食や翌日の朝食の食材を購入する。常備しておきたい調味料が切れていればそちらも買って帰る。

我が家が最も利用する某大手スーパーは、品揃えはそこそこあり、都心という場所柄、価格は安くはないけれども高すぎるというわけでもない。週に4日程度はそこに足を運ぶ。

だがある日、日配の棚で買い物をする手がぴたりと止まった。

3パック55円だった納豆が、68円になっているのである。

おや?と思った。どこかに説明でもあるんだろうか?見回してもPOP1つない。隣の豆腐を見てみると、それまで78円だった3個パックの豆腐も83円になっている。

なんとなくの違和感。しかし慌ただしい日々の中でそんな指のささくれ程度の違和感は忘れ去られてしまった。

同じ違和感を再び感じたのは、別の日に同じスーパーの惣菜の棚で娘のための切り干し大根の煮物を買おうとしたときのことだ。

2歳になる娘は和食好きで、納豆ご飯にお味噌汁、焼き魚…と、とかく和のテイストが大好き。切り干し大根煮にも目がなくて、時間があれば自分で作るのだけど、忙しい時はこの店のお惣菜に頼っている。1人分の小さなパックが128円と手ごろなのもよい。

だが、その日、切り干し大根煮が陳列されている棚の前で大きな「?」が私の頭をよぎった。

138円と書いてあるのだ。10円値段が上がっているのである。

えっと…これは何か理由があるのだろうか?それとも一時的なものなの?

数ヶ月前の日配売場での納豆の値上げのことが頭をよぎる。周囲を見回してもやはり何の説明も表示されていない。

一瞬頭が混乱し、そして腑に落ちた。

ああ、この店は、お客さんに価格というとっても大切なメッセージを変更することについて、なんの説明の必要もないと考えているんだな、と気づいたのだ。

原材料が変わったから、メーカーが値上げをしたから、値段があがったんです。

これは、一時的なものなんです。未来永劫この値段なんです。

などなど…本当はお客様につたえられることばはたくさんあるはずなのに。

そんなことを、あなたに説明する筋合いは無い、という不作為のコミュニケーション。

毎日のように足繁くこの店に通う私は、とてもとても悲しい気持ちになった。そこにお客様に対する愛が感じられなかったから。

お客様であるところの自分は、日々この店で食材を調達し、だからそれなりの親しみを感じている。セルフサービスの店で特に店員さんと話をするわけではないけれども、品揃え、POP、販促のサービス、そんなものからいろいろなメッセージを受け取っていた。

だけれどもこのお客様へ最大のメッセージである「価格」を、なんの説明もなく変えることにこのお店は躊躇がないようだ。うーん、失望。

「私はこの商品をこの価格で提供したいと思う。いいものだしお値打ちな値段でしょ?だからうちの店で買い物をするといいよ!」というのが、価格に込められた店からお客様へのメッセージだ。

そして、店の雰囲気、品揃え、陳列、接客…さまざまな接点からお客様は店からのメッセージを受け取るけれども、価格こそ最大のメッセージだと思う。そのメッセージをよしとするからその店を選ぶ。

ただでさえ、日々「商品の価格」はわかりにくくなっている。

たとえばドラッグストアのポイント還元。日によって3倍だったり、5倍だったり。これも割引みたいなものである。突然LINEで配布されるクーポンもそうだ。アプリにとどいたクーポンで、価格が10%引きだったり、15%引きになったりする。店頭に掲示されている価格をいくら調査したところで、本当にお客様が支払う金額は、人によって全く違う世の中に既になっている。

そういう意味で、最近店頭の商品にダイナミックプライシングを取り入れようとしている店舗もあるというのだけれども、私はそれに対しては懐疑的だ。

だいたい、今日100円だったものが、競合がもっと安くしたからって、次の日90円で売られていたら、100円のときに購入した人はその店に裏切られたという気持ちになるだろう。そもそも特売という仕組み自体、お客様の気持ちを傷つける行為だと小売業の方が思わないのはなぜなのか。本当に、買い物をしていて、ずっと不思議でならないのである。

それはけっきょく、お店がお客様を一人の人格としてみていないからなではないかと思う。

私は、理由が知りたい。
その商品が一体なぜその値段なのか。
なぜ値上がりしたのか。
なぜ値下がりしたのか。
それでお値打ちだと自分で納得できれば、価格そのものというのは、さほど重要ではないのだ。

ちなみに食品スーパーのオーケーにはオネストカードというものがあって、そういう情報も教えてくれる。ちゃんとお客様とコミュニケーションをとろうと考えているからだと思う。

このカードなんて本当に泣ける。こういう情報発信を、なんでほかのチェーンストアはやってくれないんだろう?(上記ページから抜粋)

私はこれ以上店頭で「本当にこのお店ってお値打ちなのかな?」なんて迷わずに買い物をしたい。日常生活で頭を使いまくっているから、買い物するときぐらい何も考えないで買い物カゴに商品を入れたいのだ。そして全能感を味わいたいのだ。そんなささやかな庶民の楽しみを、これ以上、これ以上奪わないで……。

だからお客によって値段を変えるとか、競合の状況に合わせて値段を変えるとか、ダイナミックプライシングなんて提案まっぴらだ!と声を大にしていいたい。

あなたのお店を信頼したい。それだけなんだ。


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