保険リスクマネージャーの視点_1

包括保険プログラムとリスクグループについて

1998年の金融自由化前までは企業の火災保険契約についても規制料率が適用されており、複数の工場、事業所を持つ企業であっても、それぞれ個別に保険付保、証券発行が行われていました。現在では多くの企業が同一の保険種目を取りまとめた包括保険プログラム(ブランケットポリシー)を導入しています。

包括保険プログラムは、同種同一の保険種目を纏めることで、保険会社の契約手続きコスト(保険募集、証券発行等のコスト)を削減できること、リスクの分散効果を通じたコスト削減、そして一定の条件下のリスクを包括付保を約することで、契約者も付保漏れをなくすことができるというメリットがあります。

複数の工場を国内に持つ製造業の火災リスク(ここでは簡単化のため、純粋な火災リスクのみとし、場所依存のある自然災害は考えないものとします)でいえば、それぞれの工場の火災リスクは独立しており、複数の同種リスクを統合すると「リスクグループ」が形成されることになります。保険会社のアンダーライターは、このリスクグループの均質性を維持し、分散効果を高めてポートフォリオを大きくさせることで、収益性の安定と規模の拡大を行っていきます。

この点を踏まえると、同種同一のリスクに見えるが、リスクグループを大きく変質させるようなリスクは包括保険プログラムに入れる際に注意が必要であることが分かります。例えば、ある企業グループにおけるサイバーリスクを考えてみると、規模も知名度も高い本社大企業と、相対的に小さいグループ会社ではどちらがリスクが高いとアンダーライターから見られるでしょうか。

当然、本社大企業のほうがターゲットとなりやすく攻撃を受けやすい、有事の際の被害も巨額になる可能性が高いと見られています。また、同じ大企業のサイバーリスクでも、製造業と金融業ではどうでしょうか。同一規模の企業だとしても金融業のほうがより狙われやすい(=ハイリスク)と考えられるため、同じサイバーリスクでも同種同一のリスクグループとは言えないということになります。

従って、こうしたリスクを包括する場合には、条件・料率に差を設けるか、または別のリスクグループとして包括化をする必要があります。同種同一のリスクグループを乱すリスクが混入してくると、当該グループ全体の不利益(不公平)を発生させることとなり、安定的な包括プログラム運営が出来なくなってしまいます。

保険マーケットへのリスクの出荷側としてのリスクマネージャーは、保険会社のリスクグループへの理解を深め(=リスクアペタイトを理解し)、保険化しようとする自社のリスクグループの均一性と同一性を確保し、競争力のある保険契約を組成させるよう努力しなければなりません。

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