Rule of Roseのはなし~戻ってこないジェニファー~

風邪が悪化してひいこら中の蛍石です。鼻かみすぎてひりひりする。熱がいい感じに上がってきたので、白血球たちにぜひ気張ってもらいたいところ…。ううう。

さて、また題名の通りです。「Rule of Rose」、知る人は知っているサイコミステリーゲームです。スプラッタ描写はないものの、間接的に死や暴力、虐待などを描いている作品。女性なら「あるあるだわよ」と頷きたくなる女の子のグループの持つ残酷な支配関係とか、目を背けたくなるスクールカーストとか、狭いコミュニティ独特の息苦しさとか、人間関係の闇を使って精神的打撃をじゃんじゃか浴びせてくる。

このゲームは大抵紹介をすると「おかげで欧州では発禁になった」というある種お決まりの箔が添えられます。やばみを察してください、とでも言うように。

ショッキングな内容が最初から最後まで目白押しではあるけれど、蠱惑的な映像美によって「いけない映画」でも観ているかのような錯覚に囚われます。映像を作り出したのは我らが白組さん(allways三丁目の夕日などでも活躍された方々ですが、どうにも彼らの映像が大好きで。「フォークスソウル(ps3)」も白組×ミステリーやん買う買う!!と飛び付きました)。音楽もいいんだこれが!バイオリンのすすり泣くような旋律、恨みがましい歌声。ホラーとバイオリン、ピアノの親和性ってものすごいよな!と改めて感じさせられます。

…と紹介はそこそこにして、愛して止まないこのゲームの所感とか、考察を書いていきます。例のごとく、未プレイの方はネタバレ書くかもなのでバックしてくださいだよ!!






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ホラーで一番好きなゲームは?と聞かれたら真っ先に「Rule of Rose」と挙げます。2006年発売なので今から13年前ですか。当時ぺーぺーのガキだったのですが、パッケージに一目惚れしお金をためて買ったのを覚えています。そして買って、プレイして、全く後悔はありません。むしろ買えて良かった。今は希少性からプレミアがついているし、当時見逃していたら相当悔やんでいたはずだから。


①あらすじとか

あらすじをざっと書くと

「自身の過去を忘れている主人公ジェニファーが、ひょんなことからトラウマを呼び起こされて苦悩しつつ、幻惑の世界で『自分は誰か』『過去に何があったのか』を紐解いていく」

というもの。

幻惑の世界=トラウマが作り出した妄想の世界です。舞台は寂れた孤児院、飛行船、不審なおじさんの家の主に三つで構成されており、孤児院の扉を開けたら飛行船の屋上だったとか、突拍子なく継ぎ接ぎされていることも特徴。

またジェニファーを取り巻く「クレヨンの貴族」「孤児院の面子」「ウェンディ」「おじさん」「妖精さん」「案山子とゴミ箱」といった諸々も、主人公の精神衛生がぼろぼろのため描かれ方にバイアスがかかっているというか、デフォルメ、誇張されています。

さらに自分探しの旅をする主人公のジェニファーこそが、自分の正体を知らない上、独特の脆さと偏見を持っているので、「信頼できない語り部」の最たるものであると言えましょう。

この世界では何も信頼できない、という考察のしづらさ…。

で。歪みに歪められた夢の世界でジェニファーは、再現された自分への悪意と向き合います。作中、ジェニファーはどのキャラクターにも「汚らわしい」「びりっけつ」などと罵られ(初対面なのにだよ!!)るのですが、プレイヤーは「なんで主人公(=プレイヤー)はこんなに冷たくされるの?なぜ嫌われてるの?」とめちゃくちゃ気になって話を進めていくことになる。


②理由がないからこその不条理

結論、物語を最後まで進めたとしてもジェニファーの嫌われてる所以は明かされないし、理由も「これだ」としっくりくるものがない。匂わせ程度にはヒントがありますが、集めたところで確証を得るまでには絶対に至らないのです。

来歴についてはおそらくこうだろう、という感じで一応纏めることができます。いわく幼少、ジェニファーは飛行船に家族と乗っていたが墜落事故に遭う家族を亡くす息子を亡くし消沈している不審なおじさん「グレゴリー」に拉致されるおじさんの家で孤児院にいるウェンディと縁を持ち「Rule of Rose」を結ぶ孤児院に入る…という過去がある。

そして孤児院で愛犬ブラウンをめぐってウェンディと仲違いクレヨンの貴族(ウェンディが創始?した女の子のお遊びグループ)に虐げられるブラウン殺されるクレヨンの貴族にジェニファーがようやく反抗貴族の長としての覇権を奪われたウェンディがグレゴリーを孤児院に連れてくる孤児院で大量虐殺事件発生耐え難い過去のため、自ら封印し大人になる(今ここ)。

ジェニファーの可哀想な来歴はだいたいこの通り。しかしこれらの情報をまとめても一番知りたいポイントである、不条理にいじめられる原因がさっぱりわからん。というか特定できない。

さらに、最後の章で主人公が「気弱なジェニファー(記憶喪失時)」から「擦れてるジェニファー(記憶を取り戻した)」に変貌するのだが、幼少期から精神的に完成していて、ずいぶんと印象が大人(事実、回想にて「不幸を受け入れてきたから自分だけ大人だと思った」のような独白もある)に感じる。だったら尚更なぜ邪険にされるの?何か悪いことしたの?とまたまた疑問が湧く。(≒古株にとって新参者が変に大人びてていけすかない、という理由もあるじゃんと考えられるけどかなり薄い気がする。あと少なくともトロくて誰かの足手まといになるとか自分から人を傷つけるとか、そういう類いの「気にくわなさ」は持ってないよね?目の敵にされるなんておかしくない?)


③考察~不条理を紐解く~

これ(なぜジェニファーは全ての人間に嫌われるのか)についての考察ですが

1)自分自身に大して問題はなくとも、ウェンディによってけしかけられていたから

2)「自罰的感情が暴走」してるから  (理由として客観的事実にパンチが足りないなら、主観的感情で攻めてみたらどうやねん!)

と考えてます。

1)は言わずもがなで、いじめの原因について「ウェンディとのRule of Roseを破り激昂させた」以上の理由が見つからないのです。たぶん、作中のいじめはほとんどがジェニファーの身に起こったもので、怒ってるウェンディ主導によって、意図的に仕組まれたものであること。ここを疑う余地はあまりありません(ウェンディが「ジェニファー、あたいに楯突いたら後悔するよ!!(意訳)」と手紙出してたし。あとウェンディの人心掌握術は突出しており、文字通り大の大人を犬扱いできるほど。ちょいちょいと口八丁手八丁でジェニファーの心象を損ねさせるくらい造作もなかったのでは)。

こと園児くらいから形成される女の子グループって、数人の中でしか共有、理解できない掟があるもの。とても狭苦しいこのコミュニティは女の子たちにとって楽園とも地獄ともとれる、世界の縮図に他ならない。それゆえ、そこに属することと、反しないことが何より重要と半強制的に学ばされる。こうやって女の子たちは世界の全てであるコミュニティにのめり込み依存していくわけだけど、ジェニファーを苦しめたのはまさにこの「依存」なんじゃないか。この依存関係から勝手に離脱したことで、世界の全てに攻撃される対象になってしまった。(族抜けのリンチみたいだ…)

ここで2)についてです。上述の通りとは言いつつも、いじめの演出の中には過剰なもの(グレゴリー戦前の貼り紙の嵐とかね)がある。それに何よりだんだんいじめられることはあるにせよ、初対面から「いなくなれ」「汚らわしい」なんて罵られることあるか?という、一般論とのズレだってあるわけで

ゆえに、おそらく夢の世界はエスカレートしていくいじめのピーク時を誇張したもので、誇張の原因は「唯一無二であるブラウンを死に至らしめた」ことによる自責なんじゃなかろうか。と個人的に腑に落ちるよう考えてみた。

とにかく自分が許せない。 世界の縮図たるコミュニティの残酷さ と 幼少期に受けたいじめ の二つの形を借りて、自分自身へ「嫌い」の感情が牙を剥く。

精神論なので本当に確証がないけど、ただ、ジェニファーがバラの姫を平手ではっ倒したときのあの激昂からするに、彼女かなり強い怒りを持てる人間なんですよね。それこそ子供ジェニファーのそれは大人ジェニファーのビクビク加減が嘘のようなバーサーカーモードだった。作中、クレヨンの貴族へ怒りは向きましたが、その中で「あんたたちに従ってた自分自身が一番嫌い」とも泣き叫んでいました。このときの感情が強くジェニファーに残っていて、自分への嫌気が支配した世界が形成されたとしたら?…と考えてみた次第です。


④「愛情」について

ゲームの主題は「愛の在処」でしょう。登場人物のほとんどが歪んだ精神を持っていますが、その代名詞としてめいめい「歪んだ愛」を表現しています。

メグのダイアナに対する愛、エレノアの鳥に対する愛、ホフマンの生徒に対する愛、グレゴリーが息子に向ける愛、ウェンディがジェニファーに向ける愛、そしてジェニファーがブラウンに向ける愛。

支配欲だったり偏愛だったりペドフィリアだったり、その形は様々ながら共通しているものがある。それは「上下関係=縛り、縛られる関係」だということです。

ジェニファーは回想(独白)で、「縛られている」人へある種の諦めを持って接していたことがわかります。さらに、上下関係を有する愛情にはあまりいい感情を持っていないこともある程度知ることができる。

これは特大のブーメランなんだよね。結局、ラストはジェニファー自身この縛る愛をブラウンに施してしまうし、そこから「仕方ないわ、だって好きなんだもん。自分なりのやり方で大事にしたいんだもん」と訴える陰気な曲が始まりトゥルーエンドとなる。

エンディングの歌詞を見るとウェンディの縛る心理が、納得はできないけど理解できるようになるところがまたしんどい。徹頭徹尾ジェニファーの心理や立場はうやむやでよくわからないまま、ウェンディ側の気持ちにだけ「共感はできないけど、そういう気持ちがあるのはわかるよ、うん」と頷けてしまう不条理さ

私は可哀想なジェニファーを救済しようとしていたが、サイコなウェンディへの理解を深める旅をしていただけだったのだ。と脱力する他ない。


⑤考察~続・「愛情」について~

一般的に、物語とは「行って、戻ってくる話」だとされます。未熟な主人公が成長して帰ってくるという筋書きはいわば王道なのですが、これをRule of Roseに当てはめると「ん?」となる。

ジェニファー、君、帰ってくるの拒否してないか?

トラウマと向き合い、自分自身を取り戻したジェニファー。しかしラストは幻想のなかで生き続ける子犬時代のブラウンを、有無を言わせず、かつ甘やかに監禁して終わる。

王道ならば、過去や幻想を振り切って「現実」に戻ってきておしまいのはずなのに、ジェニファーはあえてそれをしない。悲惨な過去を乗り越えて現実を生きるより、過去が見せる夢を改変してその中で生きることを選択したように見える。

ジェニファーは辛い旅路の果てに、戻ってくるどころか閉じ籠ってしまう。その姿は歪んだ親愛と独り善がりによって自分を貶め、痛め付けたウェンディと酷似している

ジェニファーの愛情は嫌悪するウェンディに準える形で、自分自身にこそ存在したのだ、という完結。バスのなかで、内なるウェンディ(ジョシュア)が「思い出せ」と訴えてきたのは、過去に何があったのかという客観的な話ではなく、ただの「あんただって私たちと同じ穴の狢じゃんか」という簡単な事実なのかも知れない。

物語は一応完結したけど、ぜんぜん解決してないぞ。


⑥解決しない、という選択 & 余談

ジェニファーが歪な愛情に染まってしまったのを目の当たりにすると、何のための旅だったの…?と唖然としてしまう。しかし、この唖然は忘れがたい「エグみ」になって、ゲームのラストにふさわしい余韻を残すのです。

本当に救いがないわー。皆不幸で破綻している。常識人がどこにもいない。でもそれが世の中ってもんじゃないの?というリアルが迫る。綺麗な被り物してるけど、一皮剥けばだれだって「狂ってる」という当たり前

ホラーの真髄って、「成果がないこと」なんじゃないかとすら考えました。現実のあらゆる出来事に綺麗なオチがつくわけじゃないもんね。ファンタジー(創作物)だって同じで、何事も美しく整うなんて確約はない。人間という歪な存在がいる限り、ホラーは解決されないしいつまでも終わらないのだ。Rule of Roseはそういう読(プレイ?)後感をうまく突いてきたなとやるたびに思います。

背筋に汗が伝うほど美しく、寂しく、恐ろしく、同時に仕方がないんだと思わせる。このうすら怖さがたまらない。プレイヤーごとに主題に対する回答は異なるだろうし、比喩表現過多なので「こういう風に捉えたよ」と意見がたくさん出るところも良いなあと

操作性は難ありかもだけど、雰囲気が本当に良いから気になる方はぜひプレイしてみてほしい。クリア特典のコスチュームチェンジはいい感じでコメディなんだけど、ミスマッチさがある意味怖いところもまたいい味。


長くなりましたがこの辺で。唯一無二の陰鬱な雰囲気を味わいたく、またプレイに潜る蛍石でした。



あ!!プレイに際して、犬が大分痛い目に遭うので地雷の方は気をつけてくださいまし!!


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