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常に成果を出すための”ベンチマークトレース・メソッド”~その①:ベンチマークトレースとは~

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今回から数回にわたって、「ベンチマークトレース」という考え方について書いていきたいと思います。

ベンチマークトレースというのは自分が作った造語で、その名の通り「ベンチマークとなる事例の戦略や施策をトレースする」ということです。
ちょうど「マーケティングトレース」という本があるんですが、この「トレースする」という発想が普段自分がやっていることと同じなので、
名称の参考にしました。

さて、この「ベンチマークトレース」を何のためにやるかというと、シンプルに「成果を安定して出すため」です。
業務の内容にかかわらず、上手くいっている事例の要素をなぞることで成果を出そうということです。

これは別に特別なことでもなんでもなく、安定して成果を出している人の多くがやっていることだと思います。
某商社の総合職勤務の奥様にも、この話をしたら「え、事例をしっかり調べて参考にするって当たり前じゃん」という旨の指摘をもらいましたが、そのとおりだと思います。

逆に言えば、これを意識していない・知らないでいると、仕事の成果がなかなか出なかったり、運任せになったり、センスというあいまいなものに頼ることになったりします。

ちゃんと努力さえば報われるようにするために、この「ベンチマークトレース」という考え方を(特に社内向けに)広く浸透していきたいと思っている次第です。


■このnoteの想定読者
・三浦のチームにてマーケティングおよび基礎ビジネス力を伸ばそうとしている人
・安定して成果を出したいビジネスパーソン
・未経験の仕事に取り組もうとしているすべての人

【ベンチマークトレースのやりかた】

まずはこの「ベンチマークトレース」のやり方について説明します。
やる内容については至ってシンプルです。

■ベンチマークトレースのやり方
①参考にする事例を決める
②その事例について徹底的に調べる
③調べた内容を、何らかのフレームワークに当てはめて整理する
④整理した内容を自分の仕事に当てはめて、成果のセンターピンとアクションを決める
⑤競合を凌駕する(市場で際立つ)ためのエッセンスを足す

ただこれだけです。

「なんだ、そんなもの誰だってやることじゃないか」と思った方、おそらく仕事がデキる方だと思います。
それくらい、仕事がデキる人が当たり前にやっていることでありつつ、実践している人が少ないものではないかと思います。

実際のところ自分自身がこのやり方を意識し始めたのは、新卒3年目の2010年ごろからだと思います。
当時は、まったく未経験のソーシャルゲーム開発をやることになり、必然的に事例調査の量が飛躍的に増えたタイミングでありました。

その後の自分の成果でいうと、以下のような感じです。

・2010年:初めて開発したソーシャルゲームがヒットし、3か月で売り上げ1.8億円、営利6千万円。全社ベストプロジェクト賞を受賞。
・2011年:子会社CyberXの取締役就任
・2013年:株式会社リヴァンプに転職。その後、5四半期連続でA評価をうけシニアマネージャーに昇格
・2017年:サイバーエージェントに出戻りし、アプリボットにてマーケティングをやりはじめて半年で全社ベストプレイヤー賞受賞
・2018年:マーケティング担当したモバイルゲームが大きく成長し、TVCMも大成功。AppStoreセールス最高4位を獲得するヒットに

別になんの自慢にもなるような話ではないですが、例によって、このメソッドの信ぴょう性を担保するために記載しました。

ソーシャルゲームの開発はじめ、未経験のものへ取り組むことが多かったのですが、成果を出せることが多かったのはベンチマークトレースを意識したからだと思います。
この「ベンチマークトレース」という考え方を身に着けられるかどうかで、その後の成果の出し方が大きく変わるのだということを理解していただければと思います。

【①参考にする事例を決める】

さて、実際にベンチマークトレースを進めていく最初のステップは、「参考にする事例を決める」ということです。
参考にする事例を間違えると、その後の調査も施策設計も的外れなものになってしまうため、ここは適切な事例を見極める必要があります。

慣れている人だと、参考にする事例をすぐに思いついて調査に入れるのですが、最初のうちはなかなか参考事例を思いつかないものです。
そのため、参考事例の選び方についてのポイントを記載します。

■参考事例を選ぶさいのポイント
・調べるべき市場カテゴリを明確にする
・市場のカテゴリトップを優先して選択する
・同一市場になければ、他の市場のプレイヤーから探す
・本当に調査可能な事例かどうか吟味する

一つ目について、調べる対象をちゃんと明確にしようということです。
例えばファッションECサイトを立ち上げようというとき、Amazonを参考にしてもほとんど意味はありません。
ファッションECであれば総合モールのAmazonではなく、Nano Universeや.stなどファッション専業ECを参考にするべきです。

二つ目について、調査する事例は当然ながら「成果が出ている事例」であるべきです。
失敗事例の調査が必要な場合も多々ありますが、成果につなげるにはまず成果が出た事例を知っておく必要があります。
上記のファッションECであればそのカテゴリのトップクラスを例に出していますが、ここで微妙なサイズの事例を参考にしてもあまり意味はありません。

注意点として、「参考にできる事例かどうか」ということが重要です。
例えば新規モバイルRPGゲームのマーケティングをやろうというときに、モンストの事例を調査するのはほとんど意味がありません。ターゲットも事業のサイズやフェーズも全く異なるためです。
この場合は同様のRPG系ゲームを調査する必要があります。

三つ目については、特に同一の市場にあまり参考になる事例がないというケースを想定しています。
例えば、自分が2017年にモバイルゲームのマーケティングを始めたさいは、モバイルゲーム市場において参考にできる事業規模・フェーズの事例が見当たりませんでした。
そこで参考にしたのは、小売業・製造小売業のマーケティングでした。特に粗利率の高い製造小売業のマーケティングの事例(目玉商品を大量生産しコスト引き下げたうえ、店頭に大量に積んで集客するなど)を参考にし、弾力的な新規インストールキャンペーン(インストール時にもらえる報酬をゲームバランスが許容できるギリギリまで引き上げる等)を実施するなどで集客につなげました。

四つ目は意外と見落としがちなポイントですが、その事例を本当に深く調べ上げるのが可能なのかどうかを吟味しなければなりません。
例えば、競合他社のSNSマーケティングの事例などはすぐに見ればわかるので、調査が非常に容易です。
一方、例えばVIP顧客への対応の仕方を調査するのはなかなか困難です。年間100万円以上を使ってくれる顧客へのアプローチ方法を調査したいとなっても、自分が100万円使うというのは中々難しいです。
そういうときは社員へのヒアリング等を行うことになりますが、そういうツテがないときには実現が難しくなります。

上記4点のポイントを押さえて、参考にする事例を明確にすることがベンチマークトレースのスタートラインになります。

【②事例を徹底的に調べる】

参考にする事例を決めたら、次は事例の調査です。
ここのキーワードは「徹底的に」という部分になります。

昔とあるヒットゲームプロデューサーの方がやっていたのですが、ベンチマークゲームのガチャの排出確率を調べるために、
50万円分くらいひたすらベンチマークゲームのガチャを回す、ということをやっていました。
当時(2012年ごろ)はガチャの確率表示義務がなかったので、そうする以外に他社のガチャ排出率を知る方法がなかったのですね。

このように、成果を出せるかどうかは、ここの徹底度合いで大きく差がつきます。

ベンチマークの事例を調査するといっても、ネットで調べれば事足りる場合もあれば、当事者に聞かないとわからないという場合もあります。
特にネット上のインタビュー記事に書いてあることなどは要注意で、本当に大事なことはインタビューでは言わないものです。

また、インタビューなどは施策を実施した側の話なので、ユーザー側が実際にどう思っているかや、実際の事業上の成果が出たかどうかなどはわかりません。
そのため、手を変え品を変え、事例の本質を調査する必要があります。

例えば自分の場合、モバイルゲームのTVCMが新しくやっているのを見かけたら、すぐにストアセールスランキングやTwitter上の反応などをチェックします。
どのような訴求、どんなキャスティングのCMが、どういう効果を生んでおり、実際のユーザーの評価がどうであるかを把握するわけです。
こういう調査をせずに「あのタレントを使ってるのは新しいなあ」「この表現は面白いなあ」などと言っていても、事業的にはなんの成果にもつながりません。

徹底度合いが低い調査は、「ベンチマークが何をやったか(WHAT)」という情報で止まってしまいます。
そのため、「その事例を引き合いに出してるけどさあ、それ上手くいった事例なの?」という突っ込みをうけることになります。

徹底された調査とは、自分がその施策を実施したのと遜色ないくらいの情報量になります。
何をやったのか(WHAT)はもちろんのこと、誰が(WHO)、どのように成功させ(HOW)、どんな成果が出たのか(HOW MUCH (MANY)、なぜそれが成功したのか(WHY)といった情報を、事細かに把握できるということです。

ちゃんと事例調査しているつもりなのに、上手く成果に結びつかないという場合は、この「調査の徹底度合い」が不足しているケースが多いように思います。
ここの執着で成果が決まるといっても過言ではないため、非常に強く意識したいところです。

補足>
マーケティング事例の場合、よくメンバーに伝えるのが「その施策を感情で語れるくらい調べて」という基準です。
「何をやったか」はすぐに語れるのですが、「ユーザーがどう思っているか」については、深く調査しないとなかなかわかりません。
しかも「こんなこと仕掛けられたら絶対楽しいと思う」「これをやられたらさすがに怒ってしまう」といったリアルな感情の動きは、自身がユーザーになるくらい深く事例に触れないとわからないものです。

人間は心理的に、「事実のことは嘘がつけても、感情には嘘をつきづらい」というものがあります。
楽しくもないのに、楽しかったと言うことに抵抗があるという人も多いと思うのですが、要はそういうことで、
自分が事例について感情レベルで語ることができるには、事例について相当深く調べられているという一つの目安になると考えています。

【③フレームワークで整理する】

徹底的に事例調査したあとは、それを整理してアウトプットします。

単に事例を調査しただけでは、何をどう参考にしていいかがわからないので、
慣れるまではフレームワークに当てはめて整理するのが良いと思います。

整理する際に使うフレームワークは、だいたい以下のようなものが多いです。

■事例を整理するフレームワークの例
・5W1H(の一部抜粋)
・3C、4P、STPなどでまとめる
・時系列でまとめる
・マトリクスにする
・表にする

例えば自分が初めてモバイルゲームの大規模なTVCMを手掛けたときは、モバイルゲームのTVCMの事例をいろいろと調べたうえで、
成功している事例のSTP(セグメント、ターゲティング、ポジショニング)をまとめました。

その結果、TVCMがうまくいっていると思われるモバイルゲームのTVCM事例は、STPがまったく参考にならない「IPを活用したもの」「すでにリリースから複数年経過した、先行者メリットがあるもの」「大規模な資金投下で一気にシェア拡大したもの」しかないという結論になりました。
そのときの担当タイトルは、できるだけ投資リスクを最小限におさえたく、とにかくROIを重視したいというものだったため、
上記の事例はどれも参考になりませんでした。

そのため方向転換し、他の業界で上手くいっている参考事例を探し出したところ、BtoBのスタートアップ企業がよくやっているような「リアルなユーザーによる便益訴求」というクリエイティブにたどり着きました。
投資規模やROI重視という事業フェーズ、明確なUSP(独自性のある強み)といった条件が、参考事例と合致したわけです。

事例を整理するフレームワークは、それこそ無数にあるため、ここは実践による慣れがどうしても必要です。
自分はかなり昔に以下の本を読んでフレームワークを整理しましたが、これに限らず何かしらの本からフレームワークを吸収し、実践していくのがよいでしょう。

【④成果のセンターピンとアクションを決める】

ここまできたら、次にやるのは「成果のセンターピンとアクションを決める」ということです。

成果のセンターピンというのは、成果を出すうえで最も重要な、はずしてはないポイントのことです。

例えば前述のTVCMの場合は、「既存の広告接触済みかつ未プレイユーザーが『このゲームは本当に面白いのかもしれない』と考えるように態度変容を促すよう、リアルなプレイ体験のインタビュークリエイティブを、高いフリークエンシーで見せること」でした。

実は参考にした他業界事例の場合も、既存TVCM接触済みユーザーの態度変容という狙いでリアルなユーザーのインタビュークリエイティブを活用して成功していたため、
成果のセンターピンの設定を同様に置いたわけです。

すると、成果を出すためのアクションも自然と決まっていき、どんなキャストをアサインし、どんなコメントを引き出すようにコミュニケーションすればよいかという部分も決まっていきました。

ここの「成果のセンターピン」を明確にしていないと、ドツボにはまることがあります。
せっかくフレームワークに基づいてベンチマーク事例を整理したのに、肝心のセンターピンが不明瞭なため、
「ベンチマーク事例はこれをやってるけど、ウチもやらないといけないのではないか」「ベンチマークとの事情の違いがあって、ウチではうまく実現できない」といったことで悩んだりします。

例えば上記TVCMのセンターピンは「広告接触済みかつ未プレイユーザーの態度変容」であったため、アクションを絞り込むことが容易でした。

逆に、「とにかくリアルなユーザーにCM出演してもらう」というアクションをセンターピンと混同してしまっていたら、
キャスト選定やクリエイティブの編集段階での拠り所がなくなり、メッセージが伝わらないクリエイティブになってしまっていた可能性が高い
です。

慣れていない人はこのように「アクションとセンターピンを混同する」というのをやってしまいがちです。
事例の調査段階でもそうですが、WHATにばかり目がいっていると、重要なWHYやHOWの部分が甘くなります。

センターピンの言語化は、特にチームで仕事をするさいに大きく成果を左右するため、
慣れるまでは上長に細かくフィードバックをもらいながら詰めていくことをお勧めします。

【⑤競合を凌駕するためのエッセンスを足す】

④まではいわばセオリー的な話ですが、⑤は頭一つ抜ける成果を出すための、いわば心構え論です。

事例を徹底的に調査し、要素を整理してセンターピンを決めたら、一度立ち止まって考えることが重要です。

ここまでの取り組みでは、「市場で上手くいった事例のトレース」まではできていても、「競合を凌駕し、市場No.1をとるような事例を作る」というレベルにはなっていません。

そこで、「市場で圧倒的に存在感を出すために、施策をブラッシュアップできる部分はないか」と考える時間をとることで、さらに施策の精度を高めていくという段階を用意します。

例えば最初に開発したソーシャルゲームでは、ヒットさせるために「全キャラの設定資料を事細かに用意する」ということをやりました。
全48キャラの家族構成や一人称、出身地から考え方などに至るまで、とにかくほとんど自分で作っていきました。

当時のソーシャルゲーム市場は非常にまだ黎明期で、競合のゲームクオリティも高くなかったため、
ベンチマーク調査に基づいて、この「設定資料を作る」という当時ではありえない手間をかける判断をしたことで、市場No.1を狙ったわけです。
※もちろん現在のモバイルゲームどころか、当時のコンシューマゲーム市場でも上記のような手間をかけるのは当然の話ですが、それくらい黎明期だったわけですね

結果的にこれが、ヒットのために欠かせない要素(=キャラクターゲームとしてのクオリティの差別化要因)となりました。

ベンチマークトレースを、単に「事例をトレースする」で終わらせてしまうと、そこまでのインパクトはなかなか出ません。

徹底的な調査分析のうえで、競合を凌駕するアイデアを入れ込むこと。

それがベンチマークトレースの本質であると考えています。

【まとめ】

この記事を書いた背景には、自社がモバイルゲームというレッドオーシャン市場で戦っていくなかで、
いかに一人一人のアウトプットのクオリティを高めて生き残れるか
・・・という課題感があります。

レッドオーシャン市場においては、ポジショニングの取り方だけで勝てるほど甘くはなく、
競合と真っ向勝負で勝てるだけのクオリティが求められます。

逆にいえば、競合を徹底的に調査分析したうえで、それを凌駕するアウトプットを定義できれば、
あとはオペレーションさえ実現できたら必ず勝てる
ということでもあります。

今後はこのベンチマークトレースを社内に浸透させるべく活動していこうと思っていますが、
これを読んでいただいた方の仕事においても、何らかの参考になれば幸いです。

今回は以上です。次回以降はベンチマークトレースの実践編を書いていきたいと思います。

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