『プロムナード』日経夕刊2016.1~6月全24回エッセイ

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ノート

1「虫の良い話」

このエッセイ連載の依頼を受けたのは、二〇一五年の夏だった。

 芥川賞を受賞した直後。連日続く取材や細々とした単発の執筆依頼を受けるかどうか日々判断してゆく中で、どうするか数分だけ迷った。

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2「優しさの調理器具」

調理道具を新調したいと思い始め、最近、やたらと色々な店で見て回っている。

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3「ねんちゅうにばるきかよ」

昔通っていた幼稚園で講演会を行った。二四年ぶりの来園だった。幼稚園に入園する前、母と一緒に初めて東京郊外の林に囲まれた園へ車で訪れた日のことを、覚えている。

 年少の時に、先生たち不在の折に突如年中組からの襲撃を受けた。

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4「ちゃんと遊んでる?」

同時並行と集中について、最近よく考える。色々なことを同時にやろうとすると、なにかを忘れたり、集中できず作業効率が落ちたりする。いっぽう、なにか一つしかやらないようにすると、それに関しては精度よくこなせるが、機会損失をこうむったり、事後的に全体をふりかえっての効率性は悪かったりする。

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5「ガラケーという自信」

携帯電話が壊れた。スマートフォンだ。二、三年前までは、いわゆるガラパゴスケータイは「携帯電話」とよばれ、スマートフォンは「スマートフォン」で、「携帯電話」とは一応別物として区別されていた。数年前、スマートフォンとガラケーの所持者の数が半々だった頃、『隠し事』という小説を書いた。賃貸マンションの2DKに同棲(どうせい)する社会人カップルが、お互いの携帯電話を盗み見て浮気を疑ったりするという話だ。

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6「整理整頓の内幕」

自分の頭の中の、短期記憶領域の容量が小さい。やらなければならないことが多く、その容量がぎちぎちにつまっていると、いつもなにか気がかりという状態で、どの用件からどうこなしていけばいいかわからなくなる。よくあるたとえだが、パソコンでいう、メモリの容量が少ないというのと同じだ。だからこそ、「これはひとまず忘れてもいいんだ」と脳の短期記憶領域を解放するため、メモをとる。

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7「今年のバレンタイン」

今年のバレンタインデーでは、人生でもっとも多く、お菓子をもらった。二月一三日に、長野県松本市にて北野大(まさる)先生と一緒に講演会を行った。自分が通っていた明治大学の卒業生からなる校友会の長野県支部主催で、三〇〇人ものお客さんが集まった。北野先生の人気があってか、聴講の応募者数は六〇〇を越えていたらしい。三〇〇人のお客さんも全員同じ会場には入りきらず、別階にてパブリックビューイングで見た方々もいら

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8「既成概念破るコーヒー愛好家」

昔からコーヒーが好きである。それにまつわる最も古い記憶は、幼稚園年長の頃のものだ。

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9「セピア色の憂鬱」

女性たちがスマートフォンで撮る写真が、あまり好きではない。

 スマートフォン内の、インスタグラムやラインといったアプリで撮った写真は、撮影した直後に、様々な画像加工の案を提示される。

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10「パイオニアの勇者と、タダ飯食いの愚者」

文芸書の世界では、時間の流れ方がゆったりしている。好きな作家により半年くらいに前に出版された小説も、新刊本という感じがする。ついこの前ハードカバーで刊行されていたと思っていた本の文庫版が店頭に並べられていたりすると、「もう文庫が出たのか」と驚いたりもするが、ハードカバー版刊行時から二、三年は経(た)っていたりする。本について語られるとき、数百年前に書かれたものから、つい最近書かれたものまで、並列に

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