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2017/9 SC Fortuna Köln U-19フィジオセラピスト 名和大輔インタビュー

 ー現在の仕事をしたいと思ったキッカケや時期について教えてください。
名和「小学校から高校までサッカーをしていて、サッカーに関わりたい仕事をしたいと思ったのは中学生の頃でした。高校に進学してからトレーナーという職業を知って、その業界に進まれた先輩方もいたので、いろいろ話を聞いて、この仕事をしようと思いました」

ー日本体育協会公認のアスレティックトレーナーや鍼灸あんまマッサージ指圧師の資格をお持ちですが、まずアスレティックトレーナーとは、どんな役割を担うのでしょうか。
名和「アスリートのコンディショニングを全般的に管理します。主に、体調管理やエクササイズとトレーニングの指導、怪我をしたときの応急対応、復帰までのリハビリテーションを構成します」

ーその後に鍼灸あん摩マッサージ指圧師の資格を取得されたのですね。
名和「そうです。東京にある、東京スポーツ・レクリエーション専門学校でアスレティックトレーナー資格を取得後、Jリーグのクラブでトレーナーとして働きたいと考えていましたが、『今後は医療分野、鍼灸やあん摩マッサージの資格も必要になる』ということを先輩方から話を聞いていました。それらについて興味はなかったのですが、一つの武器として取得するために、鍼灸、あん摩マッサージ指圧師の資格を同時に取得できるカリキュラムがある赤門鍼灸整専門学校で三年間勉強しました」

ーそして昨季(2016/2017)、SV Hornにフィジオセラピストとして加入されたわけですが、その経緯を教えてください。
名和「僕がアスレティックトレーナーの資格を勉強していた東京スポーツ・レクリエーション専門学校がSV Hornと提携することになり、『フィジオセラピストを募集しているという話があるから行ってみないか?』と電話を貰ったことから始まりました。当時は横浜のJアスリートケアで働いていて、いろんな人に相談をしましたが、僕自身が海外で仕事をしたいと強く思っていたので、行くことにしました」

ーSV Hornでは、どのような役割だったのでしょうか。
名和「僕を含めて三人のフィジオセラピストでメディカルチームを組んでいました。その三人のうちの最年長の方は長年オーストリア代表でフィジオを担当され、その方の指導の下、選手のコンディショニング、マッサージ、リハビリテーション、トレーニング指導を担当しました。また、監督が2016年4月に就任された濱吉正則さんということもあって、ボール拾いといった練習のサポートもしました。スタッフの治療もしましたね」

ー今年7月から、SC Fortuna Köln U-19チームのフィジオセラピストとして活躍されていますが、主な役割である怪我への応急対応、コレクティブエクササイズ、復帰までのリハビリテーションについて、順番に教えてください。まずは、打撲や靭帯の負傷における応急手当からお願いします。
名和「打撲の度合によるのですが、例えば太もも前面の打撲であれば、患部を触ってみてどのくらい重度のものなのかを評価します。どのくらい関節が曲がるのか、炎症反応があるのかを確認したうえで、アイシングで炎症反応を抑えます。打撲だと、筋肉が硬直して固まってしまうので、アイシングをしながらストレッチもします。アイシングが終わったら、コンプレッションテープで患部を圧迫して、そこがこれ以上腫れないように応急処置をします」

ー靭帯の怪我だと、芝に詰まることで起きてしまいます。
「そうです。人工芝だと走って止まる動作において、過度に止まってしまうことがあって、膝が過度に捻ってしまうことや、競り合いのなかのジャンプの着地で、体勢を崩してしまって膝や足首を捻ってしまうことがあります。天然芝になると、雨が降れば滑りやすいので、足元が滑って捻ってしまうケースがあります。応急手当についてはどの靭帯を損傷したのか、炎症反応がどのくらい起こるのかを把握し、どのくらい可動域が出るのか、そして靭帯にストレスを掛けて、どのくらい緩んでいるかのテストをします。つまり、大きな視点から徐々にテストをして、絞り込んでいく形で評価をしていきます」

ー試合中に選手が削られて応急手当が必要になったとき、監督であれば交代するほどの具合なのか、続けられるのであればその手当を早急に終えてほしいと思いますが、やはり急かされますか?
「もちろん。ただ、しっかり評価やテストをしないと回答できないので限界があります。ベンチから反対サイドで起こった場合だと、続けられるのか、できないのかをベンチに居るスタッフにスムーズに伝わらないこともあります。ビッグクラブになると無線でやり取りしますが、ウチはそこまで余裕がないので羨ましいです」

ー続いてコレクティブエクササイズについてですが、肉体改造と聞くと、かつてはウェイトトレーニングで筋肉を大きくすることを言いましたが、現在は身体の柔軟性を高めることが目的のように思えますが、どういった狙いがあるのでしょうか。
名和「どれだけ筋肉で増強しても、やはり身体をどう使えるかが問われます。選手の動きを分析し、改善のためのエクササイズを指導することが僕の役割なので、上半身の動きが硬いのであれば、肩甲骨まわりのエクササイズや使い方を指導するだけでも、上半身の使い方は変わります。下半身であれば、走る際の股関節の柔軟性や使い方、重度の捻挫を防ぐためにも足首の柔らかさが求められます」

ー岡崎慎司選手の「走り」を指導されている杉本龍勇さんは、はじめて岡崎選手の走りを見たとき、『プロとしてやっていけるのか?』と思うぐらい、走ることの基本がないと語っていました。これは競泳をしていた自分自身にも言えることなのですが、自身の運動への理解や知識が備わっていないまま、競技の専門的な動作しかしてこなかったことが言えると思います。
名和「自分の身体に対して、どれだけ興味を持てるかだと思います。例えば僕がある選手にエクササイズを指導する際、『君はこの部位が上手く使えていないから、このエクササイズをして改善していこう』と言ったところで、その選手が意図を理解せず、単にそのエクササイズをこなしていては何も改善されません。それは、選手が何も考えていない、感じていないからです。自分の身体と対話して、身体の動きを自分で理解しなければ改善することはありません。基本的な運動動作ができていなければ、各競技における専門的な動作に影響が出るのは当然です」

ー基本的な運動動作を身体に染み込ませるのは、もちろん早い時期から取り組めばいいということですね。
名和「子供の頃は神経系が発達段階にあるので、いろんな刺激を与えることが大事です。たとえば、鬼ごっこはウォーミングアップで広く活用されていますが、平坦なグラウンドでやるよりも少し起伏がある所でやれば、いろんな関節の動きが生じたり、バランス感覚が養えます。可能であれば、裸足になればさらに指の感覚も養えます。指先の感覚であれば、折り紙が有効です。左右の身体の使い方も早い時期から取り組めば、利き手、腕、足ではない方も同じような感覚で使えます」

ー復帰までのリハビリテーションとは、具体的にどういったことをされるのでしょうか。
名和「完治するまでのプログラムを組んで、そのプロセスにおけるエクササイズとトレーニングをします。この部分で求められるのは、単に怪我を完治させるだけではなくて、負傷した部位を負傷する前よりも強くすることです。それはもちろん、怪我を繰り返さないために行います」

ーマンチェスター・シティのバンサン・コンパニはここ数年、度重なる怪我で離脱を繰り返していますが、それはやはり完治せずに復帰している、ということでしょうか。
名和「やはり、代えの効かない選手を監督はすぐに使いたい、というのはあると思います。いま担当しているU-19チームの監督は僕の意見を尊重してくれていて、僕が100%大丈夫と言わない限りは、怪我明けの選手は使いません。だた、またすぐに同じ部位を負傷してしまったら僕の仕事は完璧に果たされていなかったということなので、負傷前の測定値と照らし合わせながら見極めています」

ープログラムの中には、エクササイズ以外に治療も含まれるわけですが、鍼治療はここドイツではどんな反応がありましたか。
名和「東洋の文化なので、こちらではもちろん広く認知されていません。最初はもちろん『鍼を指すことで治るのか?』と言われますが、やってみたら治って『凄いな、鍼治療!』と言ってもらえるので、これから先ヨーロッパで広まる可能性は充分にあると思います。むしろ、この分野は選手よりもステップアップする可能性が高いとも思っています」

ー「スポーツに関わる仕事がしたい」、「プロアスリートが戦う現場、さらには海外で仕事をしたい」と志す学生や、働きながらもそういった道を模索している人は多くいます。ご自身の経験から、資格に加えて何がプラスアルファとして求められるでしょうか。
名和「人と触れ合って、その人のために尽くす、そういった人と人との職業だと思うので、選手や患者さんと同一の立場で接する人間性が必要だと思います。治療や指導の腕も見られたと思いますが、人として仕事がしっかりと出来ているか、しっかり付き合えるか、ということをやっていければいいのではないかと思います。鍼治療で言えば、やはり危険を伴うのでしっかり説明をし、同意を得たうえで治療をするので、メンタルケアも大事です。リスペクトされていなければ、身体を触ることも許されないですし、僕自身がそれを許せないので、リスペクトされる人でありたいとは常に頭に置いてあります」

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