2018/6 MSV Duisburg 樫本芹菜選手シーズン総括インタビュー 2/3

―大学スポーツについて、また質問したいことがあります。これは私の偏見でもあるのですが、日本の大学スポーツのゲーム、たとえばラグビーのゲームを観に行く観客層というのは学生であったり、大学OBやOGが割と占めているのかなと思っています。日本版NCAAが動いていくにあたって、これから大学スポーツを盛り上げていこうとするのなら、大学周辺住人に認知されることが重要ではないかとも思える。アメリカでは、そういった周辺住人に対する活動はされていたのでしょうか。
「アメリカの大学は夏休みが5月頭から8月末で、サッカーにおけるプレシーズンは8月の頭から始まるので、5~7月はシーズンオフのような時期に当たります。その時期に、一週間単位でだいたい5~6回、有料のユースキャンプがあります。それには200~300人ほどの子供たちが集まってきて、チームの年間運営費のための収入源になりますし、選手が子供たちのコーチになることによって、子供たちに身近な存在になるための活動をします。シーズン中のゲームにも『ユース・デイ』と称して、12歳以下の子供たちには入場料やピザが無料だったり、フェイスペイントやバルーンアートができる人を呼んだりして、ゲーム観戦以外のことでも楽しめるように企画しています。また『コミュニティ・サービス』という、ある程度のボランティアをしなければならないルールがあり、実際に私のチームではホームレスの人たちに食事を配給する団体を訪れて、食品の箱詰めを手伝ったりしました。『アスレティック・デパートメント』全体として活動することでは、入院して家族と一緒にクリスマスを過ごせない子供たちにクリスマスギフトを渡しに行く活動をしています」

―そのお話を聞く限りでも、アメリカの子供たちは憧れる対象が広いのだと思えます。
「NCAA Division1というのは子供たちの中でもブランド化されている部分があり、サッカーをしている女の子たちは大学サッカーそのものに憧れる印象が強くあります。自分がお世話になった小学生のころのサッカークラブに行ったとき、子供たちは『プロ選手になる』と言いますが、アメリカのユースキャンプで自分が担当した子供達に将来のことを聞くと『芹菜みたいにNCAAのDivision1でプレーしたい、それが夢なんだ』と言う子がとても多かった。その時思ったのは、大学スポーツとはいえ奨学金をもらっていて、自分の中ではプロ意識を持っていても、プロスポーツとは違う印象があったんですけど、『アメリカでは夢の対象にしてもらえるまでの存在なんだ』と思って、すごいモチベーションに繋がりますよね。大学スポーツにしても大学サッカーにしても、位置づけが違うなと思いました。
Butlerはプロ並みの施設が揃っていて環境が日本よりも整っています。じゃあ、女子サッカーチームが大学に収益といった貢献をできているかといえば、微々たるものでしかない。それでも、ヘッドコーチを務めるご夫妻の奧さんの方が税理士をされていた経験から、ものすごい経営が上手くて、夏のユースキャンプで得た収益をシーズン中のゲームのイベントプログラムを運営費に上手く充てたりしていた。ただ、Butlerは私学校ということももちろんあるのですが、なぜここまでの環境を整えられているのかというと、男子バスケットボールチームのおかげというところが大きいです。ウチは全米でFinal4まで残ったこともあるような強豪校で、チケットは毎回売り切れて、大学スポーツでありながらチケットの入手が困難なレベルにあります。アメリカの大学スポーツの印象としては、一つの競技に頼るというよりはアスレティック・デパートメントひとつが大きなチームで、その中で結果を出したチームが全部のスポーツチームの利益にもなるし―」

―分配される、ということでしょうか?
「お互いもちろん努力しますが、持ちつ持たれつつという関係です。女子サッカーチームが男子バスケットボールチームに還元できているかと言えばないでしょうけど、カンファレンスで優勝したときはある程度バジェットも増えたでしょう。男子バスケが結果を出して、もちろんある程度の優遇というか、プロモーションやスポンサーが他スポーツよりも気合いが入っていることは間違いないですが、男子バスケが結果を出すことで他スポーツチームに配られる練習用具などが良くなっていたり、施設のリノベーションが行われたすることに繋がるので、結果として私たちも恩恵を受けることになりました。Butlerがバスケットボールチームありきの学校でバスケだけに力を入れるわけではなく、ButlerのバスケットボールチームはButlerのアスレティック・デパートメントの中の一つのチームとして捉えて運営している。個々のチームの結びつきも強く、互いのゲームの応援にも行きますし、スポーツをしていないクラスメートも応援に来てくれるのが当たり前にあります」

―アメリカには四大スポーツと言われるほどの存在があって、サッカーも伸びてきている。日本版NCAAがまず考えることは、各地域の各大学、各チームが各種競技の普及や人気向上に着手すべきなのかなと思えるのですが。
「自分が日本版NCAAはあるべきということに賛成ですけど、なぜそう思うかと言うと、一番は日本の大学でスポーツをやっている選手たちは勉強を蔑ろにしている人たちの数は決して少なくはなく、将来のことをあんまり考えていない印象が強いからです。それは友人の話を聞く限りでのことですが。大学生活を振り返ってみても、アメリカに行くまでは勉強を蔑ろにしていた自分が、文武両道に徹してとても充実した四年間の学生生活を送れて、高校までの自分から変われた。選手を引退した後、どういうことをやっていけるか、その時のために今のうちにしていけることは何か?について、しっかり向き合えるようになりました。自分はそれが良い変化だと思っているから、このことを多くの人に経験して欲しいと思います。なおかつアメリカのチームメイトと話していると、『日本の学生生活はどうなの?』と聞かれることがあって、彼女たちは将来のビジョンをしっかり見据えていて、卒業後はサッカーをやめるけどもう一つの夢のために頑張りたいから専攻でも経済学を取っていたり、税理士になるための勉強をしているなど、熱心に勉強しているチームメイトがほとんどだった。一方、日本にいる友人からは、課題ではコピーペーストして良い判定をもらえたりするということを聞いていたから、それをチームメイトに話すのが恥ずかしかった。そういうことを自分の中で許して競技にこだわるというのはおかしいことだと思う。アメリカの文武両道という思考をNCAAがコントロールしている部分が大きいので、日本にとってのNCAAみたいなものは必要だと思います」

―東京五輪のボランティア募集の現状についてですが、現地までの交通費及び宿泊費が自費であるなど「あまりにもブラックだ!」という批判があります。大学生でいえば大会中のボランティアを経験して、それを就活の際のセルフセールスポイントにすることもできる考えもあれば、内容によればそれを否定する声もあったりする。
「個人的な意見としてはクラウドファンディングと同じことだと思います。日本におけるクラウドファンディングはまだ乞食のようなイメージがありますけど、支援するかどうかは支援者側の考えであって、ボランティアに関しても同じことです。将来プラスになるからとか、自分の英語力を試したいから通訳としてボランティアしたいという人もいるでしょう。でも結局、ボランティアの力なしに成立するのは無理だと思うんです。募集する側はWin-Winじゃないにしても、こういう事業をお願いしたいとキチンと伝えるのはもちろんですし、応募する側はなにも世間体を深読みすることなく、自分のためになるのだったら挑戦してほしいです。世代別ワールドカップといった規模の大きくない国際大会やアジア予選然り、現地で通訳される方はボランティアの方でしたし、その方々が自分たちにとってとても大きい存在でお世話になりましたし、応援してくれるサポーター以上に強い絆を築ける部分もある。その方にも思い入れのあるチームになったりと、必ずしもお金を得るための仕事ではなく、経験に価値を見出せるのであれば応募してほしいです」

―クラウドファンディングに挑戦するアスリート、スポーツチームが増えてきました。今回、芹菜さんのプロジェクトは成功されましたが、応援したいといった共感を得るためにどういった戦略を考えたのでしょうか?
「クラウドファンディング挑戦は今回で二回目になります。一回目は見事に失敗して、プロジェクトを立ち上げて早々に周りの反応から見ても『無理だな』と思い、打ち切りにしました。一回目はファンクラブ方式をとっていて、その方式は終わりが見えないやり方なんです。この方式は目に見えるものでリターンできることを継続できる、例えばアーティストやシンガーソングライターの方向けで、一方スポーツ選手は目に見えて還元できるものがないじゃないですか。だから、このやり方は間違っているなと思い、次があるなら一回きりの支援で済むような形でやろうと決めました」

―2014年にご自身のホームページを開設し、ブログを発信し続けてきましたが、それは用意してもらったものだったそうですが。
「用意していただいた方からはグローバルな人材を育てたくて、海外で生活をしている私の声を届けて欲しい、ということで用意していただき、始めることにしました。自分は文章を書くことが得意で、文章で惹きつける自信があります。今は大学を卒業して時間があるから、ただポンポンとポストするだけではなく、自分の思っていることや深いことまで踏み込んだ、読んだ人が何かを学んで感じてほしいという内容にしています。一つ一つ時間をかけて書くようにしていて、数は多くないですが自分の伝えたいことや感じていることを今年は踏み込んで発信できている。だからこそ、二回目のクラウドファンディングの紹介でもすべてをカバーすることなく 、自分を知ってもらえているのでは、という自信にはなりました」

―いくつかあるプロジェクトの中には、その人の背景があまり深くないものもあったりする。いまは誰しもがメディアを持てる時代で、これまでの経歴を発信できるのはとても重要だと言えます。
「ソーシャルメディアはかなり必要なものだと思います。タイミング的にも失敗した一回目と今回とでは時期が空いていて、プロジェクト中のプロモーションも大事ですが、それ以前に自分のことを知ってくれているかもかなり重要なことです。大学在学中はそこまで踏み込んで発信してはおらず、そこを改善してまた挑戦しようと考えていました。今回成功に至った理由の一つに、Twitterでもプロジェクトを発信して、フォロワーの多い方がそれをリツイートしてくださって拡散に繋がった。その方はサッカーについておもしろいことを呟いていて、フォローしたらフォローバックしてくださり、自分のプレーやプロジェクトについてツイートしてくださった。Twitterは勉強のために始めて、だからフォロワー数はいまも少ないですけど、Twitterをしていなかったらこのプロジェクトも違った結果になっていたかもしれません。ソーシャルメディアは上手く使えば、恩恵を得ることはあると言えますよね」

―サッカー選手なのだからそのプレーはどういうものなのかを知ってもらうためにも、プレービデオは必要なことです。どういったことを考えて、プレーのチョイスや編集をされたのでしょうか。
「今回貼ったビデオは自分が編集したものではありません。あれはアメリカ時代の、シーズン開幕前の夏限定で活動するチームでのプレー集です。そのチームでのプレー集を選んだ理由は、もちろんそのチームは結果にこだわりますが、どちらかと言うとネイマールのような足技を絡めたプレーで魅せて、子供たちに『あんなプレーしてみたい』と思わせる、サッカーを盛り上げていくことを目的に活動しているチームで、普段のゲームではできない魅せるプレーを中心に構成しました。プレー動画をプロジェクト上に載せた理由は、どれだけ言葉で飾っていてもサッカー選手としてお金を集める以上、 プレーはセールスポイントとしておいておかなければいけない。ただ、自分の場合はアメリカでのプレーには絶対的な自信を持っていましたが、ドイツに来てからの選手としての結果はまったくない。ドイツでのセールスポイントをプロジェクトに反映するのは弱いと思ったので、自分のプレースタイルを知ってもらうためのものであって、それを頼りに支援を呼び込もうと訴えかけようとは思っていなかったです」

―プロジェクトの「最後に」という部分では、女子サッカーの現状についての意地とも取れる文言がありました。どういう面持ちで綴ったのでしょうか。
「女性アスリートと言うよりも、マイナースポーツとかでも一緒だと思いますが、選手をやってきている以上、いろんなジレンマがあると思うんです。今回のプロジェクトで、ドイツでの成績も考えて、サッカー選手ですけど自分のパフォーマンスはそこまでストロングポイント、セールスポイントにはならないと自覚があります。それでも、サッカー選手として支援を呼びかける以上、自分のプレーを知ってもらう意味で、自分の好きなプレー、インパクトがあるだろうなというプレーを添付しました。ただそこをメインにプッシュしてお金を集められるとは思っていなかったので、だったら違う角度でどうやって樫本芹菜というサッカー選手としてはもちろん、人としてどれだけ惹きつけられるかと考えた時に、Butlerで考えてきたことであったり、自分が今までサッカーを通して感じてきたことを伝えられれば、集まるのではないか?というコンセプトで文章を考えました」

―いくつかあるプロジェクトにはもちろん自分のことだから自分のことを紹介するのだけれども、支援を呼びかけるには中身が浅いものもあったりする。どれだけ共感できるか、深みがあるか、ということは大事だと思います。
「支援を得るためのものは集めてナンボで、使えるものは使うというスタンスであったのは事実なんです。選手としては2010年のU-17ワールドカップは黒歴史で、チームキャプテンでありながらまったく出場できずに終わって、穴があったら入りたいくらい恥ずかしいくらいのものなんです。選手として紹介されるとき、U-17ワールドカップ代表でButlerではコーチが自慢の子みたいなことを言われるんですけど、自分としては掘り返されたくはないんです。でも、ワールドカップでは準優勝してチームキャプテンでしたって、これ以上レジュメ上でキラキラしたものってないじゃないですか。今季もブンデスで出れていないとはいえ、サッカーに詳しい人、詳しくない人でも『あのブンデスリーガで』ってなる人はいるじゃないですか。そしたら、使えるものは何でも使うんですよ。ただ正直、言いたくない気持ちはあるんです。今季チームは前期全敗して、自分はほとんど出場できずで、これほど屈辱的なことはない。でも、こういうプロジェクトをするうえでは使うほかないんです。内容の深みプラス、使えることを上手くバランスよく使えるかを割り切ってやっていくというか、それぐらいの強かさは必要ではないかと思います。自分のプライド上、あんまりやりたくはなかったですけど、使えるブランドは使って、サッカー以外のことでも使っています。結果を出せば勝ちですからね」

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keisuke-imachi

Ayrton Senna, Football, Sports Journalism. 2017.8~2018.7 in Germany. ドイツに居た頃の取材活動と、これからのことを記していきます。

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