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2018/5 樫本芹菜選手インタビュー「予感」

 Duisburg Hbfから南に位置するDuisburg Südに、Allianz Frauen Bundesligaを戦う、MSV Duisburg Frauenの練習場がある。

この女子チームは、あるクラブから外部委託という形で息を吹き返した。そのクラブ、FCR 2001 Duisburgは安藤梢選手が2009年12月に移籍先で、2014年1月31日に破産申請をした。2009年と2010年にDFBポカールを二連覇したクラブがだ。
 そのFCR 2001 Duisburgでは、ドイツ代表Alexandra Popp、現役引退したFatmire Alushi(旧姓Fatmire Bajramaj)などが在籍していた。二人だけに限って言っても、クラブではリーグ、DFBポカール、UEFAチャンピオンズリーグを、代表ではW杯、年代別W杯、オリンピック、EUROを制したエリート中のエリートである。
 そしてMSV Duisburg Frauenとして迎えた14/15シーズンは3勝8分11敗の11位に終わり、2. Frauen-Bundesliga Nordに降格。しかし22戦全勝で優勝して昇格し、そのまま今季までトップリーグを戦っている。
ちなみに2014年5月から一年間、JOCのスポーツ指導者海外研修事業の短期派遣として、坂尾美穂さんがMSV Duisburg Frauenに派遣されている。
https://www.joc.or.jp/training/foreign_trainee/report2015/index.html
 今季、MSV Duisburg Frauenには二人の日本人選手が在籍している。髙橋楓姫(ふうこ)選手(19)はクラブのⅡチームでFrauen Niederrheinliga(四部リーグ)に出場している。
https://www.fupa.net/spieler/fuko-takahashi-1157804.html 髙橋楓姫選手、出場経歴。
髙橋選手はJFAアカデミー福島女子の6期生として入校し、2015年と2016年の3月に、欧州に短期留学していた。高校1年生時はMSV DuisburgⅡチームのトレーニングに、高校2年生時には安藤梢選手が在籍していたSGS Essenトップチームのトレーニングと試合に参加していた。2017年2月、高校3年生時にMSV Duisburg Frauenに加入し、ドイツでの生活は一年半を迎えようとしている。
www.jfa.jp/news/00009229/ 2016年JFAアカデミー福島女子 ドイツ短期留学レポート

 そしてもう一人、樫本芹菜選手(25)は6年間のアメリカでの文武両道を経て、ドイツへやってきた。藤枝順心高等学校出身の彼女はU-15なでしこチャレンジメンバーに選出されたことを機に、2009年AFC U-16タイ大会3位、www.jfa.or.jp/national_team/2009/u16w/20091115/index.html
2010年U-17 W杯トリニダード・トバゴ大会準優勝を経験している。
www.jfa.or.jp/national_team/2010/u17w/20100925/index.html

https://www.fupa.net/spieler/serina-kashimoto-1319612.html 樫本芹菜選手、出場経歴。
5月11日金曜日、17:15からの90分間の練習を訪れた。二日後の日曜日には11:00キックオフ、12チーム中8位、勝ち点22の1899 Hoffenheimとのホームゲームが予定されている。MSV Duisburgは9位で、順位上は直接対決にはあるが、勝ち点12。勝ち点11の10位SV Werder Bremen、勝ち点10の11位FF USV Jena、勝ち点10の12位1. FC Kölnとの残留争いの先頭に位置している(降格は最下位から2チーム)。
https://www.dfb.de/allianz-frauen-bundesliga/spieltagtabelle/?no_cache=1
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練習終盤はハーフコートでのミニゲームで、主に樫本は左サイドでプレーしていた。今季彼女はトップチームでのリーグ戦出場は5試合に留まっているが、髙橋楓姫とともに出場しているⅡチームでは、9試合7ゴール5アシストを記録している。そのミニゲームではビブスを着用しており、おそらく先発ではないのだろうと予想した(あとから聞くと、年長組と若手組で分かれていた、とのこと)。プレーにおいては、両足での長短のパス、クロスやドリブルでのカットインを魅せた。ミニゲームが終わり、ジョグ二周と静的ストレッチでのダウンで、樫本は髙橋楓姫とカナダ人のダニカ・ウーと三人で会話をしている。
 練習が終わり、樫本と髙橋、両選手との挨拶をかわし、20分程度の1899 Hoffenheimのビデオ分析が終わるのを待った。樫本はこの練習場まで自転車で通っている。ちょうど帰路と重なる部分があったので、歩きながら、そして、立ち上がりからアクセル全開の一時間の会話を次に記していく。

―アメリカへ挑戦するキッカケとは何だったのでしょう。
樫本「もともとアメリカ行きの話というのは、高校1年生のときからずっとありました。というのも、インディアナ州にあるButler Universityに留学したんですけど、そこのGKコーチであるエリースは藤枝順心高等学校のコーチと知り合いで、エリースも日本で選手やコーチをしていた。その時の繋がりもあって、私が在学中のころに年に一回エリースは良い選手がいないかと視察に訪れていました。その当時、なぜ私に目をつけたのか分からないですけど、当時私も周りから宇宙人と言われるような性格だった(笑)。でも、そういう性格じゃないとアメリカに来てもやれないと。エリース自身も外国人として日本で生活していたので、やっていけるかどうか、何人か目をつけていた。その頃は本格的に声をかけてくれたわけじゃないですけど、『芹菜、アメリカに来たら大学は奨学金もあるからお金に困らないし、サッカーでもお金払ってもらえるから、日本でやるよりは安定した生活ができるよ』と話をもらっていました。でもその時は世界がピンとこなかった。高1の夏にU-15なでしこチャレンジに選出してもらって、それからAFC U-16タイ大会に向けた合宿や本戦代表にも選出されました。でも、本当に日本を出なきゃいけないなと思ったのは、AFCU-16タイ大会前のフランス遠征です。www.jfa.or.jp/national_team/2009/u16w/20091115/index.html 

初めての海外遠征でフランス人とサッカーをしましたけど、サッカーは決して上手くないんですね。 純粋なテクニックでは日本人は上手いですけど、一対一の激しさが日本とは全然違って、『あ、 これが日本との違いか』と、グサッときた。日本人相手にやっていても自分は伸びない、ここが限界になるなと思った。でも、そこですぐにアメリカに行こうとは思わなかった。AFC U-16タイ大会や、U-17ワールドカップなどでいろんな国の選手と対戦したけど、そのワールドカップでは自分自身は満足した結果を得られなかった。チームキャプテンでありながら、ほとんど出られずで、屈辱的じゃないですか。そこで燃えきれなかったというのがあって、『何か変えないといけない』と思って、コーチに『アメリカに行きたいです』と伝えたら、Butlerの人が『奨学金出すから』となって行くことになりました」

―体格差について言えば、お互い小さい方だから、街に出れば嫌というほどそれは痛感する。じゃあ何故そうなるのかといえば、自分で言えば競泳をしていて、高校生のころは朝練なんかがあって練習漬けの日々だった。消費カロリーに対して、摂取カロリーが追いついていない。体の成長を見越した計画性が足りていないと思う。これについてどう思われますか?
「 私自身の食事管理について言えば、管理し始めたのは代表合宿で栄養管理の講座をしてもらって初めて気にかけたんですけど、その時も結局、アスリートは一般の方よりタンパク質と炭水化物をちょっと多く摂取して、脂質を抑えましょうと。それでも的確にどれくらいとかがないから、自分でやった気になっていた。いま振り返れば、マクロ的には全然めちゃくちゃで、 タンパク質も全然取れていなかったでしょうし、炭水化物は必要以上に摂取すれば脂肪になる。特に試合前では軽めに摂取するんだから、いつもより若干抑えつつ、 炭水化物を多めに摂るのがベストなんですけど、その時は多めに摂れって言われているだけなので、『じゃあ食べれば食べるほどいいんだ』になるじゃないですか。いま考えたらすごい頑張っていたのに、 理解していなかった部分ですごい無駄にしている部分があるなと思って、だから今も勉強して効果を得ている。それに、自分と同じような間違いをしてほしくないので、栄養学については動画投稿やブログで発信している。過去には戻れないので、いま自分のあの頃を過ごしている学生選手や若い選手に伝えたいのがきっかけでやっています」

―自己管理で言えば、自ら学んで実践して、ということになる。今、海外にいる男性選手で言えば、お金はある、若くして結婚して奥さんがいる人もいるから、彼女に任せられる。ハリルホジッチ監督が体脂肪について強く指摘していたけど、宇佐美選手で言えば彼はダイエットをしてしまった。体重、筋肉量も変わらない。間違った解釈をしてしまった。芹菜さんについて言えば、 自身で料理をしていて、今に対するコミットや、将来的にはセカンドキャリアへのコミットでもある。
「しっかり知識を持っている人に管理してもらえるのなら、全然いいと思うんですよ。長友選手なんてそうじゃないですか。あの人は自分がやっている以上のことを、栄養素にしても40項目以上を管理してもらっていて、そこまでやるのは自分自身では無理です。 そこまでプロフェッショナルにやってくれるのならいいですけど、なぜ自分でやるかと言うと、人に預けちゃってその人がなんちゃって栄養管理なのに、自分は勉強してないから何も知らずにそれがベストだと知って受け入れてしまうのが一番嫌なんです。だから自分で勉強して、試してみて、それがベストじゃなかったらそれは自分の責任なんだから、勉強不足だとして消化できる。それが人に頼んでいてやっているのに、結果がダメだとしても後悔しきれないじゃないですか。あとは自分が趣味的な範囲ですごく好き。そういったことも含めてサッカー生活だと思うので」

―Butler Universityでは「Human Movement & Health Science」学科に入学された。
「そのあと、自分でメジャー(専攻)を作って、エリースがアドバイザーになってくれました。その学科というのは体育教師プラス運動化学の基礎をカバーするものです。もともとセカンドキャリアは指導者一本の選択だったので、それぐらいでいいかなという感じだったんですけど、 アメリカの大学ってスポーツプロモーションがすごい。Butlerのバスケットボールは強豪で、すごい人が入るんです。それを日本サッカーの発展につなげられるのか興味を持つようになった。プラス、指導者になるにしても、教育学だけじゃなく心理学とか、 結局コーチングとは人との関係性をうまく作れるか、じゃないですか。そういうことを勉強したかったし、スポーツマーケティングも勉強したくて、結局やりたいことが増えた。とりあえず基礎だけでも勉強できるようにひとつのメジャーにはまるように、エリースの力を借りながら作りました。後にも先にも、私が専攻したものは自分しかいません」

―スポーツ人類学についても勉強されていた。それは、スポーツが社会に与える影響を考察するということで、それを日本に当てはめると2011年ドイツ大会が大きな影響を与えた。当時はアメリカへ行ってすぐのことですが、どのように眺めていたのでしょうか。
「当日、テレビで見ようとスタンバってたんですが、故障しちゃって見れなかったんです。後から友達に教えてもらいました。決勝前日の授業では先生に『芹菜、明日は悪いけど勝たせてもらうわ』と(笑)。で、決勝戦が終わって授業に行ったら、『(ボソッと)おめでと』と(二人で爆笑)。ただ残念なのは、あの勝ちを活かせなかった。あの後、選手人口が爆発的に増えたじゃないですか。でも、自分が思うのは、日本のスポーツマーケティングの在り方だったり、そこからのJFAがどういうふうに女子サッカーを文化にするための後押しの方法がよろしくなかったかもしれない。結局、代表が成績不振になった今、なでしこリーグの観客動員数は減っているじゃないですか。スポーツマーケティングの基本は、チームのパフォーマンスの良し悪しに頼る方法って、絶対にやっちゃいけない。結果を出している時は人は来るけど、結果が出てない時にどうなるかとか―」

―大きい箱についてだとか。
「そうですね。集客は落ちちゃうんですよね。マーケティングはパフォーマンスとか結果に頼らなくても、人を惹きつける方法を考えるのが基本中の基本なのに、そこを怠ってしまった。それが今の結果なんじゃないかと思っていて。じゃあどうするべきだったのか的確に述べよ、と言われても今は出ないですけど、当時から続けてこれなかった、その部分ではないかと思います」

―サッカーについて言えば、ゴールまであと数センチのところにまでボールがあったことが何度かあった。それでも PK戦にまで持ち込んで、勝った。あの120分間、その後のPK戦はなんだったんだろうと、今でも思う。
「まぁ、粘り勝ちですよね。PK戦になった時点で日本の勝ちは見えていた。そう言うと、あの舞台で蹴った選手たちに失礼なんですけど。その前の準決勝でホームのドイツに勝った。開催国がドイツでありながら、日本のホームみたいな雰囲気があったじゃないですか。PK戦にまでもつれた時点で勝つだろうなと思いました。ただ、このドイツ大会で優勝したことがキッカケで、当時は後進国だった国が伸びてきている。それは、日本が優勝したことで訪れたことだと思います。アメリカと日本なんてサイズ感的に言えば、大人対子供みたいなものじゃないですか。それでも日本が優勝して、他国はこういうことをしなくちゃいけないんだと気づいた瞬間だった。そういう意味では、もの凄いことを成し遂げたんだと思います。残念なのは、それを自身の国で活かせなかったというのは皮肉なんですけど、残念ですよね」

―一時期、海外強化指定選手が6人いた時期があった。今は横山選手と山根選手の二人のみ。でもこれは、自立できる選手が増えたという意味でもあると思う。
「とくに男子のチームが強いクラブに所属できれば、お金はありますしね。第3ゴールキーパーであっても、いま私がもらっている金額の10倍とかもらえています。強化指定選手が減ったのは、お金がある有名クラブに所属できる実力であったり、支出を抑えるという意味でも、二重の意味があると思います」

―EURO 2017で地元開催のオランダが優勝し、イングランドではフィル・ネビルが監督になって、女子サッカー界も大きくなっている。ただ、スペイン代表では大きなスキャンダルがあった。
「去年(2017年)のアルガルベカップでスペインが日本に勝って、(内情が)変わったのかもしれませんけど、10年近く監督が同じだったんですよね。 アメリカにいたころ、スペイン人選手の友達がいて、あの監督は他の選手を全然試す気がないから、代表入りは諦めていると聞きました」
:注釈 2017年アルガルベカップはスペイン代表の優勝。

―ドイツで言えばバイエルン・ミュンヘンは、クラブ自体が男子の育成なども含めて大きなトレーニング施設を作ったり、マンチェスター・シティもそうであり、マンチェスター・ユナイテッドも女子チームを発足すると発表した。日本はDAZNマネーで賞金増額といっても、なでしこにも好影響しているかと言うと、あまり感じられない。ただ、観客動員で言えば、 AC 長野パルセイロ・レディースのホームゲームは3000人以上入っていたり、浦和レッズ・レディースも1000人は入っている。一方ブンデスリーガはと言うと、バイエルン・ミュンヘンでも1000人には届かない。
「パルセイロはうまくやっていると思います。あそこは、スタジアム建設の資金集めにサポーターの方々の寄付や署名をやっていた。 お金というより、人と人との結びつきが強くて、やっているという印象があります。対してウチのクラブは、トップリーグというブランドに胡坐かいていて、何も引き込もうとしていない印象が強い。それだと人もお金も入ってこないし、 現状に納得しています。アメリカを経験している身としては、あそこはスポーツが欠かせない国なので、余計にずさんに見えますよね」

―マーケティングで言うと、アメリカにはランジェリー・フットボールがある。女性の見せ物としては、どう思われるのですか?
「FIFAのブラッター元会長が『女子サッカーを人気にしたいのだったら、パンツの丈を短くすればいいんだよ(2004年1月)』と言ったじゃないですか。確かに、女性アスリートである以上、女性としての一部分を見せるというのは、特に日本人の国民性を考えると、それは必要だと思うんです。でもそれを、必ずしもピッチ上でやる必要はないと思う。女性らしさはピッチの外に置いてきて、男と同じ位ガンガンやればいいと思うし、でもピッチ外では女性らしいというような、ギャップを見せられれば印象的じゃないですか。ピッチ上ではガンガンやっている選手が、いざ外ではこういう一面もあるんだ、とか。私の両親でいえば、アレックス・モーガンのような、カワイイ子が必要だとはずっと言ってきていて、これからのことを考えるなら、そういう部分も必要なんじゃないかと最近そこに理解を持ち始めた。メイクにしても試合がある日は目元だけでもするとか。今はファッションまでにお金をかけられないんですけど、余裕があれば、そういうことにも気を遣わなければならないと思います。性のあり方への考え方が改められてきたり、自己表現の自由といった思想が浸透してきた現代社会において、いま私が話したようなことは時代錯誤なのかもしれません。でも、私なりに考えると、こういったこともひとつの手段としてありなのではないかなと思います」

―バラエティ番組などの公の舞台で吉田沙保里選手などが、メイクやコーディネートされている企画があった。その姿を見て、『こんなに綺麗な方なんだ』と思う視聴者もいるだろうし、本人にとっても新しい世界が開けてくる。
「個人スポンサーが多く付いている選手ってアレックス・モーガンだったりするんですね。他の競技で言えばマリア・シャラポワだとか。アメリカの女子サッカーで言えば、マーケティングの対象は十歳以下の女の子をもつ家族で、その女の子と家族がターゲットです。だから、選手達にロールモデルになるように仕立ててプロモーションしていって、 ターゲットを得ていく。でも、一般的なお母さんが『う~ん』というような身なりをする選手では、共感は得られないですよね。スポーツができてかっこいいと子供本人が思っても、家族がどう思うか。そこを変えていって、ビッチでも素晴らしいパフォーマンスを見せて、ピッチ外ではインテリジェンスがあって、自立できているし、女性らしさを見せる一面もあれば、印象はいいですよね。やりたくないとかじゃなくて、女子サッカー文化にしたいというのなら、そういうところを意識してやらなければいけないことだと思います」

―日本には日本の文化がある。オタク文化とか、アイドル文化だとか。ただ、アイドルの曲をチャントにしたりすることに理解を得られないとか、そもそもサッカーが分かっていない人に対する敷居の高さだとか、好き嫌いがあったりする。
「アメリカでスポーツマーケティングの在り方を見てきて、『こういう方法があるんだ』と見てきましたけど、それをコピーすればいいのかと言うと日本は絶対に伸びない。そもそも国民性が違うので。おもしろいなと思ったのが、アメリカなんて必ずしでもないですけど、楽しければいいんですよ。試合がつまらなくても、他のパフォーマンスがおもしろければそれだけで盛り上がるんです。でもそれを日本でやったら、たぶん受けないんですよね。若者には受けるかもしれないですけど、半々だと思います。で、おもしろいなと思ったのが、新聞に齢を重ねた方が投稿した記事があって、内容は、キャーキャーいうチャントであったりが嫌いなんだと。肉体がぶつかりあう様を静かに見守ってあげるべきなんだと。私が思ったのは、まずアメリカでは、それはないだろうなと。でも、日本人でそう思う人って多いんですよね。いくら海外で成功している事例を勉強して、それを日本に持ち込んでも、うまくはいかないと思うんです。日本版NCAA(UNIVAS)がありますけど、あれも結局コピーするだけではダメだと思う。日本には今までやってきた方法がありますし、そこを一気に否定して、アメリカで結果が出た事例をコピーしてやればいいよでは、全員が納得しないですし、全て変えようとしてもついてこれない部分が出てくる。外に出て勉強して、且つ、日本に合うように柔軟にプランを変えていけるか、そこまで突き詰めて、実践して、失敗もあるでしょうがその失敗から学んで、またやっていかないと変わらない。オタク文化やアニメ文化は日本が世界に誇る、独特な文化ですし、良いところは良いとこで残しつつ、自分達はここを変えていかなきゃいけないことを学んで、パズルのように組み合わせてベストを作れるかを考えていくことが、 私で言えば、女子サッカーを文化にしていく上では大切だと思います」

―つまり宮間選手がかつて言った「女子サッカーを文化に」とは、そういうことであって。
「あの当時は結果も出ていましたし、追い風ムードだったので、いろんな選手たちが『女子サッカーを文化に』という言葉を口にしていましたけど、結局それも結果に頼るマーケティングだった。クラウドファンディングと同じで、いま私は資金を集めるためにやっていますけど、今こういう状況でこれだけ頑張っているけど、『お金がないので助けてくれませんか?』とプロジェクトを作って、『シェアお願いします!』では、次の日次の日とお金が入ってくることはないですよね。そこの裏では、自分の件で言えば広島のウェブメディアの方にメールを送って記事にして頂いたりとか、知り合いに直接連絡して拡散してもらったりとか、膨大な時間を費やしている。今ブンデストップリーグに在籍してはいますけど、それに胡坐をかいて支援してくださいでは、支援は得られないと思う。それは『女子サッカーを文化に』と口にしているだけのことと重なる。シーズンオフにサッカークリニックを開いたりなどはやっていたみたいですけど、結果に繋がっていないということは活動が十分ではなかったのか、そもそものアプローチが正しくなかったのでは?という印象があります」

―一般視聴者からすれば、メディアでの発言やインタビュー記事、リーグ戦の試合中継、代表戦が主な視聴コンテンツとなる。マイクラブと言えるクラブがある人からすれば、練習場やイベントで直接交流できる。興味を向けるうえで、そういった直接交流から輪を広げて、密度が大きくなる、と言えるでしょうか?
「女子サッカーで言えば、もっとソーシャルメディアを有効活用するべきだと思います。雑誌やテレビなどのトラディショナルメディアをクラブでやるにしてもお金がかかる。アメリカでは女子スポーツがスポットに当たっていると言っても、統計学にして、どれだけカバーされている比率が女子と男子で差があるかといえば雲泥の差なんです。日本からすればアメリカは待遇が良いとされていても、それでもアメリカの女子はカバーされていないのだから、日本はもっと差があるはずです。ソーシャルメディアであればお金はかからないし、第三者を通さず自分の生の声を届けられる。いま私もホームページでのブログや YouTubeで発信していますけれど、元々はめんどくさがり屋なんです。知り合いの方が声を届けてほしいということで準備してもらったんですけど、アメリカにいた頃は勉強で忙しかったこともあるけど、ほとんど投稿することはなかった。いま私は日本へは二年半帰っていないですけど、友人のFacebookやInstagramを見ていると会っているような感覚にある。直接面識がない人にしても、昔から友達だったような感覚になる。これって女子サッカーにしても、マイナースポーツにしても重要なんじゃないかなと。まだ無名でフォロワー数は少ないけれど、頭使ってやってる部分では負けていないと思っています。 ただ日本人って不言実行が好きじゃないですか。自分も元々そうです。でも、ファンの人や子供たちからすれば、その人の発言や普段やっていることが見たいじゃないですか。ダルビッシュ有選手本人もYouTubeをやっていて、そういうのってとても需要があると思うんです。
いま私はほとんどリーグ戦には出れていないですけど、今のチームのサッカーには合っていない。アメリカ時代のプレースタイルが好きで、とてもナルシーだと思われますけど、 すごい好きなんです。そこを突き詰めて自分を磨いていってこそ、魅力が伝わりやすい。 メッシやクリスティアーノ・ロナウドみたいに、誰が見てもうまい、そんな選手の方が影響を与えやすい。もちろんまだまだですし、その可能性があるか、ないかなんてわからないですけど、どっちの可能性に賭けるべきか、賭けたいかと考えたら、アメリカでやってきたところを伸ばしたい。そして、自分の人生ひとつじゃ足りないから、いま足掻いて爪痕残して、選手としても結果を出して、後輩に知ってほしいことへの種蒔きもして、そこで花が全開しなくてもいいので。先輩たちが残してきてくれたこと、後輩に繋げていくができれば、いつかは変わっていくんじゃないかなと思う。そのためにも、やらなきゃとすごい思っています」

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