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2018/2 秋山健「理想と現実の狭間で」

 Düsseldorfから南西に位置するNievenheim。そこに、Landesliga(ドイツ6部リーグ)グループ1を戦うVdS 1920 Nievenheimに所属、昨春に渡独した一人の日本人選手がいる。

秋山健はこのクラブでシーズン序盤からコンスタントに試合出場を重ねており、個人成績は2ゴール2アシスト。この日、3月18日に訪れたホームゲームにも出場するだろうと期待した。

https://www.fupa.net/spieler/ken-akiyama-1334517.html 秋山健出場歴


 しかし、チーム状況は芳しくない。昨年11月10日から10試合1勝8敗1分け。秋山自身も先発から外れ、途中出場が主になっていた。試合会場に来てみると、ウォーミングアップする先発組のなかに秋山の姿はなかった。控え選手が彼含めて4人しかいない。アマチュアリーグならではの事情が垣間見える。
 秋山のプレー目当てに来たので、前半はクラブハウスに隣接するグリルハウスで、ブンデスリーガをテレビ視聴することにした。後半が始まっても秋山はピッチ脇で身体を動かしており、グリルハウスを行ったり来たりして彼の出場を待った。残り10分になっても、秋山に声が掛からない。この時点でスコアは1-4でNievenheimはリードされていたが、85分にPKで2-4に、ロスタイムに3-4としたが、同点にするまでには至らずまたも敗れてしまった。Nievenheimの選手二人ほどが、ガクッとピッチ上で横たわる。選手がピッチからクラブハウス内の更衣室へ引き上げるとき、ちょうど真正面から表情が見える位置にいた。Nievenheimの選手たちは、とくに悔しがっている表情はしていない。むしろその後、一部選手たちはタバコを吸ったり、ビールを飲んだりしている。そんな選手たちと、秋山健はサッカーをしている。


翌日、Düsseldorf市内のカフェでこれまでのことを話してもらった。

―日本体育大学での出場歴から教えてください。
「大学のサッカー部に入部したのは一年生の10月からです。というのも、高校卒業間際に、それまで患っていたヘルニアが悪化して、サッカーを続けるために手術しなければならなった。10月に入部して、チーム内で一番下のDチームからはじめました。入部時点では、『まだボールを蹴ってはだめ』と言われていたので、ジョギングするだけでした。11月にはボールを蹴り始めて、やっとサッカーをし始めましたけど、Dチームといえでも、まわりの選手はそれなりの高校からやってきている選手たちなので、スピード感やサッカーの違いに驚きました。それでも二年生からは、DチームでIリーグを戦うころには主力としてプレーして、副キャプテンに選ばれました。前期が終わるころにはCチームに昇格して、卒業までCチームでプレーし続けました」
―渡独を考え始めた時期は?
「四年生の8月からです。就活もしていましたけど、身に入らなかった。ある日、小学生時代のコーチの方々とお酒の席の話す機会があって、やれるうちにやっといた方がいいとか、後悔するなら・・といった言葉が響いた。行きたいと思った気持ちがあったから行こうと決めました」
―渡独前(2017年4月)までは、どんな準備をしてきた?
「大学サッカー部の引退は10月末でしたが、ドイツへ行く一週間前までずっと大学の練習に参加していたんですけど、その一週間前に怪我(オーバーワークによる膝の外側の靭帯炎症)をしてしまった。でも、飛行機のチケットはすでに買っていたので、怪我したままドイツに来ました。とりあえず安静にして、身体を動かし始めたのは7月からです」
―現在のクラブに決まったのはいつごろ?
「8月の中旬です。ほかにもふたつ、みっつのクラブと自分で交渉しながら練習に参加していました」
―VdS 1920 Nievenheimに決まってから、コンスタントに出場機会を得ていた。出だしとしては良かったのではと思います。
「でも、はじめの頃はやっぱり、自分に対して信用はなかったですね。言葉も充分に分からないわけですし。いまの監督って実は三人目で、シーズン開幕時からいた最初の監督とは、ひとつ小話があるんです。ある試合(9/17 TSV Meerbus戦)で、リードされていて試合時間もラスト1分ぐらい、攻め手がないなかでトップとして途中投入されて、意味が分からないから頭にきた。自分が活きるポジション(トップ下)ではないところに入れられて、試合が終わってすぐ監督に理由を聞いたら、その場しのぎなことを言ってきた。解散になったころでも、まだ自分は納得いってないから、What Appで監督に『俺はこういう選手だ』というメッセージを送りました。そうしたら、それまでは4-4-2だったのが次の試合では、先発起用でトップ下というポジションを作ってくれた。その試合では結果は残せなかったけど、その次の試合(10/1 Rather SV戦)で1ゴール1アシストと、結果を残した。言ってみるもんだなぁと思いました。監督とコミュニケーションを取れて、信用がなかった部分も解消されて、『よし、これからだ』というときに最初の監督が代わりました」
―秋山君はプロ選手を目指しているが、6部リーグはアマチュアだから、自分ではどうしようもないことに直面したこともあったと思うが。
「監督にイライラすることもあったし、チームメイトのレベルやサッカーへの理解度とかにイライラすることはありましたけど、相手に矢印を向けるとキリがない。自分になにができるかを考えるようにしています。二人目の監督のときも試合には出ていましたけど、監督が話していることを自分は理解しているつもりでも、監督が自分に信用がないから、たとえプレーレベルで劣っていても、言葉を理解できるドイツ人を起用したりする。調子が良かった時期でも先発で使ってくれなくて、『なぜ先発じゃないんだ?』と聞いてみたら、『ちゃんと理解しているかどうか分からない』と言われたんです。それは、自分では見せているつもりでも、相手にはそう捉えられているんだなと気づいて、二人目の監督にはまだアクションが起こせたんだな、と思うしかない。相手の話を聞いただけで分かっていても、あえてもう一度聞いたりして、小さいことですけどやっていった頃にまた監督が代わりました」
―昨日の試合後、一部選手は煙草を吸っていたり、ビールを飲んでいたりしていた。
「それがアマチュアのスタンダードですね。日本だったら、たとえば日曜の試合で負けて、次のトレーニング日になると大抵は日曜日の雰囲気を引き継いでいるんですよ。だから、すごい空気が重い。ドイツであれば、まったく関係ないように火曜日の練習が始まる。負けた、という事実があるだけで、切り替えているといえば切り替えている。日本であれば、『負けたのになぜ笑っていられるの?』となる。自分はあまり周りを気にしてないですね。そういうものだと思っています」
―トップリーグなどは国際的で、さまざまな人と関わっていく舞台。長谷部選手などが活躍して、日本人は勤勉というイメージが定着している様子ではあるけど、アマチュアリーグだと、そういう経験をする場がないからお互い難しい状況に直面したりするんだろうね。
「日本人が多いと言えども、関わっているのは一部なんで、リスペクトについては人に寄りますね」
―サッカーの部分について触れていきたい。練習は週三日(火曜、水曜、金曜)。少ないと思った?
「思いますね(笑)。日本では週六とかが当たり前だったので。まぁアマチュアリーグだから、そうなんだなぁとしかないですね。空いている時間はジムに行ったり、ボールを蹴ったり、休日はドイツ語の勉強と散歩をしています」
―プロリーグであれば、対戦相手の分析はもちろんある。ただ、そのためのリソースがないから自分たちにフォーカスを当てた週三日のトレーニングをするしかないのでは、と思うのだけれど。加えて言えば、求められることも少なくなるのでは、とも。
「まず練習の日数が少ないので、火曜日がリカバリーになることはあんまりないです。土曜日に試合が行われる場合もありますからね。普通に練習しています。金曜日が若干、軽いという印象です。攻撃のスタイルを確認したり、などです。分析については、いま考えると、最初の監督はやっていました。たぶん監督自身が情報を得て、金曜日の練習前に対戦相手について話していて、相手にこういう選手がいるからこうしよう、という意図を共有しようとしていました。ただ、だいたいは自分たちのスタイルをやっていくのみです。だから、試合で応用が利かない。いまのリーグでは、その能力は伸びないですね。もうひとつ自分が感じるのは、監督が自身のやりたいサッカーを表現しようとするエゴが強い。だから、監督の応用力もないです」
―想像していたものとは、まったく別物であったと言える?
「サッカーが違う、ということは聞いていましたけど、来てみたら『なんだコレ?!』みたいな。今までやってきたサッカーと違うし、求められることも違う。いろいろ試行錯誤していますけど、上に行くことを考えたら、どういうサッカーとかはこだわってはいないです。自分のスタイルがどこまで通用するかの挑戦なので。イメージとは違うことはほぼありますけど、そんなものかなという感じです」
―秋山君はドイツにきて半年だけれども、サッカーは手段ではなく目的であると捉えている?
「プロ選手になるために、サッカーのためにドイツに来た。サッカーが頭打ちになって、プロへの道がないと分かれば、ここで何かを習得をしたり、すぐ日本に帰るかをしますね」
―サッカーが手段になることはない?
「サッカーが目的でドイツに来ていますけど、もちろんサッカーだけを身に付けたいわけではないです。時間があるので、人の話を聞いたりなど、いろんなことをしています。ただ、サッカーを手段にお金を稼ぐことは考えてはいません。たとえば、自分はチームを自分で探して契約したので、それをビジネスとしてできることはできるけど、それはしたくない。大金をもらえるようなことはしていないので。別の道で自分のためになる、還元できることを身に付ける、ということをしたいです」
―次のシーズンに向けて移籍先を探しているけど、どうやって自分の力を示そうと考えている?
「それが難しいですね。大学のときは、試合をビデオ撮影してくれていましたけど、いまのクラブはそれがない。練習参加するしかなかったり、自分の経歴を作るしかない。これはチームにもよります。同じ6部でも、自分たちでビデオ撮影するチームもあります」
―ドイツには各地でプレーする日本人選手がいる。日本人同士の繋がりについては。
「あんまり日本人がいるチームには行きたくないですね。チームの監督の連絡先を聞いたりするのは良いと思いますけど、その日本人選手に『俺をそのチームに入れさせてくれ』はない。行きたいチームに日本人がいれば、コンタクトを取るという手段としてアリかなとは思います。ただ、入れるかどうかは自分次第ですから」
―いま、秋山君が自身をもって言える、ステップアップのための力とはなんでしょう。
「サッカーのスキルで言えば、自分はトップ下がメインなので、攻撃のスイッチを入れたり、決定的なスルーパスを売りにしたい。ドイツ人にないところで勝負したいです。結局、ドイツ人がするプレーをすればドイツ人と比べられる。日本人の特徴で、細かく動いてドイツ人ができないことを認められたいです」

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keisuke-imachi

Ayrton Senna, Football, Sports Journalism. 2017.8~2018.7 in Germany. ドイツに居た頃の取材活動と、これからのことを記していきます。
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