『NCT 127: The Lost Boys』評:アイドルは何を失い、何を得たのか? K-POPの根幹を見つめた重要なドキュメンタリー

あなたはNCT 127の何が好きですか? 推しの顔? 曲? ダンス? ライブ? 性格? ファッション? チームワーク? 私は顔と曲とダンスとライブが好きだ。

もはや当たり前となってしまったが、我々が熱狂するK-POPの根本にあるのは徹底した練習生システムだ。NCTはもちろん、BTSも、New Jeansも、LE SSERAAFIMも、デビューした全てのアイドルが例外なく経験している。早い子は10代前半から、遅くとも17~18歳には事務所に所属し、練習生として来る日も来る日も歌、ダンス、語学、演技などなど、ステージに立つためのあらゆる技術を徹底的に教え込まれる。

K-POPがまだ日本でそれほど浸透していない時期、私は歌もダンスもルックスも完璧なアイドルはどのように誕生するのか興味があった。「PRODUCE 101」シリーズが放送される前で、アイドルの練習動画もなかなか見られない時期だった。私はとあるアイドルに取材する機会をもらったので、練習生時代について質問してみた。すると怪訝な表情になり、こう言った。「別に特別話すことなんてないです。だって来る日も来る日もただただ練習してただけだから」。当時はその言葉の意味をよく分かってなかった。そのアイドルは現在、世界的なトップスターになっている。

そのアイドルがあの時、なぜそう発言したのか。それが分かったのはLE SSERAAFIMやXGのドキュメンタリー映像を観てから。つまり最近だ。明けても暮れても練習。学校に行く前に練習し、学校が終わったらすぐ練習し、夜遅くまで練習する。無駄な時間がない。しかも毎月評価される。基準に満たなければ失格。技術だけでなく、メンタルの強さも要求される。しかも確実にアイドルになれる保証はないのだ。そんな生活を長い人は10年も送る。おそらく実際はもっと過酷なのだろう。さらに言えば、男性には兵役がある。仮にアイドルになれたとして、自分はいつまで活動できるのか。現実と向き合いながら10代を過ごすのだ。

私はサバイバル番組をほとんど見ない。そんな努力を神聖視しているからだ。夢を追う少年少女が目標に向けて努力し戦う姿がエンターテインメントとしてスリリングなのはわかる。だけど、そこを消費すべきではないと思う。私は出演者たちの覚悟を受け止めきれない。単に考えすぎなのかもしれない。もちろんサバ番が好きな人への批判でもない。これはただの私個人の考え方だ。

私にとってSHINeeのジョンヒョンの自殺が大きかった。実を言うと、最初はSHINeeの推しメンバーはジョンヒョンじゃなかった。でもソロアルバム『BASE』でSHINeeとは違う顔とジョンヒョンの音楽があることを知って大ファンになった。自殺の理由は知らない。ただ『BASE』のプロモーションで番組に出た時、アイドルとして活動を続けるなかで、本来のキム・ジョンヒョンとSHINeeのジョンヒョンが乖離していき、アイデンティティが揺らいでいることを告白していた。そのシーンはとても強く印象に残っている。

アイドルファンにとって、アイドルも普通の人間であるというのは不都合な真実だ。自分も含め、多くの人は「推しには幸せになってほしい」と言う。だがもし推しに恋人がいたら? 息抜きにタバコを吸っていたら? あなたは何を思うだろうか。アイドルとは特別を演じる仕事だ。普通であってはいけない。我々はアイドルに清廉潔白、品行方正を求めてしまう。それが求め過ぎだとわかっていても、だ。心の片隅に違和感が生まれてしまう。この矛盾に私自身は答えを出せない。過度なプレッシャーや幻想を求めすぎず、自分なりの節度を持って応援することしかできない。

現実問題として、アイドルは普通の人間なのだ。批判されれば傷つくし、たくさん働けば疲れる。神経もすり減る。嫌な人間と働いた時は悩む。そしたら酒やタバコをやるかもしれないし、あるいは恋をすることもあるかもしれない。

一方でジョンヒョンの死にショックを受けた私が、再びK-POPを好きになれたきっかけが一年以上後に偶然チケットが取れたイリチルのライブだった。アイドルと個人と倫理について、足りない頭であれこれ考えていたけど、ライブと音楽には理屈を超越する力がある。それはとてもピュアだ。イリチルのステージに感動したから、また再び自分なりにK-POPと向き合おうと思えたのだ。

イリチルのドキュメンタリー『NCT 127: The Lost Boys』は、特別な9人が今まで明かさなかった普通をほんの少しだけ明かす作品だ。内容は番組を観てほしい。シズニーなら、本人たちが語る姿を見るべきだ。

私はここまでK-POPアイドルにまつわるさまざまなことを書いてきた。これらは全てこのドキュメンタリーにバックグラウンドにあることなのだ。『The Lost Boys』だ。9人は何を失って、何を得たのか。現在2話まで視聴したが、ほとんど全て知らない話だった。

イ・スマン時代のSMエンターテインメントのアイドルには、完璧なルックス、完璧なパフォーマンス、完璧な人間性が求められた。だが時代は変わった。アイドルも普通の人間だ。多くを諦めて、ひたむきに努力しているから、特別に見える。我々と違うのはその一点に尽きる。

私は本作をまずシズニーに観てもらいたい。イリチルがなぜあんなに輝いているのか、その一端をきっと感じることができる。そしてメンバーのことがもっと好きになるはず。なぜイリチルがかっこいいのか、歌やダンスがうまいかもわかるはずだ。さらに想像力を働かせると他のアイドルへのリスペクトに繋がっていく。ストイックで独自の活動を続けるイリチルだからこそ、このドキュメンタリーに意味がある。やはりすごくかっこいい。

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