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舞鶴の今山にいる男の話

この男、本当に話を聞かない。もう少し正確にいえば、聞いてこない。舞鶴に城を構える今坂さんという美容師がいる。福岡市の昭和通りから入ったビルの2階にその美容室「今山(いまさん)」はある。今坂さんとは8年来の付き合いで途中離れた期間があったけど、また最近お願いするようになった。

誰からの紹介でもなく、なんとなくTwitterで見かけた(今坂さんが以前勤めていた)美容室に予約をしたら担当してくれたのが彼だった。彼は挨拶をするとすぐにじぃーーーーーーっと私の頭を観察し、「なるほど…」という顔をして、「よし」という感じで、いきなりハサミを入れた。あ、何も希望を聞かれなかった、と思った。すでに、もう、切り始めている。「おおおおどうなるんだ」とは思ったけど、これは成り行きに任せてみよう、と思った。切っている間、世間話は普通に楽しくする。でも事前にどうしたいか、は聞かない。

その真意を問うと、「聞かない方がうまくいくことが多いんですよねー」と笑う。「もちろん希望を聞くこともあるけど、細かいオーダーがあるなら僕じゃなくてもいいじゃないかな、とか思うし」「だからウチにはヘアスタイルカタログみたいな雑誌もないんですよ」。

似た経験がある。デザイナーとかライターに発注する際、詳細に希望を伝えた方がいい場合と、コアなところだけを伝えた方がいい場合がある。後者はこちらの想定を超えて良いものくることも多くて、一方でどんなものが上がってくるか予想がつかない怖さもあって、そのギャンブル性も含めて楽しい。そんな方と仕事をすることで、案件のクオリティや楽しさが一気に跳ね上がった経験は一回や二回じゃない。わたしはそんな感じの方を「作家タイプ」だと思っていて、まさに「この人じゃないとできない」ことを期待して依頼している。舞鶴の今山の今坂さんもおそらくこのタイプなんだろうな。

正直言えば、椅子に座って終わるまでの間、ちょっとこわい。いや本当はまあまあ怖い。髪って修正難しいし。それで何週間か過ごさないといけないし。でも一方でそれ以上に楽しみでもある。だからこそ、またお願いするんだけど。

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