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日本人と着物

仕事の合間にふと耳にした、一般的なお母さん同士の会話に、私は最後まで加わる気になれませんでした。

まもなく卒園式を迎えるこどもを持った同僚が二人、一年生と四年生の母に、保護者の当日の服装について相談していたのです。

私も今年、ツムギの母として、卒業式に参列しようと思っていましたから、話を振られたら、普通に会話に加わるつもりで、耳だけそちらに貸したままパソコンに向かっていました。


色は白系か紺黒で、普段にもギリギリ着られそうなワンピースにすればいいか。

そんなようなところで、話は落ち着いたのだと思います。

結婚式に列席しても常々感じるのですが、日本人って、本当に洋装のフォーマルが苦手ですよね。

黒子じゃないんだから、主役を引き立てる装いばかり意識せず、華やかな装いで宴席に花を咲かせて、お祝いの気持ちを最大限表したらいいのに、と思います。


ひとりが、「友達に聞いたんだけど、数人着物の保護者がいたって」

私は卒業式も入学式も着物で参列するつもりでしたから、もう少し興味を持って耳を傾けました。

「その中に、お父さんも袴で参列した人がいて目立ってたんだってよ」

「えー?こどもが主役なのにね」

「まあ、普段から雪駄履いたり、着物に麦わら帽子を合わせて着たりするようなお父さんらしいんだけどね」

「それならいっか」


私は耳を疑いました。

普段、常識人だと思って接している同僚たちの何気ない会話だったからです。


その親御さんたちが、どんなコーディネートだったかを知らないのでなんとも言えませんが、少なくとも、誰もご本人たちを見ていない中での『着物』に対する意見がこれか、と。


着物を着る身としては、日本人の着物離れや知識の低さは折に触れ感じてきましたが、少なくとも、自分の小学校の入学式に、洋装の好きな母でも着物で参列していましたから、たったの半世紀で、こどもの行事に着物を着るのは目立ちたがり屋という価値観が一般的になってしまったことになります。

さらに、最後のひと言です。

普段から着物を着ている人ならよくて、着慣れていない人はダメという理屈もわかりません。

こどもや成人式のお嬢さんなら、洋服しか着たことがない上に、マナーや身のこなしも危うく、慣れない長時間の式典の参列となれば心配するのも頷けます。

けれど、保護者となれば、自分の装いにも責任を持って判断して着ているはずです。

もし、着慣れている人=知識を持っていることを意味しているのであれば、着慣れている人が必ずしもTPOに合った装いができるとは限りませんし、着慣れていない人であれば、きちんと常識的な装いを学んで着るのだと思います。


自国の民族服ですよ?


なんで着物は、こんな厄介な服になってしまったのでしょう。

私は20代後半から着物に惹かれて、それ以降、和服中心に衣服代をかけてきたので、ちょっとしたお出かけでも、洋服で、となると着る物に困ってしまいます。(それでも洋服で出かけることの方が断然多いのですが)

ツムギには、卒業式用に本人希望のパンツスーツを新調しましたが、それ以上にお金をかける気もなく、どの着物にしようか、コーディネートを考える段階に入っていました。

一応、ツムギに今日の話をして、意見を聞いてからにしよう。

きっとツムギは主役としても、おしゃれしていつもよりちょっとだけ美しくなった母と卒業式に出たいと言うと思いますけれど。

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