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光造形3Dプリンター生活のはじめ方

2018年にFDM式(樹脂をノズルから押し出して積層するタイプ)の3Dプリンターを買って使っています。FDM式については下記の記事にまとめてあります。

で、そろそろ光造形にも手を出したくてANYCUBIC のPhoton-Sを買ったらとても良かったので、1ヶ月くらい使ってみた感想やノウハウなどをまとめてみたいと思います(追記もあります)。

なお、臭いがとか後処理が面倒だとか、買う前は色々考えると思いますが全部杞憂です。私も心配しましたが杞憂でした。必要なら買えばいい。杞憂に負けて買わないなら、そんなに必要じゃないんでしょ。

買ったやつ

私が買った時は、UVレジン2.25リットルとFEPフィルム6枚がついて$468でした(ついでに書くと、発送が遅くなるお詫びと言ってFEPフィルムが更に1枚付いてきた)。送料が$26.84の合計$494.84でした。

どっちにしても、日本のAmazonで買うとオマケが少なめで値段はもっと高いので、AliExpressで買うほうがお得です。

低価格でも作りが安いっぽいとかはなく、とても良いものという感じがします。本当に中国のモノづくりはどうなってるんだ。すごい。

置くのに必要なスペースは、底が23cm×20cmくらいで高さが40cmです。扉が上に跳ね上がるので、棚などにいれて使うのは難しいでしょう。上が開けた机の上におくのがいいです。

専有面積は小さいので、複数並べて同じものを量産にするのにも使えそうですね。私はFDM式のX-one2と並べて同時に動かしたりもします。

造形範囲

造形範囲は『115mm×65mm×165mm』と、幅が少し小さいので大きなものは一発では作れませんが、元々小物を中心に作っているので個人的には問題にはなっていません。大きなものはFDM式で作ればいいですし(FDM式のX-One2は縦横高さ約150mmです)。

材料はUV硬化レジン

FDM式は細い樹脂をリールに巻いたフィラメントが材料ですが、光造形は紫外線で硬化する『UV硬化レジン』を使います。AliExpressで買うと1リットル$48なので、1ドル110円だと5,280円になります。

色にこだわらなければ3リットルまとめ買いで単価は下がります。

レジンも日本のAmazonで買うと1リットル12,000円くらいするので、AliExpressで買ったほうがお得です。

FEPフィルムとは?

レジンを入れておくバットの底に張る透明なフィルムです。最初から1枚張られていますが、ある程度使って劣化してきたら交換するそうで、消耗品です。AliExpressで買うと5枚で$30くらい。1枚$6ですね。

日本のAmazonで買うと1枚で2000円するので、絶対にAliExpressなどで買うべきです。なんなら5枚で$10なんてのもあります。そうか、光造形も純正品以外の消耗品を使えるのか。

交換する時はネジを大量に外してフィルムを交換して締め直すので30分くらい掛かります。時間に余裕がある時に作業しましょう。

光造形の光と影

光造形の良いところは、なんと言っても造形精度。FDM式よりも積層跡が小さく、紙やすりで磨けばほぼ消えます。FDM式だとやる気にならないですが、光造形なら積層跡を消すのも難しくありません。

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クリアレジンで作った時の透明感は、『普通に透明なアクリルから削り出した』ようなレベルで、FDM式では到底作れません。

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反面、アルコールによる洗浄や研磨、塗装など造形後の後処理がやや面倒ではあります。

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でも洗浄や研磨は慣れてしまえばそれほどの手間ではなく、FDM式では絶対に出ないクォリティが全ての手間を贖います。

また、アルコールやレジンなど、FDM式では必要のない薬品を扱うので、目や肌の保護、ニオイ対策は必要になります。下記にそれらグッズについてもまとめました。

プリンター以外に買うべきもの

洗浄や研磨などで使うものが結構あり、プリンターと一緒に揃っていると便利なので私が買ったものを一通り紹介しておきます。

IPA
イソプロピルアルコールです。造形後の洗浄に使います。

造形後はレジンがべったりついているので、まずはそれを洗い流します。水で洗えるレジンもあるようですが高価なので今のところANYCUBICのレジンを使い、アルコール洗浄しています。

ポリプロピレンの容器3つ
ダイソーで売っているタッパー容器です。アルコールを入れるため、本体も蓋もポリプロピレンで出来ていないといけません。3つ買って、2つにIPAを入れて1次洗浄とすすぎ用で分けています。もう1つはIPAやレジンを拭いたキムタオルを入れています。

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蓋はネジ式ですが、密閉性はそこまで高くないので倒すとIPAが漏れます。倒さないように注意しましょう。

一次洗浄用のアルコールは徐々にレジンで濁ってきます。濁ったら日に当ててレジンを硬化させてストレーナーで濾すとキレイになり、再利用できます。二次洗浄用は新しいアルコールを使いましょう。

防毒マスク
最初はアルコール洗浄時や塗装時に普通のマスクを使っていたのですが、普通に臭いし、臭いということは肺に入ってるということでなんか嫌だなと思ったのでしっかりした物を買いました。

これを付けるとまったく匂いを感じず作業できます。なかなか良いものです。ちょっと風の谷のマスクっぽいのでナウシカごっこが出来ます。

三つ穴の電源タップ
FDM式のプリンターもそうでしたが、電源ケーブルが三つ穴のものなのでいっその事ということで三つ穴の電源タップを買いました。

変換アダプターでもいいのですが、抜け防止や雷ガードもついているし、FMD式と光造形の2台が三つ穴コンセントなので複数台使う場合は電源タップから三つ穴の方が好都合です。

ドライボックス
レジンやFEPフィルムの替え、プリンターの付属品、その他小物を収納するのに使っています。アルコール容器もここにしまっています。匂いの拡散をかなり抑えることが出来ます。

FDM式用のフィラメントを収納するために2個同じのを買ってまして、これで3個目です。とても使いやすい箱です。

空気清浄機
妻が匂いに敏感で、臭い臭いと言うので買いました。

FDM式も造形時に微粒子が出ていて体に良くないという話もあるので、空気清浄機を3Dプリンターの近くに置くのは良いことなのではないかと思います。

なお、プリンターはリビングから離れた物置部屋に置いてあり、そこにこの簡易空気清浄機を1台置いて、リビングには元々ダイキンのもっと立派な空気清浄機を置いてあります。

UVライト
用途によっては不要という人もいますが、私はプリントしたもの自体が製品になるので二次硬化用に買いました。

日に当てれば同じことなので、確かに必要ないといえば必要ないです。夜でも二次硬化の作業が出来るので、そこだけちょっと便利かもですね。

ブルーライトカット眼鏡
UVランプを使う時やアルコール洗浄時に目を守るために付けています。アルコールや紫外線が目に入るのを防ぐためですね。

JINSのPC眼鏡を使っていたのですが、いつの間にか鼻あてのパーツが無くなっていたのでこちらを買ってみました。JINSの半額以下なので安いですね。

使い捨て手袋
プリンターに何枚か付属していますが、たくさんあっても困るものではないので。

液体のレジンが直接肌に触れるとアレルギーになる場合もあるそうなので、洗浄などの作業をするときは必ず装着します。私は左手だけ付けて、レジンが付く作業は全部左手だけでやっています。何回か使って汚れ過ぎたり破けたりしたら交換しています。

キムタオル
洗浄後にアルコールを拭いたり、3Dプリンターのステージに付いたレジンを拭いたりするのに使います。大体2日に1枚くらいのペースで使っています。日光に当てると付いたレジンが固まって、アルコールは蒸発するので割と使い回せます。

ストレーナー
レジンやアルコールを濾して異物やホコリを取るのに使います。

これも数枚プリンターに同梱されていました。最初から無くてもいいとは思いますが使おうと思って無いと困るので買っておきましょう。

先が丸いピンセット
100円ショップのメイク用ピンセットが良いっぽいですが、FDM式の3Dプリンターを持ってるなら自分で作ってもいいと思います。なんなら割り箸でもいいと思います。主にバットの中の毛や異物を取るのに使いますが、先が尖っているとFEPフィルムに穴を開けてしまうので先を丸めましょう。

紙やすり
400番、1000番、1500番のセットです。

400番は減りが早いので別途多めに買っておくといいです。

400番で積層跡を消したら1000とか1500で滑らかにするとよいでしょう。

UVカットスプレー
高級なレジンは紫外線に当てても変色しにくいそうですが、1リットル$73だと変色します。なので、磨いたら乾かしてUVカットスプレーを掛けるといいです。

光沢も出るので、研磨をそれほど頑張らなくてもキレイになります。

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造形手順

1.3DCADでモデルデータを作る
これはFDM式も同じですね。造形する時のことも考えてデザインするといいでしょう。その辺は慣れとノウハウです。

2.スライサーに読み込ませる
Photon-Sの場合は、付属しているPhoton Workshopというスライサーを使います。仮想空間に読み込ませて、スタート層の厚さや露光時間、それより上の層の通常露光時間を決めます。露光時間が短いとステージから脱落したり造形に失敗したりします。

通常露光時間が長いと全体の造形時間が伸びたり、少し寸法より大きく出来てしまったりします(細い溝が埋まってしまうとか)。この辺の加減は何度か失敗すると覚えます。

私は以下の設定で作っていて、安定しています。

レイヤーの厚さ:0.05mm
通常露光時間:5秒
底の露光時間:60秒
底のレイヤー数:3

サポートの生成なども設定して生成ボタンを押すと、*.photonsというファイルが出来ます。中身はモデルデータをスライスした画像データの塊みたいです。

3.USBメモリでプリンターにデータを持っていく
USBメモリを介してphotonsデータをプリンターに持っていきます。付属のUSBメモリはプリンターに挿すと出っ張りが大きいので小さいやつを別途買って、そちらを使っています。

4.バットにレジンを入れる
バットの1/3までレジンを注ぎます。量は造形物の重さから必要量を入れるといいのですが、途中でレジンが足らなくなると失敗するので、多めに入れておいたほうが無難です。

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バット自体の重さは大体635gくらいみたいです。

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5.プリントを開始して待つ
プリンターにUSBメモリを差したらプリントを開始します。ステージが降りていって、造形が始まります。

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バットの下には透明なFEPフィルムが張られていて、下から紫外線が照射されます。スライスされたデータを元に一層一層紫外線を当ててレジンを硬化させて立体が出来ていきます。

↓バットの下には液晶があって、その下から紫外線が照射されます。画像9

FDM式は体積に対して時間がかかりますが、光造形は高さに対して時間がかかります。なので、同じものをいくつか並べても高さが変わらなければ造形時間は伸びません。

小さな物を同時に複数作る場合はFDM式よりも1個当たりでは短時間で済むこともあります。小物の量産には光造形が向いてるかも。

6.完成
こんな感じで、天井からぶら下がるように完成します。

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7.ステージから外して洗浄
ステージをプリンターから外して(この時手を滑らせると液晶の上に落として液晶を割ったりするので要注意)、造形物を壊さないようにステージから外します。

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丁寧に作業しましょう。

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一次洗浄。

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二次洗浄。

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三次洗浄用のアルコール槽を用意する人もいるそうですが、私は二次までしかしません(面倒かなと)。

8.二次硬化
UVランプで二次硬化させます。ここで紫外線を当てすぎると変色してしまうので、裏表で合計2分程度までにしておきましょう。

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9.研磨
400番から初めて1500番で仕上げます。

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10.UVカット塗装
UVカット塗装をしておかないと変色するので、製品として作るのであれば必須です。一度に厚く塗りすぎず、液垂れしない程度に薄く塗りましょう。スプレー時は周りの床などを養生しましょう。マスクも必須です。

11.乾燥
直射日光が当たらない場所でよく乾かして完成です。乾く前に触ると指紋が残ってしまいます。

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と、まぁFDM式よりは後処理に手間がかかりますが、なにせ出来上がるものの美しさが全然違うので、面倒には感じません。慣れてしまえば大した手間とは思わなくなります(本当です)。

よくある失敗

よくある失敗をまとめておきます。よくあるというか、『やった失敗』ですが。

剥がす時に割れた
造形物をステージから剥がす時に脆い部分が割れました。効果時間が短いとまだ柔らかく、割れることがあります。丁寧に剥がしましょう。

レジン切れで失敗
少ないのが判っていて、途中で足せばいいかと思って造形をはじめて、足すのを忘れてまんまと失敗しました。FEPフィルムにも負担が掛かりそうだし、途中まで作った分のレジンが丸ごと無駄になります。タイマーを掛けておくとか、最初から十分なレジンを入れておくかでレジン切れを起こさないようにしましょう。造形物の重さギリギリだと足らなくなります。+10gくらいは必要です。

最初のレイヤーが造形失敗
最初のレイヤーの露光時間が短かったり層の数が少なすぎたりすると、造形物の下の部分が正常に作られません。最初のレイヤーの露光時間とレイヤー数は十分な設定にしましょう。

洗浄不足で穴が詰まった
私は主に鼻笛という笛を作っていますが、レジンの洗浄が不十分なまま二次硬化をしてしまうと、笛の穴がふさがってしまいます。きちんとレジンを洗い流さないと折角の造形精度が発揮されません。

確認不足でプリント開始
バットを留めるネジを締め忘れてプリントを開始したことがあります。造形中にバットが動いてました。気づかないでそのまま続けるとバットが外に出てきちゃったりしそうです。大惨事になるので要注意。
バットやステージのネジを締めたか、造形物をきちんと取り外したか、バットに異物が残っていないか、レジンは適量が入っているかなど、プリント前によくチェックしましょう。

寒いと硬化しにくいらしい
4月に買ってどんどん暖かくなる中で使っているので実体験はありませんが、寒い時期は硬化しにくくなるそうです。どういう理屈なんだろう?寒くなったらその辺も検証します。

追記:買ってから2回の冬を経ましたが、暖房を入れているので20℃程度はあることと、本体の発熱でレジンが温まるせいか、冬でも硬化しにくいと感じることはありません。室内で氷点下みたいな環境なら違うかも知れませんが、東京のコンクリ住宅では問題ありません。

FEPフィルムに穴を開けてレジン漏れ
やったことはないですが、尖ったもので穴を開けてしまってレジンが漏れたという話を聞きます。バットの中から異物を取る時は尖っていないものを使いましょう。

UV液晶を割る
プラットフォームを付け外しする時に手が滑って落とせば下にある液晶が割れることがありそうです。また、造形物を外し忘れてプリント開始なんかも液晶を割りそうです。必ずチェックしましょう。私はプラットフォームの付け外し時にはバットの上にベニヤ板を置いています。

色んな色のレジンはいらなかったかも
当初は知らなかったんですが、ダイソーなどでレジンを染めるための色素が売られています。それを買ってクリアレジンに混ぜれば好きな色を作れます。

私は知らなかったので、クリア、白、黒、赤、黄色、緑、アクアブルー(不透明)、黄色などいちいち色を揃えてしまいました。せいぜい、白、クリア、黒くらいでよかったかと思います。色素を使えば好きな色で造形できます。色付きレジンは混色の手間がないとかムラが無いとかはいいんですが、場所を取ります。

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デイリーポータルZで記事書いた

こんな記事も書きました。

まとめ

確かに後処理はFDM式よりも面倒ですが、結果として出来る造形物のクォリティは比べ物になりません。素晴らしい。このクォリティがすべての手間を無効化します。

今や光造形も5万円程度のプリンターで、この品質で出来るようになったんですね。本当に技術の進歩は速い。というか、中国すごい。モノづくりの世界は中国の力で今後も大きく変わっていくんだろうなと思いました。

みんなも光造形3Dプリンター買おうぜ!

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わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。