個人を犠牲にしてシステムを変えられない日本の組織、傾向と対策


先日の富士山落石事故についてAERAの記事。

山岳ガイドの野中さんの反応。

で、思ったこと。

運用でカバーしようとして死んでいく日本人

なぜか日本人はシステムの問題を個人のマナーや頑張りという、運用でカバーしようとする悪癖があって、それは太平洋戦争の戦史を読んだりすると、今とまるで変わらないんですね。

戦略の問題を戦術や作戦、個人の精神力、技能、『頑張り』で補おうとする。

食料や武器を送れないから現地で草を食え、武器は奪えと平気で言います(牟田口とか)。

でも、戦略の問題は戦術ではカバー出来ないんですよ。だから補給が間に合わず、インパールでもガダルカナルでも、みんな飢餓と病気で亡くなりました。バカですか。

今でも変わらず、富士山の問題を個人のマナーのせいにして、システムを変えずに個人の頑張りに期待しています。もうこれはDNAレベルで日本人の欠陥なのかもしれません。

個人をシステムでカバーするアメリカ人

日本のゼロ戦は優秀な戦闘機とされていましたが、装甲がペラペラで弾が当たると乗員はまず生き残れません。命綱なしで綱渡りさせるようなものです。

一方アメリカのヘルキャットは強力なエンジンを積んでおり装甲が厚く、弾が当たってもパイロットの生存率が高かったためエースパイロットを失うリスクを抑えられました。

しかも無線やレーダーも搭載しているのだから、なんの連携装備も無く手信号だけで戦うゼロ戦に勝ち目はありません。

太平洋戦争当時のアメリカ戦艦はレーダーに八木・宇田アンテナ(日本人の宇田新太郎と八木秀次が発明)の技術を使って精度を上げており、レーダーで射撃管制をしていました。対空砲弾も戦闘機の近くに飛ぶと磁気を感知して自動で爆発する近接信管で戦闘機をボコボコ落とす。

一方の旧日本軍は、八木・宇田アンテナの事もろくに知らず、一応レーダーは作ったけどろくに使わず測距担当が経験と勘で照準する。対空砲に磁気感知信管なんて無い。レーダーの性能も低いし使わない。だから口径だけは大きな大砲を持っていても全然当たらない。戦艦大和は1隻の戦艦も空母も沈めてません。数機の飛行機を落としただけ。

そして最後は人間に特攻させる始末です。

そんなん、勝てるわけないじゃん!

問題を個人の頑張りでカバーしてはいけない

システムに問題があるならシステムを改善していくべきで、個人の頑張りでカバーすべきではありません。未だに太平洋戦争での失敗同様、戦略の失敗を現場の頑張りで支えている現場があります。そう、ブラック会社です。

ブラック会社で必死に働いちゃダメです。給料分以上の仕事をしてはいけません。絶対に。

むしろ、カバーすると問題が顕在化しないのでよくありません。システムに問題があるなら頑張らずに、人が死なない程度に放置してやったほうがいいとすら思っています。システムの問題だから変えないとダメだと、権限を持つ人達に突きつけないといけません。

人は、痛い目にあわないと実感できない生き物です。

富士山の問題は、とにかく登る人が多すぎる。海外の山でやってるように登録制にして人数を絞ったり、登る人にきちんと教育したりすれば緩和されるでしょう。山小屋の宿泊予約を必須にする(日帰りは別件で許可制にするとか)、山小屋も無理な人数は受け入れないとか対策はいくつも考えられます。

でも調整力が無い日本人は山小屋、ツアー会社、行政、個人登山者がぜんぜん連携出来ません(知らないだけで連携していたらすみません)。

なにか起きないと変えられない日本人

富士登山の問題は10人くらいまとめて死なないと変わらないかも知れません。この国では人柱が必要なんです。では、なぜこの国の人は人柱が立たないと動けないのか?

それは、何かを変えるには『理由』が必要だからです。

「これだけの事が起きたのだから変えなければいけない」と、『すでに起きたこと』が理由にならないと何も変えられない。「こういう事が起こるから今のうちに変えなければいけない」だと、現状維持をしてしまいます。福島第一原発だって、震災の前から津波が来たら非常用発電機が止まると言われていたのに、実際に止まるまで対策しなかった。

なぜ現状維持したがるのか?

それは『変えることは過去が間違いだったと認めることになる』と考えているから。これをおかしいと思った人はまともです。でもこういう考え方で現状維持を選ぶ人は実際にとても多くいます。

こういう悪癖が至るところに見られます。

オリンピックだって、どう見てもおかしい部分がたくさんあっても「今更無理」の4文字で変えられないし、消費増税だって景気は後退するだろうし軽減税率なんか子供だって分かるくらいバカバカしいのに変えられない。

「今更無理」は言い訳

まだ起きていない事に対してだって、被害が予想されるのなら変えていくべきです。

もし今、日本人全員が2010年に戻れたら誰もが必死で津波対策をするでしょう。実際には過去を変える事は出来ないけど未来なら変えられます。

『今』は『未来の過去』なんですよ。

想像力を働かせ、やる気になれば「今更無理」とか「当面は現状維持」がいかに無責任であるか分かるはずです。

重要なのは、問題があるならそれを解決する強い意志です。

家父長制のせいかも?

変化に対する恐れと調整力の無さは、今でこそ廃れつつありますが60代上の人には根強い『家父長制の精神』に基づくのではないかと考えています。

家長の言うことは絶対。交渉の余地なし。親と子の上下関係は明白で強固。女子供は黙ってろ、の世界です。

更に度し難い事に、権力者に意見をすると、それを「生意気」などと非難して邪魔する弱者側の人たちがいます。(おそらく根底にあるのは権力への信仰心と、なにも出来ない自分と比較した劣等感です。それが彼ら彼女らに出る杭を打たせる)

そういう世界では、家長が自分の立場を危うくする決定をするわけがないし、民主的な考え方になるわけがないし、全体の利益を考えるわけがない。家長が自分の好き嫌いと損得で物事を決めます。

それを良しとする構成員も同罪ですからね。

変えること、特に『他人に言われて変えること』は家長の間違いを肯定することであって、それは家長の権威失墜につながると思い込んでいます。権威失墜が怖いので、恐怖に震えて変えることが出来ないのが『日本のエライ人達』です。

政権与党を見てください。家制度が大好きな人達ばかりじゃないですか。

ちなみに書いておきますが、本来『家族』に『家長』なんてものは要りません。家族の問題は家族みんな、フラットな立場で話し合って決めるべきです。それぞれに価値観や立場は違っていて考えることも違います。問題や対策の正当性を『上下関係』で歪めてはいけない。

それは家庭でも会社でも、趣味の集まりでも同様です。立場の違いはあっても発言力に差があってはいけません。

間違いを認める事はとても大事

誰が言っても、正しいことは正しい、間違っていることは間違っています。

間違いを認めることは無能の証拠ではなく、人としての高潔さを証明します。言い訳や誤魔化しはいつか露見するし、分かる人には分かるものです。

間違った事をしたら素直にごめんなさいしましょう。子供だって知ってます。

エラくなってはいけない

僕は父をあまり好きではないのだけど、「エラくなったら人間おしまいだぞ」とよく言っていて、その言葉だけは役に立ってます。

『長』と名の付く人は、ただそういう名前ってだけであって、偉くはないし権力があるわけでもない。『長』が付く人は、例えば会議においてはただの司会です。

『長』が決めた命令を聞くだけ、ただ予定調和を追認するだけの組織に存在意義はありません。

組織はフラットでなくてはいけない

ついでに言えば、組織というのは全構成員が交換可能でなくてはならず、『この人がいなくなったら運営できない』という組織は欠陥があります。組織は個人を失うリスクを補うためにあります。個人に頼りすぎるのは日本の組織の悪い癖。

構成員の意見はフラットに扱われるべきあって、誰が言ったかという属性は関係ありません。意見の価値は内容そのものに宿ります。誰が言ったかではなく、何を言ったかが大事。

誰かのために忖度して言いたい事や言うべきことを黙っているのもよくない。でもそういう組織はとてもたくさんあるでしょう。

これを言ったら怒られるかも?という雰囲気があると、組織は硬直化してやがてカチカチに固まり、組織である意味を失い衰退します。硬直化した組織は個人の能力をスポイルし、全体のパフォーマンスが下がります。

個人の能力を発揮してもらうには、方向性だけ決めて自由に意見を出してもらい、組織内で連携して個人の力を効率よく増幅するシステムを作らなくてはいけません。

好き嫌いや嫉妬、既得権益ではなく、全体(個人、組織、社会)の幸福を考えましょう。

それがたとえ、自分の権威や利益を損なうとしても、フェアに、フラットに、全体の事を考えるべきです。

リーダーとは?

リーダーは、その名の通りリードする者。方向性を示し、個人の裁量や意見を認め、社会に利益をもたらすため、組織を良い方向に導く存在です。決して自分個人の利益や好き嫌いで組織を『操作』していはいけません。

組織がフラットになると、各自が好き勝手なことをしたり、わがままな事を言い出すと思っている人がいますが、それを『調整』するのがリーダーの役割です。

エンジンを掛け、方向性を示し、時にアクセルを踏むのがリーダーの仕事です。自分一人でハンドルを握ってはいけません。たまにハンドルを握っても、どこに向かいどこでハンドルを切るかは構成員の考えや意見を尊重し、調整しましょう。

リーダーが自分のために好き勝手にやるのが操作、各自の意思をまとめて良い方向に導くのが調整です。調整にリーダーの私欲が入ってはいけません。

リーダーは私利私欲を捨ててください。

好き嫌いで意見の扱いを変えるのもリーダーの資質に欠けます。嫌いな人が言ったことでも正しいことは正しいし、好きな人が言ったことでも間違っていることは間違っています。

指針とは、理念

では、なにを根拠に方向性を決めて構成員を導くのか?その指針が『理念』です。なにを目指し、どういう価値を社会に提供するのか?何を根拠に組織として人を集め、何を大事にして運営していくのか?

それら込めたものが理念です。もちろん、理念は利己的なだけであってはならず、必ず社会や顧客(ユーザー)にとっての価値が無くてはいけません。近江商人は『三方良し』という良い言葉を残しました。三方良しとは『売り手良し、買い手良し、世間良し』という意味です。

誰かが損をする商売は続かないという事で、三方良しを目指さないと社会に受け容れられません。

三方良しになる理念を設定し、それを元に行動を決めましょう。

情報の公開、共有も重要

調整には情報の共有が不可欠ですから、情報は可能な限りオープンにし、みんなに考えてもらいましょう。ノウハウも積極的に公開、共有し、構成員全体の能力を底上げする努力をしなくてはいけません。

情報は財産です。みんなで共有しなければいけません。

決して一部の構成員だけでノウハウや仕事を囲い込んではいけません。それは専横や独占、独裁の温床になります。

社会から必要ないと判断されれば無くなる

悪いリーダーが導く『自分達さえよければそれでいい』という組織は社会の益にならないので必要とされなくなります。

もちろん、単にその組織が価値を生み出せない場合も存在意義がありません。組織は必ず価値を生み出し、社会の役に立たなければいけません。

太平洋戦争で日本が潰されたのは、『世界』が日本を必要としなかった、日本が世界を悪い方向に動かすと『世界』に判断されたからです。結果、取り返しがつかないほど多くの人命を失った。

また太平洋戦争の失敗を繰り返さないように、構成員の能力を引き出し、社会と組織の価値を調整するのがリーダーの役割です。ふんぞり返って命令し、組織を掌握して自分の私利私欲や保身を優先するのはリーダーの仕事ではありません。

日本人はいつ変われるのか?

さて、僕の予想では、家父長的価値観は家父長制度が染み付いた60代以上(全員とは言いません。フラットな60代以上もいます)が退くまで変わらないでしょう。

もしかしたら、若い世代も年をとったら「やっぱ家制度、家父長制度っていいよね」なんて言い出して自分たちが理不尽だと思ったことを下の世代にしてしまうかもしれない。そうだとしたら、やっぱり日本人にはDNA的な欠陥があると言わざるを得ません。

老害DNAがあるのか無いのか分からないけど、そうならないように『組織の構成員は誰でも交換可能で、意見の価値に個人の好き嫌いや上下関係はない』という考え方を念仏の様に唱え続けないといけません。

人類は未熟なので、自分を律しないと易きに流れます。

個人の力を集め、それを発揮できるシステムを作る。問題があるのなら運用でカバーするのではなく、問題を解決するシステムやルールを整備する。リーダーは構成員を調整し社会に価値を提供する。

それが出来なければこの国は衰退し続けるし、そこにいる僕らの幸せも減っていくでしょう。

あなたがいる組織と、そこにいるリーダーはどうですか?正しく運営されていますか?独裁になっていませんか?だれか泣いている人はいませんか?

正しく運営されていない組織にいるのなら、

1.頑張って変える
2.泥舟をさっさと降りる

の二択です。楽なのは2ですね。見限るのが手っ取り早い。

もしあなたがリーダーなら、構成員を泥舟に乗せないように努力してください。じゃないと頭が回る人から辞めていき、価値を失い、組織は無くなります。

組織運営で避けるべきこと

・特定の個人に頼りすぎてはいけない。
・個人の好き嫌い、妬み、嫉妬、年功序列、足の引っ張り合い、私利私欲、利己主義、排他主義、性別や国籍などの属性による差別。
・独占、独断、独裁。
・情報の隠蔽、業務の囲い込み。
・ウソ、誤魔化し、馴れ合い。

・パワハラ、セクハラ、強要、恫喝などは言語道断。

まとめ

・システムの問題を運用でカバーするのは辞めましょう。

・問題があるならシステムを変えていきましょう。

・変えられない事はありません。今更無理な事もない。過去は変えられないけど未来は変えられます。今は未来の過去です。

・組織内に上下関係はありません。誰が何を言っても、正しいことは正しい、間違っていることは間違っています。

・老害になっていないかどうか常に自分を客観的に見ましょう。40代だって20代から見たら老害かも知れません。

・組織内の上下関係は、個人の能力をスポイルし組織全体のパフォーマンスを落とします。

・間違いを認めて修正するのは正しいことです。間違いは間違いと認めましょう。フェアの精神を失った時、『人間』から逸脱しモンスターになります。

・リーダーは私利私欲を捨て、組織が社会に貢献できるように価値を調整しましょう。

・組織運営には理念が必要です。三方良しになる理念を設定して、理念を元に行動を決めましょう。

・組織の構成員は誰でも交換可能でなくてはならず、意見の価値に個人の好き嫌いや上下関係はありません。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。