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ぼくのたいよう

やあ、はじめまして。
ぼくのなまえは「ぼくちゃん」。
ぼくだから「ぼくちゃん」。
ぼくがわたしだったら「わたしちゃん」。

ぼくはきみたちとちょっとちがうんだ。
でも目や口、はなはあるし、手と足もあるよ。
どれもすこし小さいけどね。
きみ、ちょっと描いてみて。

うん、、、まあ、こんなかんじ。

ぼくのいつもいるおへやにはベッドがある。
あとはまどがひとつあって
おへやにいるのははぼくだけ。
それだけ。
え、さみしいって?


そんなことはないよ。
ぼくには「たいよう」がいるんだから。

たいようのはなしをしよう。
ある日、まどのそとをのぞいていたら
たいようを見つけたんだ。
見つけたときは、たいようはとても小さかった。
でもそのうち、だんだんと大きくなって
ぼくのおへやをあかるくてらしてくれるようになった。

たいようはとてもものしりで
なんにもしらないぼくに
いろいろなことをおしえてくれた。
ぼくに「ぼくちゃん」というなまえもつけてくれた。

そとできれいなお花をみつけたら
おへやをそのお花いっぱいにしてくれたり、
とてもおいしいりんごを食べたと言って
大きなりんごの木を出してくれたり。

あるとき、たいようがうたをうたっていた。
『うた』をしらなかったぼくはきいた。
「なにをいっているの?」
「いまのは『うた』って言うの。
わたしはうたがだいすき。
ねえ、いっしょにうたわない?」
でも『うた』はぼくにはむずかしかった。
だからうたにあわせてからだをゆらした。

すると、たいようは「じょうず!」と言って
すごくよろこんだ。
ぼくは足でトントンとゆかをならしたり
手でかべをコンコンとたたいたりして
ふたりで『うた』をうたった。
ぼくもうたがだいすきになった。


たいようはいつもぽかぽかしてて
ぼくをあたたかしてくれるんだけど、
たまにげんきのないときもあるんだ。
そんなときはまどのそとがどんよりしていて
くらい空のとおくの方で
たいようが小さくなっている。

たいようがひどくしょんぼりしていたとき、
くらい空から大きな水がおちてきた。
(あとからそれが雨だとおしえてもらった)
ぼくはおどろいて、
たいようをよんだけど気づかなかった。
それで、おうちのゆかを足でトントンとしたり
手でかべをコンコンとたたいて
『うた』をうたったんだ。


すると、たいようはぱっとかおをあげた。
こっちに近づいてきたときには
いつもの大きくてあたたかいたいようだった。
「ごめんね」
たいようはすこしはずかしそうに言った。
「おわびに、これ」
いつのまにか雨はやんで、はれたあおいそらに
とても大きくてきれいなにじを出してくれた。

ある日のこと。
コンコン、とぼくのへやのかべをたたくおとがして
「げんきかな?」というこえがした。
たいようのこえじゃない。
ちょっとひくいそのこえは
はじめてきくのになつかしくかんじた。
またこえがひびいた。
「はやくあいたいよ」
まどからそっとのぞいたけど、だれもいなくて
大きなそらにくもがひろがっているだけだった。


そのことをたいようにはなすと、
「こえがきこえたの、すごい!」
たいようはとてもはしゃいでいた。
「すごいことなの?だれのこえ?」
ぼくがきくと、
「うーん、ないしょ」
たいようはものしりだけど、
せつめいがめんどうだと『ないしょ』っていうんだ。
ちぇっ。
「またあのこえ、ききたいな」
ぼくがそういうと、たいようはにこにこして
いつもよりもあかるく、あたたかくなった。

それからは、たまにやってくる『こえ』と
たいようとおへやが
ぼくのあたたかなせかいのすべてになった。

そしてじかんがすぎていった。


「おへやが小さくなったんだ」
たいように言った。
なぜかぼくのおへやが小さくなって、
とてもきゅうくつになった。
まどやベッドもちいさくなっていた。

「それはね、ぼくちゃんが大きくなったの」
たいようはわらって言った。
「これからもどんどん大きくなるの」
「じゃあ、おひっこししなきゃ!このままだとつぶれちゃう!」
「だいじょうぶ。あとすこしでおひっこしだから」
「え、あたらしいおへや?やった!」
あたらしいおへやのことをかんがえるとわくわくした。


「たいようもいっしょにきてくれる?」
あたらしいおへやでも、ひとりぼっちはいやだな…。
「もちろん、ぼくちゃんとわたしはいつでもいっしょ」
「よかった!」
ぼくはほっとした。
たいようはもういちど言った。
「わたしたちはいつでもいっしょ」


ぼくはどんどん大きくなって、
手も足もじゆうにうごかせなくなった。
「たいよう、ぼく、もうげんかいだよ」
たいようが言った。
「そうね、そろそろしゅっぱつしましょうか」
「いまから?」
「そう、いまから」


「しばらくトンネルをとおっていくの。
ちょっとくらくてせまいけどがまんしてね」
「たいようもついてきてくれるんでしょ?」
「そう、いっしょ。でもね、わたしのすがたは見えなくなるの」
「そうなの?」
きゅうにぼくはふあんになった。
「どこにいっちゃうの?」
「わたしはね、ぼくちゃんの中に入るの」


ぼくはぽかんとした。
「ぼくの中?」
「そろそろじかんね。さあ!」
たいようはそう言うと、パッとひかりだした。
まぶしくてぎゅっと目をつむったとたん、
ぼくのからだの中がじわじわと
なつかしいあたたかさになった。


ゆっくり目をあけるとたいようはいなかった。
だけど、ぼくにはすぐにわかったんだ。
たいようはぼくの中にいるんだ。

「こんどはあなたがわたしのたいようになるの」
さいごにたいようがそうささやいた。

そのときとつぜん、おへやにぽっかりと大きなあながあいた。
そしてその中へぼくのからだがすいこまれていった。
なにかにおされて、ながされるように
どんどんすいこまれていった。

それからぼくはすべてをわすれてしまった。

あかるくて、まぶしい。
このちくちくするようなあかるさは
ぼくのしっているあかるさじゃない。
あかるいのに、まわりがみえない。
あかるいのに、とてもさむい。
ぼくは大ごえでないた。
すると、なにかにつつまれて
ぼくはどこかにはこばれた。
そして、だれかがぼくを
おそるおそるだっこをした。
その手がぼくのかおをそっとさわった。

その手のあたたかさは
ぼくの知っているあたたかさだった。
だってそれは、
ぼくの中にあるあたたかさとおなじだったから。
ぼんやりとなにかを思い出しかけたけど…
思い出せなかった。


でもひとつだけわかったんだ。
ぼくの中にあるこのあたたかさは
これからもずっといっしょだ。
そしてぼくをいつでもあたたかくしてくれる。

ぼくはいろいろなことをわすれちゃったけど
このあたたかさがぼくの中にあることだけは
おぼえておかなきゃ。

ぼくのたいせつなものはぼくの中にある。
いつまでも。

きみはおぼえてる?


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