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セムラの季節 スウェーデン冬の菓子パンの作り方

2月は、セムラの季節真っ只中。そういうものなのだけど、欧米のイベントに関しては新しもの好きの本邦において、なぜかなかなか浸透しないとはこれいかに。おいしいのに!

セムラ(semla、複数形だとsemlor)は、スウェーデンの菓子パンで、カルダモンの香り高い丸パンを上下にカットし下の中身をくり抜いて、そのくり抜いた中身を細かくしたのと、アーモンドパウダーのペーストと牛乳を練ったペーストとを混ぜて作ったフィリング(マンデルマッサ)をギュっと詰め、生クリームを絞ってから、カットした上のバンズを蓋としてチョンと乗せるという、見た目はシュークリームのようなずっしりとした甘い伝統の食べ物。スウェーデンでは、クリスマス翌日からイースターまで食べられる、季節ものになります。スパン長めの恵方巻きとでも言いましょう。

かなりおなかに溜まるので、イースター前の断食の前に食べられていたのが習わしだそう。今も一応毎年、(断食が水曜に始まるので)「セムラの日」がその前の日の火曜日に設定されていて、その日はみんな、ひいきのパン屋でセムラを買って帰る感じ。

こちらのサイトhttps://temadagar.se/fettisdagen/ によると、今年+向こう3年のセムラの日は以下の通り。

2019年3月5日
2020年2月25日
2021年2月16日
2022年3月1日

ちなみに「セムラの日」はスウェーデン語でsemmeldagenだが、別名をfettisdagen(デブの火曜日)と言う。身も蓋もねえ。

2007年当時、スティーブ・ジョブズがiPhoneの初代モデルを発表し、藤原紀香と陣内智則が結婚し、石川遼が「ハニカミ王子」と呼ばれてしまっていたころ、私はスウェーデン南部スコーネ地方のルンドというちいさな町で大学生をやっていて、そこで初めてセムラを食べた。

2月19日は、誕生日だった。私は人に自分の誕生日を伝えることができない性分で、20歳を迎えたその日も普通に授業を受けたあと、山道を20分ほど自転車こいで黙って寮に帰ってきて、キッチンが空いてから夕飯用に一人でパスタを茹でていた。実はその翌日から、スウェーデン最北部にあるキールナまで列車で旅をして、願わくばオーロラを見に行く旅行の計画があったので、出発までに残りの食材を片づけたり、旅行の準備をして早く寝ないといけなかったりと、言い訳もあった。

それでもなんとなく一人で食べるのが寂しくなって、ちょうどできあがったころにキッチンに入ってきた寮仲間のクリストフ(仮名)を誘って、パスタを分けて一緒に食べた。食後に長々と雑談しながら、実は今日誕生日なんだよねとポロっとこぼしたら(←こういうところ、自分で本当にこじらせた性格だと思う。言うなら言う、言わないなら言わない。こういうタイミングが一番、人に気を使わせる)、クリストフはワっと目を見開き「ハァ?!なんで早く言わないの?!」と立ち上がって、冷蔵庫からセムラを出してきた。「ケーキじゃないんだけど」と言いながら「4つあるから、1つあげる。今日はセムラの日だよ。セムラを食べなきゃ」時刻は0時を回って、2月20日の火曜日になっていた。

その瞬間まで私はセムラを知らなかった。そんなことは大学だと逆に授業で習わないし、基本的に外で買う食べ物は高いので、近所の激安スーパーでいつも同じ、野菜や肉やパスタを買って、自炊するのみだったので、町のかわいいパン屋やカフェ、そこで行っている催し物の類はすべて、完全スルーしていた。(見てしまうと欲しくなるから)

クリストフはセムラの紙箱の上に鍋的なものを乗せた状態で冷蔵庫に置いていたので、4つともなんとなくバンズが平たくプレスされ気味で、内臓(クリーム)がはみ出していたけれど、パンは柔らかく、カルダモンやバニラビーンズ、アーモンドの香りが甘く混ざり合い、気を使ってくれた優しさも相まって、とっても美味しかったからよく覚えている。おかげで、私の20歳の誕生日がなんとか締まった。

翌日からのキールナ旅行中も、なぜか列車で相席した老夫妻や、美術館が開くまで待機していた時の警備員のおじいさんからセムラをもらった私は、その甘くスパイシーで柔らかいパンに妙にハマってしまい、イースターが来て売り場から消えるまで、あちこちのパン屋でセムラを買った。そして、犬がスパンの短い反復訓練で「これをやるとおやつが出る」と学習するように、それから毎年誕生日が近づくと「セムラを食べなければ」と突き動かされるように学習したのだった。

ところが日本に帰ってきたら、サクっと買えるパン屋がどこにもない。一部、六本木のリッラ・ダーラナや、IKEAで食べられるそうですが、「町のパン屋」がそれぞれレシピを持ってて食べ比べできるところがいいんですよ~。というわけで、ないなら自分で作るしかないわけです。

<パンの材料>(10個前後)
強力粉…300g
バター…30g
ドライイースト…小さじ2
塩…3つまみ(有塩バターを使う場合は減らす)
砂糖…大さじ1
カルダモン粉末…小さじ2
水(気温によってはぬるま湯)…200ml
卵…焼く前に塗る用に少々

<フィリング(マンデルマッサ)の材料>
アーモンドプードル…60g
砂糖....40g
牛乳...50ml

①パンを焼く
1) ボウルを2つ用意。一つに強力粉、塩、砂糖、カルダモンを入れ混ぜ合わせる。もう一つにドライイーストと水を混ぜ合わせる。
2) 粉のボウルの中央にくぼみを作り、水とイーストのミックスを注ぐ。土手を崩すように周りの粉を中央に落としながら混ぜ合わせる。
3) まとまってきたら台の上に出し、折りたたみながらこねる。
4) 表面がしっとりとしてきたら、バターを加えてさらにこねる。(バターは溶かさない)
5) バターが生地になじんでスベスベしてきたら、丸めた生地をボウルに入れてラップをし、一次発酵。
6) 一次発酵が終わったら、パンを好みの大きさに丸める。最終的にフレッシュネスバーガーくらいのセムラにするためには、この段階ではビリヤード玉程度に丸める。(推奨)
7) 好みのサイズで二次発酵が終わったら、溶き卵をハケで表面に塗る。塗らない場合はマット感のある仕上がりになります。それが好きという人は塗らなくてよし。
8) 180度に予熱したオーブンで15分焼く(サイズによって調整)

9)焼きあがったパンの上部1/3くらいを切り取り、下側は中身をくり抜く。

10) くり抜いた中身の半分をボウルに取り、細かくほぐす。これは、焼きあがる前までに別途作っておいたマンデルマッサと混ぜ合わせるのに使います。もう半分は食べてしまう。切り取ったパンの上部は、あとで蓋にして使いますので、間違えて食べないでください。

②パンが焼ける前までにマンデルマッサを作っておく
1) アーモンドプードルと砂糖(好みの甘さに合わせて増減させてください)、牛乳を混ぜてペースト状にする。これを教えてくれたスウェーデン人の大学教授は、皮つきアーモンドを湯煎して皮むきし、万力のようにテーブルに挟むタイプの専用のアーモンドすりつぶし器を使ってアーモンド粉を作るところから自作していましたが、ものすごく面倒臭いので、普通にアーモンドプードルを買ってきて全然OK。

2) パンの行程の最後にほぐしたパンの中身を、1)と混ぜる。あんこのようなネットリ感が出てきたらOK。質感を見ながら、加えるパンの量を調節する。納得のマンデルマッサが出来上がるまでは、残り半分のパンの中身を全部食べないでください。

③パンとマンデルマッサを合わせて完成形へ
1) パン下部の窪みに、スプーンなどでマンデルマッサを詰める。ギュウギュウと押し込みながら、うまく空気を抜いてください

2) いつの間にか作ってあったホイップクリームを、マンデルマッサを詰めたところに絞り出す。

3) 取ってあったパンの上部を蓋にして乗せる。少しななめにかぶせると、オシャレ
4) 好みで粉砂糖を振りかける。→完成!

パンを焼く人にとっては、それほど難しいものではないと思います。スウェーデンで見たことはないけど、ホイップクリームと一緒に季節のフルーツなんかを挟んでもいいと思う。セムラは本当においしいので、ガレット・デ・ロワがこんなに普通のパン屋でも売られるようになったんだから、セムラだってもっと認知されていいと思う。ぜひ、お試しください。ハッピーセムラデー、AKA、デブの火曜日。


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