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電気のおはなしその44・コイル(3)コイルの性質のまとめ(重要)

コイルに電圧を掛ければ、電流が流れようとするわけですが、電流が流れていない状態のコイルに電圧を掛けた瞬間、コイルは電流を流したくないので全力で抵抗を試みる、しかし次第に電圧に負けて電流が流れていく。

という話をしました。なぜ電流を流したくないかというと、磁界は保守的な性質を持っているため、今磁界が存在していないところに磁界を増やそうとすると

イヤダ(・ω・`三´・ω・)イヤダ


するんだよ、って話でございました。

では、そんな抵抗もむなしく、すでに一定の電流が流れ、磁界が発生している状態のコイルさんに登場していただきます。

図1・RL直列回路

では、この状態から電流を断とうとすると、何が起こるでしょうか。
実は、「磁界が保守的」なのは、磁界を増やそうとする場合だけではありません。すでに磁界が発生しているものを減らそうとすると、今度は磁界が減ることに対して

イヤダ(・ω・`三´・ω・)イヤダ


するんですね。

とはいえ。

いま、回路に電流が流れている状態からスイッチを切った場合、普通だったら電流なんて即座にゼロになりますよね…だって、電流を流す源である電池が切り離されてしまったんですもの。

しかし、コイル様は、そうは問屋が卸しません。

昔の冗談で、「マラソン選手のグッズを作ったのにどうしても販売することができなかった。それは何故か?」というクイズがありましたね。
答えは「宗は問屋が卸さないから」ってね。
すいません、40代以上じゃないと分かりませんね。失礼しましたね。

電源を切られたコイルは、今現在流れている電流を減らしたくないので、「今流れている電流を維持」するためにつじつまが合う電圧を自ら発生させて、無理矢理回路電流を維持しようと頑張ってしまいます。
今現在コイルを貫いて流れている磁界が、「電圧を発生」させるためのエネルギーになるんですね。

そう、電気エネルギーを発生させる源は、なにも乾電池だけではありません。磁石のエネルギーから電流を作り出すことや、次に話しますけどコンデンサーに蓄えられた電荷のエネルギーを元にして、電流を作り出すことができるんですよね。

つまり、コイルというのは、電流のエネルギーを磁界のエネルギーに変換することができ、逆に磁界のエネルギーから電流を作ることもできる、これを上手く応用することで、いろいろな回路を実現することができます。

さて、前回と今回のおはなしを踏まえて、電験3種の2013年理論問12を取り上げてみます。

図2・電験3種・2013年・理論・問12

この問題で、「十分に長い時間開いていた」とわざわざ断りを入れている理由は、「(それ以前にコイルに流されていた電流などの影響が残って、観測開始の時点でコイルに何らかの電流が流れている、ということはなく)コイルに流れる電流が完全にゼロになっている」ということを担保するために記述されています。これまでにも書いたように、コイルはその両端に掛けられた電圧と、コイルに流れる電流との間に時間差が発生しますから、今この回路を見た瞬間にスイッチSが開放されていたとしても、その直前までスイッチが閉じられていたら、観測開始の時点である程度の電流が流れている、ということが有り得るわけです。
この問題の解答の選択肢は、次のとおりです。

図3・選択肢(1)
図4・選択肢(2)
図5・選択肢(3)
図6・選択肢(4)
図7・選択肢(5)

まず、スイッチを入れた瞬間のコイルの両端の電圧ですが、40V・20V・0Vの3つに分かれています。
では、実際にどうなるか考えてみましょう。

図8・出題の回路

コイルの性質として、「両端に電圧が掛けられた瞬間、コイルは内部に電流を流したくないので、全力で抵抗する」ということを話しました。つまり、スイッチを入れた瞬間にコイルに流れる電流はゼロなのです。よって、スイッチを入れた瞬間の回路は、等価的に次のように考えることができます。

図9・Sを閉じた瞬間の等価回路

これは、30Vの電池を10Ωと20Ωで分圧した回路ですから、20Ωの両端に発生する電圧は20Vです。したがって、正解は選択肢(4)か(5)の二択に絞られます。

さて、コイルが電圧に抵抗するのも束の間、次第に電流が増加し、直流電源に対してコイルは最終的にはゼロΩになってしまいます。つまり、次のような状態ということです。30Vの電源に10Ωが接続されているので、流れる電流は3Aです。

図10・Sを閉じてから十分時間がたった時の回路(コイルは電線と同じになる)
図11・Sを閉じてから十分時間がたった時の回路(コイルに戻す)

再度確認しますが、このときコイルには、上から下に向かって3Aの電流が流れている状態です。

では、スイッチSを開きます。すると、次のような回路となります。

図12・十分時間が経ってからSを開いたときの回路

このとき、コイルの両端に発生する電圧は、どうなるでしょうか?
コイルは、流れている電流を切ろうとした場合、「現在流れている電流を維持する方向の電圧を発生させて電流を流し続けようとする」のでした。この回路で、「上から下に向かって3Aの電流を流す」ためにはどうしたらよいか?

図13・Sを開いた瞬間から流れる電流

そう、混乱せずに良く落ち着いて考えていただききたいのですが、コイルの下側を+、上側を-とする電圧を発生させれば、「コイルの上から下に向かって流れる電流」を維持できることになります。しかも、スイッチSを開く直前に流れていた3Aの電流を流すためには、60Vの電圧を発生させる必要があることが分かります。以上より、正解の選択肢は

図14・正解のグラフ

この通り、選択肢(4)ということになります。

「電池の電圧が30Vなのに、一瞬とはいえ回路の中に電池を超える電圧が発生するのはおかしいのではないか?」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、コイルの性質はあくまでも「(電流が流れていない状態からは)電流を流したくない」「(既に電流が流れているのなら)電流を流したい」というものですから、電流さえ辻褄が合うのなら、電池よりも大きな電圧を作り出すことさえ厭わないのです。そのエネルギー源は、コイルに流れた電流によって作られた磁界エネルギーなので、別にエネルギー保存に反することでもなんでもないのですね。

ちなみに、車の中で12Vのバッテリー電圧から100Vの交流を作るインバーター装置が売ってたりしますが、あれは内部に大きなコイルが入っていて、ここで説明したのと同じ原理で12Vから100Vを作り出しています。

とーっても重要な話なので、ついつい長くなってしまいました。

以上。

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