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電気のおはなしその75・電気通信(3)ラジオ放送

電気を用いた通信は、鉄道の線路沿いに設けられた電信線に流れる電流を断続することで情報を伝える有線電信から始まりました。時代は19世紀半ばごろの話です。19世紀後半には、大西洋の海底ケーブルを利用した大陸間通信が実用化されています。20世紀初頭には無線電信が実用化され、物理的な電線を必要とせず、光の速さで地球の周囲を伝搬する電磁波の利用が花開くことになりました。
そうなると、有線電話の延長で無線電話の実用化が期待され、20世紀初頭には基礎的な無線電話の実験に成功する者が現れますが、真空管などを用いた信号増幅回路の技術が未発達のうちは、なかなか良質な音で受信することができませんでした。

電信は電流が「1」か「0」かの二値を取るので、電磁石の動作や電球の点滅など原始的な素子を用いても受信できますが、音声は連続した交流信号であるため、入力信号をそのままの形で増幅する(これを線形増幅といいます)部品や回路の技術が確立するまでは、奇麗な音で受信することは難しいことなのでした。

鉱石検波器が発明されることで、電波から奇麗な音声を復調できるようになったのが1906年、鉱石検波器が広まったのが1910年頃と言われます。
そしていよいよ、本格的な無線電話を用いたラジオ放送が開始されたのが1920年頃です。そう、人間がラジオ放送という手段を発明してからまだ100年しか経っていないんですね。この頃、アメリカではアマチュア無線家による実験や研究が非常に盛んに行われ、そして新しい技術や知見を次々と生み出していました。日本では、アマチュア無線なんて趣味の電話ごっこなんて揶揄されることもありますが、アメリカではアマチュア無線家はその功績を称えられて一定の社会的地位を得ているというのは、実はこの辺の事情によるものです。

アマチュア無線家が見出した最大の知見は、「短波帯の電波は、実用的な遠距離通信に使用することができる」というものでしょう。当時、電波の伝搬特性はまだ良く知られていなかったため、数十~数百kHzという、今でいう長波や中波帯の電波が利用されていました。1000kHz(1MHz)以上の"高い"周波数の電波は、遠くまで伝搬しない、使い道のない電波だと思われていました。したがって、アマチュア無線家の実験用に使われ始めたのですが、実は短波帯というのは小電力で非常に遠くまで伝搬するという性質を持っていることが発見されたわけです。「何故短波帯はそんなに良く伝搬するのか」については、また稿を改めて書きたいと思います。

短波帯を利用した遠距離向けラジオ放送は、1930年頃に始まりました。そして第二次世界大戦に入り、短波ラジオは戦争の道具の一つとして、敵国に対するプロパガンダの道具としても大いに利用されます。第二次大戦中、日本に対してアメリカが行った宣伝放送もありましたが、逆に日本が連合国向けにプロパガンダ放送を行ったことは、余り知られていないかもしれません。

日本の対外プロパガンダ放送で有名なのは東京ローズでしょう。流暢な英語を話す日本人女性アナウンサーによる甘い囁きにより、敵国兵士の戦意を喪失させるという目的があったようです。これをラジオで聴いた兵士たちは数多く、アメリカでは映画まで作られたほか、敗戦後は「東京ローズは誰なのかと血眼になって探した」という話さえ残っています。

東京ローズは複数人の女性アナウンサーだったようですが、そのうちの一人が戸栗郁子(アイバ・戸栗・ダキノ)でした。ラジオ放送が実用化されてまだ20~30年というこの時代、戦争という荒波に翻弄された、こういう女性たちもいたということは、知っておいてもいいかもしれません。

今回はこの位にしましょう。

以上。




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