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消費者金融の歴史から思ったこと

今週は「サラ金の歴史-消費者金融と日本社会」(中公新書)という本を読んでみました。戦前の消費者向け金融を前史として紹介しつつ、メインは戦後のサラリーマン金融、消費者金融の歴史を紹介するものでした。純粋な興味から読んだものですが、色々と気づきが多い一冊でした。
 
消費者金融も含めた個人向けローンというのは、戦後の高度成長期、家電製品等の高額商品を一般家庭でも購入するようになってから発達していきました。いわゆる月賦ローンとして、家電製品を購入する資金を信販会社等がファイナンスすることにより、家電製品の購入を促すものでした。
 
こうした個人向けローンの発展に伴い、いわゆる無担保で、目的を限定しないサラリーマン金融、消費者金融も現れてきます。
 
1980年代~1990年代の、消費者金融による多重債務者、自己破産、自殺者の増加の記憶が色濃い世代(私もそうですが)にとっては意外かもしれませんが、勃興期の消費者金融は所得が多い層に対して余裕資金や遊興目的の資金を提供していたのが中心でした。その為、自己破産や自殺者はもちろん、貸倒自体も少ないものだったようです。
 
それが時代を経て、いわゆる消費者金融の問題が発生したのはなぜか。色々な要素はあったと思いますが、本書を読む限りでは、銀行や外資から資金調達をした(できるようになった)消費者金融が、幅広い層に対してお金を貸し付け、利益を得ないといけないようになったことが大きく感じます。
 
そのことから、徐々に消費者金融の審査が緩くなり、所得が低い、生活資金の為にお金を借りる層にまで大量の資金を供給するようになったのです。90年代には大量のテレビCM等のプロモーションが行われていることを覚えている人も多いと思います。こうしたことが、多重債務者、自己破産、自殺者の増加といった問題に繋がったのです。
 
その後、消費者金融に対する規制が厳しくなったり、いわゆる「過払い」返還問題もあり、消費者金融は急速に衰退していきました。この間、規制強化に対する動きに対して、「消費者金融がお金を貸せなくなったら、ヤミ金融が増加する」という意見が根強くありました。
 
しかしながら、実際には90年代と比較しても借金を理由とした自己破産や自殺者は大きく減少し、ヤミ金融の被害届けは増えていません。つまり、「消費者金融がお金を貸せなくなったら、ヤミ金が増加する」ということは、現時点では起きていないのです。
 
この本を読んだ後で私は思いました。
 
私達は、ともすれば需要者(この場合であれば資金の借り手)のニーズがあれば、必ずそれを充足する行動(借金)を取るように思いがちです。
しかし、実際には供給者(消費者金融)が大きく仕掛け、あおることにより、本来なら起こらなかったニーズが起きたり、行動をうながすことがあるのではないでしょうか。特に消費者金融のような人間の欲求に根差した産業ほど、そのような傾向が強いのかもしれません。
 
今後、二度と消費者金融による自己破産や自殺者の増加を招かない為にも、またビジネスによる人間破壊を起こさない為にも、この歴史はきちんと検証した方がよいと思います。

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